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第2章 それは、本能?理性?
討伐隊の増援
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その日、6番門で時間外のドラが鳴り響いた。
間を置かず連続して鳴らすのは、緊急時に鳴らす叩き方だ。
「門を片方開けろ!避難してくるぞ‼︎」
壁上から衛兵が叫んだ。彼の視界下には、木々の間を必死になって逃げて来る討伐隊の姿が見えていた。
また、それを追う魔物や魔獣達の群れも見え、まさに緊急事態だった。
「各員、一斉斉射‼︎」
壁上に設置されている対魔獣用巨大弩が、一斉に放たれる。
全ては当たらずともその威力に驚き、魔物達の勢いが弱まった。
「た、助かった‼︎」
なんとか門を通過し逃げ延びたのは5名だけ。
その姿は皆、装備が剥がれ怪我が酷く、疲労困憊している。
「治療を受けながらで構わないから、状況を教えてくれるか?」
未だ近くで撃退する音が響く中、逃げ延びた5人は簡易処置を施されながら経緯を報告した。
そしてそれは、早馬により宿場町ウンタードリュッケンへと運ばれる。
「また、ネームド討伐隊の被害者が増えたな」
門からの報告を受けたザキニは、ギルドマスター達を集めた5度目となる会議を開くべく、机に突っ伏し寝ているジャンを起こした。
「んあ?」
「ジャン、また、緊急会議を始めるぞ」
「…またぁ?あ~、…分かった」
ヨダレを直ぐに拭い顔を引き締めると、重苦しい雰囲気となるだろう会議へと向かった。
会議室には、冒険者ギルド、ハンターギルド、商会ギルド、建設ギルド、鍛治ギルドのマスター達が待機していた。
「あ~、申し訳ない。…今回も討伐失敗の報告となりました」
ジャンは、席に着くなり頭を下げる。
今回も。そう、討伐隊がネームド討伐を開始してから、既に10日経っている。
「今回、襲撃にあったのは、中区域担当の冒険者2チームです」
「それは、中級魔物が多いとされる区域だね?」
「はい。本来なら、低級魔物のホーンラビットの生息地ではありません」
「前区域には、奴の巣が無いという予想が当たったわけか…。厄介だな」
「まぁ、あれだけ探して見つからない上に、罠士なみに罠が沢山仕掛けられでるんだ。かなりの知能があると考えるべきだろう」
ハンターギルドのマスターが、チラリとジャンの隣に居るエドガーを見る。
ネームドのホーンラビットが仕掛けている罠が、エドガーが盗まれた吊り罠の構造に似ているのだ。
素材は違うものの、至る所に隠されていて油断できない。しかも、解除中を狙って他の魔物に襲われる。
前日時点で、冒険者は10名、ハンターは13人が戦闘不能となっていた。(内6名は死亡)
ハンターの方が被害が多いのは、単独行動者が多いからだろう。
「今回も、他の魔物を利用して襲撃して来たようです。しかも中区域の魔物ですから、手練れな彼等でも対応が困難だったようです」
「…。やはり、A級の者達を呼ぶべきじゃないかね?」
「簡単に言うが、彼等を呼ぶにはそれなりの報酬が必要だぞ?商会ギルドが追加で報酬を出してくれるなら、可能かもしれんが?」
「我々は充分に出しているだろう!7割も出資しているんだぞ⁉︎そもそも、彼等を管理している筈のは、おたくらだろう?呼ぼうと思えば簡単に呼べる筈なのでは?」
「「…むぅ」」
冒険者ギルドとハンターギルドは反論しづらいだろう。
この支部ギルドには、それほどの発言権が無い。
ギルド実績としては、地方支部ギルドよりもかなり高い。それは当然、【原始の樹海】の恩恵が大きいと言える。
だがやはりまだ、街のギルド支部よりも下に見られているのだ。
「そう言えば、ハンターギルドには最近有名な【竜殺し】がいるな。彼を呼べないかね?」
