26 / 28
第二十六話 ソウ、どこだ
しおりを挟む
穴の向こう側は、夜の病院だった。
昼に祠に来た時に幻影で見た病院と似ているように見えるが、明らかに前回よりも廃れている。
床には埃が積もり、天井には蜘蛛の巣が張り、瓦礫がところどころに落ちている。
廃病院なのだとはっきりとわかる。
また、過去の幻影を見せられるのだろうか。
少しの間周囲を見回したが、何も起こらない。
「ソウ、どこだ!」
声を張り上げた。
返事はない。静寂が耳を打つ。
「ソウ、いるんだろう!」
寺嶋の兄が必死に切り開いてくれた道だ。
絶対にここに寺嶋がいるはずだ。
彼を探すために、城ケ崎は歩き出した。
歩いても歩いても病院の廊下が続いている。
不思議なことに、どんなに歩いても細長い廊下が続いているだけだ。ロビーだとかの広い場所に辿り着く気配がない。
廊下には閉じられた扉がいくつも見える。
適当に一つ選んで開けてみようとしたが、開かなかった。どうやらこのまま、廊下を進むしかないようだ。
どこまでも、どこまでも長く廊下が続く。
このまま進んでいけば、ソウはいるのだろうか。
なにか間違っているのだろうか。進むのではなく、引き返した方がいいのだろうか。
脳裏に想起されるのは、とあるギリシャ神話だ。
男が妻を取り戻すために、冥府まで下る。冥府の神に「振り返ってはならない」と条件を出されて、男は妻を連れて地上を目指す。あともう少しで地上に帰れるというところで、男は不安になって振り返り、禁を破った結果妻を失ってしまう。
今のこの状況は、まさに冥府下りのように思われた。
振り返って道を引き返した途端、寺嶋と自分とを結ぶ糸が千切れてしまうような気がして、進む以外の選択肢を取れなかった。
「……そうだ!」
ふと、城ケ崎は寺嶋家次男の部屋で日記を見つけた時のことを思い出した。
あの時は落とした市松人形を拾って見つけたのだった。今思えば、あれは人形の導きだったのではないだろうか。
あの時のように、人形に助けを求められるかもしれない。
「母さん、助けてくれ」
一度立ち止まって、桐の箱から市松人形を取り出した。
大事に抱え込んだ金髪碧眼の人形は、優しい微笑みをたたえていた。
片腕に人形を座らせるようにして抱きかかえ、再び廊下を進み始める。
なぜだか、先ほどよりも廊下が少し明るく見えた。蛍の光のような柔らかい照明に、どこかから照らされているようだ。
不意に、前方で影が動いたような気がした。
まるで暗がりの中に人がいるかのように。
「ソウ!」
あれはソウだと、確信を持って呼びかけた。
人形を落とさないように気をつけながら駆け寄って距離を詰めると、そこに人がいるのがはっきりとわかった。黒髪の誰かが、こちらに背を向けて立っている。
「ソウ、迎えに来たんだ! 一緒に帰ろう!」
背を向けている人物が声に反応したのか、ゆっくりと振り返る。
振り返った顔を目にして、城ケ崎は……
「ひ!」
小さく悲鳴を上げた。
振り返った人物はたしかに寺嶋崇の顔をしていて、そして、両目と口から黒い血を垂れ流していた。まるで彼の身体の内側に詰まった黒いものが、目と口から溢れ出してきているかのように。両目と口は真っ黒で、中に暗黒しかないように感じられた。
子供の落書きじみた姿のアレが、彼なのだろうか。
それともカミとやらが作り出した偽物なのか。
どう判断すべきか。
ここで判断を間違えたら、もう二度と彼を取り戻す機会は訪れないだろう――そんな予感がした。
昼に祠に来た時に幻影で見た病院と似ているように見えるが、明らかに前回よりも廃れている。
床には埃が積もり、天井には蜘蛛の巣が張り、瓦礫がところどころに落ちている。
廃病院なのだとはっきりとわかる。
また、過去の幻影を見せられるのだろうか。
少しの間周囲を見回したが、何も起こらない。
「ソウ、どこだ!」
声を張り上げた。
返事はない。静寂が耳を打つ。
「ソウ、いるんだろう!」
寺嶋の兄が必死に切り開いてくれた道だ。
絶対にここに寺嶋がいるはずだ。
彼を探すために、城ケ崎は歩き出した。
歩いても歩いても病院の廊下が続いている。
不思議なことに、どんなに歩いても細長い廊下が続いているだけだ。ロビーだとかの広い場所に辿り着く気配がない。
廊下には閉じられた扉がいくつも見える。
適当に一つ選んで開けてみようとしたが、開かなかった。どうやらこのまま、廊下を進むしかないようだ。
