【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第6章 味方は選べと言われたよ⁈

081話 弦月の牙

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   早朝、二台の馬車がバルグ商会の前に準備されていた。ソーリンの大型荷馬車と、バルグ商会が普段より使っている荷馬車だ。
    そして今、ガルムさんが大型荷馬車内を見回り中だ。

「御者台が柔らかな座り心地になっている?これは?」

「フォレストベアの鞣し革で作った袋に、ビッグフロッグの保護粘膜液を入れた防振クッションです。荷台の座席にも取り付けてあります」

   長時間座っても疲れないように作った物で、プニョプニョとした座り心地は慣れたら癖になりそうだ。

「ふむ、これは馬場鞍にも代用出来そうですな!」

    ガルムさんは、早速商品化を考えているようで、ニンマリとした笑顔で指でそろばんを使う動作をしている。

「ほおっ!これは素晴らしい!」

   次は室内トイレを見て興奮している。作ったのはあのメリダさんだから、簡単なやつと言って作ったこの便器も、【業物】まではいかないが、【上物】のできだ。その上、簡易水洗でスライム浄化槽。何より、馬車にトイレを付けるという発想は無かったらしい。

「この小瓶の香りも良い。これも商品化できますな!そして何よりもこの便器の出来の良さ!売れますぞ!」

「トイレ自体は試作品です。製品化用は、メリダ村長が既に【業物】クラスを用意していると思います」

「流石ですな~。来月の訪問が楽しみですよ」

    とても満足そうに馬車を降りたが、自分が乗る馬車を見上げて一変、ふぅと残念そうに肩を落とす。気分的には、こっちの馬車に乗りたいのだろう。

「ガルムさんも、こちらに乗ってはいかがですか?まだまだ広いので大丈夫ですよ?」

「いやいや、それでは馬車を用意してくれた商会の皆と御者に申し訳が無い。それに、そちらにも積み荷を乗せねばならないですからな」

「でしたら、防振クッションの予備を使って下さい」

    荷台の座席の余り分を外して、ガルムさんに手渡す。もちろん、不機嫌そうなドワーフの御者さんの分もだ。

「おお、ありがとう!」

    早速、御者さんにも渡して取り付けさせている。半信半疑でそろりと腰を下ろしていくが、座り心地を体感したら、不機嫌そうな顔が一変して驚きの顔になっていた。
    喜んでもらえて何よりだ。

「さぁ、積み荷を早く積み込んでしまおう」

    従業員のドワーフ達が、倉庫から幾つもの木箱を運び出し、荷馬車へと積み込んでいく。全てデピッケルに運ぶ為の積み荷で、王都でしか手に入らない素材や商品ばかりだ。

「お待たせしました!」

   商品チェックをするガルムの元に、4人の男女がやって来た。見た目だけで、彼等が冒険者達だと分かる。

「冒険者ギルドから、荷馬車護衛の依頼で派遣されて来ました。リーダーのアルバスです。後、スタン、ザップ、アニの4人で任に当たります。依頼ではデピッケルまで一台とありましたが、護衛の荷馬車は二台という事でしょうか?」

「いや、こっちの荷馬車だけで構わないよ。大きな荷馬車には、我が社の護衛が居るからね」

   明らかに大きな荷馬車の護衛ではなく、普通サイズの荷馬車を任された事に、多少の違和感を感じているようだ。それは無理もない、自分達が任されたのは護衛が難しい方では無いのだから。

「そう、ですか。分かりました。では、同席する荷馬車の積み込みを加勢しましょう」

   リーダーのアルバスがそう言うと、残りの3人も頷き積み荷の積み込みを加勢しだした。
    時折、こちらの様子を伺っているようだったけど、アラヤ達は既に全員が乗り込んだ後だったので、ソーリン以外は誰も見られていない。中では、カオリさんが今仮死状態中なので、中を見られたら非常に困る。一応、見た目は積み荷に似せて作った棺桶の中に、入ってもらっている。

「準備は終わったかな?それでは出発してくれ」

    先頭はガルムさんが乗る荷馬車で、冒険者達も同席している。ソーリンの話だと、帰りはどうやら王都行きの馬車にまた乗るらしい。往復の護衛依頼だったようだ。
    次にソーリンが御者を務める荷馬車だ。少し距離を取り、ゆっくりとついて行く。このペースだと、デピッケルまで10日はかかりそうだ。