「おいおい、奴はS級だし、奴を呼ぶなら倍額どころで済まないぞ?それに奴は、大物獲りの後は休暇を取る。まず依頼を受けないだろうな」
「では、冒険者で報酬が安くとも呼んだら来れそうなA級者は居ないのかね?」
「……。1チーム居る。…だが、彼等【斉天の矛】は、曲者ばかりでね」
「来てくれる可能性があるなら、声をかけるべきだろう。早く手を打たねば、ネームドをこれ以上調子に乗せてしまうと、手がつけられなくなる」
「私からもお願いします。ハンターギルドの方でも、参加していただける実力者を引き続き募集してください。商会ギルドと鍛治ギルドには申し訳ないないが、支援の追加を検討していただけないだろうか?」
ジャン達も頭を下げて真摯に頼む。
「…まぁ、やれるだけの事はやりますか」
「そうですね。せっかく立ち上げたばかりの町です。ここで腐らすには勿体無いですからね」
「全くだ。投資した額の倍以上を回収しないで撤退など有り得ん」
「ありがとうございます」
ギルドマスター達の協力を得られ、新たに討伐隊の増援と支援が決まった。
その日以降、残された討伐隊による作戦は一時的に停止扱いとなり、増援が到着するまで、樹海への出入りは制限された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
制限されてから5日後。
町に複数の馬車が到着した。その中には、新たに手配された討伐隊の面々がいた。
「へぇ~、ここが新しい町?ウンタードリュッケンだっけ?」
「割と店があるんだな。おっ?あの呼び娘可愛いな!」
「バカね。可愛いっていうのは、あの大人の仕事を健気に手伝っている少年の様な子を称賛する為にある言葉なのよ?ハァ、ハア」
「お前達、落ち着いた態度でいてくれよ?指名依頼で呼ばれているのに、そんなは田舎者みたいで恥ずかしいだろ?」
馬車から降りてきた討伐隊の中に、一際目立つチームがあった。
「お、おい、あれって【斉天の矛】じゃないか⁉︎」
「ああ、王都のギルドじゃ、S級チーム昇格間違い無しの急成長株と話題らしいな」
斉天の矛のメンバーは4人。
リーダーは、赤髪で剣士タイプの笑顔を振り撒く好青年のアズベルト。
ただ、宝石を散らばめた装備を好む好事家で、その笑顔にひきつる者も多い。
2人目は、黒く染められた大剣を担ぎ女性を品定めしている筋肉隆々の戦士、ホーソン。
なにかと声が大きく、周りを威圧している事に自覚は一切無い。
3人目は、チームで唯一の紅一点。司祭服を着ている女性神官のカディア。
彼女は王国で最も布教しているアステリア教団に所属している。その為、チームには一時的に参加しているだけらしい。
幼児に対してのみ只ならぬ愛着を持ち、それ以外は価値が無いと言い放つ神官らしからぬ女性。
そして最後は、チームの最後尾で不満をひたすら愚痴っている眼鏡をかけた魔術士、チョウメイ。
好き勝手な行動ばかり取るチームのまとめ役な存在。
何故、彼がリーダーにならないのかと問うと、「俺にはカリスマ性が無い」と泣き出した。
魔術士としても優秀で、3属性の魔法を使える希少な複数持ちらしい。
「何にせよ、彼等が討伐隊に参加してくれるなら有り難い」
「ああ。この6番門は王都から離れ過ぎている上に、人気素材の獲物が少ないから、上級者達とは疎遠だからな」
「やっと門の開閉が再開されるな。稼げなかったから、残金が流石にヤバかったぜ」
出動制限されていた討伐隊も、彼等の到着で安堵の表情を見せている。
彼等のこれまでの実績が、それほどまでに有名になってきているのだ。
「それでは、対象の詳細を教えてもらえますか?」
早速チョウメイが、チームの代表として情報を得ようと冒険者ギルドに尋ねてきた。
「へぇ。罠や奇襲を仕掛けて来るホーンラビット?魔物の誘導も?兎にしては頭良すぎるな…。とりあえず持ち帰って、みんなと共有しないとな」
