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13話 因果応報と私怨(1)

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 ソロモンと右腕の無いヴァイオレットは走っていた。
息を切らし、小まめに後ろを振り返る。
何かに追われているらしい。

「なんで私まで!」

「はぁ? 【ブレイブヒーロー】は一蓮托生だったろ!」

「私やノーマを見捨てようとした癖に良く言う!」


「はっ、でも俺から離れられないって事は、俺の事を愛してるんだろ?
俺とのセックスが気持ち良すぎて忘れられなかったんだろっ?」

「ああ? ふざけんなッ。こんな状態じゃ戦えないからだッ。
にしてもシビルとノーマはこんな時に何処に行きやがった……ッ」

「知るかよ! 何も聞いてねぇ!」



 そこで、ソロモンは見知った者を見つけた。
アルマだ。
知らない少女を連れて歩いていた。
そこでソロモンは悪い笑みになった。


「おいっ、アルマ!!」


 アルマはカレンを自分の後ろに隠した。

「……何か用?」


「追われてる! 匿ってくれ!」

「はぁ? 何で私が」


「頼むよぉ。私たちパーティーだったろ?」


「元、ね……」


「頼むって! それにお前、俺の事好きだろ! 今なら一応対等に付き合ってやるって! 
あ、婚約とかもしてやるよ! 最弱のお前は他のパーティーに入れてもらえないんだろ?」


「はぁ……あんたギルドに行ってないの?」

「ギルド? ああ、ほとぼりが収まるまでちょっとな。
それよりも、もう一回パーティーを組んでやるよ。
あ、見知らぬ盗賊から助け無かった事を怒ってるのか? あれは違うんだよ!」


(口がよく回る……カレンには毒だわ。面倒だし無視し……)

 次の瞬間、この男はアルマの思考を妨げるほどの言葉を。
よく知っている名前と共に叫んだ。

「分かった!? レイラの事を怒ってるのか!? 違うんだって!」

「ソロモンッ!!!」

「ぁ……ッ」


(レ……イラ……?)

「は? なんでここで妹の名前が出て来るの……ッ?」


「あ……いや!?」


 回復魔法を強めにかけ、ソロモンを殴って吹き飛ばす。

「教えないと殺すッ……言って置くけど私はもう解呪済みだから」


「はぁっ!? う、嘘だ!? あ、ああ、あり得ない!」

「あんた馬鹿なの? 何で自分たちが弱くなったか。分からない?」


「魔力暴走だってシビルが!?」


「何で最弱剣士如きに、あんたが吹き飛ばされたか……まだ、分からない?」

「……ッ。そ、そんな……」


「それと……シビルの名前……出さない方が良いよ……もう……分かるでしょう?」


 禁忌が教会にバレた。
今までで見た事の無いほどの絶望した表情を浮かべていた。
腰を抜かしているらしく、震えて動けない。


「ち、違うんだぁぁああッ! ノーマが! 全てノーマが悪いんだ!?」

「誰が悪いかはどうでもいい! 後、余り大声出すと殺すから……」

 顔を恐怖に染めながらしゃべり始めた。

「あ、あいつが……ここここの作戦を全部考案して。じッ、実行したんだ。あいつだけが実行犯なんだぁ!」


(そんな訳ないでしょ。あんた等全員、恩恵を受けていた。共犯よ)

「で?」


「い、いくらシビっ……あいつが才女でもあの頃じゃ限界があった。
だから……生贄を使ってっ。それを代価に術を完成させたんだぁあ。レイラとカーラの二人を!」 


 ヴァイオレットも責任転嫁をし始めた。

「ノーラとレイラは仲が良かったからっ、私は何もやってない! 
それに付け込んであの才女が巧みにっ、あの二人が悪くて!」

「お、俺はちゃんと止めたぜ! レイラはお前に似てたからな! 勿体ないって!」


(嗚呼、そう……お母さんもこいつらが……全部こいつらがぁ)

 怒りをなるべく抑え。兎に角、話を進める。
カレンに怯えさせて悪いけど、私は止まれなさそう。


「な……んでっ……こんな事を……?」

「あ、あああ。お前が……お前がっ、俺を振るから……ッ」


 それと同時に地面にヒビが入る。ソロモンはさらに怯えだした。
ヴァイオレットの方も見た。

「ひっ!! わ、私はっ。ア、アルマがガキ大将なのに腹が立ってっ。
ソ、ソロモンのお願いだったし! 術を完成させたのはノーマだよぉ」


 ずる賢いシビルの事だ。
恐らく失敗のリスクを恐れ、
代わりにノーマを利用し、使ったのだろう。


(そんな事のために……そんな下らない理由でお母さんとレイラをッ!!!)


