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番外編:新婚旅行と水の落とし子編
第三十二話
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祭りを見て、海を散策したその晩。
ハオハトとウエルは、再びナオシジ老人に晩餐に誘われた。
断る理由があるわけもなく、ご相伴にあずかることにした。
晩餐が始まると、ナオシジ老人は酒をかっくらって酔っ払い始めた。
酔っ払っても暴言を吐くわけでもなく、ただ赤い顔でにこにことしているだけなので嫌な感じはしない。
思うにウエルたちが晩餐に誘われるのは老人が親切だからという理由もあるだろうが、酒を飲む口実がほしいからに違いないとウエルは感じた。
ナオシジ老人は、酒が好きなのだ。
ウエルももちろん酒は好きだ。ウエルも積極的に酒杯に手を出した。ハオハトも見様見真似といった風に酒杯を口に運んでいるが、顔が赤くなったり気が大きくなったりなどはしないようだ。ハオハトには、「酔っ払う」はまだ高等技術のようだ。
「爺さんはすごいなあ、こんな大きな店を持って」
「ははは、受け継いだだけですから。それに悩みごとは付き物です」
「へー、どんな悩みがあるんだ?」
酒杯を傾けながら、老人の話に耳を傾ける。
「そりゃもう、いろいろでございますよ。新しい販路をどうやって広げようかとか、最近帳簿と釣銭の数が合わないことがあるとか……」
「帳簿と釣銭の数が合わない?」
「ええ、そうなんですよ! そりゃ規模の大きい店なものですから、時折は数え間違いくらいあります。ですがここ最近、どうも頻度が多くなっていて……疑いたくはないのですが、店の者が盗んでいるのではないかと」
口にした後、ナオシジ老人ははっとした顔になる。
「今のはここだけの話にしてくださいね。つい、口が滑ってしまいました」
恥ずかしげに後頭部を掻く。
「でも盗みだなんて大変じゃないか。犯人を見つけないと」
ウエルの言葉に、ナオシジ老人は苦い顔をした。
「私は……正直、犯人など見つからなければいいと思っております」
「ええ、なんで?」
ウエルには犯人が見つからないでほしい理由なんて、見当がつかなかった。
老人は理由を説明し出した。
「釣銭は、ある程度勤続年数が続いている者にだけ任せております。入ったばかりの小僧には触らせないようにしているのです。合わない金額はいつも硬貨一枚分だけなのですが……勤め続けてくれている者がそんな少額のために盗みを働いていると疑うのは嫌じゃないですか。もちろん、小僧が人目を盗んで硬貨をくすねているのかもしれないと疑うのも嫌です」
ナオシジ老人は、酒で赤らんだ顔を悲しげに歪ませた。
「……そっか」
老人の胸中に思い至らなかった自分を、ウエルは恥じた。
どんな少額だろうと、信頼している相手が裏切っているかもしれないなんて嫌だろう。
「じゃあ、このままうやむやにしておくのか?」
「はい、そのつもりです」
老人は恥じるように悄然と頷いた。
「なぜだ?」
突然、今まで黙っていたハオハトが口を開いた。
「真相を探ってみればいい。なぜ放置しておくんだ?」
ハオハトは不思議そうにナオシジ老人を見つめていた。
「もし犯人が明らかになったとして、それがもし熟練の者であったならほんの少しの被害額のために貴重な従業員を失うことになるのです。……それに、裏切りを直視するのが怖いのです」
「ハオ、無茶を言うなよ」
ウエルはハオハトに非難の視線を向ける。
ハオハトは首を横に振った。
「ならば、店の者とやらが犯人ではないと明らかになれば心が安らぐ。そういうことだろう?」
「え、他の者が犯人である可能性があるのですか……!?」
ナオシジ老人の顔に、パッと希望の光が差した。
「金が保管されている場所を見れば、わかることがあるかもしれない」
「……わかりました、私も覚悟を決めます。明日、現場をお見せします」
なんだか妙な話のなり行きになってしまった。
