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第九話 フィリップをあげる
昼食をとるための食堂についた。
こぢんまりとした部屋に、二人の人間が向かい合って食事を共にするための長テーブルが用意されていた。壁紙もテーブルクロスも椅子の布張りも柔らかな緑で統一されていて、リラックスできそうな雰囲気が漂っている。壁紙には舞い遊ぶ精霊の姿が、白で描かれている。
本来は食堂ではなく、茶会用の部屋なのではないかと感じた。
二人が椅子に腰かけたのを合図に、給仕たちが前菜を運んできた。夕食の時間が始まった。
「王城はどうだったかな?」
前菜をちまちまと口に運んでいたら、ギュスターヴに尋ねられた。彼の視線が、じっと口元に注がれている気がする。食事作法が見苦しかったのだろうか、と内心で首を傾げる。
「ええっと、なんだかお城が丸ごと殿下に似ているなって思いました」
「私に?」
彼は意外そうに眉を上げる。
「綺麗で煌びやかだけど、迫力があって、カッコイイというか」
思ったことを素直に口に出すのが、気恥ずかしい。
「そうか、ヴァンには私がそのように見えているのか」
ヴァンが感想を口にした途端に、キラキラとしたものが目に入った気がした。精霊が興奮状態になると、時折こんな風になる。煌めいた光に視線を移そうとすると、光はふっと消えてしまった。精霊は意識しようとするほど感じ取りづらくなってしまうのだ。
代わりに、嬉しそうに口角を上げている彼の表情が目に入った。もしかして、今の一言が嬉しかったのだろうか。そんなまさか、褒め言葉の一つや二つくらい言われ慣れているだろう。
ギュスターヴの後ろに控えている、彼の側仕えの表情も心なしか嬉しそうに綻んでいるように見えた。きっと主人が褒められると、我がことのように嬉しいのだろう。
「そうだ、ヴァンに付ける筆頭側仕えがまだ決まっていなかったね」
ヴァンの視線に気が付いたかのように、ギュスターヴが口を開く。
たしかに先ほど側仕えたちから挨拶を受けた時には、筆頭側仕えを名乗る者はいなかった。
「彼は私の筆頭側仕えのフィリップ・プリュムブランシュだ。とても有能な男だ」
フィリップと紹介された側仕えが、紹介されて軽く礼をした。流麗な所作に、高い教育を受けていることが推察できる。
「私の筆頭側仕えをヴァンにあげよう。今日からフィリップは、君の筆頭側仕えだ」
「えっ」
「え……ッ!?」
驚きの声が二ヶ所から同時に上がった。ヴァンとフィリップの二人からだ。
フィリップの驚きようを見るに、たったいま唐突に聞いた話なのだろう。こういうことは普通、先に本人に話を通しておくものなのではないのだろうか。ヴァンは彼に同情した。
「フィリップもそれで構わないだろう?」
「はい……殿下の御心のままに」
ギュスターヴは当たり前のように命じた。
それに笑顔を浮かべて答えるフィリップの周囲を漂う精霊たちが、大騒ぎする声が聞こえてくる。いつも父や母の顔色を窺って生きてきたからだろうか、こうして他人の精霊の声を聞くことがすっかり得意になってしまった。
おそらくフィリップという側仕えは戸惑っているのではないだろうか。いきなり王太子の筆頭側仕えを外されるなんて、自分に落ち度があったのだろうかなんて考えているかもしれない。
「あの」
黙って見ていられなくて、思わず口を開いてしまった。
こぢんまりとした部屋に、二人の人間が向かい合って食事を共にするための長テーブルが用意されていた。壁紙もテーブルクロスも椅子の布張りも柔らかな緑で統一されていて、リラックスできそうな雰囲気が漂っている。壁紙には舞い遊ぶ精霊の姿が、白で描かれている。
本来は食堂ではなく、茶会用の部屋なのではないかと感じた。
二人が椅子に腰かけたのを合図に、給仕たちが前菜を運んできた。夕食の時間が始まった。
「王城はどうだったかな?」
前菜をちまちまと口に運んでいたら、ギュスターヴに尋ねられた。彼の視線が、じっと口元に注がれている気がする。食事作法が見苦しかったのだろうか、と内心で首を傾げる。
「ええっと、なんだかお城が丸ごと殿下に似ているなって思いました」
「私に?」
彼は意外そうに眉を上げる。
「綺麗で煌びやかだけど、迫力があって、カッコイイというか」
思ったことを素直に口に出すのが、気恥ずかしい。
「そうか、ヴァンには私がそのように見えているのか」
ヴァンが感想を口にした途端に、キラキラとしたものが目に入った気がした。精霊が興奮状態になると、時折こんな風になる。煌めいた光に視線を移そうとすると、光はふっと消えてしまった。精霊は意識しようとするほど感じ取りづらくなってしまうのだ。
代わりに、嬉しそうに口角を上げている彼の表情が目に入った。もしかして、今の一言が嬉しかったのだろうか。そんなまさか、褒め言葉の一つや二つくらい言われ慣れているだろう。
ギュスターヴの後ろに控えている、彼の側仕えの表情も心なしか嬉しそうに綻んでいるように見えた。きっと主人が褒められると、我がことのように嬉しいのだろう。
「そうだ、ヴァンに付ける筆頭側仕えがまだ決まっていなかったね」
ヴァンの視線に気が付いたかのように、ギュスターヴが口を開く。
たしかに先ほど側仕えたちから挨拶を受けた時には、筆頭側仕えを名乗る者はいなかった。
「彼は私の筆頭側仕えのフィリップ・プリュムブランシュだ。とても有能な男だ」
フィリップと紹介された側仕えが、紹介されて軽く礼をした。流麗な所作に、高い教育を受けていることが推察できる。
「私の筆頭側仕えをヴァンにあげよう。今日からフィリップは、君の筆頭側仕えだ」
「えっ」
「え……ッ!?」
驚きの声が二ヶ所から同時に上がった。ヴァンとフィリップの二人からだ。
フィリップの驚きようを見るに、たったいま唐突に聞いた話なのだろう。こういうことは普通、先に本人に話を通しておくものなのではないのだろうか。ヴァンは彼に同情した。
「フィリップもそれで構わないだろう?」
「はい……殿下の御心のままに」
ギュスターヴは当たり前のように命じた。
それに笑顔を浮かべて答えるフィリップの周囲を漂う精霊たちが、大騒ぎする声が聞こえてくる。いつも父や母の顔色を窺って生きてきたからだろうか、こうして他人の精霊の声を聞くことがすっかり得意になってしまった。
おそらくフィリップという側仕えは戸惑っているのではないだろうか。いきなり王太子の筆頭側仕えを外されるなんて、自分に落ち度があったのだろうかなんて考えているかもしれない。
「あの」
黙って見ていられなくて、思わず口を開いてしまった。
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