【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第4章 魔王と呼ばれてるなんて知らなかったよ⁈

055話 手紙

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「この辺で休憩にしましょうか」

   辺りを見回しても、この辺一帯には敵の姿は見えない。ソーリンは馬車をゆっくりと止め、木陰へと馬達を休ませる。

「二人は昼食の準備してくれる?」

    馬車から降りたアラヤは、亜空間収納より食材と調理器具を取り出していく。
    アヤコさんがその中にあった折り畳み机を組み立てて、サナエさんは水樽から桶に水を入れて、野菜を洗い出し皮を剥く。
    その間に、アラヤはアースクラウドで簡易的な竃を作り火を起こす。三人に、これらの動作は慣れたもので、あっという間に調理できる環境を整えた。

「はい、馬達の飲み水を持って来たよ」

「ありがとうございます。皆さん、手際が良いですよね。本当に感心しますよ。まるで熟練の旅人のようです」

「そう?」

    馬達の脚元に水桶を二つ置くと、4頭は美味しそうに飲んでいる。水の中に少量の塩と砂糖を入れてあるのだ。

「さてと、今のうちにトイレを設置しようかな」

「トイレを⁈」

「馬車の一部を改造して良いかな?」

「それは、構いませんけど…」

     アラヤは馬車に乗り、亜空間収納から板材と大工道具を取り出して、瞬く間に個室を作る。続いて便器を取り出して、床に穴を開けたら設置を始めた。

「ええっ?新しい便器、完成したんですか?」

「メリダさんに頼んで、簡単なやつを作って貰ったんだ。ソーリンが村に来るまでに、いろいろと準備したんだよ」

    便器を取り付けた後は、馬車の下部に溜桝代わりの大樽を取り付ければ大丈夫だ。もちろん取り外しは可能だ。溜まった場合の処理は、穴を掘って埋める考えだ。本当ならスライムを一匹入れて、ある程度浄化したいとこだけどね。

「モドコ店長に頼んで、石鹸とポプリも完成してるよ」

「ポプリ?」

「香りの良い花やハーブを乾燥させて、精油を少し垂らして瓶に保存した物だよ。実物を見せた方が早いね」

    アラヤは瓶詰めのポプリを取り出して、ソーリンに渡す。

「ああ、良い香りですね。しかも、色とりどりの花びらが見えて、飾り物としても素晴らしい。是非、これも商品化しましょう」

「ははは、その話は後にして、とりあえずはこのトイレ用として使うから置くね」

    貯水タンクに水を溜め、扉に内鍵を取り付ければ完成だ。使用する際に俺に一言声をかけてくれれば、ジャミングで防音にもできるからね。って、言いづらいかな。

「ご飯出来たよ~!」

   皆んなは、モドコさんの手作り石鹸で手を洗い、折り畳み椅子に座った。本日の昼食は、猪肉の肉野菜炒め(味噌味)だ。クセが強いが、なかなかに美味しい。
    サナエさんは、ベスさん達みたいに調理の技能を持っていないけど、この調子で頑張っていればそのうちに習得できるかもしれないね。