こうして、ハオハトが窃盗の現場を調査することになった。
ハオハトは一体何を考えているのだろう。
翌日、ハオハトとウエルたちは釣銭を管理しているという店内に案内してもらった。
色鮮やかな反物が綺麗に陳列され、店の奥には衣桁にかけられた着物が飾られている。見本なのだろう。
「今は開店前ですから、お好きなだけご覧ください」
店員たちはいそいそと開店の準備を進めている。
邪魔しているようで、居心地が悪い。
「こちらが勘定台です。店を閉めたら、店の者が所定の場所に鍵をかけて釣銭を仕舞います。今はまだ開店前ですので、釣銭は所定の場所に仕舞われております」
「そうか」
ナオシジ老人の案内を受けて、ハオハトが勘定台に近寄る。
「釣銭はいつもはこの抽斗に仕舞っております。店が開いている間、勘定台には一日中店の者がおります。……外の者が盗む隙があるとは思えません」
老人は、ぼそりと最後の一言を呟いた。
「ふむ」
ハオハトは、勘定台をさらりと撫でる。
「ハオ、撫でるとなにかわかるのか?」
「特に」
「毎日綺麗に磨き上げておりますから」
ナオシジ老人は頷いた。
ハオハトは、勘定台に視線を注ぎ続けている。
「ハオ、釣銭を仕舞っているっていう場所も見せてもらおうよ。もしかしたら夜中にこっそり開けて盗んでいく悪い奴がいるのかもしれない」
「金庫を開けたのなら、小銭一枚だけ盗んで済ませるとは思いませんが……わかりました、ご案内しましょう」
「ウエルが見たいなら、見てみようか」
ハオハトはこくりと頷くと、ナオシジ老人の後をついていく。
その姿は主体性があるようには見えない。いったい、どうしていきなり、真相を探ればいいなんて言い出したのだろう。
釣銭は木製の手提げ金庫に仕舞われていた。
鍵は番頭という、店員の中でも位の高い者が管理しているらしい。
ウエルが金庫を調べたが、金庫には穴などはなかった。無理矢理壊しでもしない限り、鍵なしに中から硬貨を取り出すことはできないだろう。
「夜中に取り出しているなら、番頭が鍵を使って開けていることになる、けど……」
鍵を管理している番頭は家庭を持っていて、通いで働きにきているそうだ。
いい年の熟練店員が、わざわざ夜中に店に忍び込んで鍵を開け、小銭一枚だけくすねて帰る……なかなか考えづらいことだとウエルには感じられた。
「勘定台にいつも人がいると言っても、四六時中釣銭を仕舞っている抽斗を注視しているわけではないし。小僧が隙を見てくすねているとしか思えないな」
金庫を調べ終わり、ウエルは腕組みした。
小僧が盗んでいるか、もしくは小銭の数え間違いがたまたま頻発しただけに違いない。ウエルにはそうとしか考えられなかった。
その時。
「クワーッ!」
突如として店内にけたたましい声が響いた。
びっくりしてどちらの方を見やると、店の隅に鳥籠があった。
鳥籠の中には、可愛らしい小鳥が一羽いる。頭が黒くて、綺麗な水色の尾羽がすっとまっすぐ伸びている。
「今の声はお前の声かい、見た目に似合わず大きな声なんだな」
ウエルは小鳥にそっと話しかけた。
「ほほほ、その小鳥は最近店の者が保護してきまして。怪我をしていたので治るまでのつもりで、世話していたのですよ。ですが、怪我が治ってから放しても戻ってきてしまいまして。このまま飼うことにしたのでございます」
小鳥の話になった途端、ナオシジ老人はにこにこと笑顔になる。
小鳥のことが好きなようだ。
「籠から出しましょうか? 大丈夫、逃げたりしませんから」
ナオシジ老人は鳥籠の扉を開けた。老人が手を差し出すと、小鳥はその手に止まった。
小鳥が老人とウエルたちとを交互にきょろきょろと見つめる様が、「ねえねえおじいさん、この人たちはだあれ?」と聞いているように見えて微笑ましい。
「わあ、かわいいな」
ウエルもにこにこと笑顔になった。
すると、小鳥は羽ばたいて棚の上まで飛んでいってしまった。
「あっ」
「大丈夫です、逃げていったりしませんから」
小鳥は棚の上で嘴を使ってのんびりと毛づくろいしている。