彼等の長い攻略戦が、始まろうとしていた。
間を置かず連続して鳴らすのは、緊急時に鳴らす叩き方だ。
「門を片方開けろ!避難してくるぞ‼︎」
壁上から衛兵が叫んだ。彼の視界下には、木々の間を必死になって逃げて来る討伐隊の姿が見えていた。
また、それを追う魔物や魔獣達の群れも見え、まさに緊急事態だった。
「各員、一斉斉射‼︎」
壁上に設置されている対魔獣用巨大弩が、一斉に放たれる。
全ては当たらずともその威力に驚き、魔物達の勢いが弱まった。
「た、助かった‼︎」
なんとか門を通過し逃げ延びたのは5名だけ。
その姿は皆、装備が剥がれ怪我が酷く、疲労困憊している。
「治療を受けながらで構わないから、状況を教えてくれるか?」
未だ近くで撃退する音が響く中、逃げ延びた5人は簡易処置を施されながら経緯を報告した。
そしてそれは、早馬により宿場町ウンタードリュッケンへと運ばれる。
「また、ネームド討伐隊の被害者が増えたな」
門からの報告を受けたザキニは、ギルドマスター達を集めた5度目となる会議を開くべく、机に突っ伏し寝ているジャンを起こした。
「んあ?」
「ジャン、また、緊急会議を始めるぞ」
「…またぁ?あ~、…分かった」
ヨダレを直ぐに拭い顔を引き締めると、重苦しい雰囲気となるだろう会議へと向かった。
会議室には、冒険者ギルド、ハンターギルド、商会ギルド、建設ギルド、鍛治ギルドのマスター達が待機していた。
「あ~、申し訳ない。…今回も討伐失敗の報告となりました」
ジャンは、席に着くなり頭を下げる。
今回も。そう、討伐隊がネームド討伐を開始してから、既に10日経っている。
「今回、襲撃にあったのは、中区域担当の冒険者2チームです」
「それは、中級魔物が多いとされる区域だね?」
「はい。本来なら、低級魔物のホーンラビットの生息地ではありません」
「前区域には、奴の巣が無いという予想が当たったわけか…。厄介だな」
「まぁ、あれだけ探して見つからない上に、罠士なみに罠が沢山仕掛けられでるんだ。かなりの知能があると考えるべきだろう」
ハンターギルドのマスターが、チラリとジャンの隣に居るエドガーを見る。
ネームドのホーンラビットが仕掛けている罠が、エドガーが盗まれた吊り罠の構造に似ているのだ。
素材は違うものの、至る所に隠されていて油断できない。しかも、解除中を狙って他の魔物に襲われる。
前日時点で、冒険者は10名、ハンターは13人が戦闘不能となっていた。(内6名は死亡)
ハンターの方が被害が多いのは、単独行動者が多いからだろう。
「今回も、他の魔物を利用して襲撃して来たようです。しかも中区域の魔物ですから、手練れな彼等でも対応が困難だったようです」
「…。やはり、A級の者達を呼ぶべきじゃないかね?」
「簡単に言うが、彼等を呼ぶにはそれなりの報酬が必要だぞ?商会ギルドが追加で報酬を出してくれるなら、可能かもしれんが?」
「我々は充分に出しているだろう!7割も出資しているんだぞ⁉︎そもそも、彼等を管理している筈のは、おたくらだろう?呼ぼうと思えば簡単に呼べる筈なのでは?」
「「…むぅ」」
冒険者ギルドとハンターギルドは反論しづらいだろう。
この支部ギルドには、それほどの発言権が無い。
ギルド実績としては、地方支部ギルドよりもかなり高い。それは当然、【原始の樹海】の恩恵が大きいと言える。
だがやはりまだ、街のギルド支部よりも下に見られているのだ。
「そう言えば、ハンターギルドには最近有名な【竜殺し】がいるな。彼を呼べないかね?」
「おいおい、奴はS級だし、奴を呼ぶなら倍額どころで済まないぞ?それに奴は、大物獲りの後は休暇を取る。まず依頼を受けないだろうな」
「では、冒険者で報酬が安くとも呼んだら来れそうなA級者は居ないのかね?」
