7 / 57
第七話 完璧で究極のワルワル王子様
スイーツもなければ、砂糖もない。
前世のぼくに託された作戦すら遂行できない。
ぼくは絶望に打ちひしがれた。
スイーツのない世界で、どうやって生きていけばいいのか。
ゲームの中のリュカみたいに、悪の皇帝になって世界を破壊してやろうかな。
自暴自棄な考えを抱きながらも、療養生活を続けるうちに少しずつ体力は回復していった。
甘いものが好きなのだと認識されたようで、毎食デザートがついてくる。全部ドライフルーツだけれど。
見たことのないドライフルーツが出てくる度に、ぼくは「これなあに?」とたずね、フルーツの名前を覚えていった。
それぞれのフルーツの旬の時期になり、生で食べれる日をぼくは楽しみに生きている。今のところ、それしか希望はない。
「ねえステラ、まだはるにならないの?」
最近よくぼくの世話をしてくれている侍女のステラに聞いた。
「殿下は早く生の果物を食べたくてたまらないのですね。殿下がそんなに果物好きだとは、存じ上げませんでした」
ステラはくすりと笑った。
本当は好きなのは果物じゃなくて、スイーツなんだけれどな。
「雪が解け始めましたから、もうすぐシーニュの実がなりますよ。もうすぐでシーニュの実を生で食べられますからね」
シーニュの実が生で食べられると聞いて、ぼくは顔をしかめそうになった。
シーニュの実はドライフルーツで食べたことがあるが、やたらちっちゃくて酸っぱい果物だった。
練乳みたいな甘いものをかけて食べれば、甘酸っぱくてちょうどいいかもしれない。けれども単体では酸っぱすぎる。
シーニュの実が出てくる日は、必ずあの砂糖の塊みたいに甘いナミニの実のドライフルーツも一緒に頼んだ。交互に食べれば、少しは美味しく感じられた。
そんなシーニュの実が生になったからと言って、美味しくなるとはさほど思えなかった。
「どうされました?」
「ううん、なんでもない」
ふるふると首を横に振った。
ぼくの求めるスイーツには遠く及ばないが、ドライフルーツが唯一の甘味なのだ。文句を言ったりして、ごはんに出してもらえなくなったら大変だ。
四歳のぼくに権力なんかないと、ぼくは学んだのだ。
「そうだ殿下、少し城の中を散歩してみませんか? 実はつい先日、医術士からお散歩の許可が下りていたのですよ」
「おさんぽぉ?」
きょとんと首を傾げてみせた。
前世の記憶が蘇ってからこの方、部屋から出たことがなかった。
部屋の中を歩き回ったりしてみたが、部屋の外に出て長く歩いたりしたら死ぬんじゃないかと思われていたのだ。
散歩になんて興味はないが、いい暇つぶしになるかもしれない。
「いく!」
笑顔で頷いた。
こうして僕は、今のぼくになってから初めて部屋の外に出たのだった。
「よいしょ、よいしょ」
「その調子でございます、殿下」
ぼくは自分の二本の足で、しっかりと着実に城の廊下を進んでいた。
ステラはぼくのすぐ隣を一緒に歩いてくれている。
本来なら侍女が仕える相手と並んで歩いたりしないものだけれど、いつ転ぶかわからないぼくをすぐに支えられなきゃいけないからね。
廊下にはワゴンカートを押しても音が出ないようにか、ふかふかの絨毯が敷かれている。これならば転んでも怪我はしないだろう。
ぼくは安心して散歩を楽しんでいた。
大人の足取りと比べれば遅々として進んでいないが、ゆっくりとした足取りでもぼくは体力の回復を実感していた。
調子に乗ってとことこと進み、曲がり角を曲がる。
「殿下、止まってくださいませ!」
曲がったところに人がいて、危うくぶつかりそうになったのをステラに手で制止された。
「ごめんなさい」
ぶつかりそうになった人に謝りながら見上げたら、燃えるような赤い瞳にじろりと睨みつけられた。
まるで瞳の色と感情が連動しているかのように、二つの瞳から怒りが感じられた。
「あ……」
ぶつかりそうになった相手は、十代前半の少年だった。
瞳と同じ赤い髪を上品に撫でつけ、ぼくと同じくらい……いや、ぼくよりも立派な装いをしている。彼の後ろに護衛が控えているし、まず間違いなく偉い人だ。
すらりと細い身体をしていて、顔つきは少年から青年へと変わる途中のあどけなさが残っている。数年もすれば、アイドルのようなイケメンになりそうだと思った。
