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26.その後
大希と会ったのは事件後、二週間程経ってから。
やはり何度か連絡しても無視され──無視されると余計に追いたくなるのは人間の性だろうか──最終的に、勤め先の雅さんに捕まえて置いてくれるよう頼んだ。雅さんは快く引き受けてくれ、仕事に来た大希を足止めしてくれた。
俺もいい加減、しつこいと思う。相手が推しアイドルだったら、ストーカー認定される所だろう。大希で良かった。
そして今。再び雅の部屋で大希と向かい合う。気を利かした雅が、また場所を提供してくれたのだ。
ちなみに、今回はドアの外には藤ではなく岳が待機していた。
有言実行。次会うときは必ず付いていくと言っていたのをしっかり実行に移したのだ。
忙しい岳に代わって、真琴や藤がついて行くと言ったのに、絶対、自分が付いていくと言って聞かなかった。
その時の岳は、まるで駄々っ子のようで、かなり困ったちゃんだったのだが、必死な様にちょっと萌えた。
「なんで、会いたいなんて…。話すことなんて、あんのかよ?」
大希の態度はつっけんどんで愛想の欠片もない。俺は怯まず大希を見つめると。
「友達でいたいからだ。友達なら、連絡したっていいだろ?」
「…無理だよ。会っても気まずいだけだって…」
あの日。
会うと言いながら、来たのは古山の部下だった。
大希との間でどんなやり取りがあったのかは分からない。でも無理強いをされたのは事実で。あの時の乱れた着衣に、赤く腫れた頬にそれが読み取れた。
何があったのか、聞かずとも予測はつく。あえて聞き出すつもりはなかった。
しかし、自分が同じ目にあったならと思うと、ゾッとする。
岳だから許される行為なのに、それを見も知らぬ相手にやられると言うのは。
あんな事やそんな事を──……。
ありえねぇ。絶対、ありえねぇ…。
勝手に鳥肌立てつつ。
「大希は…、もう古山の部下とは会ってないのか?」
「会ってない。向こうももう会う気はないよ。って言うか、会う理由もないし。お互い利用してただけだから、あれで終わりだ…」
暗い目をしてそう口にした。俺はテーブルの上に腕をついて身を乗り出すと。
「俺に嘘をついたり、騙したり、それは、別に怒ってない。…けど、大希が無理して傷つくのは見たくない」
「…んだよ。それ」
俺は大希の目を逸らせまいと、例えるならメデューサさながらにじっと見つめる。
「もう、自分を傷付ける様な真似はするな。大希は絶対、明かるい所が似合うし、ああいう連中と関わるのは似合わない」
そうなのだ。山を歩いたり、一緒に買い物をしたり。そうしていた時の大希は本当に楽しそうで。何より素の表情を見せていた。
「無理だよ…。俺は堕ちきっているし…。これからだって日の当たらない場所を歩くことになる。雅さんの所では働くけど…。ああいった連中とのつながりは──きっと切れない…」
「そんなことない。お前の意思さえあれば、大丈夫だ。俺だって手伝う。な? 俺とまた友だち始めよう? 山、楽しかったろ? もっと沢山行こうぜ! 大希の良いところも悪い所も知ってるんだ。俺といる時は自分に嘘つかなくっても、もういいんだ。──だろ?」
「……っ」
大希の瞳が揺らぐ。俺は大希の肩にガシッと手を置くと、更にその目を覗き込み。
「大希は、日の当たる場所があってる。俺が保証するって!」
「大和…」
今にも泣き出しそうな顔に、俺は笑うと。
「そんな、情けない顔すんなって。自信持て。自信がないなら、俺がずっと自信持つまで言い続けてやる。大希はこっち側の人間だって。太陽の下の方が絶対、合ってる! って」
鼻息も荒くそういえば、降参したように大希は目を伏せ。
「…分かったよ。っとうに、お人よしだ…。大和は…」
「そんなことねぇって。──そうだ。岳に手を出したのは怒ってるからな? もう二度とキスマークなんてつけさせねぇ!」