「ソーリン、地図持ってる?」

「ええ、ありますよ」

    食後の休憩中、現在地を確認しようと地図を借りる。広げてみて驚いた。至る所に文字が書かれていて、どれもその土地の名産や注意書きである。

「現在地はこの辺りか。地図を見ると近くに村があるね。だけど、地図にはばつ印が書いてあるよ?」

「ああ、これは私達バルグ商会の行商人仲間で作った地図でして、ばつ印の付いている村は、交渉をするような物産が無いという意味です」

「なるほどね。商人目線で作られた地図って事だね」

「そうですね。でも、もちろん放置してるままではないですよ?良い人材が居ないか、商品の生産場所として使えないかとかも考えて、時折寄るようにしているらしいです」

「ふ~ん。ソーリンは、今回が初めての外仕事だろう?ヤブネカ村以外には、一度も訪れて無いんだよね?地図の書き込みだけを鵜呑みにしてて良いの?」

「アラヤさんの仰りたい意味は分かります。しかし、私達ドワーフは無駄を嫌う性格です。それがいかに意味のある無駄だとしても、目的優先で先を急ぎたいですね」

「分かった。決めてるならそれで良いよ。寄らない場所の情報収集は、俺達が町に着いた時に聞き込み調査をして集めるよ。後々には役に立つ情報もあるかもしれないからね」

    同行者として、サポートできるところはしっかりしないとね。まぁ、情報収集ならアヤコさんが得意そうだし、任せてみようかな。

「さて、落ち着いた事だし、再び出発しようか?」

「はい、行きましょう」

    四人は後片付けを済ませて、再び港町カポリに向けて出発した。


       ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇



「ガルム様、王宮のミネルバ王女様より伝令が面会に参っております」

「ミネルバ王女から?」

    デピッケルのバルグ商会本社。社長室に居たガルムは、秘書から予期せぬ相手からの伝令と聞いて顔をしかめた。

「御通ししてくれ」

「かしこまりました」

    しばらくして、秘書が1人の男性を連れて来た。服装は、平民らしい簡素な服装だが、その内にある筋肉質な体型は、兵士である事が容易に分かる。何より、ガルムの鑑定で見れば一目瞭然だけど。

「お初にお目にかかる、ガルム殿。私はミネルバ様に仕える護衛兵の1人、リッセン。この度は、ミネルバ様より、貴殿に言付けと手紙を預かっている」

「ふむ…。ミネルバ王女様とは面識は無いのですが…伺いましょう」

     王都に住む貴族ならともかく、王族と会う機会など商人には滅多に無い事だ。ガルムも当然、王族と会った事は無い。なのに、これはどういう事だろうか?

「先ずはこの手紙をどうぞ」

    渡された手紙には、ラエテマ王国の国印が蝋に押されている。間違いなく本物の王族の証だ。
     ガルムは封を切り、手紙を取り出す。中には、まだあまり得意では無い子供の字で文が書かれている。


『ガルム=バルグ様、突然、文を出す事をお許し願いたい。私は、最近の貴殿の活躍振りに、とても感心しております。貴方が出品する数々の品々は、とても興味深い物ばかりで、特に将棋という玩具は宮中でも流行る程です。是非とも、一度来訪して頂き、制作秘話などをお聞かせ願いたい。心よりお待ちしております。   ラエテマ王国第3王女 ミネルバ=ラエテマ』

    噂に聞くお転婆娘のミネルバ王女が、こんな文を興味深いという理由で書くとは思えない。

「私がお預かりしている言付けは、『是非とも、製作者あるいはアイデアを出した者。それらの方々も連れて遊びに来て下さい』との事です」

    本命はそっちか。これは、王女と仲が良いとされるカオリ=イッシキの差し金かもしれない。
    以前、アラヤ君がカオリ=イッシキの事を聞いてきたことがあったな。その時ははぐらかされたが、やはり同郷の者だった可能性が高いな。

「生憎と、製作者は息子と行商の旅に出ていまして、しばらくは帰らない。直ぐには来訪出来そうに無い事をお伝え下さい」

「分かりました」

   秘書が紅茶を入れて持って来たが、結構ですと軽く一礼をして、リッセンは早速帰っていった。

「ふむ、いささか問題発生ということかな?少々、王女の周辺を調べてみるべきですね」

   ガルムは、紙を取り出して羽ペンを走らせる。スラスラと書き進めるが、ふと手を止めて窓の外を見た。

「今頃は、どの辺りに居ますかね?旅の楽しみを実感している頃でしょうか…」

    フフッと、少しだけ父親の笑みをこぼしたが、ガルムは再びペンを走らせる。これから先は、より気を張らねばならないな。彼のその表情は、どこか楽しげに見えた。
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