ただ、アイドルと呼ぶにはちょっと目付きが凶悪すぎるかな。
「はじめまして、ぼくのなまえはリュカです」
なんで怒った顔をしているのかわからないが、ふわふわの金髪の幼児がぺこりと礼をするのを見て、気を許さない人間はいないに違いないと、ぼくは自己紹介をしてみた。
だが少年は顔色を変えずに、片眉を上げた。
「初めましてだと? 実の兄の顔も覚えていないのか?」
やっべ、しくった。
ぼくは心の中で舌を出した。
知ってる人だった、兄弟だったわ。
ぼくの兄ということは、悪の皇帝になった場合にこの手で殺すことになる人だろうか。
ゲーム開始時点で既に死んでたキャラの名前なんて、覚えてないよ。ぼくは危うく口を尖らせそうになった。
「ごめんなさい、おぼえてません。おなまえをおしえてくれますか?」
開き直って白状した。
嘘ついたって仕方ないもんね。
「ほ、本気で覚えていないのか……」
ぼくの兄は、上げた片眉をピクピクとさせた。
「おいアラン、教えてやれ」
兄は彼の後ろに控えている護衛らしき騎士を振り返りもせず、顎でしゃくって僕を示すという実に傲慢な態度で命令した。
な、なんて――――なんて極道の跡継ぎに向いている人なのだろう!
ぼくは感動した。
まだ十二、三歳ぐらいだというのに人を顎でこき使っている。それが慣れた様子で様になっているのだ。
こういう風に振る舞っていたら、前世の自分も舐められずに済んだのかもしれない。
完璧で究極のワルワル王子様だ!
「はわわわわ……!」
目の前の兄に、尊敬の念ゲージがぎゅんと上がった。
前世のぼくに託された作戦すら遂行できない。
ぼくは絶望に打ちひしがれた。
スイーツのない世界で、どうやって生きていけばいいのか。
ゲームの中のリュカみたいに、悪の皇帝になって世界を破壊してやろうかな。
自暴自棄な考えを抱きながらも、療養生活を続けるうちに少しずつ体力は回復していった。
甘いものが好きなのだと認識されたようで、毎食デザートがついてくる。全部ドライフルーツだけれど。
見たことのないドライフルーツが出てくる度に、ぼくは「これなあに?」とたずね、フルーツの名前を覚えていった。
それぞれのフルーツの旬の時期になり、生で食べれる日をぼくは楽しみに生きている。今のところ、それしか希望はない。
「ねえステラ、まだはるにならないの?」
最近よくぼくの世話をしてくれている侍女のステラに聞いた。
「殿下は早く生の果物を食べたくてたまらないのですね。殿下がそんなに果物好きだとは、存じ上げませんでした」
ステラはくすりと笑った。
本当は好きなのは果物じゃなくて、スイーツなんだけれどな。
「雪が解け始めましたから、もうすぐシーニュの実がなりますよ。もうすぐでシーニュの実を生で食べられますからね」
シーニュの実が生で食べられると聞いて、ぼくは顔をしかめそうになった。
シーニュの実はドライフルーツで食べたことがあるが、やたらちっちゃくて酸っぱい果物だった。
練乳みたいな甘いものをかけて食べれば、甘酸っぱくてちょうどいいかもしれない。けれども単体では酸っぱすぎる。
シーニュの実が出てくる日は、必ずあの砂糖の塊みたいに甘いナミニの実のドライフルーツも一緒に頼んだ。交互に食べれば、少しは美味しく感じられた。
そんなシーニュの実が生になったからと言って、美味しくなるとはさほど思えなかった。
「どうされました?」
「ううん、なんでもない」
ふるふると首を横に振った。
ぼくの求めるスイーツには遠く及ばないが、ドライフルーツが唯一の甘味なのだ。文句を言ったりして、ごはんに出してもらえなくなったら大変だ。
四歳のぼくに権力なんかないと、ぼくは学んだのだ。
「そうだ殿下、少し城の中を散歩してみませんか? 実はつい先日、医術士からお散歩の許可が下りていたのですよ」
「おさんぽぉ?」
きょとんと首を傾げてみせた。
前世の記憶が蘇ってからこの方、部屋から出たことがなかった。
部屋の中を歩き回ったりしてみたが、部屋の外に出て長く歩いたりしたら死ぬんじゃないかと思われていたのだ。
散歩になんて興味はないが、いい暇つぶしになるかもしれない。
「いく!」
笑顔で頷いた。
こうして僕は、今のぼくになってから初めて部屋の外に出たのだった。
