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3章 僕と紅林邸の怪談 ~雨谷かざりの繰り返される日々~
ブードゥー教とゾンビ映画
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読んで頂きまして、誠にありがとうございます。
本編3章に関連する『ブードゥー教』について、備忘もかねて色々かいてきます。
1.ブードゥ教のゾンビ映画
ブードゥー教って何で一番有名かっていうとやっぱりゾンビ映画ですよね。
ゾンビ映画の走りはロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」。これは今から見るとちょっと牧歌的なところもありますが、白黒の画面のなかでこれまでにない「死」への恐怖を描いたまさに金字塔だと思います。
なお、自分は足が速いも遅いのも等しく好きですが、一番好きなのはルチオ・フルチのゾンビです。フルチの映画は内容は微妙なんですが、ゾンビの質感等にこだわりがみられて生々しくてとても好きです。
スパイダーマンでヒットしたサム・ライミももともとゾンビ映画をたくさん撮ってました。「死霊のはらわた」は恐怖のなかでも笑いがおこる名作です。サム・ライミと聞くとはらわたイメージなんだけど、やっぱり今はスパイダーマンなんですかね。彼はゾンビ映画を撮るために大学を中退した筋金入りです。
けれども今回話したいのは最初のゾンビ映画。「恐怖城」又は「ホワイトゾンビ」と呼ばれる白黒トーキーの作品です。でも、「恐怖城」ってタイトル、なんか違和感ないですか? どっちかっていうとゾンビじゃなくてドラキュラっぽい。
「恐怖城」の製作は1932年です。
主演は「ベラ・ルゴシ」っていう目力のすんごいイケメン俳優さんなのですが、前年に「ドラキュラ」のドラキュラ役で当たった人でした。その辺がこんがらがってるんじゃないかと思います。なお、ルゴシは亡くなった時もドラキュラの衣装で埋葬されたという筋金入りです。私生活にまつわるアレコレもなんか哀愁あふれて面白いんですよね、ルゴシ。その辺は映画関連のエッセイの『エド・ウッド』のところに書いてるのでそのうち持ってこようかな。
さて「恐怖城」はタイトルどころか内容もあまりゾンビ感はありません。
簡単にあらすじをいうと、ハイチに新婚旅行に来たカップルが現地の地主に横恋慕される。地主はゾンビマスター(ルゴシ)からもらったゾンビパウダーを嫁さんにかけてゾンビにするんだけどちっともなびかなくて(なぜゾンビにしたらなびくと思ったのか小一時間……)、マスターに文句言いにいったらゾンビにされちゃて、その後も色々あって結末は伏せるけどラストまでいってもなんだそりゃっていう話。
ゾンビ感……ないよね?
しかも、文化の差かもしれないけれど、面白いかというとこれも微妙。
全体的に芝居がかった感じは嫌いじゃないんですが。
さて、そもそもの誤解があるかもしれません。
この映画のゾンビは「死体」じゃない。「生きてる人間」。で、作中のゾンビは基本的にハイチの砂糖工場で真面目に働いていて、人を襲ったりしません。
ここ以下はニワカなので誤りがある可能性があります。
ブードゥー教はもともと西アフリカあたりにあった民間宗教で、自然とか祖先を大事にしています。ブードゥー教自体には厳しい戒律があったりするわけではなくて、現在では基本的にキリスト教に準拠した教えとされています。 これは、西アフリカから奴隷として連れてこられた際に弾圧を免れるために混ぜ合わされたためと言われています。
2.ブードゥ教におけるゾンビ
ではいよいよその具体的な内容です。
真なる神様がどこかにいるけど、神様は基本的に人間に関与しないし、人間も神様に会えたりはしない。神様と人間の橋渡しをするのがたくさんのロアと呼ばれる存在。なんとなくイメージは大精霊っぽい。
それで、ロアにも色々いて、愛のロアとか海のロアとか森のロアとか様々です。この辺は日本の神話とかギリシャ神話っぽいかも。
ロアも系統があって和魂っぽいラダっていうグループと荒魂っぽいペトロっていうグループ、あと死神のゲーテがいます。本編で治一郎の師匠がブードゥー教と神道の共通性を覚えています。
さて、そろそろ問題のゾンビ。
『ロアの神官』という役割の人がいて、歌って踊ってロアをおろして神託や裁判をします。このへん沖縄のユタと似てる気がします。それで、裁判の結果ゾンビの刑となった場合、ロアの神官が持ってるゾンビパウダーを使って刑を執行します。
字面的にはちょっと胡散臭い。
そもそもブードゥー教自体が映画で「ゾンビ」っていうイメージがついちゃったから変な感じはするけど、もともとは穏やかな民間信仰です。信者も結構多い。
