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第3章 仲間
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しおりを挟む「アレク。もしかしてあなたは復讐を…?」
近づけば近づくほど、その機会は増す。
父親の恨みを晴らすなら、こんなチャンスはないだろう。が、アレクは首を横に振ると。
「…そんなバカな真似はしない。復讐など愚かだ。果たした所で何も生まれない。ただの自己満足だ。それに、その後はどうなる? クーデターを起こした所で上手く行かねば、捕らえられ処刑されるのが落ちだろう」
アレクの指が首筋を滑る。するりと幾分寛げた胸元へ入り込み、後は好きな様にそこへ触れ始めた。
「…っ! ア、レク…!」
「どうした? 嫌か?」
「…そうじゃない。ただ、皆に知られていて…」
頬が熱くなる。
「ああ。それはわざとそうしているからな? ここへつけた跡もな…」
ふわりと視界が金糸でふさがれ、首筋に濡れた柔らかい感触が触れる。
「っ…!」
「私のものであれば誰もお前を傷つけない。まあ、表立ってはな? ただ、ザイン…。奴には気をつけろ。奴は相手が誰であろうと関係ない奴だ。例え私でもな…」
「んで…? 俺なんか…」
身体がソファに押し倒される。
持っていたカップはすでにアレクの手によって取り上げられ、テーブルに移動させられていた。
「確かに君は絶世の美女でも、誰もが振り返る美男子でもない。だが、そんな事になんの意味がある? 私が好きになったのだから。それで理由は十分だろう?」
でも、あなたが好きなのはこの、能力だ。俺自身じゃない。俺にもしこの力が無かったらきっと見向きもしなかったはず──。
「俺の前にも、いたんだろ? あなたが探してきた能力を持つ人間が…。俺は…その代わり、だろ? 能力があるから、こんな俺のこと……」
アレクはため息をつくと。
「誰に聞いたのか知らないが…。今まで全て、そういった連中を連れて来たのはユラナスだ。私が見つけ出したのは、ソル。君だけだ」
「俺、だけ…?」
「君の前にいた能力者も、ユラナスが君の代わりに見つけてきたに過ぎない。優秀だったが、君と同じ戦闘中の相手の感情の流入に耐えきれず潰れた」
「潰れて…」
アレクはソルの顎を取ると。
「ソル。周囲のくだらない噂話に耳を傾けるな。私の行動、私の言葉だけを信じろ。そして、私の思いを見くびるな」
「アレク…」
「君と過ごした時間は私にとってかけがえのないものだ。あの時間は君でしか与えられない。誰と過ごしても埋まらない。力など二の次だ。その優れた頭脳もな。私の傍にいてくれさえすればいい…」
あ…?
「って、力は二の次って…? だって──」
「どこぞの暴君ではないんだ。突然気に入ったからといって、連れ帰る訳にもいかない。君が能力者と知って、どれ程喜んだか。これで、大手を振って君をあそこから連れ出せる、自分の元へ置ける、とな」
「嘘、だ…。あなた程の人が、たったそれだけの事で…」
「たったそれだけか…。だが、どんなに優れた容姿、能力をもってしても、与えられないものはある。それらが大事だと言う者あるだろう。だが、私は違う。君は私の容姿に惹かれたかもしれないが…」
アレクはニヤリと笑む。
「そ、それは…! そんなこと──」
「否定するな。君を釣れたならこの容姿も捨てたものではない。私は復讐したいのではない。ただ、穏やかに過ごしたいだけだ。その為に、ここへ潜り込んだ」
「穏やかに、過ごすため…?」
「そうだ。その為には帝国を滅ぼさねば、いつまで経っても大手を振って生きていくことはできない。皇帝は最近また私の行方を探り出した。どうしても死の確証が欲しいらしい。何を恐れているのか…」
「大丈夫、なのか?」
アレクは顎を取っていた手を頬に滑らせ、優しく触れると落ち着かせるように。
「大丈夫だ…。私には辿り着けない」
「…本当に?」
「ああ。本当だ」
ソルの腰を抱くと自分の元へ引き寄せた。
「もう叔父に追われる人生は終わりにしたいのだよ。その為には帝国を滅ぼすしかない。内側へ入り込んで中から滅ぼす…。そこへ君が現れた。それで…余計にその思いは強くなった」
「そんな…」
「自分にそんな価値はないとでも?」
悪戯ぽく笑むと、はだけられた胸元にキスが落ちる。
「ぁ、っ…!」
「かわいい反応だ…」
笑んだまま口づけが続く。
息が上がる。一人呼吸が荒くなって、乱れる自分が恥ずかしい。
「帝国を中から崩壊させる。少しづつ蝕んで、気が付けば玉座は砕けその座から滑り落ちる…。奴とその国が消えればもう私も追われることはない。穏やかに君と過ごせる…」
「…っ!」
アレクの手が寛げられたつなぎから、更に下腹部へと這わされ、身体が震えた。
既にアレクの行為を身体が覚え始めていて。そんな自分が恥ずかしくて仕方ない。
「でも…っ! 俺より、きっとユラナスが…、っ!…ん!」
下着に這いこんだ長い指先が熱を煽る。
「ユラナスがどうした? どうして奴を気にする?」
「だって、きっと、ユラナスは…あなたを好いてる…っ!」
「知っている…」
ぐっと煽る手に力が入り、思わず腰が浮きあがった。
だめだ。このままじゃ──。
身体が震えだし、限界を告げていた。
「気にするな。今更だ。…そのまま吐き出せ」
でも、そんなことしたら、汚す──。
涙目になってアレクを睨みつけると、その口元が笑みをかたどった。
あっと思う間もなく、一気に煽られアレクの手の中へ全て吐き出す。
「ふ、っ…」
アレクは愛おし気にもう一方の手でソルの前髪をかき上げキスを落とすと。
「ソル…。あまり周りを気にしすぎるな。お前のことは私が見ている。それに、私以外の誰にも気を移すなよ? そうなったら、相手を消し去り、お前の手足を縛り二度と表には出さない。死ぬまで閉じ込めるからそのつもりでいろ」
「…アレク。そんな、事には、ならない…」
だるくなった、それでもまだ熱の燻る身体から腕を伸ばし、アレクの頬に触れる。
一見すると冷たく見える白く透き通った頬は、触れるととても温かい。
瞳には先ほどからずっと熱が揺れている。それはまるで幼い子供が大切なおもちゃを捨てられまいと必死になる様に似ていて。
ここまで一身に思いを受けて、暑苦しいくらいだが、それは不快ではなく。むしろ愛されていると言う実感に包まれる。
「俺も、アレクだけだ…」
首に腕を回し抱きつく。
胸が密着するとその心音が直に伝わってきた。
心地いい──。
アレクはそのまま、昨日よりもっと優しく丁寧にソルを扱って、その思いの丈を伝えてきた。
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