ワイズマンと賢者のいし

刀根光太郎

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終わりと始まり

2プロローグ

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 アルムが珍しく満面の笑みで叫んだ。それを見て、また凄い魔法を創ったのだろうと思いいたり、ルクスも笑顔になる。

「師匠っ、今度は何を!??」

「転生の魔法だ!」

「……て、転生? な、何故そんな魔法を?」

「逆算してみたが、どうにも時間が足りん。だから今のうちに対策をな。おっし、早速!」

「あー! 待ってください! 失敗したらどうするんですか!!? 誰かで実験してからでも!」

「うわー……誰かとか、流石にビビるわー。自身の利益に他人を使おうとする俺の弟子の発想が怖い」

「師匠! 今ッ、僕の事を弟子とッ!!! ……じゃなくて! ぼ、僕で先に実験してください! 師匠にもしもの事があったら!」

 そして、少し考えて彼は真顔で言った。

「……でもお前、転生魔法の理論分かんないだろ?」

「……まあ……まあまあまあ…………いえ! で、出来ます! 必ず!」


 それを聞いたアルムは指を僅かに動かし、最小の円を素早く描く。集中していてもそれに気が付く者は少ない。指が光り出した。そのままルクスの額に指先をそっと添わせる。先ほどの転生理論の過程から結論までが、頭にスッと流れ込んでくる。その膨大な情報量に驚愕する。

「分かるか?」

「……っ……いえ……分かりません……」

 知識はあってもそれを使いこなせる気がしない。そんなルクスの必死でいて、情けないその姿を見てアルムは微笑みながら言う。

「大丈夫だ。俺の理論は完璧。一年後だ。一年後にまた会おう……優秀なるバカ弟子よ」

「師匠……」

「心配性だなルクス……何時もなら、師匠ならそのくらい余裕ですよー、とか言うくせに」

「こ、今回は! 規模が規模です……そんな試み。前例が……」

「ははは、何時だってそうだったろ?」

 それでも不安そうにするルクス。アルムは軽く息を吐いた後に再び名前を呼んだ。優し気な声だった。

「ルクス……忘れるなよ。全て」「全ては其に帰趣きしゅする……」

 アルムの声に重ねる様に彼はそう返した。さらに追加で一年後に師匠を越えてみせますとも言っていた。急に大きく出たな、と驚く。相変わらず面白い男だ。

 そして、アルムの体が轟音と共に強く光り出す。腕で顔を守る様に覆う。凄まじい魔力で声を出す余裕すらない。数秒後、部屋に残るのは黒い髪の男だけとなった。先ほどの光景が嘘の様に静寂になった。


「全てを内包する魔法……えん


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