転職して冒険者始めました~俺の勇者への道のり~

テルボン

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第3章 地下宮殿

オイゲン王の誤算

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 オルトロスのいた広場から徐々に降り坂になっていた。左右の壁に無数の穴が開いていて、窓がはめ込んである。大窓、小窓、扉もある。いわゆる横穴式住居である。
 しばらく中央の通路を歩いていると、四、五人のドワーフの老人、女子供達が駆け寄って来た。

「ブルゲン王子!!ご無事でしたか!」

「おう、儂は何ともないぞぃ」

 ブルゲンが王子と呼ばれる姿は、ちょっと想像していなかった。思わずクスッと笑ったレベッカ達に、ドワーフ達の目線が集まる。

「王子、何ですかこの人間達は。ぞろぞろと、王子に失礼な態度を・・・って、ギャ~~ッ!?」

 目線の先には返り血まみれの筋肉大男と、こちらも血まみれの冷たい眼差しで威圧してくる女性。そりゃあ怖いよね。

「あ~やっぱりね。二人共、体を拭いてもらえるかな?」

 バックパックから水筒と布巾を幾つか取り出して渡す。

「とりあえず今は簡単に取って。後でちゃんと洗える場所を見つけるから」

「分かったわ」

 二人が顔などをゴシゴシと拭いている間、子供達は老人ドワーフの後ろに隠れて目を離さずにジッと見ている。

「すまんが、儂が留守にしていた50年の間に何があったか教えてくれんかの?」

「分かりました。とりあえず部屋の中で話をしましょう。どうぞこちらへ」

 老人ドワーフに、広い部屋がある家へと招かれる。入り口が低く屈んで入るしかない。中に入ると、天井は高くなり部屋も広々としている。部屋の中央には一枚岩の長テーブルがあり、木の切り株の椅子が沢山並べてある。ブルゲンを中央にして、一同は腰を下ろした。対面側に先程の老人ドワーフと、他の老人のドワーフが三人。女性のドワーフが二人席に着いた。

「ブルゲン王子、この人間達にも聞かれても宜しいので?」

「ああ、構わん。既に関わりある人間達じゃ。信用するに値するぞぃ」

 老人同士、目を見合わせると頷き、先程の老人が語り始める。

「貴方が宮殿を出られて監視の任に就いた後、オイゲン王は長男のセルゲイ王子にエルフとの和解役として派遣しました。小さかったセルゲン王子を残して、残りの王子達もそれぞれ違うの監視に就きました。それから15年程過ぎた頃、セルゲン王子が勝手にあの時代に行ってしまわれた。世界の生物の大半が死に絶えたあの時代に。オイゲン王は、エルフの里からセルゲイ王子を呼び戻し、セルゲン王子の捜索に向かわせました。セルゲン王子は無事見つかり連れ戻されましたが、セルゲイ王子は深手の傷を負われて帰って来ました。その傷が完治せずお亡くなりになりました」

「何という事じゃ!何故兄上の葬儀すら儂は呼ばれないんじゃ?!まさか、あの魔術師メイジか?」

「左様です。初めのエルフとの共同遠征に行った際に連れてきた人間の男の子です」

魔術師メイジは元々は向こうの世界の人間だったって事?それに、時代の監視って何なの?」

「お主達と使用したあの装置は、エルフとドワーフとで作り上げた時空間転移装置じゃ。このジーフ火山の特殊な磁場と、時間を操る特殊魔法、時空間魔法を掛け合わせて、時代ごと移動することができる代物じゃ」

時間旅行タイムトラベル?凄いな!って、ブルゲンが居た場所はじゃあ?!」

 まさか!と息を呑むタケル。それを肯定する様にオイゲンは頷く。

「儂が監視して居たのは、古代のジーフ火山。あの時代はまだ富士山と呼ばれておったの。件の事が起こる二千年前の時代じゃ」

あの場に居合わせた五人は絶句する。美しかった壮大な富士山や樹海は、今や度重なる噴火や地熱により山の形は変わり、植物は枯れ果て荒野となったというのだから無理も無い。

「聞きたい事がいろいろあるじゃろうが、今は待つのじゃ。すまぬ、話を続けてくれんかの」

「はい。件の時代から連れて来た少年ノゾムにオイゲン王は新たな息子の様に扱った。同じく歳の近かったセルゲン王子とも仲が良い関係だったと聞いております。時が経ち偉業と呼べる様な早さで魔術師メイジとなったノゾムは、ブルゲン王子が旅立たれる少し前からセルゲン王子の教育係に任命されていました。立派に成長するセルゲン王子を見たオイゲン王は、ノゾムに絶対の信頼を置いていた様です。そして、あの騒動が起きました」

