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足音

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「鉄さん上手くいきましたね……単純な女っす。ププっ、鉄さんが夜の見回りなんッイテェっ!」

 その時、佐野をデコピンで黙らせた。

「いきなり何するんっすか! 鉄さん!」

 背後から低い声が聞こえる。戻って来たようだ。

「そうそう、忘れてたわー。佐野君はここで何をしてるのかな?」

「え? あー。あ! お、俺も昨日見回りをしていて!」

「さっきの流れで体調が悪いって言ってたっけー? ねぇ、それ今考えたよね?」

 彼女は佐野が言おうとしていた事に先回りをして回答する。

「いやいやいや! く、鉄さん! 俺も居たっすよね!」

「確かに途中まで居た、気が……しないこともない。すまんが良く覚えてない……ィッ」

 鉄は少し辛そうに頭を抑えた。芝居臭いが後藤はそれに気が付かない。

「ちょ、鉄さんッ?」

「へー、途中までなんだぁ……道理で、凄く元気そうね」

「くろっ。ひぃっ、助け……ッ!」

 佐野は問答無用で後藤に引きずられて行った。静かになった時、彼は呟く。

「ようやく五月蠅い奴等が消えた」

 彼は何とも無い様子で体を伸ばしてストレッチをすると、再び横になると欠伸をした。

「さて、次はどんな手を使うか……」



 後藤が鉄の所に行っている時間帯、女子の北川と水谷が大橋に絡んでいた。

「大橋、お茶ついで来て」

「え……で、でもっ、体調の悪い人が優先で、許可がないと駄目だって……」

「何ー? 私に逆らうの?」

「そ、そういう訳じゃなくて。で、でも……」

「はぁ……学校でもここでも無能だから仕事を与えてあげてるんだけど? それともなに? ウチ等との友情は無かったって事ぉ?」

「はぁ~恩知らずね。大橋が馬鹿で能力が無いのに、守ってあげてるんだよぉ? 感謝して欲しいけどなぁ」

「そ、それは……でも、ルールを守らないと……」

「チッ、グダグダうるせぇな」

「ご、ごめんなさい!」

「分かったなら早くしろっての!? 返事はッ?」

「はっ、はい!」

 彼女は泣きそうになりながら、それを実行しようと動き始めた。好きをみて器に水を入れ、木で作ったトングで上手い事、火にかける。沸騰後に少し冷ますと葉を入れる。

 完成したら北川の元へと急ぐ。

「遅いんだよ、ノロマ……」

「ごめんなさい」

 お茶を渡しながら謝る。

「熱っ」

 彼女は茶碗の熱に驚いて落としてしまった。それは真っ二つに割れてしまった。

「あ~あ。何してんの大橋ぃ」

「え? これは北川さんが……」

「はい? 私のせいだって言うの? 熱すぎの容器渡す奴が悪く無い? 常識で考えろよ」

「ごめんなさい。あ、こ、こ、これ。どうすれば……」


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