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第1章 冒険者になります
その女、凶暴につき
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タケルは、台に並べたそのドロップアイテムの数々を、あらゆる角度から、ルーペを近づけたりして何度も凝視していた。
「どう?この辺一帯じゃ、お目にかかれない代物ばかりでしょ?」
確かにその通りで、本や資料では見たことはあるものの、実物は初めての物ばかりだった。
「これは全部、南西部の砂漠地帯アリラートスオでしか生息しない魔物ばかりのドロップアイテムだね!凄いよ、初めて見た!このサンドドラゴンの卵の殻なんて、かなりの希少物だし!」
ガラにもなく興奮してしまった。その様子をシャルロットは終始笑顔で見つめている。
「どうやって、アリラートスオの物を手に入れたんだい?」
ここ、トーキオから南西に馬で2日程行くと、広大な砂漠地帯が見えてくる。灼熱の砂漠地帯にも、当然人々が住んでおり、物流も当然あるのだが、トーキオ方面の砂漠には、リザードマンの巣が多数点在していて運搬は困難になっている。一方、砂漠を更に南下するとアリラートスオで1番栄えている港町があり、物流は主にこの港町から行われるのだけれど、港町が無いトーキオには物流は滞っているのだ。
「あら、私はゴールドマン、冒険者ギルドの最高責任者の娘よ。訳無いわ」
「そうか!父親に頼んで集めて貰ったんだね」
勝手に納得しようとするタケルを、シャルロットは殺気染みた目で睨む。
「集めて貰うなど、あり得ないわ!父には荷物持ちと馬車を頼んだだけ!冒険をして、死闘を体験し、報酬を手に入れたのは、このわたしよ」
タケルは冷たい圧力に凍りつき、辺りは静まり返った。
着ていたフード付きコートを脱ぐと、その下にはレザーの軽装防具を装着していた。
少女は、ゆっくりと台の上に2つのバッジを置いた。どちらも銅製で、シンボルは剣と盾、弓と矢が描かれている。剣士と狩人の職種バッジだ。
「タケル、私は物心付いた頃から冒険者をやってるの。いつもと違って、今日は着替えずに来たの。何故なら、あなたにこのお土産を直ぐに見せたかったから」
「うん、ありがとう、シャルロット。君は本当に強いんだね」
タケルは落ち着かせようと、苦笑いになりながらも微笑む努力をした。
「分かればいいの」
怒りが収まった少女は、普段の笑顔に戻った。タケルはドッと疲れが押し寄せるのを感じた。それから、彼女の冒険譚を聞かされながら、鑑定を進めていく。話の内容は、全く頭に残らなかった。想像すると、自分が魔物の姿になって彼女に追われる場面が浮かぶからだ。
「まだ持ってきていない荷物あるんだけど、それは明日にするわね」
代金を支払い、彼女はそう言い残して帰って行った。
「ちょっと、ちょっと!聞いたわよ!」
今日の仕事が終了すると、夕飯を待たずして案の定、姉が真っ先に口火を切った。
「アンタの彼女、冒険者達の中では超有名人らしいよ?!」
その後に続いて兄も寄ってくる。少し喜んでいる顔にイラつく。
「9歳にして一度、転職してるらしいから、最低でもレベル15超えてる。もう天才だな!」
「通り名まで付いちゃってて、【小さな女王】らしいわよ」
2人にイライラするのと同じくらい、シャルロットの存在が怖くなってくる。
「ギルドの最高責任者が父って、ウィルソン=ゴールドマンでしょ?あのパイナップル頭の」
「あぁ、あのやたらニコニコしてる筋肉馬鹿ね。性格は良さげじゃない?」