「ウム。件の時代に行ったことだの?あの魔術師メイジが絡んどったのか?」

「キッカケはノゾムの産まれた時代を見たいと行動したセルゲン王子でした。ノゾムも止める形で同行したらしいですが、長期に向こうに滞在した事と、迎えに出向いたセルゲイ王子が負った傷で亡くなった事で、オイゲン王により幽閉されました。それから各王子を呼び戻す予定でしたが、オイゲン王が突然病に倒れてしまいました。その後直ぐにセルゲン王子が王の代理に就きました。ノゾムの幽閉も解かれ、セルゲン王子の腹心として側に置かれたのです」

「そこからは、私が話します」

隣に座っていたドワーフの女性が軽くお辞儀をする。

「私はオイゲン王が病に倒れた後に、お世話を任された者です。王の容態は170歳と高齢の為に、かなり深刻な状態でした。それでも王子は魔術師メイジと部屋に篭って話ばかり。そんな状態が続き一年が過ぎた頃、オイゲン王は私にこう申されました。『儂はもう長くは無い。セルゲンは以前とは別人じゃ。彼奴に王位を継がせる訳にはいかぬ。各王子を呼び戻し、王位を次男ブルゲンに継がせる準備をせよ』と。私は直ぐに使いの者を各王子に送り出しました。ところが、誰一人として使いの者は帰って来ませんでした。恐らく見張られていたのかもしれません。冬を迎える頃、オイゲン王は息を引き取りました。王は今際の際にこう嘆いておられました。『古代の件の時代に、我々は行くべきでは無かった。破滅を齎した人間を排除するべきとした我々と、歴史を変えるべきでは無いと考えたエルフとの決別を境に、我々の運命は大きく変わった。我々だけで挑んだあの戦いで多くの戦士達が死に、エルフ達の考えを理解して傍観すると決めたが、あの世界よりノゾムを連れて来たのが全ての誤算であった。彼奴は人間の愚かな力、破滅の力をセルゲンに誤って伝えた。セルゲンはその力を使い全てを支配しようと愚かな思想に目覚めてしもうた。誰か、彼奴を止めてくれ』と」

「父上・・・。それで、他の弟達はどうしておるのじゃ?」

「貴方様を除く二人の王子は、セルゲン王子に呼び戻されました。そこで王位は自分が継いだと公言し、王子達もそれを認めました」

「うん?儂はどういう扱いになっとるんじゃ?」

「ブルゲン王子は任務先の時代で人間達と戦い、名誉の死を遂げた事になっております」

「ブッ!!死んだ事になっとるんか?!」

思わずブルゲンは吹き出してしまった。

「セルゲンは、儂は説得できんと踏んだんじゃな?」

「恐らくそうだと思われます。あの装置への通路も通行禁止となりました。セルゲン王子が王となり20年が経ち、王はあの時代の少し前に攻め入ることを明言しました。男達は戦士として集められ、第三王子のホスマン王子が、第四王子のグズマン王子と三百人の戦士達の総大将として全軍で侵攻を開始したのです」

「何と愚かな。個々の力は人間に勝るとも、人間の恐ろしさはそこではないと分かっているだろうに」

「おっしゃる通り、力の差は歴然でした。近づく前に魔法の様な攻撃によって多くの戦死者を出しました。ところが、あの魔術師メイジが参戦してから戦況は一変しました。人間の指揮系統を奪い、今は世界の半分がドワーフに従っています。魔術師メイジはその後、王子に後を任せて帰還しています。それが一年前の話です。そして、セルゲン王は我々女子供、戦士に向かなかった老人達をこの住宅街から出ない様に命じました。宮殿内には魔物を放ち、街の入り口には魔獣を居座らせて外部との連絡は取れないまま、今に至ります」

「そうか、そんな事になっておるとは全く知らなんだ。儂は50年間を無駄に過ごしたやもしれんな。入り口の魔獣はこの人間達が倒したので安心せい。今日はこの人間達に宿を貸してくれんかの?今後どう動くにしても、彼等の助けが無いとどうにもならんでのぅ」

「分かりました。直ぐに用意致します」

老人達は部屋を出て行った。ブルゲンは一人立ち上がり、タケル達に頭下げる。

「皆の衆、和平交渉どころの話ではなくなった。この時点でクエストは中止となるが、どうかこの後も儂に力を貸してくれんかの?儂一人では馬鹿な弟達を止められん」

 タケルは皆を見る。皆、頷き笑顔になる。何を今更と。

「もちろん、報酬は頂くよ。それに、歴史を変えられたら俺達は消えてしまうだろうしね」

 タケルはブルゲンの前に手を差し出す。ブルゲンはしっかりと握手を交わした。

「宜しく頼むぞぃ!」

 つい握手に力が入り、タケルは悲鳴を上げた。

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