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四月篇

第25話  物珍しい姉弟

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 敦也たちが向かう先は、柵に囲まれたテニスコートだった。

 伏見高校には、男女硬式テニス部の他に、男女軟式テニス部がある。

 そのため、男女それぞれ、一面ずつ、計四面ある。

 敦也達、一年生は、横一列に並び、先輩達の話を聞く。

「この中で硬式テニスの経験がある人は手を挙げてくれ」

 と、男子のキャプテンらしき先輩が、一年背に訊く。

「はい!」

「はい」

 敦也と里菜が手を挙げた。

「君達は……」

「黒沢中出身、一年三組、有村敦也です」

 と、敦也は先輩に自己紹介する。

「同じく、黒沢中出身、一年三組、有村里菜です」

 里菜が続けて、自己紹介をした。

「あ、え? ふ、双子?」

 先輩は、隣で立っている女子のキャプテンらしき先輩に訊く。

「私が、知っているわけないでしょ? 本人達に訊きなさいよ」

「いや、だって、こういうのを新入生に訊くのは……」

「はぁ……。分かったわよ」

 女子の先輩が、ため息を漏らし、敦也達の方を見る。

「ごめんね。あなた達は、姉弟って、事でいいのかしら?」

「あ、はい。里菜姉が姉で、弟は、俺です」

「り、里菜姉! ぐはっ!」

 と、いきなり女子の先輩が倒れる。

「ああ、始まった……」

 男子の先輩は、額に手を当てて、またかよ、という表情をする。

「あ、あの……」

 敦也は、先輩に話しかけようとする。

「ああ、大丈夫。いつもの事だから。知っている奴は、もう慣れている」

「そうなんですか」

 敦也は、それを聞いて、この先輩は一体、何者だろうと思った。

「先輩、私が、姉ですけと、他に二人、同じ学年に姉妹がいますよ。双子ではないです」

「え、えええええええ⁉」

 男子の先輩が驚き、周りの先輩、違うクラスの同級生も驚いていた。

 唯一、驚いていなかったのは、康介と健斗くらいであった。

「つまり、四つ子。ん? 四つ子って、なんだ?」

 先輩は、二人を見ながら、何が何だか、分からなくなった。

 その日、敦也と里菜は、この学校のちょっとした有名人となった。
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