これだけは釘を刺さねばと思っていたのだ。腕組みして睨みつける様にすれば、大希は苦笑し首を振る。
「…ないよ。俺には岳さんも無理だ」
「も?」
ほかにも思う人間がいたのだろうか? 俺は訝しむが。
「…いいよ。それは。なんでもない。もう、行けよ。外で待ってるんだろ? 俺も仕事始まるし」
「わかった! じゃあな? また連絡する」
「…うん」
俯く大希に、俺はその額をツンと指先で突付いた。そのまま指先で押さえると。
「そうやって俯くな。俯きそうになったら、俺の怒った顔を思いだせ。…俺は何があっても大希の味方だから」
「…わかった」
「よし! あと、ふくさんが待ってた。いつ帰って来るのかって」
「え?」
「大希は急に家族の具合が悪くなって実家に帰ってるって話にしてある。大希はひとりでいるのは良くない。もっと沢山の人と出会って、いろんな人と話すといい。楽しいし、一人じゃないって、みんないるって思えるからさ。あそこ、面白かったろ? いろんな国のいろんな人たちがいてさ」
「うん…」
「ふくさんには言っとく。そのうち帰れそうだって。じゃあな?」
今度こそ俺は大希から離れると急いで玄関ドアに向かうが。
「大和…。俺──」
「なに?」
大希が椅子に座ったまま小さな声で呼んだ。玄関先でスニーカーを履きながら振り返る。
大希は考えるようにこちらに背を向けじっとしていたが。
「なんでもない…。山小屋、始まったら遊びに行く…」
「マジ? 絶対泊りで来いよ? それまで仕事、頑張れ。じゃあな!」
「うん…」
それで玄関を出た。
出るとすぐに岳が待っていて。
「話は済んだか? 大和」
壁に寄りかかって待っていた岳が見下ろして来る。
「おう。…その、さ」
続く言葉を言い淀んでいれば。
「…友達、続けるんだろ?」
「岳、話し聞いてたのか?!」
どうして分かったのか。驚いてその胸元に飛びつけば。
「…聞いて無くたって、お前の顔見てれば分かるだろ…。本当に顔に書いてあるんだよ。大和の場合。っとうに。思う様にはならないな…。けど、それが大和だ。好きにしろ。──危なくない範囲でな?」
「おう!」
そういうと抱きつきながら、その胸もとに頭をぐりぐりこすりつける。
俺は岳が大好きだ。
+++
なんでこんな自分に、大和は関わろうとするのか。何度も騙した。嘘もついたと言うのに。
最後のだけは、無理やりだったけれど。
古山の部下から呼び出しを受け、嫌々ながら出向くと、大和を呼び出せと言われた。
もう、イヤだと断れば、顔を殴られ、自分の置かれた立場を考えろ、そう言われ。
無理やり抱かれそうになったのも拒否すれば、また殴られた。
正直嫌だったが力で敵う相手ではない。仕事の事もある。あのあたりの縄張は、古山のものになると言われていた。
そうなれば、雅にも迷惑が及ぶかもしれないし、仕事も失いたくはない。
もう、俺なんて腐ってるんだ。どうなったって構わない。
男の行為はただただ乱暴で愛情の欠片もなかった。自分さえ良ければいいのだ。
自分の思うように、まるで大希には意思などない様に道具として扱う。
岳が言った、愛される、と言う事が自分の身の上に起こるとは到底思えない。
その行為の最中、大和から連絡があった。
ここの所、会いたいとずっと言われ続け。直ぐに男の知るところとなり。丁度いいとばかり、古山の部下は大和を呼び出させたのだった。
なのに、あんな目に合わせた自分と友達でいたいとは。どうしてそう思うのだろう。
大希には分からない。
日のあたる場所、か。
大和は太陽みたいだ。関わったものを温かく照らしだす。
大希は髪をかき上げると、椅子の背もたれに身体を預け。
「あーあ…。好きかもなんて、死んでも言えないや…」
俺はまだ、日陰から一歩踏み出そうとしているに過ぎない。いつか、明るい陽射しの下を堂々と歩ける様になったら──。
