10 / 13
第10話 いつまでも
しおりを挟む
その後、コウと湊介を交え、まるでドラマの様な経緯を聞いた。
あの日、すばるは荒れ狂う海に流され、確かに自分の死を覚悟したのだと言う。
けれど、気がつけば船の上に助け出されていて。一人の初老の漁師によって引き上げられたのだ。
しかし、その漁船も難破しかかっていた。
ほうほうの体で何とか、気を失ったすばるを連れ、船は出港した港へと戻り。
そこで警察に届けるべきを、助けた男はしなかったのだ。
男はつい最近、海で息子を亡くしたばかり。すばるが記憶を無くしていたのをいいことに、自身の孫として生活し出したのだ。
それから数ヶ月。すばるは記憶を徐々に取り戻し。半年後には全て思い出していた。
男にそれを告げようか迷っていると、男が突然の病に侵されていると知って。
自分を助けた老人の思いを知り、結局、男に告げることが出来ず、今まで来てしまったのだという。
「ここに来られたのは…死に際に、じいちゃんが全て話してくれて。俺が気付いたのも知ってて。けど、言えなかったって…。謝ってくれて」
「俺達に、連絡は…?」
清の問いにすばるは唇を噛みしめ。
「しようと思った…。けど、警察沙汰になれば、じいちゃんがどうなるか…」
「ひとりには出来なかったって事か」
すばるは頷いた。
「家族や清がどんな思いでいるのか、知らせるべきだってずっと思ってた…。けど…。じいちゃんが亡くなって、ようやく連絡出来たんだ。でも、清にも家にも、誰にも繋がらなくて。唯一、繋がったのがコウさんで…。今頃、のこのこ現れて…俺、このまま会わない方がって。でも…っ」
「すばる」
清はその肩へ手を置く。
そこへは、すっかり海の男よろしく、細い割に筋肉が付いていた。
俺の知らない所で、ずっと時間を紡いでいたすばる。この肩は、それを物語っていた。
「生きててくれて良かった」
「清…」
「俺は、それだけだよ。それだけで、充分なんだ」
すばるの目から、大粒の涙が落ちる。
それをそっと指先で払うと。
「ここで今すぐ、キスしたいけど、ダメかな?」
「えぇ?!」
「気を利かせてやりたいが、今はやめろ。清」
コウはそう言うと、
「さて。ご両親にも連絡だな?」
ニッコリ笑んで見せた。
それから。
すばるは俺と一緒に暮らしだした。あの、丘の上にある家で。
この坂を登りきれば、笑顔のすばるがいるのだ。消える事などない、本物の笑顔で出迎えてくれる。
俺は思い切り深く息を吸い込んで深呼吸してから、ドアを開ける。
「清! おかえり」
「ただいま。すばる」
空には、昇ったばかりの三日月の傍らに、寄り添うように金星が瞬いていた。
―了―
あの日、すばるは荒れ狂う海に流され、確かに自分の死を覚悟したのだと言う。
けれど、気がつけば船の上に助け出されていて。一人の初老の漁師によって引き上げられたのだ。
しかし、その漁船も難破しかかっていた。
ほうほうの体で何とか、気を失ったすばるを連れ、船は出港した港へと戻り。
そこで警察に届けるべきを、助けた男はしなかったのだ。
男はつい最近、海で息子を亡くしたばかり。すばるが記憶を無くしていたのをいいことに、自身の孫として生活し出したのだ。
それから数ヶ月。すばるは記憶を徐々に取り戻し。半年後には全て思い出していた。
男にそれを告げようか迷っていると、男が突然の病に侵されていると知って。
自分を助けた老人の思いを知り、結局、男に告げることが出来ず、今まで来てしまったのだという。
「ここに来られたのは…死に際に、じいちゃんが全て話してくれて。俺が気付いたのも知ってて。けど、言えなかったって…。謝ってくれて」
「俺達に、連絡は…?」
清の問いにすばるは唇を噛みしめ。
「しようと思った…。けど、警察沙汰になれば、じいちゃんがどうなるか…」
「ひとりには出来なかったって事か」
すばるは頷いた。
「家族や清がどんな思いでいるのか、知らせるべきだってずっと思ってた…。けど…。じいちゃんが亡くなって、ようやく連絡出来たんだ。でも、清にも家にも、誰にも繋がらなくて。唯一、繋がったのがコウさんで…。今頃、のこのこ現れて…俺、このまま会わない方がって。でも…っ」
「すばる」
清はその肩へ手を置く。
そこへは、すっかり海の男よろしく、細い割に筋肉が付いていた。
俺の知らない所で、ずっと時間を紡いでいたすばる。この肩は、それを物語っていた。
「生きててくれて良かった」
「清…」
「俺は、それだけだよ。それだけで、充分なんだ」
すばるの目から、大粒の涙が落ちる。
それをそっと指先で払うと。
「ここで今すぐ、キスしたいけど、ダメかな?」
「えぇ?!」
「気を利かせてやりたいが、今はやめろ。清」
コウはそう言うと、
「さて。ご両親にも連絡だな?」
ニッコリ笑んで見せた。
それから。
すばるは俺と一緒に暮らしだした。あの、丘の上にある家で。
この坂を登りきれば、笑顔のすばるがいるのだ。消える事などない、本物の笑顔で出迎えてくれる。
俺は思い切り深く息を吸い込んで深呼吸してから、ドアを開ける。
「清! おかえり」
「ただいま。すばる」
空には、昇ったばかりの三日月の傍らに、寄り添うように金星が瞬いていた。
―了―
0
あなたにおすすめの小説
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい
マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。
しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。
社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。
新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で……
あの夏の日々が蘇る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる