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第3章 仲間
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しおりを挟む「さっき墜落した機体のパイロットは?」
ケイパーは帰還してすぐ、そこを歩く衛生兵を呼び止めた。
「無事です。治療を受けて、今は捕虜収容所にいます」
「わかった!」
片手を上げて礼を言うと、すぐにそこへと向かった。
補給所の施設の一角にあるそれは、ただの飾りで使われたことがほとんどない施設だった。それまで帝国に襲われるということがなかったからだ。
結局、連合軍の巡洋艦は帝国の攻撃により戦闘不能状態となり、これ以上抵抗出来ないと判断した連合は降伏を選んだのだった。
直にここにも帝国兵が来る。
それまでに彼に会っておきたかった。帝国軍が来れば、また彼らの元へ戻ってしまうかもしれない。
自動ドアの前にいた衛兵に自分の階級を示し、上の命令で面会に来たと嘘をつく。
ケイパーは軍曹となっていた。ただの候補生だったのに比べれば出世で。それほど、人の出入りが激しいともいえる。
自動ドアの向こうは更に鉄格子があり、区分けされていた。
その一つに、見知った人影を探す。
赤茶けた髪色、癖の入った髪は所々くるりとハネていた。酷く疲れている様子で、冷たい壁に頬を寄せるようにして寄りかかって目を閉じている。
右腕と頬に包帯や傷の保護のパッドが当てられていた。尋問も受けたのだろうか。
ソル。
彼の外、そこには入れられていなかった。
というより、彼以外に捕虜となったものはいなかったのだ。
すべてこのソルがこちらの攻撃を迎撃し、捕縛されないよう手を尽くした所為だ。
ケイパーの足音に薄っすらと目を開ける。
「ソル…。ソルだろ?」
「ケイパー…?」
鳶色の瞳がこちらに向けられた。
「やっぱり! ソルだ! 間違いなかったな。俺の勘も捨てたもんじゃない」
「ケイパー…。ここに、いたんだな…。──もしかして、俺の機体を撃ったのは?」
「俺だ。よく分かったな? 少し仕損じたけど墜落はしなかったろ? ちょっと無理させちまったが、お前ならやれると思った。…久しぶりだな?」
再会に喜ぶケイパーだが、ソルの表情は硬い。
「ケイパーは…もしかして、戦闘中に敵を感じることが出来るのか?」
「…実を言うとな? でも、気付いたのはここ最近だ。帝国が変な攻撃をする連中を使っているだろ? だからふざけて真似してやれって思ったのが最初で…。そうしたら、なんとなく、分かる様になってた。ソルがここに来ているのも分かった。初めの戦闘で俺の尾翼を撃っただろ? あの時気付いたんだ」
「ケイパー…。それは、上の連中も知っているのか?」
「どうだろうな? まだ、ちょっとすばしっこい奴くらいにしか思っていないかもしれないけどな?」
ソルの視線が険しいものになる。それは今までに見たことのない表情だった。
「俺は…これからどうなる?」
ソルの問いにケイパーはため息をつきながら。
「ここにはもうじき帝国軍が来る。うちは降伏したんだ。ここにいればいずれ帝国軍が迎えにくるだろうな…。お前はどうするんだ? 前に別れた時は、帝国の奴を庇ってたけど…。まだそいつと一緒にいるのか?」
「そうだ。これからも、一緒にいたいと思っている…」
その言葉にケイパーは眉を顰めると。
「そしたら、俺たちはずっと敵同士になる。エッドも心配してた。整備士のハンスもだ。帝国で苦労しているんじゃないのかって。どうなんだよ? これを機にこっちに戻ってきてもいいんだぞ?」
「…ダメだ。いかない」
「帝国の奴らに、俺たちの仲間を随分やられた。さっきもそうだ。変な動きをする奴らにな」
「……」
ソルは黙って俯く。そこではっとなって気がついた。
「お前、さっき俺の事が分かったって…言ってたよな? …あの機体に乗ってた…。お前も…あの連中と同じってことか?」
その表情から聞かなくても答えは分かった。
「平気で、俺たちを殺してきたのか?」
「……っ」
唇を噛み締め、押し黙るソルになおも畳みかける。
「お前、俺のこと助けたろ?」
すると絞り出す様な声で。
「…ケイパーを──撃てるわけがない…」
「なら! 戻ってこい! お前はこっちに帰って来るべきだ。その力だって都合よく利用されているだけだろ? こっちに戻って来れば、お前は無理に戦わなくてもやって行ける。…このまま行けば、いつかまた何処かで会う。俺はお前と戦いたくない。お前だってそうだろ? このまま俺と来いよ。みんな待ってる!」
「違う…。利用されてはいない。俺をちゃんと必要としてくれている…。俺は…自分の意思で、覚悟を持って戦っている。守りたいものを守っているだけだ…」
「嘘だ。お前は平気で人を殺れる奴じゃない。そんな所にいたらお前、疲れちまう。なあ、戻って来いよ。こっちにはお前の居場所がちゃんとあるし、お前らしくいられるんだって!」
ソルはこちらを見つめてくる。
切羽詰まったような困惑したような。複雑な表情だ。けれど──。
「俺は…戻らない」
同じセリフを繰り返した。
「ソル…!」
ケイパーが格子に手をかけた所で、部屋のドアが軽い電子音とともに唐突に開いた。
「帝国の者だ。手を壁につけ」
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