男友達と同じだというから

あかね

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男友達と同じだというから

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 彩花は、怒っていた。
 その原因は目の前の光景だった。
 友人と夜ご飯と近所のファミレスに入り恋人(同棲中)を見かけて、声をかけようとしたその時、隣りにいた女が抱きついた。
 それから、戯れのような頬へのキス。

 無言で写真を撮った。

「あ、あれって!?」

 友人のほうが、動揺をあらわにいていた。しかし、彩花の静けさに、ちょっと落ち着いた。

「公認?」

「女友達。男友達と同じという」

「えーっ! 雄二さんって、男友達ともあんなに抱き合うんですかーっ!」

 浮気だというよりも何とも言い難い言葉がフロアに響いた。

「だってあんな、え、それならあのムキムキな桜井くんとも!? やだ、どっちが受けです?」

 それは嫌悪というよりウッキウキだった。彩花は思い出す。
 あ、こいつ知り合いでもあやしくなぁい? と言ってぐへへへと食べる腐女子だった。
 2次元で、2次元だけの本を出せよと口を酸っぱくして言っていたので事件は起きていないが、妄想はするタイプだった。

 言われた雄二のほうが呆気に取られていたが、はっと気がついて他人のふりをしようとした。賢明な判断である。
 彩花は逃す気はないが。

「こんなところで、浮気?」

 彩花は2人の対面の席に座った。ちょっと気持ち悪い笑顔の友人、理沙も座っている。

「両方イケる口なんですね。うふふ」

 そう言っている理沙はいつもは理知的美人の着ぐるみを被っている。中身はなんかゲスい。

「な、何の話ですか」

 着ぐるみレベルで偽っている理沙の本性を目にして雄二は動揺していた。
 雄二の女友達の希実もドン引きしていた。
 もちろん、彩花もである。

 いま、修羅場が理沙に荒らされようとしている。

「え、だって、男友達と同じなのですよね、その人」

「ああ、昔からの付き合いで……」

「ということは、先程の行為は、お友だちで共通!
 つまり、男友達ともしているってことで!」

 え、そうなの? とぎょっとしたように希実が雄二を見る。
 そんな訳はない。と彩花は思ったが、ちょっぴり自信がなかった。世の中には距離感の近い友人というのもいる。
 同性で手を繋ぐくらいはある、かもしれない。女子同士は。
 ふざけて、抱きついて、ほっぺにちゅーくらいも、あるかもしれない。学生までのノリならあったかもしれない。彩花と理沙は女子校で出会い、女子大をでたのでそういうノリはあった。

 も、もしや、男同士も? 疑惑の目を彩花は向けた。

 三人のどうなのよ? という視線を向けられて雄二は叫んだ。

「ちげーわっ!」

「え、じゃあ、さっきのは女友達限定ですか……」

 冷ややかに告げたあとにつまんなーいと付け加えるところが理沙の理沙たるところだなと彩花は思った。

「こ、これはじゃれあい。兄妹みたいなアレだ」

「うちの兄にそんなんしようとは思いません。あのムカつく暴君無き者にしてやろうかといつもふふふ」

 理沙が暗黒面を出してきている。そっと彩花はその手を握った。まあ、落ち着け、という意思表示である。
 なお、亡き者ではなく、消滅させてぇわの無きものである。よほどの確執がある。

「それは特殊なんじゃないかしら。
 幼馴染みたいなもので、兄妹のじゃれ合いだったの。気にしないでね」

「そうだぞ。こんな程度で、あれこれ言うなんておかしい」

 呆れた物言いだ。これを認めると以後同様の案件も見逃せと言い張られる。
 本当なら、どういうことよ? と胸ぐらをつかむまでがセットだが、ここはファミレス。
 穏やかな言葉責めが必要だ。