「この鳥はいつもこうして放しているのか?」
ハオハトが問う。
「ええ、ええ。やっぱり鳥籠の中に閉じ込めっ放しでは可哀想ですからね」
「なるほど。しかし、この部屋で放すのはやめておいた方がよさそうだ」
「へ? どういうことですか?」
「ハオ、いきなり何を言い出すんだ」
不躾なことを言い出したハオハトを、ウエルは睨みつける。
やはり彼には人間同士の礼儀作法はまだ難しいようだ。
そう思ったときだった、彼が驚くべき言葉を発したのは。
「犯人がわかったよ」
意味がわからず、ウエルはぽかんとしてしまった。
「犯人がわかったのですか!? いったい、誰です!?」
ナオシジ老人が不安と期待の入り混じった視線を、ハオハトに向けた。
「その前に、この子のおうちを見させてもらおうか」
ハオハトは、鳥籠の中に手を伸ばした。
鳥籠の中には、小鳥が寝るための場所か小さな小屋があった。
丸い入口に彼の指が入っていき、中を探る。それからあるものを引っ張り出した。
それはキラキラと輝く硬貨だった。
「これは……! 一体誰が、このようなところに?」
「それはもちろん、この家の主だ。あの鳥が犯人……いや、犯鳥なんだよ」
ハオハトは言い放った。
「あの子が!?」
棚の上でゆっくりしていたはずの小鳥を振り返る。
いつの間にか小鳥は音もなく勘定台の上に降り立っていた。見ている前で小鳥はなんと、抽斗を器用に足で開けてしまった。開店前なので、小銭はまだそこにない。小鳥は不思議そうに首を傾げている。
「ああやってこっそりと抽斗を開け、中から硬貨を取り出して巣に運んでいったのだろう」
小鳥の巣の中から合計三枚の硬貨が出てきた。
帳簿が合わないと確認されていた額と一致した。
「でも、一体どうして硬貨なんか……」
「鳴き声を聞けばわかる通り、あの鳥はカラスの近縁種だ。光る物が好きでも、おかしくはないよ」
こうしてハオハトの活躍により、見事に原因を突き止めることができたのだった。
「ウエルさまたちには助けられてばかりでございますね。どうもありがとうございます!」
ナオシジ老人は、ウエルたちに酷く感謝した。
ハオハトとウエルは、再びナオシジ老人に晩餐に誘われた。
断る理由があるわけもなく、ご相伴にあずかることにした。
晩餐が始まると、ナオシジ老人は酒をかっくらって酔っ払い始めた。
酔っ払っても暴言を吐くわけでもなく、ただ赤い顔でにこにことしているだけなので嫌な感じはしない。
思うにウエルたちが晩餐に誘われるのは老人が親切だからという理由もあるだろうが、酒を飲む口実がほしいからに違いないとウエルは感じた。
ナオシジ老人は、酒が好きなのだ。
ウエルももちろん酒は好きだ。ウエルも積極的に酒杯に手を出した。ハオハトも見様見真似といった風に酒杯を口に運んでいるが、顔が赤くなったり気が大きくなったりなどはしないようだ。ハオハトには、「酔っ払う」はまだ高等技術のようだ。
「爺さんはすごいなあ、こんな大きな店を持って」
「ははは、受け継いだだけですから。それに悩みごとは付き物です」
「へー、どんな悩みがあるんだ?」
酒杯を傾けながら、老人の話に耳を傾ける。
「そりゃもう、いろいろでございますよ。新しい販路をどうやって広げようかとか、最近帳簿と釣銭の数が合わないことがあるとか……」
「帳簿と釣銭の数が合わない?」
「ええ、そうなんですよ! そりゃ規模の大きい店なものですから、時折は数え間違いくらいあります。ですがここ最近、どうも頻度が多くなっていて……疑いたくはないのですが、店の者が盗んでいるのではないかと」
口にした後、ナオシジ老人ははっとした顔になる。
「今のはここだけの話にしてくださいね。つい、口が滑ってしまいました」
恥ずかしげに後頭部を掻く。
「でも盗みだなんて大変じゃないか。犯人を見つけないと」
ウエルの言葉に、ナオシジ老人は苦い顔をした。
「私は……正直、犯人など見つからなければいいと思っております」
「ええ、なんで?」
ウエルには犯人が見つからないでほしい理由なんて、見当がつかなかった。
