音楽業界のボーイズラブ

おとめ

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翌日に見慣れない天井を目にして起床したすすむは混乱した頭で昨夜の出来事を思い出す。
酔いから覚めて何があったのかと首を傾げた先に隣の人物が目に入った。
“あれ、俺昨日ヤった…?”
頭が真っ白になりその眠っている横顔を見つめる。すーすーと静かに寝息を立てるシンと一緒に眠ったことなどすすむの記憶の中では多分今まで一度も無い。まして同じベッドでなど。同じ空間というか部屋で眠ったことは何度かあったが…。血色の悪い唇や細く整えられている眉、薄いまつ毛、その色黒な肌を普段まじまじと見ること無く見つめているうちに、昨日の飲み会やその後のことなどを思い出す。
「うわっ…」
「…」
目を覚ましたシンと昨夜のことを思い出したすすむの目が合い、思わず悲鳴に似た声を上げた。
「え…っと…」
赤くなる顔に、あわあわと開いた口が塞がらなくなるこの状況。逃げ場もタイミングも失い、とりあえずベッドの上で土下座する。
「すまん…っ!何かやらかした」
「…謝んなよ」
シンが起き上がると不機嫌そうな顔をして部屋から去って行く。
“これヤバイ状況だよな…やべえやべえ…”
気まずい状況に正座したまますすむはパニクってその場から動くことが出来ない。セックスはしていないもののまるで男娼のようなことをしてしまった。風俗が洗体をするのか詳しくは知らないが。しかし取り残された室内で1人で事後の事を考えているのは寂しい。シンは何も言わずに出て行ってしまった。酔っていたことは分かっているので絡み酒だと思ったのかもしれない。しかし男同士で合意ではない性的行為をした場合どんな顔をすればいいのかすすむには分からない。

リビングに行くというか部屋と廊下にごちゃごちゃと物がある中を通って、シンを見つけるとかろうじて座るスペースがあるソファーに座り、たばこを吸っていた。他に座る場所もないので隣に座るが、もう距離を取るのもと開き直って肩を寄せる。硬直したシンはきっと警戒している。
「ごめん。嫌だった?」
下を向きながらか細い声になり、恐るおそる尋ねる。

