転職して冒険者始めました~俺の勇者への道のり~

テルボン

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第4章 新旧時代大戦

ドワーフの伝説

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「うりゃああああっ!」

 ゴツゴツした握り拳が、髭だらけの顎をまともに捉えて打ち抜き、ドワーフの男は部屋の壁に頭から突っ込んだ。

「拳骨をくれてやっても、目を覚まさんか」

  脳が揺れて身体の自由が効かない状態なのに、ドワーフの戦士の目は血走ってこちらを睨む事を止めようとしない。
 既に部屋の中には自由を奪われたドワーフが五人横たわっている。
 ブルゲン達は侵入した建物の三階の一室に居た。

「おっさん!次も来るぞ!」

 部屋の扉から通路を覗き、ジョンが手招きをしている。
 すると、凄い勢いでマイクとレベッカが部屋に飛び込んで来た。その直ぐ後を二人のドワーフが追いかけて来て、部屋に入った瞬間に仕掛けたワイヤーに足を取られてつんのめる。
 そのバランスを崩したタイミングでジョンとマイクで一人の動きを封じて、もう一人をブルゲンが先程と同じように顎を打ち抜いた。

「それで、先はどうなってる?」

「全く冗談抜きで勘弁してほしいわ!通路に面しているのは同じ部屋ばかりだし、各部屋にドワーフいっぱい居るし!タケルが居ないだけでこんなに進めないなんて思ってなかったわ」

 レベッカは肩で息をしながら、イライラをぶつけてくるので、まぁまぁとマイクがなだめに当たった。

「さっき進んだ先に見えたんだけど、この建物、幾つか棟が分かれていて、建物と建物を繋ぐ通路を見つけたわ」

 少し落ち着きを取り戻したレベッカは、部屋にあった黒板にチョークで簡単に見取図を書いて説明する。その姿を見てマイクはふと思いつく。

「この建物はひょっとすると古代の学校なのかもしれないな。」

「学校?センダールの王都にある魔術学校みたいなやつ?」

 未来では、あまり学校という機関がない。
 生活に必要な知識は家族内で教育され、主に本等で知識量を増やすのが一般的である。魔術の素養があり、その中でも更なる学問や魔法に秀でた者のみがセンダール王国直属のジュピター国立高等魔術学校等の数少ない教育機関に入る事が出来るのだ。

「まぁ学校だとすれば、教室ばかりのこの棟より、まだ奥の棟に行けば王が居そうな部屋もあるんじゃないか?」

「そうと分かれば長居は無用じゃ。外に出たリザードマン達が戻る前に移動するぞぃ」

 ブルゲンは倒れているドワーフのツノ付き兜を捥ぎ取り自分に装着する。見た目がドワーフの戦士達と見分けがつかなくなった。
 
「レベッカ、案内頼むぞ」

 レベッカを先頭に、ブルゲン達は移動を開始した。
 通路は片側に教室が並び、反対側には飛び飛びで窓があった場所に板が貼り付けられていて、外の様子を確認する事は出来ない。
 音をなるべく立てないように、慎重にかつ早く移動する。
 しばらく進むと彼女は立ち止まり、先程見つけた隣の棟への通路を指差す。

(よし、進もう)
ジェスチャーでそのまま進めと合図を送る。 
 渡り通路もやはり窓部分は板が貼り付けてあり、飛び飛びに松明の灯りが揺れているだけの明るさだ。
 最後尾にブルゲンが付き、警戒しながら通路を渡り始めた。
 丁度中央辺りまで来た時、後方から音が聞こえて全員振り返る。

「グズマン⁈」

 後方に現れたのは、褐色の皮鎧レザーアーマーを身に纏い、特大の両手斧を持つ第四王子のグズマン王子だった。
 更に彼の背後にドワーフ達が集まってきた。

「グルァァァァッ‼︎」

 グズマンは目の焦点が合わずにキョロキョロと辺りを見回した後、ジョン達に向きなおり言葉にならない叫びを上げて走り出した。

「いかん!お前達走れ‼︎」

 ブルゲンが言うよりも早くジョン達は向こう側に走り出していた。

「グガァァァァッ‼︎」

 グズマンの両手斧が轟音と共に空を切る。すると、目に見える程の衝撃波がブルゲン達に向かって飛び出した。

「むぅぅぅぅんっ‼︎」

 すんでのところでブルゲンは両手斧で衝撃波を受け流した。弾かれた衝撃波は通路の壁を破壊する。
 途端に通路の強度が落ち、足元がぐらついた。空いた穴から雪が吹雪いて来る。