それでゾンビパウダーの前にゾンビ化について考えてみます。
ここでいうゾンビはゾンビ映画の「死体がよみがえる」的ものじゃなくて、恐怖城の「犯罪者を砂糖工場で働かせる」的なほう。「恐怖城」でゾンビパウダーをかけてゾンビにするっていう方です。
これは人を催眠状態にする等で単純作業させるって代物。そのためには、魔法薬でなくとも精神系の薬とか使えば実現可能なものでしょう。向精神薬とか。
ハイチの刑法では「ゾンビの儀式を行ってはいけない」っていうのがあるらしいんですが、やっぱり実際に何らかの効果がある薬品を使って実際に効果が生じるからこそ法律になったんじゃないのかなと思います。そうじゃないと『何をしたら』捕まえていいのかが不明確ですよね。
ゾンビパウダーの内容についてはウェイド・デイビスっていう人類学者が調査しています。
デイビスはゾンビ化の原因はフグ毒だと強プッシュしていましたが、様々な事実からはちょっと懐疑的です。今はデイビスが組成を調べたゾンビパウダーの中に含まれていたダチュラ成分が有力なんではないかという説が有力じゃないかなと思います。
さて、このダチュラは現在の日本でも普通に売られているのです。
3.ダチュラと薬効と次回予告
ダチュラとは朝鮮朝顔のこと。朝鮮といっても原産は朝鮮半島じゃなくて南アジアの方のようで「外来」っていう意味で朝鮮のようです。ダチュラという名前で園芸店とかに売られています。
ダチュラを摂取した場合、色々作用はあるけれど意識障害とかせん妄が起こることがあるようです。なかなか恐ろしいバッドトリップを引き起こすそうなのでくれぐれも誤飲にはご注意ください。日本でもダチュラの誤飲や食中毒でたまに人が亡くなっています。
ダチュラは江戸時代に華岡青洲という人が『通仙散』という名前で麻酔薬として使っていました。全身麻酔としては世界初だそうで、今も日本麻酔学会のロゴマークで使われています。
華岡青洲は主に乳がんの手術にこれを使っていたのですが、当時の成功率(完全緩解かはさておき)はかなりのものだったようです。ちなみにこれ、明治時代くらいまで使われていたので、作中の治一郎の師匠の頭にもあったかもしれません。
さて本来雨谷かざりの話は外伝だったのですが、アルファポリスに転載する時に本編に組み込みました。なので次は本来本編では3章だった人を襲う怪異のお話です。
引き続きお読み頂ければ幸いです。
本編3章に関連する『ブードゥー教』について、備忘もかねて色々かいてきます。
1.ブードゥ教のゾンビ映画
ブードゥー教って何で一番有名かっていうとやっぱりゾンビ映画ですよね。
ゾンビ映画の走りはロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」。これは今から見るとちょっと牧歌的なところもありますが、白黒の画面のなかでこれまでにない「死」への恐怖を描いたまさに金字塔だと思います。
なお、自分は足が速いも遅いのも等しく好きですが、一番好きなのはルチオ・フルチのゾンビです。フルチの映画は内容は微妙なんですが、ゾンビの質感等にこだわりがみられて生々しくてとても好きです。
スパイダーマンでヒットしたサム・ライミももともとゾンビ映画をたくさん撮ってました。「死霊のはらわた」は恐怖のなかでも笑いがおこる名作です。サム・ライミと聞くとはらわたイメージなんだけど、やっぱり今はスパイダーマンなんですかね。彼はゾンビ映画を撮るために大学を中退した筋金入りです。
けれども今回話したいのは最初のゾンビ映画。「恐怖城」又は「ホワイトゾンビ」と呼ばれる白黒トーキーの作品です。でも、「恐怖城」ってタイトル、なんか違和感ないですか? どっちかっていうとゾンビじゃなくてドラキュラっぽい。
「恐怖城」の製作は1932年です。
主演は「ベラ・ルゴシ」っていう目力のすんごいイケメン俳優さんなのですが、前年に「ドラキュラ」のドラキュラ役で当たった人でした。その辺がこんがらがってるんじゃないかと思います。なお、ルゴシは亡くなった時もドラキュラの衣装で埋葬されたという筋金入りです。私生活にまつわるアレコレもなんか哀愁あふれて面白いんですよね、ルゴシ。その辺は映画関連のエッセイの『エド・ウッド』のところに書いてるのでそのうち持ってこようかな。
さて「恐怖城」はタイトルどころか内容もあまりゾンビ感はありません。
簡単にあらすじをいうと、ハイチに新婚旅行に来たカップルが現地の地主に横恋慕される。地主はゾンビマスター(ルゴシ)からもらったゾンビパウダーを嫁さんにかけてゾンビにするんだけどちっともなびかなくて(なぜゾンビにしたらなびくと思ったのか小一時間……)、マスターに文句言いにいったらゾンビにされちゃて、その後も色々あって結末は伏せるけどラストまでいってもなんだそりゃっていう話。
ゾンビ感……ないよね?