老人は理由を説明し出した。
「釣銭は、ある程度勤続年数が続いている者にだけ任せております。入ったばかりの小僧には触らせないようにしているのです。合わない金額はいつも硬貨一枚分だけなのですが……勤め続けてくれている者がそんな少額のために盗みを働いていると疑うのは嫌じゃないですか。もちろん、小僧が人目を盗んで硬貨をくすねているのかもしれないと疑うのも嫌です」
ナオシジ老人は、酒で赤らんだ顔を悲しげに歪ませた。
「……そっか」
老人の胸中に思い至らなかった自分を、ウエルは恥じた。
どんな少額だろうと、信頼している相手が裏切っているかもしれないなんて嫌だろう。
「じゃあ、このままうやむやにしておくのか?」
「はい、そのつもりです」
老人は恥じるように悄然と頷いた。
「なぜだ?」
突然、今まで黙っていたハオハトが口を開いた。
「真相を探ってみればいい。なぜ放置しておくんだ?」
ハオハトは不思議そうにナオシジ老人を見つめていた。
「もし犯人が明らかになったとして、それがもし熟練の者であったならほんの少しの被害額のために貴重な従業員を失うことになるのです。……それに、裏切りを直視するのが怖いのです」
「ハオ、無茶を言うなよ」
ウエルはハオハトに非難の視線を向ける。
ハオハトは首を横に振った。
「ならば、店の者とやらが犯人ではないと明らかになれば心が安らぐ。そういうことだろう?」
「え、他の者が犯人である可能性があるのですか……!?」
ナオシジ老人の顔に、パッと希望の光が差した。
「金が保管されている場所を見れば、わかることがあるかもしれない」
「……わかりました、私も覚悟を決めます。明日、現場をお見せします」
なんだか妙な話のなり行きになってしまった。
こうして、ハオハトが窃盗の現場を調査することになった。
ハオハトは一体何を考えているのだろう。
翌日、ハオハトとウエルたちは釣銭を管理しているという店内に案内してもらった。
色鮮やかな反物が綺麗に陳列され、店の奥には衣桁にかけられた着物が飾られている。見本なのだろう。
「今は開店前ですから、お好きなだけご覧ください」
店員たちはいそいそと開店の準備を進めている。
邪魔しているようで、居心地が悪い。
「こちらが勘定台です。店を閉めたら、店の者が所定の場所に鍵をかけて釣銭を仕舞います。今はまだ開店前ですので、釣銭は所定の場所に仕舞われております」
「そうか」
ナオシジ老人の案内を受けて、ハオハトが勘定台に近寄る。
「釣銭はいつもはこの抽斗に仕舞っております。店が開いている間、勘定台には一日中店の者がおります。……外の者が盗む隙があるとは思えません」
老人は、ぼそりと最後の一言を呟いた。
「ふむ」
ハオハトは、勘定台をさらりと撫でる。
「ハオ、撫でるとなにかわかるのか?」
「特に」
「毎日綺麗に磨き上げておりますから」
ナオシジ老人は頷いた。
ハオハトは、勘定台に視線を注ぎ続けている。
「ハオ、釣銭を仕舞っているっていう場所も見せてもらおうよ。もしかしたら夜中にこっそり開けて盗んでいく悪い奴がいるのかもしれない」
「金庫を開けたのなら、小銭一枚だけ盗んで済ませるとは思いませんが……わかりました、ご案内しましょう」
「ウエルが見たいなら、見てみようか」
ハオハトはこくりと頷くと、ナオシジ老人の後をついていく。
その姿は主体性があるようには見えない。いったい、どうしていきなり、真相を探ればいいなんて言い出したのだろう。
釣銭は木製の手提げ金庫に仕舞われていた。
鍵は番頭という、店員の中でも位の高い者が管理しているらしい。
ウエルが金庫を調べたが、金庫には穴などはなかった。無理矢理壊しでもしない限り、鍵なしに中から硬貨を取り出すことはできないだろう。
「夜中に取り出しているなら、番頭が鍵を使って開けていることになる、けど……」
鍵を管理している番頭は家庭を持っていて、通いで働きにきているそうだ。
いい年の熟練店員が、わざわざ夜中に店に忍び込んで鍵を開け、小銭一枚だけくすねて帰る……なかなか考えづらいことだとウエルには感じられた。