「おっさん!急げ!そのままだと通路が崩れ落ちるぞ!」

 通路を渡りきったジョン達が叫んでいる。その証拠にブルゲンの足元にも亀裂がミシミシと入り出した。

「こりゃいかん!」

  振り向くとグズマンが第二波の構えをしている。ヤバイとブルゲンは全速力で走りだした。

「グガァァァァッ‼︎」

 グズマンの第二波が放たれたと同時に通路は音を立てて崩れ出した。

「おっさぁぁぁん‼︎」

 通路はグズマン、ドワーフ達を巻き込んで崩れ落ちた。

「ジョン!早く引っ張れ!」

「おっさん⁈」

 崩れた通路の下を覗き込むとブルゲンがマイクのワイヤーフックを腕に巻き付けて、空中でぶらぶらとぶら下がっていた。
 崩れ落ちる瞬間にマイクがブルゲンにワイヤーフックを飛ばしたのだ。
 直ぐにワイヤーを掴み全員で引き上げる。

「マイク、助かったぞぃ」

 無事引き上げられたブルゲンは、ガハハと笑いマイクに礼を言う。
 崩れた瓦礫が山となり、グズマン達は下敷きになったのだろうかと下を見ると、積った雪がクッションになったらしく、瓦礫の隙間から這い出てくるドワーフ達の姿が見えた。

「大丈夫そうだの。さて、気をとりなおして先へ進むかの」

 今度の棟は、通路の壁や柱をドワーフ達が改装したらしく、やや地下宮殿の雰囲気を思い出した。
 教室らしい入り口も無く、しばらく進むと大きな両開き扉が現れた。
明らかに豪華に作られた扉に緊張が高まる。

「開けるぞぃ」

 扉は軋む音も立てずにすんなりと開いた。先ず視界に飛び込んで来たのは、まるで演劇ホールのように座席が一階の高さまで設置されている。
 その先にあるのは当然、舞台なのだが、そこには存在感ありすぎな者が待っていた。

「ホスマン‼︎」

 舞台の中央に鉄柱が立てられ、そこに何重にも鎖でグルグル巻きにされた一人のドワーフが居た。

 そのボロボロな姿の弟を見るや否や、ブルゲンは一人、走り出していた。

「ま、まさか。ブルゲン兄さん⁈」

  意識が朦朧としているのか、声の聞こえた場所を探している。

「おう、儂じゃ!ブルゲンじゃ!」

 舞台にたどり着いたブルゲンはホスマン王子の肩を掴んだ。

「に、兄さん、いけない!此処にはアイツがいるんだ!」

 彼がそう掠れた声で叫んだとほぼ同時に、後方から轟音が響いた。
 振り返ると扉の周辺に粉塵が舞い上がっている。

 そこにあるのは巨大な影

 大蛇のような顔に蝙蝠のような翼をばたつかせ、手足の先端で光る爪は黒くとても鋭利だ。
強靭な鱗に包まれた体躯は伝説の名に恥じないだろう。
 氷の精霊の加護を受けた影響で、肌は淡い青色に染まっている。

その正体は…

「ファフニール⁈まさか!禁呪の竜言魔法を使ったのか⁉︎」

 ドワーフの王家一族には、竜言魔法という代々受け継がれるも使用を禁止されている魔法がある。
 かつてファフニールと呼ばれたドワーフが己の欲の為に編み出した外の魔法。己の体を毒を吐くドラゴンへと変化させ、独占欲の為に大切なものを次々に奪い、結末には滅ぼされる運命を辿った。
 オイゲン王家も数あるドワーフ族の王家の一つであったから、この竜言魔法の事は知っていた。しかし、口伝による一子相伝が決まりであり、オイゲン王は既に亡くなった。

「兄上…必ず此処にやって来ると思っていました」

 低く図太い声をファフニールが発した。こちらを見据えたまま、ゆっくりと舞台へと降りてくる。

「まさか…⁉︎セルゲンなのかっ⁈御主がなぜ竜言魔法を知っとるじゃ‼︎」

「決まってるでしょう?父から相伝したのですよ」

 ファフニールは飛び上がり舞台を強襲する。素早く交わしたブルゲンは入り口へと走る。

「生きとるか⁉︎」

 瓦礫の下敷きになった仲間達の安否は、最悪の事態にはなっていなかった。

「勝手に殺すなよ⁈」

 ジョンとマイクが瓦礫を背に受けて、レベッカがティムを庇っていた。

「ティムが咄嗟にプロテスで肉体強化してくれたからギリ耐えられたぜ」

 とは言いつつも、頭や背中から大量の出血が見える。かなりの痩せ我慢を見せているのだろう。

「詠唱破棄だったから効果が低かった!今すぐ回復に移るから、ブルゲンさんはアイツの注意を惹きつけていてください」

「分かった!ティム坊、頼むぞぃ!」

 ブルゲンはティムの力強い表情を見て、気持ちを切り替えて再び舞台へと走り出した。

「セルゲーーーン‼︎御主の根性を儂が叩き直してやるわーい‼︎」

 セルゲンはクカッとドラゴンの顔で笑うと、ブルゲンに向かって飛び掛った。
 粉塵が舞い上がり二人は異様な兄弟喧嘩を開始した。

 
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