異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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第二十二話 討伐決行の日です

 フロアボス討伐決行の日となった。

「うおぉぉぉ、やるぞーっ!!!」

 冒険者たちは鬨の声を上げて士気を高めている。
 高揚とした空気が充満している。臆した感じは少しもない。

「それでは領主様、頑張って参ります」

 箒を片手にしたメイジの少年が緊張した面持ちで僕の傍らに控えている爺やから魔導具デバイスを受け取る。
 僕が彼に渡した魔導具デバイスの名は「ヴィデ・オブスキュラ」という。
 その魔導具デバイスは一見水晶玉のように見えるが、魔力を注ぎ込むと起動し、起動している間の周囲の様子を水晶玉の中に保存することができる。そして保存した映像を後で見ることができるのだ。
 つまりはビデオカメラだ。
 討伐戦の様子を記録したいので購入したのだ。討伐戦の様子を記録しておければ便利なことが様々にあるだろうと考えて。

 少年は箒に括り付けたネットに水晶玉を入れる。
 水晶玉はスイカのように箒に吊るされた。

 彼には空中を飛んでもらってグレートベヒモスの角の発光を見張ってもらい、発光した瞬間に冒険者たちに合図してもらう役目を担ってもらう。そのついでに上空から討伐の様子を記録してもらおうという訳だ。

「任じられた役目、果たしたいと思います」

 少年の手は震えていた。
 領主に直々に役目を命じられたからか、高価な魔導具デバイスを預けられたからか、それとも死の恐怖ゆえか。

「あまり無理しないように。別にそれが壊れても賠償金を請求したりしない」

 僕は軽く言った。
 魔導具デバイスが破壊されたらされたで次回から別の方策を講じるだけだ。例えば撮影専門の人を雇ってずっと遠くから撮影してもらうとか。

 少年はこくりと頷く。
 少しでも緊張が解けたならいいのだが。

「あと、これはフロアボスの素材を入れておく袋だ」

 僕は天鵞絨ビロードのような材質の袋を彼に差し出す。
 圧縮袋だ。見た目よりずっと多くの物を入れられる袋で、魔導具デバイスの一種である。冒険者なら誰でも持っている。これがないと折角倒した魔物の素材が持ち帰れないからだ。
 高価であればあるほど内容量が増えるので多くの物が入れられる。

 これは圧縮袋の中でも最高級品である。
 フロアボスの素材ほど大きな物だと最高級品の圧縮袋でないと入らない。
 一介の冒険者が持っている者だとは思えないので貸し出す。

 ちなみにこの少年はそんなことをしないとは思うが、託されたフロアボスを討伐した後に素材と圧縮袋を託された者がそれをそのまま盗もうとした事件が過去にあったらしい。
 素材が領主に納品されないと報酬は出ないことになっているので、盗人は討伐に参加した全冒険者によって袋叩きに遭ったらしい。
 それ以来フロアボスの素材を盗もうなんて不届き者は出ていないそうだ。そんな内容をゲーム内のTIPSで読んだ。

 やがて冒険者たちはクライヴを先頭に村から出ていった。
 遂にフロアボスの討伐が始まるのだ。
 後はもう彼らが戻ってくるまで待つしかない。

「無事に彼らが戻ってくるといいな」

 ロベールがぽつりと呟く。
 彼にとってはこの村のダンジョンにフロアボスが湧くのは初めてのことだから、内心気が気でないだろう。
 もしもフロアボスが外まで出てきたらどうしよう、なんて思っていたりするだろうか。
 僕は一番最初のフロアボスなんて楽勝だって知ってるから心配していないけれど、彼はそうではない。

 僕はそっと彼の手を握った。

「冒険者たちが戻ってくるまで城で僕と楽しいことしてる?」

 僕の言葉にピクリと彼の手が動く。

「いや……いやいやいや、いきなり何を言い出すのかねアン。そういうことはきちんと式を挙げてからだと……」
「お城でチェスとかしてたら気が紛れるかなと思ったんだけど」
「ムグ、ムググググ……」

 狙い通り意味を勘違いした彼は顔を真っ赤にさせたのだった。
 ロベールの赤面は健康にいい。やっぱり一日一回はロベールを揶揄わないとね。
 僕らの様子を爺やが微笑ましげに見守っている。

「じゃあ城に戻ろっか」
「むむむむむ……」

 まだ唸っている。どこまで可愛いのだろうか。
 僕らは何となくそのまま手を繋いで城まで戻った。

 城に戻った後、ロベールは日頃の仕返しとばかりにチェスで本気を出してきて僕はギタンギタンに負けたのだった。
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