推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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魔導協会にて2

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「それでどこが良かったんだい?」

 ほんと似たもの同士と言いますか。師匠まで聞いてきますか。しかも、こんな場で。
 その上、クルス様にものすごい焦ったようにあたしの口を手で塞がれたのはとても納得がいきません。

「いきなり嫁を紹介されるとは思わなかったのでね」

「師匠。やめてください」

「わかったよ。いやぁ、面白い」

 ……。からかわれたのか、なにかご存じなのかはわかりませんね。
 口から手を離された代わりに、もう片方の手で肩を抱かれました。そういうのが面白がらせているんだと思いますよ?
 宥めるように手に触れてみれば、今度は腰のあたりに手を回されるという。いや、そうじゃないんです。

 ものすごいにやにや笑われたんですけどっ!

「その、いつも、こうじゃないですよ」

 一応、言い訳したくなりますよね。もう本当にどうすればいいのかわかりません。
 ここの支部も師匠も今後も付き合いがある前提なのですから、そういうのはそっと隠せばいいと思いますよ。

「ふぅん? まあ、そうだろうね。そういうヤツじゃない」

 お師匠様がとても面白がっているのが声でわかりました。ああ、だから、抱き込もうとまでしないでくださいっ!
 いたたまれませんよっ! それから変な体勢なので腰に負荷がっ!

 じたばたしていたら笑いを堪えるような咳払いが聞こえてきました。ええ、大変お見苦しいところをっ!

「だめですっ!」

 改めて座り直しました。クルス様が叱られましたと言いたげにしょげているのが、かわい……いえ、なんでもありません。なにかこう、犬の耳を幻視しました。

「ディレイのことは頼んだよ。心残りといえば、心残りだったからねぇ」

「師匠」

 大変冷え切った声でした。聞いたことないほど冷たかったですね。そんな風に言われたらあたしだったら泣きますね。まあ、ステラ師匠はどこ吹く風といった感じです。
 認められたと認識していいのでしょうかね?

「その、大切にします」

 そう言えば虚を突かれたようにぱちぱちと瞬きをされて。くつくつと笑われました。その隣でタイニー氏も肩を揺らしておりまして。
 おかしいですね。とても真面目に言ったつもりです。クルス様も驚いたような気配を感じます。

 師匠は親代わりみたいなものだと聞いたので、ある意味ご挨拶的に言ったのですけど。
 さすがに、お任せくださいも、幸せにしますも言えませんからね。

「しばらく逗留しようかと思ったけどね。王都のほうも整えてあげようかね」

 ステラ師匠、楽しそうですね。
 ちなみに絵描きさんは遠くを見ていました。

「お茶お持ちしましたよ」

 げんなりとした声と蹴破るような勢いで開いた扉にびびりました。

「おや? どうされたんです?」

 受付さんが、お茶セットをお持ちです。汗がきらりと光ってます。おつかれさまです。

「なんでもないよ。さて、わたしは戻ろうかね。楽しくなりそうだ」

「余計なことを吹聴しないでください」

「おやおや。わたしゃ、それほど意地悪ではないよ」

 ですが、愉快犯的なにかは感じるんですよね。
 クルス様は諦めたようにため息をついていました。ステラ師匠は軽快な足取りで傘を片手に立ち去っていきました。
 ……あの五階分を登ったり降りたりするほど健脚なんですか。体力的に敗北している気がします。

「さて、結果はと」

 我関せずと言いたげなタイニー氏は、出力済みの用紙をいそいそと取りに行っています。

「おおっ、白紙」

 ……なんでしょうね。この疲労感は。

「規格が違うんでしょうね」

「たぶん。楽しみだ」

 タイニー氏にうきうきと新たなる血液の提供を求められました。簡易じゃないほうに通してみるそうです。そして、今からすると明け方くらいまでかかるので明日また来るように言われました。
 もう一つの指に絆創膏と再びの涙目が発生しました。痛い。注射針のような痛くないものを求めます。

 その後、お茶とお菓子をつまみながら、似顔絵を描かれております。
 今はフードと眼鏡を外し、髪さえも下ろされてます。似顔絵のベースとしての模写と言われましたね。あとはこれを元に色々バージョンをつくっていくそうです。
 指名手配にでもなったような気がしてきます。

 お茶を要求したタイニー氏は、少し前にじゃあ、調べてくるからと楽しげな足取りで去って行きました。飲みもしませんでしたね。彼ら。
 受付さんは特になにも思っていないのか、気にしていないようですけどね。

 受付さんもやれやれと下に戻ろうとして、絵描きさんに呼び止められました。
 無理、いて、などと言われたのはきっとクルス様がいるからでしょうね……。なにしたんでしょうか。

「ああ、いつぞやの赤毛に染められた事件の加害者のほうですか」

 ストレートに聞いても答えてくれなさそうなので、話を少しずつ聞いてみれば、ぽろっとこぼしました。
 その髪の色綺麗ですね、から、虹色(プリズム)という派閥にいることもこの支部の所属は短く以前はもっと南にいたことも聞けました。
 受付さんが驚異とでも言いたげな表情でした。これでも接客業で10年近く働いていたので、表面上の話題を流して情報収集するくらいはできます。疲れるのであまりしませんけど。

「じ、事故なの。悪気はなかったわよ」

 絵描きさんはものすっごいびびってます。動揺のあまり絵の具セットをひっくり返しそうになりました。
 でも、絵筆はいくつも動いてます。そう。いくつも、です。下書きが終わって色を塗るのは筆の仕事、らしいです。彼女本人は絵の具の色をあわせてますね。
 平行思考でもしてるんでしょうか。

