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知らない場所での生活

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 何人かは目を反らした。もし彼が言わなければ、他の誰かが嫌がって声を上げたかもしれない。愛丘まなおかはそれが分かってたかの様な反応を示すと、言葉を添える。

「分かった。能力を見せるかどうかは個人の判断に任せる。だが問題が起こった時、必要な能力を持って無いか皆に問う。余りにも非協力的な場合は一人で生きていかなければならない事もあると覚えていてくれ」

 その言葉を聞いて何人かは動揺していた。

「そ、そんなのって!」

「……集団で生きるとはそういう事だ」

「ッ……じゃ、じゃあ、愛丘まなおかぁ! お前の能力は何だよ!」

「僕かい? それは内緒だ」

「てめっ!」

「まあ、落ち着けよ。佐久間とはお互いステータスボードを見せ合った」

「な、何だよそれ……俺たちには見せられないってか!」

「半分正解だ。今は時期じゃない」

 代わりに佐久間が優しい口調で言う。

「俺の能力なら言える。《ミニマム》だ。対象のサイズを10秒間小さくする力。記載通り、小さく出来たのを確認したよ……限界はあるようだけどね」

(汎用性の高い能力だ……)

「そろそろ本題に入ろうか。皆、今の状況が分かるか?」

 俺はその質問に愛丘を見ながら答える。

「どんなに支給品を節約しても、三日も経たないうちに死にかける」

 とんでもない事実に皆は声を出そうとしたが、言葉に詰まる。俺や愛丘たちの表情が冗談ではないと語っていたからだ。しばらくして誰かが言った。

「そうだ! あの女は翻訳がどうとか言ってた! 人里を探そうぜ!」


(俺もそれは考えた。だが……)

「現地人の文明レベルが分からない以上、無策に接触するのは不味い。それに地図もコンパスも無い。闇雲に彷徨うのは危険だ。というか、あの女神は一日分と言いながらこれだ……その性格上、街や村が簡単に見つかるとは思えない」

「僕も城詰じょうづめ君と同意見だ。もちろん人里も探す。でも余裕が出来てからだな。君、サバイバル経験は?」

「無いけど、たまにそういう動画を見てるくらい。あ、キャンプには行った事がある」

「ふむ……しかし、今はそれにもすがりたい。僕にはそういう知識は無いからご教授願いたいね」

 彼は続けて問いかけて来た。

「君なら最初にどうする?」

「まずは水の確保。貰ってる分じゃ全然足りない。それに少し肌寒いから早めに火を起こしたい……何もないこの状況で脱水症状と低体温症は非常に不味い」

(冷静な判断が出来る内にこの二つはクリアしておきたい)

 それを聞いて佐久間が周りに問いかける。恐らくはまとめ役は彼で、憎まれ役は愛丘なのだろう。緊急時には先生と言ったところか。

「そういう能力を持っている人はいるか」

「わ、私炎を出せるっぽい……多分だけど」

 手を挙げたのは女子の円城寺えんじょうじ。少し緊張している様だった。

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