鯉噛み村(下ネタ)

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姫鯉村の変な神事。

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 俺が産まれたのはものすごく辺鄙な村。姫鯉村ひめこいむらという。
 山奥の村で、産業は鯉の養殖と林業。それからちょっとした高原野菜。それだけ。

 だから若者は大学から村外に出て帰ってこない。子どもの人口はとても少なくて、17歳以下は俺も含めて8人だけ。最年長の17歳が俺ことテルヤと幼馴染のタカシ。その次が1つ下のリンカ。そっから少し下がって13歳のイチオ。あとは小学生以下。
 結局俺とタカシ的にはこの村で女子はリンカだけで、思春期的には毎日リンカのことが気になってエロい目で見てた、のは中学くらいまでで、高校に入ってスマホを手に入れてからエロ動画が彼女になった。

 それで俺もタカシも県外の大学を受験して合格した。だからもうすぐ村を出る。それで結局リンカに告白すんの? という話を最近タカシとしている。
 確かに中学までは俺らはリンカ一辺倒だったけど、純朴な俺らはネットの海で溺れ死んで今は海底でハーレム状態。
 そもそも女子率が低すぎるから、改めて考えると俺らが本当にリンカが好きなのか思春期的のまやかしなのか、今更になってもよくわからないし、そんなこんなで高校に入って急に冷たくなった俺らにリンカはちょっと切れていたから余計に近寄り難いのだ。

 で、卒業式の日にノリで告るかどうかきめようか、みたいな失礼な話をタカとしてて、幼なじみというのも萌えるシチュエーション、とか下衆なことを考えてたからバチが当たったのか、親父から夕飯後に話があった。

「お前、姫鯉神社ひめこいじんじゃの神事に参加してこい」
「神事?」

 なんだそれ。初耳。
 聞いてみると、この村を出る男は必ずその神事に参加する決まりらしい。そうしないと役所が住所変更とか健康保険関係とかの切り替え手続きをしてくれなくて、とても外で暮らしていけないとか。なんだそれ。横暴すぎ。
 詳しく聞いても親父は村から出たことがないから、神事があるということ以外は知らないらしい。それから神事については同じ神事に参加する者以外には他言無用だとか。鯉に祈りを捧げるって聞いたよ、だって。

「ってこと言われたんだけどさ、タカ、お前なにか知ってる?」
「んにゃ、俺も親に聞いたのはそのくらいかな~。近いうちに神社行ってこいってさ~」
「ふうん。じゃあ明日行くか」

 姫鯉神社は姫鯉川ひめこいがわの上流にある。翌日の放課後、俺たちは川に沿って敷かれた石段をダラダラ歩いて神社にたどり着いた。

「お主ら鯉は好きか?」
「まぁ、嫌いじゃないです」
「そうっすね~」
「では神社にいる鯉の中からつがいになる鯉を1匹選べ」
「はぁ?」
「ふぇ?」
「番になる鯉を……」
佐々木ささきさん何言ってんの?」

 小さな村だから宮司さんといっても知り合いだ。佐々木さんは宮司だけど、いつもは神社で木工細工作ってるおっちゃんだし家も近所。
 佐々木さんは諦めたようにため息をついた、

「俺もこんな馬鹿馬鹿しいの気が乗らないんだけどさ、村長が伝統だって言い張ってこだわるからさ。お前ら知ってっか。この村握ってんの村長なんだよ」
「令和なのに?」
「江戸時代みたい~」
「お前らが言ってることはすごくよくわかるんだけどさ、実際役所的な手続きとか村長が止めるからダメなんだよ。ここ、村長が役所みたいなもんだろ? 手続きに村長の判子がいるんだよ。今どき判子だよ? 人が減って意地にもなってるんだよね」
「なんなのそれ。未開か。つか鯉と番って何なの、鯉と婚姻届でも出すわけ?」

 佐々木さんは心底嫌そうな、申し訳なさそうな顔をした。そしてわけのわからない説明を繰り出した。
 この姫鯉村では昔から鯉が神様の使いだとされている。それは何かで聞いたことがある。それで昔は結婚する時に守り神として鯉とも結婚するんだそうな。なんかそれも前に村井むらいの爺さんから聞いたような。
 そんでこっからは聞いたことがない。初婚の男は初めてを証立てるために鯉を通して神様に精を捧げる。
 ……。
 ……。
 ええと。

 佐々木さんは慌てたように取ってつける。

「いや、嘘じゃないんだって、昔からあったんだって本当に。だから神社の前にいるのは狛犬じゃなくて狛鯉だろ?」
「ああそういえば鯉だよな。いやでもそうじゃなくて。精を捧げるって何」
「それがだな」

 姫鯉神社の池には神の使いの鯉がたくさんいる。
 で、精を捧げるというのは、その。番に選んだ鯉の口にちん○を突っ込んで出すんだそうだ。うわぁドン引き。マジで言ってる?

「俺童貞なんだけどはじめてを鯉にとられちゃうの~?」
「いや、鯉は神の使いだから……」
「佐々木さん、俺は嫌だから。やったってことにしてくんないかな」
「それが神事は村長が立ち会うんだよ」
「あのエロババア、ちん○見たいだけじゃねえのか」
「それは否めない」

 否めないのかよ。
 村長のにやけた面が思い浮かんで嫌な気分。

「ていうかこれ全員やってんの? エロババアが好き勝手言ってるだけじゃないの? 親父は内容知らないっつってたぜ」
「え、そうなの~?」
「まあ、今村にいる人は中野なかのさん以外は俺と村長しか詳しくは知らないないはず」

 佐々木さんの説明だと昔は真面目に神事としてやってたようだけど、戦後に流石に常識的に考えてやめようという話が出た。ところが当時の村長がブチ切れて大反対した。それで神事続けるなら村を出るという人が続出したから、村を出て行く人にだけ行うことになったそうだ。村長、血筋かよ。

 そういう経緯なので、村に残った大人はやったことがなくて、当然こんな恥ずかしい伝統は子孫に伝えることもなくて、神事に関わる村長と宮司しか知らなくて、出て行った人はこんなおかしな神事がある村には当然戻って来なくて村の人口はどんどん減る一方で、中野さんみたいな鯉を忘れられない人が夜中に神社に忍び込んで佐々木さんが止めてもセルフ奉納しているらしい。
 げぇ、中野さん変態かよ。

「そんなわけだからとりあえず諦めて今日は池の鯉眺めていって」
「ちょ、ま、話聞けよ」
「2人とも大学合格したんでしょう? 村に残るならともかく外に出るならどうしようもないんだよ、村長の判子がないとさ。可哀想だと思うけどさ」
「汚ねぇ、せめて受験の前に言ってくれ」
「言ったら落ちてたよ」

 よく考えたらそうかもしれん。合格したら鯉に出さないといけない。何その罰ゲーム。俺は正直エロいキャンパスライフ夢想して勉強してたから、やる気は間違いなく削がれるな。
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