「……。1チーム居る。…だが、彼等【斉天の矛】は、曲者ばかりでね」
「来てくれる可能性があるなら、声をかけるべきだろう。早く手を打たねば、ネームドをこれ以上調子に乗せてしまうと、手がつけられなくなる」
「私からもお願いします。ハンターギルドの方でも、参加していただける実力者を引き続き募集してください。商会ギルドと鍛治ギルドには申し訳ないないが、支援の追加を検討していただけないだろうか?」
ジャン達も頭を下げて真摯に頼む。
「…まぁ、やれるだけの事はやりますか」
「そうですね。せっかく立ち上げたばかりの町です。ここで腐らすには勿体無いですからね」
「全くだ。投資した額の倍以上を回収しないで撤退など有り得ん」
「ありがとうございます」
ギルドマスター達の協力を得られ、新たに討伐隊の増援と支援が決まった。
その日以降、残された討伐隊による作戦は一時的に停止扱いとなり、増援が到着するまで、樹海への出入りは制限された。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
制限されてから5日後。
町に複数の馬車が到着した。その中には、新たに手配された討伐隊の面々がいた。
「へぇ~、ここが新しい町?ウンタードリュッケンだっけ?」
「割と店があるんだな。おっ?あの呼び娘可愛いな!」
「バカね。可愛いっていうのは、あの大人の仕事を健気に手伝っている少年の様な子を称賛する為にある言葉なのよ?ハァ、ハア」
「お前達、落ち着いた態度でいてくれよ?指名依頼で呼ばれているのに、そんなは田舎者みたいで恥ずかしいだろ?」
馬車から降りてきた討伐隊の中に、一際目立つチームがあった。
「お、おい、あれって【斉天の矛】じゃないか⁉︎」
「ああ、王都のギルドじゃ、S級チーム昇格間違い無しの急成長株と話題らしいな」
斉天の矛のメンバーは4人。
リーダーは、赤髪で剣士タイプの笑顔を振り撒く好青年のアズベルト。
ただ、宝石を散らばめた装備を好む好事家で、その笑顔にひきつる者も多い。
2人目は、黒く染められた大剣を担ぎ女性を品定めしている筋肉隆々の戦士、ホーソン。
なにかと声が大きく、周りを威圧している事に自覚は一切無い。
3人目は、チームで唯一の紅一点。司祭服を着ている女性神官のカディア。
彼女は王国で最も布教しているアステリア教団に所属している。その為、チームには一時的に参加しているだけらしい。
幼児に対してのみ只ならぬ愛着を持ち、それ以外は価値が無いと言い放つ神官らしからぬ女性。
そして最後は、チームの最後尾で不満をひたすら愚痴っている眼鏡をかけた魔術士、チョウメイ。
好き勝手な行動ばかり取るチームのまとめ役な存在。
何故、彼がリーダーにならないのかと問うと、「俺にはカリスマ性が無い」と泣き出した。
魔術士としても優秀で、3属性の魔法を使える希少な複数持ちらしい。
「何にせよ、彼等が討伐隊に参加してくれるなら有り難い」
「ああ。この6番門は王都から離れ過ぎている上に、人気素材の獲物が少ないから、上級者達とは疎遠だからな」
「やっと門の開閉が再開されるな。稼げなかったから、残金が流石にヤバかったぜ」
出動制限されていた討伐隊も、彼等の到着で安堵の表情を見せている。
彼等のこれまでの実績が、それほどまでに有名になってきているのだ。
「それでは、対象の詳細を教えてもらえますか?」
早速チョウメイが、チームの代表として情報を得ようと冒険者ギルドに尋ねてきた。
「へぇ。罠や奇襲を仕掛けて来るホーンラビット?魔物の誘導も?兎にしては頭良すぎるな…。とりあえず持ち帰って、みんなと共有しないとな」
彼等の長い攻略戦が、始まろうとしていた。
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