しかも、文化の差かもしれないけれど、面白いかというとこれも微妙。
全体的に芝居がかった感じは嫌いじゃないんですが。
さて、そもそもの誤解があるかもしれません。
この映画のゾンビは「死体」じゃない。「生きてる人間」。で、作中のゾンビは基本的にハイチの砂糖工場で真面目に働いていて、人を襲ったりしません。
ここ以下はニワカなので誤りがある可能性があります。
ブードゥー教はもともと西アフリカあたりにあった民間宗教で、自然とか祖先を大事にしています。ブードゥー教自体には厳しい戒律があったりするわけではなくて、現在では基本的にキリスト教に準拠した教えとされています。 これは、西アフリカから奴隷として連れてこられた際に弾圧を免れるために混ぜ合わされたためと言われています。
2.ブードゥ教におけるゾンビ
ではいよいよその具体的な内容です。
真なる神様がどこかにいるけど、神様は基本的に人間に関与しないし、人間も神様に会えたりはしない。神様と人間の橋渡しをするのがたくさんのロアと呼ばれる存在。なんとなくイメージは大精霊っぽい。
それで、ロアにも色々いて、愛のロアとか海のロアとか森のロアとか様々です。この辺は日本の神話とかギリシャ神話っぽいかも。
ロアも系統があって和魂っぽいラダっていうグループと荒魂っぽいペトロっていうグループ、あと死神のゲーテがいます。本編で治一郎の師匠がブードゥー教と神道の共通性を覚えています。
さて、そろそろ問題のゾンビ。
『ロアの神官』という役割の人がいて、歌って踊ってロアをおろして神託や裁判をします。このへん沖縄のユタと似てる気がします。それで、裁判の結果ゾンビの刑となった場合、ロアの神官が持ってるゾンビパウダーを使って刑を執行します。
字面的にはちょっと胡散臭い。
そもそもブードゥー教自体が映画で「ゾンビ」っていうイメージがついちゃったから変な感じはするけど、もともとは穏やかな民間信仰です。信者も結構多い。
それでゾンビパウダーの前にゾンビ化について考えてみます。
ここでいうゾンビはゾンビ映画の「死体がよみがえる」的ものじゃなくて、恐怖城の「犯罪者を砂糖工場で働かせる」的なほう。「恐怖城」でゾンビパウダーをかけてゾンビにするっていう方です。
これは人を催眠状態にする等で単純作業させるって代物。そのためには、魔法薬でなくとも精神系の薬とか使えば実現可能なものでしょう。向精神薬とか。
ハイチの刑法では「ゾンビの儀式を行ってはいけない」っていうのがあるらしいんですが、やっぱり実際に何らかの効果がある薬品を使って実際に効果が生じるからこそ法律になったんじゃないのかなと思います。そうじゃないと『何をしたら』捕まえていいのかが不明確ですよね。
ゾンビパウダーの内容についてはウェイド・デイビスっていう人類学者が調査しています。
デイビスはゾンビ化の原因はフグ毒だと強プッシュしていましたが、様々な事実からはちょっと懐疑的です。今はデイビスが組成を調べたゾンビパウダーの中に含まれていたダチュラ成分が有力なんではないかという説が有力じゃないかなと思います。
さて、このダチュラは現在の日本でも普通に売られているのです。
3.ダチュラと薬効と次回予告
ダチュラとは朝鮮朝顔のこと。朝鮮といっても原産は朝鮮半島じゃなくて南アジアの方のようで「外来」っていう意味で朝鮮のようです。ダチュラという名前で園芸店とかに売られています。
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ダチュラは江戸時代に華岡青洲という人が『通仙散』という名前で麻酔薬として使っていました。全身麻酔としては世界初だそうで、今も日本麻酔学会のロゴマークで使われています。
華岡青洲は主に乳がんの手術にこれを使っていたのですが、当時の成功率(完全緩解かはさておき)はかなりのものだったようです。ちなみにこれ、明治時代くらいまで使われていたので、作中の治一郎の師匠の頭にもあったかもしれません。
さて本来雨谷かざりの話は外伝だったのですが、アルファポリスに転載する時に本編に組み込みました。なので次は本来本編では3章だった人を襲う怪異のお話です。
引き続きお読み頂ければ幸いです。
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