「あ、実は、私、男で」

 いきなり理沙が言い出した。嘘である。生物学的にも性的ななんかでも女性である。

「女装趣味です。美人でしょ」

 理沙は、は? と言いたげな雄二に自信たっぷりに言い切った。
 彩花はなにいってんのあんたと突っ込みそびれた。なんか考えがあるのだろうが、斜め上を突き抜けている。

「女友達と同じって付き合いしてます。学生時代からずーっとお友達です。まあ、幼馴染も兼任って感じで。
 ねー」

 そう言って、理沙は彩花に抱きついた。
 つまり、男友達と同じという女友達の逆をしてみた、ということだろうか。
 女友達と同じ男友達。そこはかとなく淫靡。

「な、い、いままで嘘ついてたのか。男と遊びに行くなんて聞いてない。それは立派な浮気だ」

「となりますよね。
 あ、私は女なので。運転免許証どうぞ」

 運転免許証には写真も性別も表示されているので、これ以上ない証明である。

「まあ、部外者なのでこれからは野次馬するんですけど、ダブスタはいけませんよ」

 言いたいことを言って、かき回してから理沙はメニューを確認し始めた。パフェご飯だめかなと言い出している。マッスルパワーでと肉ばかり頼んでいるのに珍しくはある。

 彩花はため息をついた。

「同棲解消しましょう。
 婚約も解消で」

 問い詰めるのもバカバカしくなって彩花はそう宣言した。

「しねぇよ。こんな程度で」

「あ、録音するんで、発言には気をつけてくださいね」

 理沙はスマホをどーんとテーブルの真中に置いた。

「本当にただのお友達なの。ちょっと距離が近かったことは昔のノリだったわ。ごめんなさいね」

 希実は表面上はしおらしかった。

「親しいお友達には抱きつくし、キスくらいはするって考えなんですよね。
 遠藤さんもお友達だったから、ちょっと電話しますね」

 彩花は理沙を見習って、そういうのがお友達なのね、方式を採用した。共通の知人がゼロではないので、問い合わせ先はある。

「それは迷惑だわ。今後はしないし」

「いえいえ、そういう感じでみんなお友達ならまあ多少は考えますよ。婚約状態でも慰謝料請求ってできる場合ありますし」

 別にスキンシップ激しめなんだと一度は黙ってやってもいい。それでもし油断したのならば、きっちりと証拠集めをするつもりだ。
 泳がせてがっつりと。

 あやかのスマホから呼び出し音が鳴りだし、二人は彩花が本気で連絡すると気がついたらしく焦っていた。

「他人巻き込む……」

「あ、どうも」

 雄二が言い終わる前に電話の相手が出る。
 お久しぶりですから始まり、友人の距離感で揉めていまして、と先ほどの状況を説明する。
 これ、お友達で大丈夫ですか? 希美ともしています? と。

 あるかないか、で言えばある。
 ただし、もう5年も前。当時、彼女はいなかった。自分の感覚的には友人以上、恋人未満での好意であろう。

 理路整然と返ってきた。

「浮気と思います?」

「もし、俺が女だとして、浮気じゃなくてもそんな女友達いるやつと結婚したくない」

 浮気認定はせずに、結婚しないを勧めてきた。うまい言い回しだ。あくまで、自己判断でというところだろう。
 彩花は礼をいい、電話を切った。

「他のやつともしてるとは」

「あら、特別な人だけにすると思ってたの?
 ほら、私、スキンシップ過剰なだけだから浮気じゃないの。
 慰謝料なんて請求されるほどしてないのよ。他の人でも同じなんだから」

 希実は他の男友達ともそうですよ、に切り替えたようだった。損切りが早い。

「は? なんだそれ、ただの友達ともね」

「はいストップ。
 ここ、ファミレス。お子様いる。よく考えて」

 彩花は止めた。
 深夜ならともかく、遅くともお食事時である。

「……。
 こいつとは付き合いを辞めるから、別れるのはなしだ」

「二度と会わないわ。約束する」

 彩花は少し考えるふりをした。
 結論は出ている。

「結婚する相手なんてもういないだろう? な?」

「いなくてもいいから、別れるね。
 精神的疲労に見合わない。リターンが少なすぎ」

「愛情があればいいだろう」

 これには誰もが黙った。
 希実ですら呆れたという表情で見ている。

「人のものが良いという私もクズだけど、あなた、誰かに尽くされるくらい好かれると思ってるの?」

「は? 好きだろ?」

「もう好きじゃない」

「遊ぶなら良いけど結婚相手? 冗談じゃないわ」

「あ、私、部外者なんで。でも、まあ、悪趣味とは思っていたけど。どMか、振り回されるに酔ってんのかなとか」

「そこは恋は盲目とか言ってよ……。
 というわけで、資産価値ゼロどころかマイナスなので別れます」

 呆然とする雄二をほっといて3人の女は席をたった。
 幸い、二人は注文する前だった。お店としては迷惑だろうが。

「じゃ、二度と会うこともないで……なに」

「慰謝料、待っててね? 共通の知人がいるんだから、払わなかったら、わかるわよね?」

 さらっと消えようとしていた希実を捕まえ彩花はそう告げた。

「ええ? 無罪じゃない? 誰にでもしてるんだから」

「じゃあ、慰謝料代わりに同人で書いちゃうよ! ゆりゆりに!」

「や、やめてよ」

「男化して、BLでクズな……あ、やだ、楽しそう」

「やめてぇっ! 払うわよぉっ!」

 恐れおののきながら、希実は確約して去っていった。もちろん連絡先は手に入れている。

「……そういえば、あの人」

 そうぽつりと呟いた。

「用語知ってたってことは、同類!?」

 理沙はSNSの海を探そうと恐ろしいことを言う。彩花は少しばかり希実に同情した。擬態型腐女子が秘密を握られようとしている。

 まあ、人の男を狙うのだから当然の天罰だろう、ということにしておこう。

「早く、荷物まとめてうちにおいでよ。
 兄呼ぶし。荷物運びとあれこれは任せて。暑苦しい筋肉も役に立つ」

「……そうね」

 仲悪いのに、使い倒してやろうという妹的思考が透けた。
 理沙を見ていると婚約破棄も軽い気がした。

「あ、雄二さんの慰謝料遅延したら、BL本一冊ってどうよ?」

「そういうの知らないと思うけど」

「漫画に描かれるくらいならと同意しそうじゃない? そうだ、そうしよう」

「あの、ひどい目にあわされたのは私なんだけど」

「じゃあ、合同誌する?」

「…………する」

 そして、一部カルトな人気を誇る「男友達と同じだから」という本が発布されることになったのである。
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