【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第4章 魔王と呼ばれてるなんて知らなかったよ⁈

057話 港町カポリ

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    小高い丘から漁港へと、下るように広がっている町並みの中、ソーリン達の馬車は石畳の町道をゆっくりと進んで行く。見下ろす港には、幾つもの漁船が停泊していて、その中に一隻だけ、大きな貨物帆船が目立って停まっている。
    しかし港町にしては、少しばかり活気が足りない気がする。行き交う馬車の数も、朝市の賑わいも閑散としているのだ。
    何より、人々の目に活力を感じない。惰性で続けているような働きぶりにも見える。

「…この町、大丈夫なのか?」

「私にも分かりません…と、とにかく、この町の商工会ギルドに顔を出して見ましょう」

     町中を、看板を探しながら進んで行くと、港よりの場所にギルドの看板を見つけた。ソーリンは馬車を停め、アラヤと二人でギルドへと入る。
    ギルドの中には、客が一人も居ない有り様だ。入って来た二人の姿を見て、受付で居眠りをしていたギルドの男は、慌ててよだれの跡を拭いた。

「い、いらっしゃいませ。本日はどういった御用でしょうか?」

「私はバルグ商会の者です。新しい契約人員の登録と、物資の調達に来ましたのでカポリの店舗の閲覧を求めます」

「それでは、商工会の会員証、ポスカーナ領商業・運輸業許可証の提示をお願いします」

   ソーリンは、カードを2枚、羊皮紙の巻物を2枚取り出して渡す。受付の男は、内容を確認後、羊皮紙に写し書きをして記録している。

「それでは、こちらがカポリの営業許可を持つ店舗表でございます」

   受付の男は、分厚い資料集を持ってきた。それに、カポリの町にある全ての商店が記載されているらしい。ソーリンがそれに目を通して始める。

「バルグ商会さんは、一年ぶりの来訪ですね?前回は大量の塩と干した海藻を取り引きなさってますね。今回も同様に?」

    過去の記録帳を見ながら、受付の男が尋ねる。どうやら各商会の取り引き記録もあるらしいな。

「ええ、前回と同様の品と、後は品を見てからの判断ですね」

    ソーリンは資料集を閉じて返すと、受付の男に顔を寄せる。

「それで?港に停泊している貨物船は、どちらの商会の持ち物で?」

「ゔ、ヴェストリ商会の貨物船です」

「ヴェストリ商会の貨物船?ヴェストリ商会の貨物船は、普段はグラーニュ領の大きな港街ドネチアに停泊しているはず。カポリは港町ですが、その主体は漁港です。貨物船が必要になる程の資源や物資は無いはず。あの貨物船の積み荷の中身は何ですか?」

「さ、さぁ?私に聞かれましても…」

    その後は何を聞いても、自分は知らないと言い張るのみだった。諦めて外に出ると、ソーリンは何やら考えている。

「この町で取り引きしたら記録されるんじゃないの?」

「はい。その筈なんですけど、おそらく記録は無いでしょうね。明らかに、怪しいです」

「それならば、当事者に聞いてみるのが一番ですよ?」

    中での会話を聞いていたのか、アヤコさんは、笑顔でそう言うと、港にある貨物船を指差す。

「船員さんに聞いてみましょう」

    アラヤ達は、率先して歩いていくアヤコの後に続き港へと移動する。
    港には、貨物船の前に大量の木箱が並べられていて、多くの船員達が箱を担いで桟橋を行き来している。その船員達を指揮するドワーフが、一人の船員を怒鳴りつけていた。

