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転生者10億人目の男

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ー5月20日ー
いつもの時間に起き、いつもの様に家族におはようと言い、いつもの様に妹が作った朝ご飯を食べ、いつもの様に妹が作った美味しい弁当を持って学校に向かう。
いつもと変わらない日々だが今日は一つだけ違う点がある。
そう!俺は今日憧れの先輩に告白する事を決めて家を出ている。

俺は弐階堂 潤平。高校2年生の17歳だ。
悪いが俺はよく聞くようなニートで不遇な主人公なんかじゃない。
勉強だって学年で5位以内を常にキープし、部活はバスケ部でキャプテンを務めている。
友人にも恵まれているし、家もそこそこに小金持ちだ。
そして、今日もし告白が成功すれば、俺は念願のリア充へ昇格できる!

今日は体育祭、憧れの先輩とは同じ団!
しかも先輩と共に応援団にも入った!
友人の配慮でダンスもペアで踊るパートを一緒にしてもらった。
「絶対に成功させる!」

俺の団は黄団。出場競技は、男子騎馬戦、部活動対抗リレー、2年生全員リレー、団対抗ムカデ競走、団別リレーの全5種目。
ムカデは一緒に走れる!
チャンス5回とか多すぎるぐらいだ!
「やるんだな?」
「ああ。今日決行する。」
「応援してるぜ!」
「ありがとう!」

「第12回体育祭を開催します!!」
「「うぉああああああああい!!!」」


全員が全力で挑んだ体育祭も閉会式をむかえた。
「結果発表です。まず、パネル部門!優勝は、、、赤団!!」
「「っしゃああああああああああ!!」」
「次に応援部門!優勝は、、、青団!!!」
「「いよっしゃああああああああ!!!」」
「最後は体育祭のメイン、競技部門です!優勝は、、、、、、黄団!!!!」
「「うぉぉぉぉッッッッッしゃああああああああ!!!!!!!!!!!」」

「3年生はパネル前で写真撮影がありますので集合してください。加えて各団の応援団は解散式があるのでホームルーム後に各団の練習場所に集合してください。これにて、第12回体育祭を終了します!」


そして、決行の時・・・!
「じゅんぺーくん!お疲れ様!」
「お疲れ様です、莉乃先輩。」
「援団でも勝ちたかったね・・・。」
そう言って優しく微笑む先輩。

「そう、ですね・・・。でも・・・、先輩が副団長として引っ張ってくれたから、俺は凄く楽しかった・・・、です。」
「ッッ・・・/// ありがとう・・・!私も凄く楽しかった!」
涙を堪えながらも先輩は満面の笑みを見せている。

「にしても、みんな遅いねw」
そう尋ねられた時、自然と言葉が先走った。

「・・・・・・せっ、先輩っ!!」
「どうしたの?」
「あ、あの・・・、俺!先輩の事がずっと好きでした!これからもずっとそばにいてくれませんか?!」
言ってしまった・・・。ついに・・・。

「え、え?!/// ほ、本気なの、じゅんぺーくん?!」
「めちゃくちゃ本気です!!!」
慌てふためく先輩に精一杯の真剣な顔を見せて答える。

「じゃあ私も本気で応えなきゃねw」
これまでに見たことがないぐらい全力の笑顔を見せつけてきた先輩に心拍数が異常に上がる。

「わ、私で良ければ潤平くんの傍にいさせて下さい!」

時が止まったように感じた。
風が消えて、落ち葉が宙に張り付いて、無音が虚空を欠いた。

たった1秒程度の時間が何倍にも感じた。
この時間がずっと続くのかって、凄くドキドキした。

「「イェーーーーー!」」
え?
「「おめでとう!!!!」」
うわ、見られてた・・・///

黄団のメンバーが影からゾロゾロと出てくる。
「お、お前ら!先輩達も!ずっと居たんですか!?」

「いや、ずっとって言うわけじゃないんだがな。告白のところはバッチリ動画に収めておいた!w」
うわー、恥ずかしい・・・。

「よし、二人がおめでたくも付き合う事になった訳だし、俺らの解散式さっさと済ませてお二人さんの初々しい時間を満喫してもらおうぜ!」
「「イェーーーーー!」」
「た、拓磨先輩・・・w」
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしいけど、スゲー嬉しいっ!


