異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

文字の大きさ
33 / 84

第三十二話 エーミールと取引イベントです

 エーミールはいつもと同じ怜悧な瞳をメガネの奥に湛えている。
 ポーカーフェイスだ、何を考えているのか読めない。
 今にも「貴方がたはそういう人だったんですね」と非難されるんじゃないかという気がする。

「勘違いなさらないでください。私は別に怒っておりません」

 そう言われても何だか安心できない。

「非難するなどという無駄なことに私どもは時間を費やしたりなどいたしません。それよりも建設的な話し合いをしようと思っております」
「建設的な話し合い?」
「ええ。取引をいたしませんか?」

 取引とは何だろう。
 まさか貴方がたが不正をしていたことは黙っててあげるから金を寄こしなさいとでも脅すつもりだろうか。
 くそっ、ゲーム内にないイベントを起こされても困るんだが!

 ……いや、イベントなんて言い方はよそう。
 エーミールも含めてこの世界の人間は生きていて、思いのままに行動し生きている。ただそれだけなんだ。

「今後フロアボスの素材やレアモンスターの素材がドロップした折には優先的にグロスマン商会と取引していただけませんか。今回は当商会は大金貨十枚で素材を落札させていただきました。ですがここから幾ばくかの手数料が差し引かれ、貴方がたに渡るのは全額ではありません」

 確かにそうだ、と頷く。

「そこでどうでしょう。予想できるオークションでの売却額よりもやや低い金額、しかし手数料が引かれた額よりは多い金額で素材を取引いたしませんか、次回から」

 エーミールの持ちかけた取引は確かに建設的なものだった。
 オークションを挟まず直接やり取りすることで互いにウィンウィンになるというものだ。
 彼は本当に爺やをオークションに潜り込ませたことを怒っていないらしい。

「少し待ってくれないか。ロベール、どう思う。メリットとデメリットを洗い出そう」

 僕は隣のロベールを頼る。

「そうだな……デメリットは、予想売却額はあくまでも予想でしかなくオークションに出せばグロスマン商会と取引するよりずっと高く売れる可能性もあるということだろうか」

 ロベールの指摘にエーミールは首肯する。

「確かにそのデメリットは存在します。私どもはあくまでも真摯に査定するつもりではありますが、オークションではどんな要素が価格を高騰させるか測り切れませんので」

 今思えばエーミールがオークションで最後に一気に大金貨十枚まで値を上げたのは、「私どもならばこの程度の値が妥当だと考えます」という宣言だろう。爺やはその誠意を感じ取ったからそれ以上は値を上げるのを止めたのだ。
 爺やとエーミールはあの一瞬で随分と高度な非言語コミュニケーションのやり取りをしていたようだ。

 今回のグレートベヒモスの角と同等かそれ以上の品であれば、グロスマン商会が大金貨十枚を下回る値を付けることはないと信じても良さそうだ。

「メリットはわざわざ今日みたいにオークションに参加しなくて済むこと。爺やを紛れ込ませるような危険な橋を渡らなくて済むこと。それから販売手数料を取られなくて済むこと。あと、グロスマン商会の支店がこれから村にできるんだから取引がすぐに終わること、かな」

 僕はすぐに思いつくメリットをつらつらと上げる。

「あとオークションに出品したら思いの外盛り上がらずに予想よりずっと低い値で終わってしまうことも考えられる。その点グロスマン商会に直接売りつけてしまった方が売却額は安定する」

 ロベールが言い添える。

「さて……いかがでしょう。お互いにとって悪い話ではないと思うのですが」

 僕らの意見が大体出揃ったのを見て、エーミールはカチャリとメガネを直す。

「分かった。呑もう。我がグリーンヴィレッジでドロップした高額素材は今後優先的にグロスマン商会と取引する。グロスマン商会が不要な素材のみオークションに出品する。それでいいな?」
「ありがとうございます」

 エーミールはにこりと完璧な微笑を浮かべた。
 彼の笑顔を目にすることができるのは珍しいことだ。

 何だかエーミールの思い通りに動いてしまったような気がするが、互いが得する提案を提示することができるのが本物の有能な商人だ。
 ……という風にエーミールが考えているということを、エーミールを攻略するとイベント内で語られるので知っている。

 ここでグロスマン商会と、いやエーミールと親交を深めておくことは決して損にはならないだろう。
感想 26

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。校正も自力です!(笑)

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)