そういえば少し前に一度会った事がある。ギルドの資料の閲覧をお願いしに行った時だ。確かに、髪型は頂上だけフサフサと残る、正にパイナップル頭だった。近寄られて、暑苦しい体型と笑顔に圧倒されながらも、何度もお願いしたんだ。今思い出したが、その時に、羊皮紙に名前とか記入させられたんだった。
シャルロットが、タケルの名前を知ったのはきっとその時だろう。
「そんなにあの子が怖いか?」
最後に来た父がタケルの頭に手を置く。
少年はゆっくりと頷いた。
「好かれちまったのは、もうしょうがない。後は、相手を怒らせずに嫌われるんだな」
父のアドバイスも、最終宣告に聞こえる。彼女を怒らせれば、9歳の少女に大の大人も敵わない。
「どうしたいか決めるのはタケルだ」
「俺は・・・・」
結果、父のアドバイスに従う決心をした。今の俺には、この生活から逃げ出して生きていく力も、胆力も、財力も無い。
そして、今日も少女はやって来た。ヤバイ、心が折れそうだ。気を強く持ち、挨拶を口にする。
「いらっしゃい、今日は何を鑑定する?」
それから変わらぬ関係を維持し続けて、八年の月日が流れた。
タケル16歳。背は伸びて、体格も少し男らしくなってきたが、髪型や服装には無頓着になっていた。嫌われる為だが。
シャルロット17歳。彼女は、可愛い少女から大人の艶のある雰囲気を漂わせ、肩までだった髪は腰上まで伸びている。華奢に見えた子供っぽい姿は整った体型となって、美しい女性に育っていた。見た目は。
いつもと変わらない様に、彼女の持ち込んだ荷物の鑑定を進めていると、彼女は手を差し出してきた。
「タケルのバッジを見せて?」
差し出された掌に、タケルは取り出したバッジをそっと置いた。この時タケルは、鑑定職のレベルは16まで上がっていた。それを確認したのか、彼女は微笑むとバッジを返してこう言った。
「そろそろね。タケル、覚悟を決めてもらうわよ」
「・・・・はい??」
意味が分からず困惑していると、俺の手を掴み宣告する。
「タケルには、今から転職してもらうから」
瞬間、俺は久しぶりに身体の凍る感覚を思い出したのだった。
「どう?この辺一帯じゃ、お目にかかれない代物ばかりでしょ?」
確かにその通りで、本や資料では見たことはあるものの、実物は初めての物ばかりだった。
「これは全部、南西部の砂漠地帯アリラートスオでしか生息しない魔物ばかりのドロップアイテムだね!凄いよ、初めて見た!このサンドドラゴンの卵の殻なんて、かなりの希少物だし!」
ガラにもなく興奮してしまった。その様子をシャルロットは終始笑顔で見つめている。
「どうやって、アリラートスオの物を手に入れたんだい?」
ここ、トーキオから南西に馬で2日程行くと、広大な砂漠地帯が見えてくる。灼熱の砂漠地帯にも、当然人々が住んでおり、物流も当然あるのだが、トーキオ方面の砂漠には、リザードマンの巣が多数点在していて運搬は困難になっている。一方、砂漠を更に南下するとアリラートスオで1番栄えている港町があり、物流は主にこの港町から行われるのだけれど、港町が無いトーキオには物流は滞っているのだ。
「あら、私はゴールドマン、冒険者ギルドの最高責任者の娘よ。訳無いわ」
「そうか!父親に頼んで集めて貰ったんだね」
勝手に納得しようとするタケルを、シャルロットは殺気染みた目で睨む。
「集めて貰うなど、あり得ないわ!父には荷物持ちと馬車を頼んだだけ!冒険をして、死闘を体験し、報酬を手に入れたのは、このわたしよ」
タケルは冷たい圧力に凍りつき、辺りは静まり返った。
着ていたフード付きコートを脱ぐと、その下にはレザーの軽装防具を装着していた。
少女は、ゆっくりと台の上に2つのバッジを置いた。どちらも銅製で、シンボルは剣と盾、弓と矢が描かれている。剣士と狩人の職種バッジだ。