解散式も終了し、俺は莉乃先輩と長話をしていた。
「ビックリしましたね。」
「そうだねw あ、ていうか、敬語じゃなくていいよ。ていうか、タメ口で話して!w」
「え、えぇー?んー。り、莉乃・・・。」
「なーにっ?」
か、可愛い・・・。顔を直視できない・・・。

「あ、ありがと・・・。俺と付き合ってくれて・・・。」
「私こそ、ありがとう!凄く嬉しかったよ!」
「・・・なんか照れ臭い!飲み物買ってくる。」
「じゃあ私コーラがいい!」
「はーい。」
照れて火照った体を冷ますために冷たい飲み物を買いに行く。

『青春の味!』と書かれたレモン味のサイダーが目にとまる。
「これにしよ。」
レモン味のサイダーと莉乃のコーラを持って戻る途中、莉乃の真後ろに積んであった角材が風でぐらつくのを見て早歩きになる。

次第にぐらつきが大きくなる角材。
と、その瞬間また強めの風が吹いた。
このままだと莉乃目掛けて角材が落ちると確信した俺は両手に持っていた飲み物を放り投げて駆け出す。
「莉乃ッ!!!危ない!!!」

莉乃までもう少しの所で角材が落ちてきた。
俺は間に合わないことを悟った。
そして、体は瞬時に立ち竦む莉乃を突き飛ばした。

バキッ!ゴキッ!と言う鈍い音が体に響いた。
あ、これは完全に骨砕けたな・・・。
どうやら肋骨が内側に折れて肺に刺さったらしい。
息が出来ない。

「潤平ッ!!」
莉乃の涙混じりの叫び声が遠くから聴こえる。
辛うじて見えた視界に映ったのは泣き叫ぶ莉乃と莉乃の叫び声を聞きつけて集まって来た黄団のメンバー達。
そして、振れた炭酸の勢いでこっちまで弾け飛んできた空のレモンサイダーのペットボトルだった。

視界が狭くなってきて、段々とみんなの声が遠ざかる・・・。
莉乃が目の前にいる。
莉乃の唇が当たった感触。莉乃の涙が俺の頬に落ちた感覚を最後に俺の意識は途切れた。



目を覚ますと綺麗な外国人の女性が薄手の美しい羽衣を着て目の前に立っていた。
「あなたは死にました。でも悲しまないでください。あなたはすぐにでも転生できます!あなたは転生者10億人目になれるのです!」
・・・意味がわからなかった。

「え?何を言ってるんですか?ここはどこですか?なんでこんな真っ白い部屋に俺はいるんですか?」
「ですから、あなたはもう死んでいるんです。ここは死者の世界と生者の世界の狭間。審判の空間です。あなたはここで異世界に転生するか成仏して今まで生きてきた世界へ戻るかを決められます。」
「え、俺死んだの?」
「はい。」
「嘘だろ?w」
「嘘じゃありません。これがその証拠です。」
モニターのようなものが俺の目の前に現れる。

そこには霊安室らしき場所で眠っている俺とその側で泣き崩れている父親と妹、そして莉乃の姿が映っていた。
「は?w じょ、冗談じゃねぇよ!何で、何でこんな!ようやく莉乃先輩と付き合えたってのに!!嘘だろ、おい・・・。」
絶望しかなかった。ようやく手に入れた彼女。祝福されて、喜んだ直後に死ぬなんて想像もしていなかった。

「理解して頂けましたか?確かに辛いことかもしれません。ですがあなたには選択する権利が与えられました。精一杯生きてきたあなたへのせめてもの救い救いになれば良いのですが・・・。」
「選択・・・?何を選択するんだよ・・・。」
半ギレ気味で尋ねる。

「転生するか、成仏するかです。」
「転生・・・?」
「はい。あなたは転生できます。異世界へと転生し新たな生活を送るか、成仏して今まで生きてきた世界へ戻るかを決められます。」
「そんなの決まってんだろ。」
そう。そんなの決まっている。

「成仏して今まで生きてきた世界へ戻る。」
「本当に良いのですか?!」
「なんで止めんだよ。」
「いえ、成仏して今まで生きてきた世界へ戻るというのは、そのままあなたが生き返って彼女との生活を取り戻すという意味では無いのです。」

「は?どういう事だ?」
「ここで言う成仏はあくまでも一旦天界に行き同じ世界へ戻る順番を待つということなんです。待ったところであなたは今の記憶を消され、別人として新たな人生を歩むんです。」
「つまり、莉乃とはもう一緒いられない・・・。そういう事か・・・?」

苦しそうな表情をする女性。
「はい・・・。」
「そうか・・・。」
「意外とアッサリ受け入れられるのですね?」
「いや、やっと落ち着いて考えられるようになっただけだ。例え俺が死んだとしても、せめて最後に莉乃を助けられただけまだ良かった。遠慮なく転生できる。」