「何をやってる、さっさと積み込まんか!言われた事を何一つできないとは、全く使えないノーマルだな‼︎」

    怒鳴られているのは、痩せこけた男性で、腕や足に鞭で打たれたような傷が見える。

「お前達には既に対価を払ってるんだ!その分はしっかり働け‼︎」

    ドワーフは、バチンと鞭を男性の前に打ち込んで威嚇する。男性はヨロヨロと立ち上がり木箱を掴んだ。

「⁈」

    掴んだ木箱は軽く、男性の傷ついた腕でも楽々と持ち上げられる。中身が空になったんじゃないかと不安にかられたが、このまま運んでしまおうと桟橋を登っていった。

「アヤコさん、今グラビティ使ったでしょ?」

「はい。あの仕打ちには、ちょっと見兼ねてしまって」

「それで?どうやって積み荷を調べるの?」

「私があのドワーフに聞いてきます」

「えっ?大丈夫なの⁈」

「はい。ちょっと待ってて下さい」

    アヤコさんはそう自信ありげに言って、スタスタとドワーフの元に歩いて行く。アラヤ達は物陰に隠れて、その様子を伺う事にした。

「あの~、ヴェストリ商会の方ですよね?」

「ああん?何だ貴様は⁈」

「はい、私はマジドナ男爵様の使いの者でございます」

「マジドナ男爵?男爵の使いが何の様だ?」

「ヴェストリ商会は、今回の運航に男爵の贈答品もちゃんと乗せてらっしゃるのですよね?」

「何?そんな話はヨウジの旦那からは聞いてないぞ?」

「そんなはずは無いでしょう。今回の件は相手方との親睦を深めようという贈答品です。ゴウダ様には、しっかりと念押しをされていた筈ですよ?」

「そ、そうなのか?」

「積み荷リストを見せて下さい。こちらで確認します」

「お、おう」

    ドワーフは確信が持てなかったが、万が一のことを考え素直にリストを手渡した。
    リストを受け取ったアヤコは、ペラペラとリストを巡っていく。

「ああ、ちゃんと書いてあるじゃありませんか。安心しました。中身は割れ易い代物ですから、くれぐれも大事に運んで下さい」

    そう言って、リストをドワーフにぐいっと押し返す。その押しの強さにドワーフは呆気に取られている。
    そのままアラヤ達の元へと帰ってきたアヤコは、戻って来るなりふーっと、大きな息を吐いた。

「ああ、緊張した~」

「全然、緊張してるようには見えなかったけどね?で、何か分かった?」

「はい。今から写しますので、羊皮紙を1枚下さい」

「写す?」

    アラヤから羊皮紙を受け取ったアヤコは、念写を羊皮紙に向けて発動する。すると、アヤコが見た積み荷のリストが、羊皮紙に青い光で浮かび上がった。

「こ、これは⁈」

「念写の技能スキルです。私が許可した人達にのみ、文字や映像を視認できます。これは、貨物船に積まれる予定の積み荷のリストです」

    そのリストに目を通したソーリンは、首を傾げる。どれも、カポリの町には売られて無い食糧やお酒といった物ばかりだが、大した価値がある物でも無かったのだ。

「拠点のドネチア港から、わざわざこの最南端のカポリまで貨物船を移動してまで、運ぶ品々とは思えませんね」

「積み荷とは違う、別な理由があると?」

「そうですね…このカポリを拠点にして、何処かに輸送を行なっているんじゃないですか?」

「それってダメな事なの?」

「ラエテマ王国内なら問題ありません。敵対しているグルケニア帝国とかの場合は、許可なく行えば密輸出扱いになり重罪です。しかし、グルケニア帝国に運ぶなら、ドネチア港の方が近くて便利が良い筈。目的地がグルケニア帝国で無いなら、このカポリ港から近いのはズータニア大陸、魔人族と亜人族が住んでいる大陸です」

「別な大陸か。その場合もやっぱり密輸だよね。そういえば、ヨウジ=ゴウダの名前が出てたよね?指示したのはヨウジって事かな」

「おそらくは、そうですね。でも、積み荷が大した事の無い品々なのが気になります。自分達の物資の調達もありますし、しばらく滞在して、もう少し調べてみましょう」

「よし、そうと決まれば、宿屋の手配と食事だね!」

    アラヤは、自分の最重要目的の食事の番だと、俄然張り切って食事処探しに歩きだした。

「この匂いは焼き魚!どうする?」

    後ろ歩きをして、アヤコ達に尋ねていると、アラヤは通行人とぶつかってしまった。

「ごめんなさい」

「大丈夫だよ、少年。ただ、前を向いて歩くように気をつけるんだよ?」

    ぶつかった相手は、金髪の白人男性で冒険者らしい格好をしていた。但し、派手な赤マントと青の鎧を身につけているので、かなり目立っている。彼の仲間なのか、魔術士と弓使いの女性達が彼の後ろに控えていた。

「はい、失礼します」

    サッと頭を下げてその場から離れるアラヤは、顔を蒼白にしていた。
    ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ‼︎
    あの男、鑑定が!魔王か⁈勇者か⁈どちらにせよ、早く離れよう!

「やっぱり、違う店にしようか」

    アラヤは、そう言って冒険者達から逃げる様に早歩きで移動した。アヤコ達も直ぐに後を追いかける。
    まるで、はしゃぐ弟を追いかける兄弟達のような光景を、遠目に見ていた冒険者の男は、ただ暖かく見守っていた。
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