「…好きだったって、言えるかな?」
生まれた小さな胸の痛みに苦笑を漏らした。
やはり何度か連絡しても無視され──無視されると余計に追いたくなるのは人間の性だろうか──最終的に、勤め先の雅さんに捕まえて置いてくれるよう頼んだ。雅さんは快く引き受けてくれ、仕事に来た大希を足止めしてくれた。
俺もいい加減、しつこいと思う。相手が推しアイドルだったら、ストーカー認定される所だろう。大希で良かった。
そして今。再び雅の部屋で大希と向かい合う。気を利かした雅が、また場所を提供してくれたのだ。
ちなみに、今回はドアの外には藤ではなく岳が待機していた。
有言実行。次会うときは必ず付いていくと言っていたのをしっかり実行に移したのだ。
忙しい岳に代わって、真琴や藤がついて行くと言ったのに、絶対、自分が付いていくと言って聞かなかった。
その時の岳は、まるで駄々っ子のようで、かなり困ったちゃんだったのだが、必死な様にちょっと萌えた。
「なんで、会いたいなんて…。話すことなんて、あんのかよ?」
大希の態度はつっけんどんで愛想の欠片もない。俺は怯まず大希を見つめると。
「友達でいたいからだ。友達なら、連絡したっていいだろ?」
「…無理だよ。会っても気まずいだけだって…」
あの日。
会うと言いながら、来たのは古山の部下だった。
大希との間でどんなやり取りがあったのかは分からない。でも無理強いをされたのは事実で。あの時の乱れた着衣に、赤く腫れた頬にそれが読み取れた。
何があったのか、聞かずとも予測はつく。あえて聞き出すつもりはなかった。
しかし、自分が同じ目にあったならと思うと、ゾッとする。
岳だから許される行為なのに、それを見も知らぬ相手にやられると言うのは。
あんな事やそんな事を──……。
ありえねぇ。絶対、ありえねぇ…。
勝手に鳥肌立てつつ。
「大希は…、もう古山の部下とは会ってないのか?」
「会ってない。向こうももう会う気はないよ。って言うか、会う理由もないし。お互い利用してただけだから、あれで終わりだ…」
暗い目をしてそう口にした。俺はテーブルの上に腕をついて身を乗り出すと。
「俺に嘘をついたり、騙したり、それは、別に怒ってない。…けど、大希が無理して傷つくのは見たくない」
「…んだよ。それ」
俺は大希の目を逸らせまいと、例えるならメデューサさながらにじっと見つめる。
「もう、自分を傷付ける様な真似はするな。大希は絶対、明かるい所が似合うし、ああいう連中と関わるのは似合わない」
そうなのだ。山を歩いたり、一緒に買い物をしたり。そうしていた時の大希は本当に楽しそうで。何より素の表情を見せていた。
「無理だよ…。俺は堕ちきっているし…。これからだって日の当たらない場所を歩くことになる。雅さんの所では働くけど…。ああいった連中とのつながりは──きっと切れない…」
「そんなことない。お前の意思さえあれば、大丈夫だ。俺だって手伝う。な? 俺とまた友だち始めよう? 山、楽しかったろ? もっと沢山行こうぜ! 大希の良いところも悪い所も知ってるんだ。俺といる時は自分に嘘つかなくっても、もういいんだ。──だろ?」
「……っ」
大希の瞳が揺らぐ。俺は大希の肩にガシッと手を置くと、更にその目を覗き込み。
「大希は、日の当たる場所があってる。俺が保証するって!」
「大和…」
今にも泣き出しそうな顔に、俺は笑うと。
「そんな、情けない顔すんなって。自信持て。自信がないなら、俺がずっと自信持つまで言い続けてやる。大希はこっち側の人間だって。太陽の下の方が絶対、合ってる! って」
鼻息も荒くそういえば、降参したように大希は目を伏せ。
「…分かったよ。っとうに、お人よしだ…。大和は…」
「そんなことねぇって。──そうだ。岳に手を出したのは怒ってるからな? もう二度とキスマークなんてつけさせねぇ!」
これだけは釘を刺さねばと思っていたのだ。腕組みして睨みつける様にすれば、大希は苦笑し首を振る。