「…」
「…」

長い沈黙。

気が重くなる空気にすすむはたまらず涙ぐむ。

「…すすむってそっちだった?」
「分かんない。でもそっちもイケる…かも…」
「…俺って試されてんの?」
シンの言葉にハッとする。確かに自覚していない状況で気のある素振りをすれば困るだろう。しかも同性同士だったら二重の意味で困惑する。まるで学生のようにお互いに手探りで幼稚な駆け引き。本来すすむはそんな恋愛を毛嫌いしているはずだった。自分のことさえ分からないのに相手を愛せるはずなんかない。そんなカップルは絶対別れる。と、学生のころは分かっていたはずなのに、出会いがなくなると見境がなくなるのか。
「…ごめん。ただ寂しかっただけだった」
「…昨日のスポンサーのやつと付き合ってんじゃねえの?」
「…」
「…どういうこと?」
言えない。
「…俺のことまだ好きなの?」
思わず口にした言葉に、シンの顔が険しくなり自分でも取り返しのつかないことを口にしたとすぐに後悔する。もう後戻りできない。
「俺と付き合う?」
頑なに顔を合わせないシンの首元に、頬を寄せ唇を寄せる。
「待て…」
言いながら、シンが手を伸ばしすすむの肩を掴み押し倒し、まだ酒が残ってるのかとすすむも自身を疑うがそんなことはなく。シャツを捲り上げられ、平たい胸に吸い寄せられるように指が動く。首筋から胸へと、唇が下りていく。下腹部をまさぐられて、すでに半勃ちのズボンの布越しにいじられて、羞恥心を煽られる。
「お前の気持ち聞いてないんだけど」
「そんな今更…っ」
ズボンのファスナーを下ろされ、ブツを掴みながら言われることではない。
「あいつとどこまでヤった?」
「…69…」
「舐められんの?」
「…ん…」
「嫌じゃない?」
ソファの上から起き上がり、シンのズボンに手をかける。
シンの表情を窺うが、興奮して上気したシンの顔など普段見ることがなくそのギャップに思わずキュンとする。
「お前細っせ…」
下着ごとずり下ろしたシンの座骨が浮き上がっていて骨と皮だけのその裸が男らしくも痩せすぎていて心配になる。すすむがペニスを握りその大きくなったモノを口に含むと、また質量を増す。シンが咥えられながらソファの下を探っていて、何かと思うとローションを取り出した。
「…俺そっちの経験無い」
強張った顔ですすむが硬直する。
「それこそ今さら」
「シンはあんの?」
「何回か」
ちゃっかり知らない間にやってたのか。
またすすむがソファに仰向けに転がされ、脱げかけのズボンを脱がされる。
「…待って待って、怖い」
ローションの蓋を開き手に少量出すのを見ながら起き、シンを蹴飛ばそうと上げかけた足の上にシンが目敏くさっさと乗り上げる。
「いや、まじで」
泣きそうになって潤んだ目で訴える。シンが淡々とすすむのアナルに指を埋めていくのを、すすむが目を逸らしぎゅっと瞼を閉じる。異物の圧迫感に眩暈がしそうになるのを堪え、下半身に力を込める。蠢く指先に慣れないながらもすすむが堪え、その指が引き抜かれると今度は足を開かされシンのペニスが入ってくる。
「…っう…あああ」
歯を食いしばり、シンの体温を中で感じながらシンがすすむのペニスに手を伸ばし、扱かれると同時に前後の感覚に麻痺し快楽を得ようと集中する。突かれながら何とか初めての体験ながらも射精しそうになって、
「ひっ…イッ…く…」
と声にならない声で訴える。シンがすすむが射精に近づくのを感じとりすすむのペニスを扱く手を早め、理性を失い吐精する。その後に続いて最奥まで穿ったシンがイッた。


「あいつとは切れよ」
「…」
物憂げに伏せられるすすむの目に、シンが下を向き項垂れる。目を閉じた顔に手を押さえ、何かを考えている。
「…意味分かんね…」
低く唸る声にすすむがびくりと萎縮する。罪悪感を感じながらも切れない青井との関係にすすむは納得のいく説明をシンに対して出来る自信がない。それよりもこれからどう青井と継続していこうかと頭の隅で考えているあたり、すすむは自分でも非情な人間だと自分でも思う。
「…俺のこと好き?」
「…うん。シンと付き合える人間は幸せになれると思うよ。俺がこんなこと言うのもなんだけど」
少しだけ大人になった二人。
「そう。前も、こうなってお前が逃げてバンド辞めて」
「…ごめん」
「謝んなよ。こんなことならもうヤッとけば良かった」
「無理だって。シンとじゃなきゃ今でもこえーもん。でもそうやって許してくれるとこ好き」
「俺も好き」
少しだけはにかんで、笑い話にできる余裕もできた。まだ問題はあるものの進展し、2人は手を握り合う。
「ノンケじゃなかったのか?」
「何だろ、一周回って男でもイケる感じ?」
「相変わらずてきとーだな」
的確に指摘されるすすむがプッと笑ってしまう。自分よりもシンの方が自分を分かっている。その頼もしさに、シンとなら共に歩んでいける気がした。
「ていうかお前以外と考えらんないんだけど」
「…それは嬉しいけど」
…けど、だよな。不安要素は付き合うことに対してか青井とに関してか。
「…ムラった。もう一回」
シンが独占欲からか発情してすすむの体に手を伸ばす。
「また?!早くない?!」
「お前みたいにやりまくってねーんだよこっちは」
口を引きつぐむ。
「ヤリまくってはねーよ」
「…ほんとかよ」
「そんなに性欲ねーし」
「そんな感じはする」
「ほんとにそう思ってんのか」
お互いに疑り探り合う2人が笑う。ひとまずは丸く収まったのだった。


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