「勘定台にいつも人がいると言っても、四六時中釣銭を仕舞っている抽斗を注視しているわけではないし。小僧が隙を見てくすねているとしか思えないな」
金庫を調べ終わり、ウエルは腕組みした。
小僧が盗んでいるか、もしくは小銭の数え間違いがたまたま頻発しただけに違いない。ウエルにはそうとしか考えられなかった。
その時。
「クワーッ!」
突如として店内にけたたましい声が響いた。
びっくりしてどちらの方を見やると、店の隅に鳥籠があった。
鳥籠の中には、可愛らしい小鳥が一羽いる。頭が黒くて、綺麗な水色の尾羽がすっとまっすぐ伸びている。
「今の声はお前の声かい、見た目に似合わず大きな声なんだな」
ウエルは小鳥にそっと話しかけた。
「ほほほ、その小鳥は最近店の者が保護してきまして。怪我をしていたので治るまでのつもりで、世話していたのですよ。ですが、怪我が治ってから放しても戻ってきてしまいまして。このまま飼うことにしたのでございます」
小鳥の話になった途端、ナオシジ老人はにこにこと笑顔になる。
小鳥のことが好きなようだ。
「籠から出しましょうか? 大丈夫、逃げたりしませんから」
ナオシジ老人は鳥籠の扉を開けた。老人が手を差し出すと、小鳥はその手に止まった。
小鳥が老人とウエルたちとを交互にきょろきょろと見つめる様が、「ねえねえおじいさん、この人たちはだあれ?」と聞いているように見えて微笑ましい。
「わあ、かわいいな」
ウエルもにこにこと笑顔になった。
すると、小鳥は羽ばたいて棚の上まで飛んでいってしまった。
「あっ」
「大丈夫です、逃げていったりしませんから」
小鳥は棚の上で嘴を使ってのんびりと毛づくろいしている。
「この鳥はいつもこうして放しているのか?」
ハオハトが問う。
「ええ、ええ。やっぱり鳥籠の中に閉じ込めっ放しでは可哀想ですからね」
「なるほど。しかし、この部屋で放すのはやめておいた方がよさそうだ」
「へ? どういうことですか?」
「ハオ、いきなり何を言い出すんだ」
不躾なことを言い出したハオハトを、ウエルは睨みつける。
やはり彼には人間同士の礼儀作法はまだ難しいようだ。
そう思ったときだった、彼が驚くべき言葉を発したのは。
「犯人がわかったよ」
意味がわからず、ウエルはぽかんとしてしまった。
「犯人がわかったのですか!? いったい、誰です!?」
ナオシジ老人が不安と期待の入り混じった視線を、ハオハトに向けた。
「その前に、この子のおうちを見させてもらおうか」
ハオハトは、鳥籠の中に手を伸ばした。
鳥籠の中には、小鳥が寝るための場所か小さな小屋があった。
丸い入口に彼の指が入っていき、中を探る。それからあるものを引っ張り出した。
それはキラキラと輝く硬貨だった。
「これは……! 一体誰が、このようなところに?」
「それはもちろん、この家の主だ。あの鳥が犯人……いや、犯鳥なんだよ」
ハオハトは言い放った。
「あの子が!?」
棚の上でゆっくりしていたはずの小鳥を振り返る。
いつの間にか小鳥は音もなく勘定台の上に降り立っていた。見ている前で小鳥はなんと、抽斗を器用に足で開けてしまった。開店前なので、小銭はまだそこにない。小鳥は不思議そうに首を傾げている。
「ああやってこっそりと抽斗を開け、中から硬貨を取り出して巣に運んでいったのだろう」
小鳥の巣の中から合計三枚の硬貨が出てきた。
帳簿が合わないと確認されていた額と一致した。
「でも、一体どうして硬貨なんか……」
「鳴き声を聞けばわかる通り、あの鳥はカラスの近縁種だ。光る物が好きでも、おかしくはないよ」
こうしてハオハトの活躍により、見事に原因を突き止めることができたのだった。
「ウエルさまたちには助けられてばかりでございますね。どうもありがとうございます!」
ナオシジ老人は、ウエルたちに酷く感謝した。
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