「タケル、私は物心付いた頃から冒険者をやってるの。いつもと違って、今日は着替えずに来たの。何故なら、あなたにこのお土産を直ぐに見せたかったから」
「うん、ありがとう、シャルロット。君は本当に強いんだね」
タケルは落ち着かせようと、苦笑いになりながらも微笑む努力をした。
「分かればいいの」
怒りが収まった少女は、普段の笑顔に戻った。タケルはドッと疲れが押し寄せるのを感じた。それから、彼女の冒険譚を聞かされながら、鑑定を進めていく。話の内容は、全く頭に残らなかった。想像すると、自分が魔物の姿になって彼女に追われる場面が浮かぶからだ。
「まだ持ってきていない荷物あるんだけど、それは明日にするわね」
代金を支払い、彼女はそう言い残して帰って行った。
「ちょっと、ちょっと!聞いたわよ!」
今日の仕事が終了すると、夕飯を待たずして案の定、姉が真っ先に口火を切った。
「アンタの彼女、冒険者達の中では超有名人らしいよ?!」
その後に続いて兄も寄ってくる。少し喜んでいる顔にイラつく。
「9歳にして一度、転職してるらしいから、最低でもレベル15超えてる。もう天才だな!」
「通り名まで付いちゃってて、【小さな女王】らしいわよ」
2人にイライラするのと同じくらい、シャルロットの存在が怖くなってくる。
「ギルドの最高責任者が父って、ウィルソン=ゴールドマンでしょ?あのパイナップル頭の」
「あぁ、あのやたらニコニコしてる筋肉馬鹿ね。性格は良さげじゃない?」
そういえば少し前に一度会った事がある。ギルドの資料の閲覧をお願いしに行った時だ。確かに、髪型は頂上だけフサフサと残る、正にパイナップル頭だった。近寄られて、暑苦しい体型と笑顔に圧倒されながらも、何度もお願いしたんだ。今思い出したが、その時に、羊皮紙に名前とか記入させられたんだった。
シャルロットが、タケルの名前を知ったのはきっとその時だろう。
「そんなにあの子が怖いか?」
最後に来た父がタケルの頭に手を置く。
少年はゆっくりと頷いた。
「好かれちまったのは、もうしょうがない。後は、相手を怒らせずに嫌われるんだな」
父のアドバイスも、最終宣告に聞こえる。彼女を怒らせれば、9歳の少女に大の大人も敵わない。
「どうしたいか決めるのはタケルだ」
「俺は・・・・」
結果、父のアドバイスに従う決心をした。今の俺には、この生活から逃げ出して生きていく力も、胆力も、財力も無い。
そして、今日も少女はやって来た。ヤバイ、心が折れそうだ。気を強く持ち、挨拶を口にする。
「いらっしゃい、今日は何を鑑定する?」
それから変わらぬ関係を維持し続けて、八年の月日が流れた。
タケル16歳。背は伸びて、体格も少し男らしくなってきたが、髪型や服装には無頓着になっていた。嫌われる為だが。
シャルロット17歳。彼女は、可愛い少女から大人の艶のある雰囲気を漂わせ、肩までだった髪は腰上まで伸びている。華奢に見えた子供っぽい姿は整った体型となって、美しい女性に育っていた。見た目は。
いつもと変わらない様に、彼女の持ち込んだ荷物の鑑定を進めていると、彼女は手を差し出してきた。
「タケルのバッジを見せて?」
差し出された掌に、タケルは取り出したバッジをそっと置いた。この時タケルは、鑑定職のレベルは16まで上がっていた。それを確認したのか、彼女は微笑むとバッジを返してこう言った。
「そろそろね。タケル、覚悟を決めてもらうわよ」
「・・・・はい??」
意味が分からず困惑していると、俺の手を掴み宣告する。
「タケルには、今から転職してもらうから」
瞬間、俺は久しぶりに身体の凍る感覚を思い出したのだった。
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