「…ないよ。俺には岳さんも無理だ」
「も?」
ほかにも思う人間がいたのだろうか? 俺は訝しむが。
「…いいよ。それは。なんでもない。もう、行けよ。外で待ってるんだろ? 俺も仕事始まるし」
「わかった! じゃあな? また連絡する」
「…うん」
俯く大希に、俺はその額をツンと指先で突付いた。そのまま指先で押さえると。
「そうやって俯くな。俯きそうになったら、俺の怒った顔を思いだせ。…俺は何があっても大希の味方だから」
「…わかった」
「よし! あと、ふくさんが待ってた。いつ帰って来るのかって」
「え?」
「大希は急に家族の具合が悪くなって実家に帰ってるって話にしてある。大希はひとりでいるのは良くない。もっと沢山の人と出会って、いろんな人と話すといい。楽しいし、一人じゃないって、みんないるって思えるからさ。あそこ、面白かったろ? いろんな国のいろんな人たちがいてさ」
「うん…」
「ふくさんには言っとく。そのうち帰れそうだって。じゃあな?」
今度こそ俺は大希から離れると急いで玄関ドアに向かうが。
「大和…。俺──」
「なに?」
大希が椅子に座ったまま小さな声で呼んだ。玄関先でスニーカーを履きながら振り返る。
大希は考えるようにこちらに背を向けじっとしていたが。
「なんでもない…。山小屋、始まったら遊びに行く…」
「マジ? 絶対泊りで来いよ? それまで仕事、頑張れ。じゃあな!」
「うん…」
それで玄関を出た。
出るとすぐに岳が待っていて。
「話は済んだか? 大和」
壁に寄りかかって待っていた岳が見下ろして来る。
「おう。…その、さ」
続く言葉を言い淀んでいれば。
「…友達、続けるんだろ?」
「岳、話し聞いてたのか?!」
どうして分かったのか。驚いてその胸元に飛びつけば。
「…聞いて無くたって、お前の顔見てれば分かるだろ…。本当に顔に書いてあるんだよ。大和の場合。っとうに。思う様にはならないな…。けど、それが大和だ。好きにしろ。──危なくない範囲でな?」
「おう!」
そういうと抱きつきながら、その胸もとに頭をぐりぐりこすりつける。
俺は岳が大好きだ。
+++
なんでこんな自分に、大和は関わろうとするのか。何度も騙した。嘘もついたと言うのに。
最後のだけは、無理やりだったけれど。
古山の部下から呼び出しを受け、嫌々ながら出向くと、大和を呼び出せと言われた。
もう、イヤだと断れば、顔を殴られ、自分の置かれた立場を考えろ、そう言われ。
無理やり抱かれそうになったのも拒否すれば、また殴られた。
正直嫌だったが力で敵う相手ではない。仕事の事もある。あのあたりの縄張は、古山のものになると言われていた。
そうなれば、雅にも迷惑が及ぶかもしれないし、仕事も失いたくはない。
もう、俺なんて腐ってるんだ。どうなったって構わない。
男の行為はただただ乱暴で愛情の欠片もなかった。自分さえ良ければいいのだ。
自分の思うように、まるで大希には意思などない様に道具として扱う。
岳が言った、愛される、と言う事が自分の身の上に起こるとは到底思えない。
その行為の最中、大和から連絡があった。
ここの所、会いたいとずっと言われ続け。直ぐに男の知るところとなり。丁度いいとばかり、古山の部下は大和を呼び出させたのだった。
なのに、あんな目に合わせた自分と友達でいたいとは。どうしてそう思うのだろう。
大希には分からない。
日のあたる場所、か。
大和は太陽みたいだ。関わったものを温かく照らしだす。
大希は髪をかき上げると、椅子の背もたれに身体を預け。
「あーあ…。好きかもなんて、死んでも言えないや…」
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※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中