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冒険者登録して♡

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 街に入り道を聞きながら進む。

 冒険者ギルドってのは有名らしい。
 場所も分かりやすいらしく、城門から入った大通りを真っ直ぐに進むだけでいいとの事だ。

 大勢の住民たちが気持ちいい喧騒を奏でている中、様々な店を見渡しながら歩く。
 なに、転生者は街にいないようだし、今日くらいはおのぼりさんを楽しませてくれ。

 誰に言った言い訳か、つい胸中で溢した。

 時折立ち止まり、めぼしい店を頭のブックマークに保存しておく。

 武器や防具をショーケースに並べた店。

 現代日本に近しいデザインの服飾店。

 新鮮さが売りの青果店。八百屋とも言うか。

 魔法関連の商品売っているらしい魔導書店なんてのもある。

 言葉は通じるし、文字も読める。
 だからこそ集められた情報だ。
 ただやはりと言うべきか、文字は書けそうにない。
 これは覚えなければならないな。

 そうして時間を浪費しながらも、やっと辿り着いた冒険者ギルド。
 パッと見では三回建か。

 恐らく盾だろう絵の中に、西洋剣が描かれている。
 特徴的なマークは旗に描かれ、建物の頂上や正面入り口の上に、ポールへ突き立てられて風に泳ぐ。

 まあ、異世界もので流行った御決まりのマークとも言うか。情緒もへったくれも無い。

 早速ギルドの木製扉を開ける。
 押し引き可能な扉は出入りする者がチラホラおり、誰もが屈強にして精強に見える。

 入ればこれまた木製の室内。
 入って正面に受付。

 左右は椅子と机がセットで置かれている。
 飲み食いしている者も多いところから、酒場も併設しているようだ。
 左端にはカウンターテーブルと調理場が見え、ウェイトレスらしき女性やコックらしき男性の姿が見える。

 右端には階段がある。
 これは今はいいだろう。
 上階が気になるが、先ず向かうべきは正面だ。

 サッと確認して、正面の受付に歩を進める。
 店に入り此方を見る者はそれなりに居たようだが、有りがちな展開にはならなさそうだ。

 受付は幾つか空いており、真面目そうな人を選ぶ。
 あまり斜撰な説明は困るからだ。

 実際どういう対応をされるのか、こればかりは実際に話してみないと分からないことだが。

 そして辿り着いた受付嬢は、金髪のパッツンおかっぱ頭。
 ボブカットと言った方が受けが良いかもしれないな。

「ようこそ冒険者ギルドへ。本日の御用件を御伺い致します」

 一礼した後、切れ長の蒼眼が此方を向く。
 淡々とした声色。
 クールは女性なのかもしれない。

「身分証が欲しい。登録すりゃ貰えるってきいたんだが」
「承知致しました。冒険者登録をして頂き、ギルドカードを発行致します。そのギルドカードが身分証としてもご利用頂けますが、ギルドカードを御所望ということでよろしいですか?」
「ああ」
「登録には300ゴル掛かりますが」
「金はある」
 
 それでは、と言って渡された紙。
 どうやら色々書く必要があるらしい。

「すまねぇが文字を書けねぇ」
「100ゴルで代筆も承っております」

 すんません。
 俺、異世界人なんですよね……

 無言で400ゴルを渡す。
 多分、銅貨一枚で100ゴルだろ。

「ありがとうございます。それでは登録料と代筆料合わせて400ゴル頂戴致します」

 受付嬢が金を預かり、紙とペンを手に持つ。
 
「それではお名前からお願いします」
「……」

 今更だが名前、変えといた方がいいよな。
 名前だけでバレるのは避けたいし。

 そうなると志貴しき黒右之助くろうのすけだから……。
 シキ、クロウノスケ。シキクロウノスケ……クロウノスケ……クロウ……。
 これでいいか。

「あの、お名前をお願いします」
「じゃあシキで」

 いやよく考えたら苗字で良かったわ。
 東洋人の顔は変えられんし、東洋系の血を引いてます的な設定でいこう。

 あ、記憶喪失設定だった……。

 そういう訳なんで、後のやり取りはお察しってとこだ。

「年齢は」
「17歳」

「クラスは」
「2-A」

「拠点、もしくは住所は」
「忘れた」

「出身地は」
「忘れた」

「では……冒険者として討伐や採取のクエストがございますが、どのようなクエストをご希望で?」
「分からねえ」

 なるほど、と呟いた受付嬢。次は気になった部分……まあ名前以外のことを聞いてきた。

 どうやらクラスってのは自分の戦闘スタイルだったり冒険者としてのスタンスだったりと、要は一言でそいつを表せるもの。
 得意な事でもいいらしい。

 例えば剣士、狩人、魔法使いってな具合だ。
 だが武器なんざ使ったことがない。
 つまり何を書いたらいいか分からない。

 ふざけて2-Aと言ったが速攻で訂正を求められた。
 そりゃそうだ。

 ちなみに俺は記憶喪失だと言っておいた。
 すると中々に興味深い話を聞くことが出来た。

「記憶喪失、ですか。……何処まで覚えておいでですか?」
「名前は分かる。だが一般常識は微妙。気付いたら街の外の平原に居た。それがさっきの事だ」
「それでしたらクラスに異能者と書かれては如何でしょう」

 どうやら俺みたいなのが時折現れる。そいつらは魔法が使えず、武器も扱えない。
 しかし不思議な固有の能力を持ってる事が殆どとのことだ。

 じゃあ異能者で!
 ってなる訳ないだろ。
 そりゃ明らかに転生者ですしね。

 クラスは適当に『拳闘士』とでもしといた。

 出身地は不明。
 これに関しては後でいいから、仮の住所でもいいから決まったら報告するようにとのこと。

 冒険者としてどう活動して行くかは知らん。
 取り敢えず金だ。以上。

「それではこの内容でギルドカードを発行致しますが宜しいですか?」
「ああ、頼む」
「ではお掛けになってお待ち下さい」

 受付嬢は窓口に『空いている窓口へおまわり下さい』と立札を立て、奥へ姿を消した。

 俺は近くの空いている席へ座る。
 そこへ一人の男が近づいて来た。

 俺より10センチ程低い身長……170センチほどか。
 皮革ひかくの防具を身に纏い、左右の腰には大振りのダガーナイフが一本ずつ。
 無精髭、青い短髪、茶の瞳。
 言うならレンジャーとか盗賊。
 パーティでは斥候とかしてそうな見た目だ。

「──よう兄ちゃん。新人だろ」

 俺の隣に腰を下ろしながら言う男。
 軽いノリだ。

 俺は何とも言えない心情を顔に出さず、その男を見なければならないようだ。


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