 そこで、低い男の声が聞こえた。

「見つけたぞ。ソロモン!!!」

「ひぃぃ! ア、アルマ助けて!! 
き、聞け貴様等ぁ、こいつが主犯なんだ! 
俺はこいつの命令で動いていた!」


「違う。私は関係ない……」


 ソロモンは小声で話しかけて来る。
こうすれば俺たちを助けられる、名案だろ。
と、そう悪びれる様子も無く言ってのけた。


 今後に及んでまだ助けてもらえるつもりらしい。
この愚かさにはきっとあの才女も頭を抱えた事だろう。

 その言葉を信じた男たちは私に襲い掛かった。
なので仕方なく、加減したつもり拳で彼を吹き飛ばす。
しかし、怒りで制御出来ずかなりの重傷を負った。

「アルマ! よくやった!?」

「ごめんなさい。今、ちょっと手加減が出来ないの。
次に来た人は殺しちゃうかも……」

 騒いでる男たちは近寄れない。
それを無視して、吹き飛ばした男に近寄る。
回復の魔法をかけて丁寧に謝った。
ソロモンはそれを見て疑問の声を上げていた。


 私は男たちに妹と母が殺された事実を、
禁忌の事は隠して話した。

 それを今知って、彼等は謝って来た。
彼等はこいつ等ならそうをするだろうと簡単に信じてくれた。
そればかりか私に同情していた。


 そして、その二人は彼等に任せた。
どうやら彼等は恋人を酷い目に合わされたらしい。
メインターゲットはソロモンだったらしく、
ヴァイオレットは隙を見て逃げ出していた。

「お、おい! アルマ!? パーティーを! 俺を見捨てるのか! 
愛し合った仲だろぉお! アルマ!? 頼む! 助けてくれ!」


 それを無視して、歩き出す。

 その後、私は教会に行った。
数日間、カレンを預ける。
大司教にことの経緯を話し、私は準備に取り掛かる。

 教会の書庫を借り、本を読み漁る。
本棚から本が落ちた。
目的の本では無かったが不思議と惹きつけられてた。


「著者……黒衣の死神? 
はは、死神って。教会に何でこんなものが?」


 中身はボロボロで所々が破れていた。
すると本が怪し気に紫に光り出す。
同時に何かが体の中に入り込んでくる感覚があった。

「なにっ?」

 不思議な事に、頭に魔法が幾つか思い浮かんだ。

「ッ……不思議な魔法……でも断片。中級魔法まで、か……
いえ、今の私にはこれでも十分」


 奇妙さを覚えながらも本棚にそれを戻して、
目的の物を探す。
後から気が付いたが、
その本はいつの間にか消えていた。

 それを話したところ、それは次元を越え渡り歩く特別な魔導書らしい。
稀にそのような事があるようだ。



 何処かの地下牢。ソロモンは鎖で拘束されていた。
その鎖は体内の魔素をかき乱し、魔法を使えない様にする魔道具。
男たちに死なない程度に殴られていた。
幾ら許しを乞うても、恋人が受けた仕打ちの話を出しながら、
彼等はそれを止める事は決して無かった。

 そんな時に誰かの足音が響いた。
彼等は私を見て驚いた。間抜けのソロモンが叫んだ。

「助けに来てくれたのか!? やっぱり俺の事を! 
こいつ等ゴミカスみたいにひでぇ奴なんだ!? 全然話を聞かねぇ!」


「こ、これは俺たちの問題。
さ、さすがのアルマさんでもっ。
俺はッ。俺は! こいつに恋人をボロボロにっ!!!」


 私は満面の笑みでそれを否定する。

「いえいえ、お疲れ様。差し入れに参りましたー」

「差し、入れ?」


 テーブルに壺を置いた。そして、拷問用の道具を一式。
ソロモンは間抜けな声を出した。

「はぁ?」


「そ、それは一体?」

「この壺。毒を持ってる虫をたくさん入れてあるから、
自分の意思で手を突っ込ませようかと。
最終的には余りの痛みに、
自分から腕を切り落として、って言うらしいよ」

「おおー! それはいい!」


「ば、馬鹿か!? そんなことするはず無いだろうが!? 常識で考えろ!」

「今、アルマさんが話してるだろ! 黙れ!」

「ぐがっ! やめっ」

 男たちは腹部に数発入れて黙らせる。

「手を入れない場合は反対の指、それか爪を剥がそっかー。
せめて好きな方を選ばせてあげよう」


「!?」


「なるほどー。それは良い考えです」


「じょ、冗談だよな……アルマ! こいつらを油断させるためのっ」


「……馬鹿に付ける薬も持って来た。
毒であっけなく死なないようにね」

 その気迫に。憎悪が混じった笑顔に戦慄を覚えた。

「ッ……!? わ、悪かった! 今までの事、全部謝る! だから助けてくれ! 
お願いだ! なぁ! 頼むよアルマぁぁ! 俺たち、【ブレイブヒーロー】だろ!」


 もう解散しているのだから、それは存在しない。
ソロモンは怯えた表情を見せた。
それ以上アルマが何も言わなかったからだ。


 男たちはテキパキと準備を整える。
壺を割らない様に、無駄に暴れない様にしっかりと鎖を巻き、
腕を壺に入れられる状態にする。


 準備を終えると、彼等は楽しそうにそれを実行した。
ソロモンは腕を毒壺に入れる事を躊躇したが、
反対の手の拷問器具に力を徐々に加えると、
彼は自ら手を突っ込んだ。


 悍ましい声がこだまする。
幾ら泣きわめいて許しを請おうとも、
誰もそれを聞き入れる事は無かった。
それをしばらく見た後、
男たちに全てを委ねてこの地下を後にする。


 もう私には関係ない。

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