悪逆第四皇子は僕のお兄ちゃんだぞっ! ~商人になりたいので悪逆皇子の兄と組むことにします~

野良猫のらん

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第二部 セルフィニエ辺境伯領編

第百六十五話 ウィルフリートメトロノーム

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 テルディナント先生は早速木箱の蓋を開けてメトロノームを取り出している。

「おお、これは……!」

 中身を見て先生は感嘆の声を挙げた。

「この目盛りに合わせて錘の位置を変えることでテンポの調整ができます。40に合わせると一分間に四十回、60なら一分間に六十回といった風に音が鳴るようになっています」

 お兄ちゃんが僕にもした説明を先生にしている。
 先生が試しに100に錘を合わせてメトロノームの振り子を動かす。
 カチッカチッカチッと音が響く。
 先生はじっとその音を聞いている。

 先生がメトロノームを一旦止める。
 それから今度は200の目盛りまで一気に錘を下ろした。
 カチカチカチカチとかなり速いテンポで音が鳴り響く。

 よく見るとテルディナント先生の足先がテンポに合わせて動いている。
 いや逆か。テンポに合わせているのではなく、本当に一分間で二百回鳴るのか数えているのだろう。

 僕の予想は当たっていたようで、一分ほど経ったところで先生はメトロノームを止めた。

「素晴らしい、予想していたよりずっと利便性があり正確だ! ウィルフリートよ、これは素晴らしい発明品だ!」
「勿体ないお言葉です」

 お兄ちゃんはよそゆきの言葉遣いで答えるが、手放しで褒められて満更ではなさそうな顔をしている。
 良かったねお兄ちゃん。僕の言った通りだったでしょ、お兄ちゃんの発明品の良さを分かってくれる人は他にもいるって。

「これを使えば楽譜にもテンポを書き入れることができる。例えばこのように……!」

 テルディナント先生は羽ペンを手に入れると、インク壺に浸して楽譜にさらさらと短く何事かを書き込んだ。
 そして先生は楽譜をみ僕らに見せてその部分を指さしてくれる。
 お兄ちゃんの名前の頭文字とメトロノームの頭文字、そして100という数字が書かれていた。
 地球の言語に直せば「W.M.=100」といったところだろうか。

「ウィルフリートのメトロノームで100の目盛りに合わせた時のテンポ、という意味だ。ウィルフリートの発明品のおかげでテンポにはっきりとした基準ができる! ああ、この感動を如何に表現すべきか……!」

 テルディナント先生は今にもチェンバロを弾いて感動を音にして表現しかねない勢いだった。
 その後の僕の演奏が間違いなく霞むからやめてくれ。

「いや本当に素晴らしい物をいただいた。ただでもらってしまっていいのだろうかと躊躇うほどの品物だ。今からでも代金を支払った方がいいだろうか」
「いえ、殿下のチェンバロの練習の役に立つのであればと考案した物でございますので。別にテルディナント様のことを念頭に置いて作った訳ではありません」

 お兄ちゃんの返答がかなりすげない物言いに聞こえてひやりとしたが、テルディナント先生はまるで気にしていないようだ。
 多分今のは参考にしてはいけない発言だ。

「友の為にこれだけの物を考え出せるとは素晴らしい友情だ! オレ様はその友情の恩恵に遠慮なく与らせてもらうとしよう」

 そういう訳で音楽室にメトロノームが設置されることとなった。
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