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第三十二話 クラレゴ視点
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「それで。貴方が魔の草原でいわゆる悪魔の国を訪れたという?」
「は、はい! その通りでございますネジィル殿下!」
何故こうなったのだろう。
王家の献上する分として、米俵の片方が召し上げられてしまった。
ギルド長は「王からも褒美の金貨がもらえるはずだ」と慰めてくれたが、大事な米が半分取られたショックに私は半日ほどふさぎ込んでいた。
米を高額で売り払い、あれやこれやと購入したり掛けを清算するつもりでいたのに……。
王家からの褒美なんて気持ち程度しか出ないに違いない、と宿で安酒を飲んで不貞腐れていたのだ。
それが数日後。
私はこの国の王位継承権第一位の王子に呼び出され、御前に馳せ参じることになっていた。
一体何故? 一体何故??
私が取られて献上させられた米俵はギルド長が王に献上し、魔の草原についての報告を行ったそうだ。
その際、王子が魔の草原に住む未知の文明について興味を持ったのだとか。
「話を聞かせてくれないか」
ネジィル王子の傍には片脚が義足の執事と、片目に眼帯を付けたメイドが控えていた。義足の先が杖のように鋭く尖っているので、すぐに義足だと分かった。
ネジィル王子の慈悲深さは国の端にまで伝わっている。
その慈悲深さの例の一つが私費を投じて建設されたという手足に障害を持つ者専用の救貧院である。
その他にも有能な者であれば例え障害を負っていても側に取り立てているのだとか。傍に控えている者らを見るに、その話は本当のことらしい。
ネジィル王子はその優しげな目を細める。
王子のふわりとカールした金の前髪が揺れた。
民に好かれてこそ王は王足りえるのだとすれば、王族というのは人に好かれる資質・人に好かれる容姿が代々受け継がれる血統ということになるだろう。
目の前にいる男はその集大成のように思われた。
どこまでも穏やかな眼差し。完璧な微笑。
整った顔立ち。蝶の羽ばたきにも揺れそうな柔らかな金髪。
敵意の一欠片だって見出すことのできない慈愛そのものの佇まい。
温厚そのもの、平穏という言葉の擬人化のようであった。
老若男女問わず誰からも無条件に好かれるであろう。
「ああ、仮としても『悪魔の国』なんて言い方は失礼でしたね。何と呼べば?」
「は、あ、特に名前などはないようで……」
「では貴方が持ってきてくれた食べ物の名前を借りてとりあえずは『オコメの国』と呼びましょう」
柔らかな声音にいつの間にか過度な緊張が和らいでいるのを感じた。
王族に無礼を働いたら最悪処刑されると震えていたのが、この穏やかな人に決して無礼を働きたくない、ぐらいの適度な緊張に緩和されている。
「オコメの美味さにも私は心底驚きましたが……それよりも私は実際にかの国に行った貴方に聞きたいことがあるのです。オコメの国にはどんな人がいましたか?」
「人?」
「ええ、私たちの隣人になる人たちのことです。知りたいと思うのは当然のことでしょう」
この優しげな王子のことだ。
人について知りたいと思うのも自然なことなのかもしれない、と私はさして不自然に思わなかった。
しかし、あの悪魔たちのことを何と説明すべきだろうか。
「あぁ、えーと……ご存知かもしれませんが私はかの国で早々に捕らえられ、すぐに城へ連れて行かれたのです。なので普通の住民の姿を目撃することはできませんでした」
「ではその国の王族に会ったのですか?」
王子のこの問いに、比較的人間と同じ姿をしているように見えた魔王のことならば話してもいいかと私は考えた。
「ええ、その一人に会いました。変わった風貌で……華奢な身体つきに黒髪、幼い顔立ちに、なにより特徴的なのが左右で違う色をした瞳でした」
「左右で違う色を?」
王子はその言葉に驚きを示した。
きっと王子も両目の色が違う人間など見たことがないのだろう。
「確か、右目が青で左目が赤だったかと思います」
私の説明に王子の瞳がきらきらと輝く。
「ああ、私も会ってみたいな、その神秘的な風貌をした姫に……!」
「え、あ、いや、あのですね……」
私の説明の仕方が悪かったのか、王子は魔王を女性だと勘違いしたようだった。
「……っ」
言えない。
完全に恋する男の顔をしている王子に、それは姫ではなく男なんですと言えるはずもなかった。
この優しい王子のガッカリした顔を目にすることになれば、胸が張り裂けてしまうに違いなかった。
言えない――――。
「それであの、その……"姫"に王国の服を持っていくと約束していてですね」
「なんと、それはいい考えだ――――私がオコメの国を持っていきましょう!」
とんでもないことになってしまった。
「は、はい! その通りでございますネジィル殿下!」
何故こうなったのだろう。
王家の献上する分として、米俵の片方が召し上げられてしまった。
ギルド長は「王からも褒美の金貨がもらえるはずだ」と慰めてくれたが、大事な米が半分取られたショックに私は半日ほどふさぎ込んでいた。
米を高額で売り払い、あれやこれやと購入したり掛けを清算するつもりでいたのに……。
王家からの褒美なんて気持ち程度しか出ないに違いない、と宿で安酒を飲んで不貞腐れていたのだ。
それが数日後。
私はこの国の王位継承権第一位の王子に呼び出され、御前に馳せ参じることになっていた。
一体何故? 一体何故??