どこまでも、どこまでも長く廊下が続く。
このまま進んでいけば、ソウはいるのだろうか。
なにか間違っているのだろうか。進むのではなく、引き返した方がいいのだろうか。
脳裏に想起されるのは、とあるギリシャ神話だ。
男が妻を取り戻すために、冥府まで下る。冥府の神に「振り返ってはならない」と条件を出されて、男は妻を連れて地上を目指す。あともう少しで地上に帰れるというところで、男は不安になって振り返り、禁を破った結果妻を失ってしまう。
今のこの状況は、まさに冥府下りのように思われた。
振り返って道を引き返した途端、寺嶋と自分とを結ぶ糸が千切れてしまうような気がして、進む以外の選択肢を取れなかった。
「……そうだ!」
ふと、城ケ崎は寺嶋家次男の部屋で日記を見つけた時のことを思い出した。
あの時は落とした市松人形を拾って見つけたのだった。今思えば、あれは人形の導きだったのではないだろうか。
あの時のように、人形に助けを求められるかもしれない。
「母さん、助けてくれ」
一度立ち止まって、桐の箱から市松人形を取り出した。
大事に抱え込んだ金髪碧眼の人形は、優しい微笑みをたたえていた。
片腕に人形を座らせるようにして抱きかかえ、再び廊下を進み始める。
なぜだか、先ほどよりも廊下が少し明るく見えた。蛍の光のような柔らかい照明に、どこかから照らされているようだ。
不意に、前方で影が動いたような気がした。
まるで暗がりの中に人がいるかのように。
「ソウ!」
あれはソウだと、確信を持って呼びかけた。
人形を落とさないように気をつけながら駆け寄って距離を詰めると、そこに人がいるのがはっきりとわかった。黒髪の誰かが、こちらに背を向けて立っている。
「ソウ、迎えに来たんだ! 一緒に帰ろう!」
背を向けている人物が声に反応したのか、ゆっくりと振り返る。
振り返った顔を目にして、城ケ崎は……
「ひ!」
小さく悲鳴を上げた。
振り返った人物はたしかに寺嶋崇の顔をしていて、そして、両目と口から黒い血を垂れ流していた。まるで彼の身体の内側に詰まった黒いものが、目と口から溢れ出してきているかのように。両目と口は真っ黒で、中に暗黒しかないように感じられた。
子供の落書きじみた姿のアレが、彼なのだろうか。
それともカミとやらが作り出した偽物なのか。
どう判断すべきか。
ここで判断を間違えたら、もう二度と彼を取り戻す機会は訪れないだろう――そんな予感がした。
51
あなたにおすすめの小説
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
悪役を幸せにしたいのになんか上手くいかないオタクのはなし
はかまる
BL
転生してみたものの気がつけば好きな小説のモブになっていてしかもストーリーのド終盤。
今まさに悪役が追放されそうになっているところを阻止したくなっちゃったオタクの話。
悪役が幸せに学園を卒業できるよう見守るはずがなんだか――――なんだか悪役の様子がおかしくなっちゃったオタクの話。
ヤンデレ(メンヘラ)×推しが幸せになってほしいオタク
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
有能副会長はポンコツを隠したい。
さんから
BL
2.6タイトル変更しました。
この高校の生徒会副会長を務める僕・東山 優真は、普段の仕事ぶりから次期生徒会長の最有力候補と言われている。……んだけど、実際は詰めの甘さやうっかりミスを根性論でカバーしてきたポンコツだ。
こんなに頑張れているのは、密かに思いを寄せている安西生徒会長のため。
ある日、なんの奇跡か会長に告白され晴れて恋人同士となった僕は、大好きな人に幻滅されないためにポンコツを隠し通すと決めたけど……!?(内容は他サイト版と同じですが、こちらの方がちょっと読みやすいはずです)
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない
バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。
ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない??
イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる