怪談の備忘録

Tempp

文字の大きさ
9 / 9
3章 僕と紅林邸の怪談 ~雨谷かざりの繰り返される日々~

ブードゥー教とゾンビ映画

しおりを挟む
 読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
 本編3章に関連する『ブードゥー教』について、備忘もかねて色々かいてきます。

1.ブードゥ教のゾンビ映画
 ブードゥー教って何で一番有名かっていうとやっぱりゾンビ映画ですよね。
 ゾンビ映画の走りはロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」。これは今から見るとちょっと牧歌的なところもありますが、白黒の画面のなかでこれまでにない「死」への恐怖を描いたまさに金字塔だと思います。
 なお、自分は足が速いも遅いのも等しく好きですが、一番好きなのはルチオ・フルチのゾンビです。フルチの映画は内容は微妙なんですが、ゾンビの質感等にこだわりがみられて生々しくてとても好きです。
 スパイダーマンでヒットしたサム・ライミももともとゾンビ映画をたくさん撮ってました。「死霊のはらわた」は恐怖のなかでも笑いがおこる名作です。サム・ライミと聞くとはらわたイメージなんだけど、やっぱり今はスパイダーマンなんですかね。彼はゾンビ映画を撮るために大学を中退した筋金入りです。

 けれども今回話したいのは最初のゾンビ映画。「恐怖城」又は「ホワイトゾンビ」と呼ばれる白黒トーキーの作品です。でも、「恐怖城」ってタイトル、なんか違和感ないですか? どっちかっていうとゾンビじゃなくてドラキュラっぽい。

 「恐怖城」の製作は1932年です。
 主演は「ベラ・ルゴシ」っていう目力のすんごいイケメン俳優さんなのですが、前年に「ドラキュラ」のドラキュラ役で当たった人でした。その辺がこんがらがってるんじゃないかと思います。なお、ルゴシは亡くなった時もドラキュラの衣装で埋葬されたという筋金入りです。私生活にまつわるアレコレもなんか哀愁あふれて面白いんですよね、ルゴシ。その辺は映画関連のエッセイの『エド・ウッド』のところに書いてるのでそのうち持ってこようかな。

 さて「恐怖城」はタイトルどころか内容もあまりゾンビ感はありません。
 簡単にあらすじをいうと、ハイチに新婚旅行に来たカップルが現地の地主に横恋慕される。地主はゾンビマスター(ルゴシ)からもらったゾンビパウダーを嫁さんにかけてゾンビにするんだけどちっともなびかなくて(なぜゾンビにしたらなびくと思ったのか小一時間……)、マスターに文句言いにいったらゾンビにされちゃて、その後も色々あって結末は伏せるけどラストまでいってもなんだそりゃっていう話。
 ゾンビ感……ないよね?
 しかも、文化の差かもしれないけれど、面白いかというとこれも微妙。
 全体的に芝居がかった感じは嫌いじゃないんですが。

 さて、そもそもの誤解があるかもしれません。
 この映画のゾンビは「死体」じゃない。「生きてる人間」。で、作中のゾンビは基本的にハイチの砂糖工場で真面目に働いていて、人を襲ったりしません。

 ここ以下はニワカなので誤りがある可能性があります。
 ブードゥー教はもともと西アフリカあたりにあった民間宗教で、自然とか祖先を大事にしています。ブードゥー教自体には厳しい戒律があったりするわけではなくて、現在では基本的にキリスト教に準拠した教えとされています。 これは、西アフリカから奴隷として連れてこられた際に弾圧を免れるために混ぜ合わされたためと言われています。

2.ブードゥ教におけるゾンビ

 ではいよいよその具体的な内容です。
 真なる神様がどこかにいるけど、神様は基本的に人間に関与しないし、人間も神様に会えたりはしない。神様と人間の橋渡しをするのがたくさんのロアと呼ばれる存在。なんとなくイメージは大精霊っぽい。
 それで、ロアにも色々いて、愛のロアとか海のロアとか森のロアとか様々です。この辺は日本の神話とかギリシャ神話っぽいかも。

