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怒りの二宮金次郎像

六冊目

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「もしかしてこれは、解離性健忘というやつかもしれない。僕達はクラスメイトの死という、強いストレスを目の当たりにして、その事件を記憶から消したのかも」


頭を抱えてカミキがそう呟くが、それにしても納得出来ないとキョウスケ。


「仮にその、解離性なんとかだとしてもだぞ?  名前や顔までわからないなんてことがあるのかよ。俺だけじゃねぇ。お前らも全員そうなんだろうが」


誰がこの言葉に反論出来るだろうか。


五人が陥っているのはまさにこの言葉通りのことで、答えなど出る気配がない、だからこそスッキリせずにストレスが溜まる。


そんな抜け出せない迷路の中にいるようで、今日一日が不快で仕方なかった。


「で、私達は何をどうしたらこのわけのわからないイライラから解放されるの? まさか永遠にイライラしたままでいろって言わないよね?  何年か経って、同窓会でAの名前が出てるのにわからなくてさ、愛想笑いで誤魔化してまたイライラするんだよきっと」


「ミハネちゃん、そんな先の心配なんてしなくてもいいと思うよ。もしもこの先ずっとAの名前も顔もわからないとしても、その状況に慣れると思うからさ」


答えが出ないのに、あれこれ推測して文句を言うだけでは意味がない。


カミキはこの場を収めようとしてそう言ったが、コウセイがボソッと呟いた。


「本当に慣れるのかよ、これ」
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