「よいしょ、よいしょ」
「その調子でございます、殿下」
ぼくは自分の二本の足で、しっかりと着実に城の廊下を進んでいた。
ステラはぼくのすぐ隣を一緒に歩いてくれている。
本来なら侍女が仕える相手と並んで歩いたりしないものだけれど、いつ転ぶかわからないぼくをすぐに支えられなきゃいけないからね。
廊下にはワゴンカートを押しても音が出ないようにか、ふかふかの絨毯が敷かれている。これならば転んでも怪我はしないだろう。
ぼくは安心して散歩を楽しんでいた。
大人の足取りと比べれば遅々として進んでいないが、ゆっくりとした足取りでもぼくは体力の回復を実感していた。
調子に乗ってとことこと進み、曲がり角を曲がる。
「殿下、止まってくださいませ!」
曲がったところに人がいて、危うくぶつかりそうになったのをステラに手で制止された。
「ごめんなさい」
ぶつかりそうになった人に謝りながら見上げたら、燃えるような赤い瞳にじろりと睨みつけられた。
まるで瞳の色と感情が連動しているかのように、二つの瞳から怒りが感じられた。
「あ……」
ぶつかりそうになった相手は、十代前半の少年だった。
瞳と同じ赤い髪を上品に撫でつけ、ぼくと同じくらい……いや、ぼくよりも立派な装いをしている。彼の後ろに護衛が控えているし、まず間違いなく偉い人だ。
すらりと細い身体をしていて、顔つきは少年から青年へと変わる途中のあどけなさが残っている。数年もすれば、アイドルのようなイケメンになりそうだと思った。
ただ、アイドルと呼ぶにはちょっと目付きが凶悪すぎるかな。
「はじめまして、ぼくのなまえはリュカです」
なんで怒った顔をしているのかわからないが、ふわふわの金髪の幼児がぺこりと礼をするのを見て、気を許さない人間はいないに違いないと、ぼくは自己紹介をしてみた。
だが少年は顔色を変えずに、片眉を上げた。
「初めましてだと? 実の兄の顔も覚えていないのか?」
やっべ、しくった。
ぼくは心の中で舌を出した。
知ってる人だった、兄弟だったわ。
ぼくの兄ということは、悪の皇帝になった場合にこの手で殺すことになる人だろうか。
ゲーム開始時点で既に死んでたキャラの名前なんて、覚えてないよ。ぼくは危うく口を尖らせそうになった。
「ごめんなさい、おぼえてません。おなまえをおしえてくれますか?」
開き直って白状した。
嘘ついたって仕方ないもんね。
「ほ、本気で覚えていないのか……」
ぼくの兄は、上げた片眉をピクピクとさせた。
「おいアラン、教えてやれ」
兄は彼の後ろに控えている護衛らしき騎士を振り返りもせず、顎でしゃくって僕を示すという実に傲慢な態度で命令した。
な、なんて――――なんて極道の跡継ぎに向いている人なのだろう!
ぼくは感動した。
まだ十二、三歳ぐらいだというのに人を顎でこき使っている。それが慣れた様子で様になっているのだ。
こういう風に振る舞っていたら、前世の自分も舐められずに済んだのかもしれない。
完璧で究極のワルワル王子様だ!
「はわわわわ……!」
目の前の兄に、尊敬の念ゲージがぎゅんと上がった。
あなたにおすすめの小説
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない
波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。
異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。
強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。
彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。
しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。
「俺に触れられるのは、お前だけだ」
呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。
となります。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。