「そ、それでは・・・!!」
「あぁ。転生するよ。異世界ってアレか?俗に言う、魔王様を倒す世界か?」
「はい。あなたがやってらっしゃったゲームと似たようなものです。」
「そうか・・・。」
不思議と悲しくはなかった。莉乃を守れたからだろうか。

「それでは転生についてご説明します。」
「はいよ。」
「まず、私の名は女神アルテマ。死者を導く者です。先程もいいましたが転生とは体や容姿、年齢などを好きな状態で別の世界へ転送することです。」
モニターのようなものに図を映しながら説明をしている。

「転生者には望んだ物やスキルなどを自由に一つ選ぶことができ、それを異世界で使用することができます。加えて、あなたは転生者10億人目!副賞がいくつか付いてきます。まず一つ目、スキルなどを三つまで自由に選べます。次に二つ目、上級装備を着用できます。最後に。神の力を授かることができます。神の力は迷った時やピンチの時に導きを与えてくれます。そして、異世界で死んだとしてもその世界の神として復活できます。死なずに魔王を倒した場合はそのまま生き続けて神になるか、元の世界への転生をするかを選べます。元の世界へは完全な別人として生まれ変わって貰います。」

「なるほど悪い条件じゃないな。」
「でしょでしょ?」
「異世界ってのも面白そうだし、やるだけやってみるか・・・。」
「じゃあ決まりですね!能力と装備を選んでください。」
「能力ってのは、例えばどんなのが選べるんだ?」

「そうですねぇ。例えば身体強化とかですかね。」
「身体強化かぁ。いいな。」
「ていうか、基本なんでも大丈夫です。俺TUEEEE系の要望にもある程度お応えできます。」

「それじゃあ、攻撃が加わる度に身体能力が向上するスキルと、攻撃する度に魔力が上がるスキル。あとは体の形状を自由に変化させるスキルが欲しい。」
「了解です。メモメモっと・・・!」

ホントにアリなのかとは思いつつ、装備の要望を出す。
「装備は強度と軽さを兼ね備えた、アサシンスタイルの装備が良いなぁ。武器もアサシン系かな。」
「それなら丁度いいのが。」
あるんかい・・・。

「防具はマテリアルドラゴンの羽を織って紡いだ布と骨と甲殻を使った装甲。武器はマテリアルドラゴンの甲殻を研いで作り上げたアサシンブレードとセミロングソードなんていかがでしょうか!?」
「デザインはどんな感じだ?」
「モニターをご覧下さい。」

・・・か、カッコイイ。
「よし!これに決めた!」
「オーケーです!これで準備完了ですが最後に一つ忠告があります。」
「何だ?」
「この世界では、弐階堂 潤平とは別の名を、可能であれは横文字系で名乗ってください。そうでないと生きづらいです。」
「何だかはよく分からんが了解した。」

よもやこんな事態になろうとは思っていなかったが、なかなか楽しい人生を歩めそうな気がしてきた。
「それでは転生を開始します!」
女神が呪文を唱えた。

「ご武運をお祈り申し上げます!」
俺の体は宙に浮き上がり、光の中へ吸い込まれていく。
「うっ・・・。眩しッ・・・!」


「おにーさーん?大丈夫ですー?」
「んッ・・・。」
「おにーさーーーーん!」
「うっ・・・、くっ・・・。」

目を覚ますとそこには・・・。
「だ、誰このオバサn・・・グハッ!」
「誰がオバサンよ!」
ババァの強烈な一撃がボディに入る。

「いっつ・・・。」
「おにーさん、どこの者だい?」
「どこも何も、どう見たって日本人だろ。」
当然じゃねぇか。

「何だい?に、ニホン?聞いたことないけど、辺境の地か何かかい?」
「いや、知らないわけっ・・・!はっ!」
わ、忘れてたぁ・・・。ここ異世界だった。
「え、えーと・・・。」
「ま、いいわ。その感じだと記憶が変になってるんでしょ?それに、凄くお腹すいてそうね。仕方ない・・・。うちのギルドにきなさい。」

突然過ぎて頭がついていかない。
「ほら!早く立って!アンタ名前は?」
「名前・・・。にかいd・・・っ!」
「ニカイド?」
あっぶね。約束忘れる所だった。
「ゼファウル・エルニカイドです。」
「よし、ゼファウル。さっさと立ちな!街まで案内したげる!」
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