私が取られて献上させられた米俵はギルド長が王に献上し、魔の草原についての報告を行ったそうだ。
その際、王子が魔の草原に住む未知の文明について興味を持ったのだとか。
「話を聞かせてくれないか」
ネジィル王子の傍には片脚が義足の執事と、片目に眼帯を付けたメイドが控えていた。義足の先が杖のように鋭く尖っているので、すぐに義足だと分かった。
ネジィル王子の慈悲深さは国の端にまで伝わっている。
その慈悲深さの例の一つが私費を投じて建設されたという手足に障害を持つ者専用の救貧院である。
その他にも有能な者であれば例え障害を負っていても側に取り立てているのだとか。傍に控えている者らを見るに、その話は本当のことらしい。
ネジィル王子はその優しげな目を細める。
王子のふわりとカールした金の前髪が揺れた。
民に好かれてこそ王は王足りえるのだとすれば、王族というのは人に好かれる資質・人に好かれる容姿が代々受け継がれる血統ということになるだろう。
目の前にいる男はその集大成のように思われた。
どこまでも穏やかな眼差し。完璧な微笑。
整った顔立ち。蝶の羽ばたきにも揺れそうな柔らかな金髪。
敵意の一欠片だって見出すことのできない慈愛そのものの佇まい。
温厚そのもの、平穏という言葉の擬人化のようであった。
老若男女問わず誰からも無条件に好かれるであろう。
「ああ、仮としても『悪魔の国』なんて言い方は失礼でしたね。何と呼べば?」
「は、あ、特に名前などはないようで……」
「では貴方が持ってきてくれた食べ物の名前を借りてとりあえずは『オコメの国』と呼びましょう」
柔らかな声音にいつの間にか過度な緊張が和らいでいるのを感じた。
王族に無礼を働いたら最悪処刑されると震えていたのが、この穏やかな人に決して無礼を働きたくない、ぐらいの適度な緊張に緩和されている。
「オコメの美味さにも私は心底驚きましたが……それよりも私は実際にかの国に行った貴方に聞きたいことがあるのです。オコメの国にはどんな人がいましたか?」
「人?」
「ええ、私たちの隣人になる人たちのことです。知りたいと思うのは当然のことでしょう」
この優しげな王子のことだ。
人について知りたいと思うのも自然なことなのかもしれない、と私はさして不自然に思わなかった。
しかし、あの悪魔たちのことを何と説明すべきだろうか。
「あぁ、えーと……ご存知かもしれませんが私はかの国で早々に捕らえられ、すぐに城へ連れて行かれたのです。なので普通の住民の姿を目撃することはできませんでした」
「ではその国の王族に会ったのですか?」
王子のこの問いに、比較的人間と同じ姿をしているように見えた魔王のことならば話してもいいかと私は考えた。
「ええ、その一人に会いました。変わった風貌で……華奢な身体つきに黒髪、幼い顔立ちに、なにより特徴的なのが左右で違う色をした瞳でした」
「左右で違う色を?」
王子はその言葉に驚きを示した。
きっと王子も両目の色が違う人間など見たことがないのだろう。
「確か、右目が青で左目が赤だったかと思います」
私の説明に王子の瞳がきらきらと輝く。
「ああ、私も会ってみたいな、その神秘的な風貌をした姫に……!」
「え、あ、いや、あのですね……」
私の説明の仕方が悪かったのか、王子は魔王を女性だと勘違いしたようだった。
「……っ」
言えない。
完全に恋する男の顔をしている王子に、それは姫ではなく男なんですと言えるはずもなかった。
この優しい王子のガッカリした顔を目にすることになれば、胸が張り裂けてしまうに違いなかった。
言えない――――。
「それであの、その……"姫"に王国の服を持っていくと約束していてですね」
「なんと、それはいい考えだ――――私がオコメの国を持っていきましょう!」
とんでもないことになってしまった。
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