 彼女は色を合わせたいと合わせた色を塗った紙を持って近寄ってきます。地味色つまんないとぼやかれました。まあ、黒しかありませんからね。ワンピースはモスグリーンですし。襟元にレースで、少し膨らんだ袖が素敵です。まあ、赤毛の彼女に影響されている部分はありますけど。

「なんか、普通になっちゃったなと思ってたけど、最良の位置にはあるのね」

 じっと見ているなと思えば、妙なことを言い出されました。

「どういうことですか?」

「んー、前に見かけた時はどこの国ともわからない感じがいいなと思ったのよね。異質でもないけど、少なくともこのあたりの誰とも似てない。
 今はもうちょっと親しみがあるものに似てるわ」

 あとは誤差の範囲内と1人で納得して元の場所に戻っていきました。絵描きさんが絵筆に新たな指示を与えているのが聞こえました。
 りぃんりぃんと澄んだ音が鳴っていますが、きっと彼女には色に見えているのですよね。なにか不思議な気がします。

 さて、クルス様はと言えば、フードを被って沈黙しています。耳がいい、というのは比喩ではないと言うことらしいです。魔動具の起動音とか聞こえるらしいですね。
 絵描きさんの魔動具が立てる音が不快ということで、遮音をしています。系統が違いすぎるので全く違う呪式なのだそうです。そのせいで、期待するような音と違う音になるので気になると。
 常時というわけではないようですが、わりとフードを被りがちなのはこういう事情があったようですね。

 今は不快そうに引き結ばれた口元だけが見えますけど。

 こんな時なのですが。
 格好いいなぁと。目があうこともないのでこの機会にゆっくり観賞しておきましょうかね。

「なんか、ごちそうさまって感じ」

 絵描きさんにぼやかれました。
 ちなみに受付さんはこの機会にと部屋の片付けを始めていました。ああっ、こんな所に期限切れの書類がっとか言ってます。
 お疲れ様です。

 それからしばらくして、描き上がったものはやけに幸せそうな顔をしていました。なんでしょうね、この恥ずかしい感じ。

 その後、階段を降りました。一緒に降りてきた絵描きさんが、荷物重い死ぬとか言ってましたけど、一度で持ってこなくてもいいのではないのでしょうか。何度も上り下りするのは最悪なのはわかりますけど。
 かわいそうな気がして、クルス様にお手伝いをしてくれないか頼んでみました。残念ながらあたしが手伝うと落下事故を起こしそうなので。
 ここぞとばかりに上目遣いでお願いです。

 クルス様は不服という表情のまま寄越せとか言ってましたね。
 絵描きさんがびっくりしたような表情で。

「猛獣使い」

 などと言ってました。
 そんなに危険ではないと思うんですけどね。

 階下に降りきって絵描きさんはクルス様をちょいちょいと引き寄せてなにかごにょごにょしています。もやもやします。ああ、近寄りすぎですよっとか思っちゃうので、嫉妬的な何かなんでしょう。

 その隙にあたしは椅子に座らされて接待されてました。接待です。周りを好奇心旺盛な方の魔導師に囲まれております。
 お菓子食べる? ジュース飲む? これ、興味ある?
 みたいな、そうですね。珍しい生き物を可愛がりたいけどどうすればいいのかわからないって感じがしました。

 悪意は無いけど、ぞわぞわします。クルス様、早く来ないでしょうか。
 困ってクルス様を見れば、なにか口元を押さえて肯いてましたけど、いったいなにが。あれ、なにか照れたりしたときによくする動作なんですよね。
 もにょもにょが追加されました。
 あー、かわいくないやきもちーっ!

 手元に差し出されたジュースは甘い匂いがしました。少々、度が過ぎるくらいに甘そうです。
 毒々しい緑な謎の物体。

「飲むな」

 クルス様が近寄ってくるとささっと散っていきましたね。蜘蛛の子を散らすとはこのことかってくらいに。逃げ遅れた人は睨まれちゃってましたね。
 いや、そこまでするようなことでは。

「やりすぎです」

「もののように見られるのは、気に入らない。それから、何か食べたか?」」

「いいえ」

 そこまでチャレンジャーじゃありません。
 あからさまにほっとされました。見た目はかわいいピンクのクッキーと素朴そうな焼き菓子なんですが。
 ジュースがあからさまに怪しいですけど。

「これは無害」

「おっそろしく甘くて味覚が死にそうになるだけ」

 絵描きさんがいらないならちょうだいとジュースは引き取られていきました。
 歯が痛くなりそうですね。

「味見する?」

「いいです」

 クルス様は飲み物を売っているカウンターに先ほどのクッキーなどを持っていっています。カウンターの向こう側のお兄さんが嫌そうな顔をしていますが、なんでしょうね。
 ぼんやりと見ていたらちょいちょいと肩を叩かれました。

「これはお近づきの印」

 絵描きさんがこっそり絵を一枚くれました。見て思わず、抱きつきにいきましたねっ!
 ジュース零れるっ! なんて悲鳴聞こえましたけど気にしません。

「ありがとうございますっ!」

 推しの絵とかなんですか、そのご褒美。ささっと描いた感じなんですが、優しいまなざしの感じがもうっ!
 今度ちゃんとしたのあげるとか神ですかっ!

 クルス様に即引きはがされましたけど。
 そして、絵描きさんには大変色っぽいウィンクをいただきました。

「困ったらきてね。モデルとしてやとってあげる」

 なんというか、触った感覚なんですけど。
 男性、ですね?

 クルス様はそこまで焦った感じはしてませんでしたので気がついてないんでしょう。秘密と言いたげに人差し指を唇にあててました。

 黙っておきましょう。
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