 ロアも系統があって和魂っぽいラダっていうグループと荒魂っぽいペトロっていうグループ、あと死神のゲーテがいます。本編で治一郎の師匠がブードゥー教と神道の共通性を覚えています。

 さて、そろそろ問題のゾンビ。
 『ロアの神官』という役割の人がいて、歌って踊ってロアをおろして神託や裁判をします。このへん沖縄のユタと似てる気がします。それで、裁判の結果ゾンビの刑となった場合、ロアの神官が持ってるゾンビパウダーを使って刑を執行します。
 字面的にはちょっと胡散臭い。

 そもそもブードゥー教自体が映画で「ゾンビ」っていうイメージがついちゃったから変な感じはするけど、もともとは穏やかな民間信仰です。信者も結構多い。
 それでゾンビパウダーの前にゾンビ化について考えてみます。
 ここでいうゾンビはゾンビ映画の「死体がよみがえる」的ものじゃなくて、恐怖城の「犯罪者を砂糖工場で働かせる」的なほう。「恐怖城」でゾンビパウダーをかけてゾンビにするっていう方です。

 これは人を催眠状態にする等で単純作業させるって代物。そのためには、魔法薬でなくとも精神系の薬とか使えば実現可能なものでしょう。向精神薬とか。
 ハイチの刑法では「ゾンビの儀式を行ってはいけない」っていうのがあるらしいんですが、やっぱり実際に何らかの効果がある薬品を使って実際に効果が生じるからこそ法律になったんじゃないのかなと思います。そうじゃないと『何をしたら』捕まえていいのかが不明確ですよね。

 ゾンビパウダーの内容についてはウェイド・デイビスっていう人類学者が調査しています。
 デイビスはゾンビ化の原因はフグ毒だと強プッシュしていましたが、様々な事実からはちょっと懐疑的です。今はデイビスが組成を調べたゾンビパウダーの中に含まれていたダチュラ成分が有力なんではないかという説が有力じゃないかなと思います。
 さて、このダチュラは現在の日本でも普通に売られているのです。

3.ダチュラと薬効と次回予告

 ダチュラとは朝鮮朝顔のこと。朝鮮といっても原産は朝鮮半島じゃなくて南アジアの方のようで「外来」っていう意味で朝鮮のようです。ダチュラという名前で園芸店とかに売られています。

 ダチュラを摂取した場合、色々作用はあるけれど意識障害とかせん妄が起こることがあるようです。なかなか恐ろしいバッドトリップを引き起こすそうなのでくれぐれも誤飲にはご注意ください。日本でもダチュラの誤飲や食中毒でたまに人が亡くなっています。

 ダチュラは江戸時代に華岡青洲という人が『通仙散』という名前で麻酔薬として使っていました。全身麻酔としては世界初だそうで、今も日本麻酔学会のロゴマークで使われています。
 華岡青洲は主に乳がんの手術にこれを使っていたのですが、当時の成功率(完全緩解かはさておき)はかなりのものだったようです。ちなみにこれ、明治時代くらいまで使われていたので、作中の治一郎の師匠の頭にもあったかもしれません。

 さて本来雨谷かざりの話は外伝だったのですが、アルファポリスに転載する時に本編に組み込みました。なので次は本来本編では3章だった人を襲う怪異のお話です。
 引き続きお読み頂ければ幸いです。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

島猫たちのエピソード2025

BIRD
エッセイ・ノンフィクション
「Cat nursery Larimar 」は、ひとりでは生きられない仔猫を預かり、保護者&お世話ボランティア達が協力して育てて里親の元へ送り出す「仔猫の保育所」です。 石垣島は野良猫がとても多い島。 2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。 「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。 でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。 もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。 本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。 スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...