「それにしても、4頭牽引の荷馬車なんて珍しいですよね、リーダー」

「ああ、積み荷だけでなく大勢の人も運べそうだな」

「だけど乗ってるのは、御者も入れて僅か5人みたいだぜ?」

    ザップが、気配感知で後ろの荷馬車を探っていた。当然そこに、仮死状態のカオリさんは含まれていない。

「フロウとトーヤが休んでるとはいえ、俺達はAランクパーティ【弦月の牙】だぜ?何で小さい方の馬車なんだ?」

「余程の実力者が同席してるんじゃない?私が見て来ようか?」

    やはり気になっているようで、ザップとアニがそわそわしだした。しかし、アルバスは駄目だと2人を座らせる。

「そもそも、依頼人の近くでする話では無いだろう?それにザップ、パーティ名を出すなら、先ずは与えられた任務をこなすべきだろう?」

    この2人は好戦的で困る。いつもなら、やんわりとした口調でフロウが止めるのだが、今回は別件の仕事でトーヤと共に休んでるからなぁ。

「ふふふ、別に貴方達を過小評価している訳ではありませんよ?あちらには食料が主で、価値の高い積み荷は全てこちらに積んでいるのですから」

    やはり、依頼人であるガルムさんに聞こえていたようだ。恥ずかしいよとアルバスは2人を睨む。2人は苦笑いをして軽く頭を下げた。反省してほしいものだ。



    一方で、後続の荷馬車の荷台でも、ゆっくりとした移動速度に、アラヤは少し飽き飽きしていた。

「ムーブヘイスト使えないと、やはりゆっくり感じるね」

「ガルムさんに、アラヤの亜空間収納持ちだと教えていれば、積み荷のスペースも全部無くなるから、荷馬車一台で済んだんじゃないの?」

    サナエさんの意見も、確かに一理あるのだけれど、後々のことを考えたら正解では無い。

「私は父に話すのは、止めといた方が良いと思います。流石の父でも、亜空間収納に対しては、目の色が変わると思いますから」

   話を聞いていたソーリンが、操縦をしながら話に参加してきた。

「そっかぁ、ごめんね?安易な考えを言っちゃったね」

「いえ、正直私も、便利さを知っていますから、通常通りの走行だと無駄な気は感じます」

「まぁ、最も危険な王都からは出れたんだ。ゆっくりでも、もう大丈夫だろうさ」

    二台の馬車は王都を出て、デピッケルに向けて広野を進んで行く。2時間程は何も無く順調に進んでいた。
    辺りが段々と荒地に変わりだした頃、先を走るザップの気配感知に、敵の反応が現れ始めた。もちろん、後ろにいるアラヤとクララも遅れて感知した。
    数は凡そ前に20、左右に20体ずつだ。
    この周辺は土地が疲弊している為に、草木があまり育たない。だから、その敵の姿は草木に隠れる事なく、遠くからでも確認できる。豚に似た人型の魔物、オークだ。決して豚の亜人族では無い。

「オークですね。アラヤさん、 どうしますか?」

「前の出方を見ようか。走り抜けるなら魔法で援護狙撃、停めて迎え撃つなら俺とクララが出るよ」

「分かりました」

    すると、前の馬車はゆっくりと速度を落とし始めた。どうやら迎え撃つようだ。ソーリンも直ぐに速度を落としていく。

「サナエさんとソーリンは馬車を守ってくれ。アヤコさんは、全体の状況を確認しながら念話で指示して」

「「分かりました」」

    完全に停止した荷馬車から、アラヤとクララは飛び降りた。

「クララ、馬車から離れて敵を追い過ぎるなよ?」

「分かり、ました!」

 『どうやら前の冒険者達は、左右2人ずつに分かれて対応するつもりらしいです』

「なら、こっちも分かれて対応しよう。クララは右側を頼む」

「うん!」

     オーク達は冒険者達から剥ぎ取ったのか、防具を装備している者もいる。武器も棍棒だけでなく、斧や大剣を持っている者もいる。
     戦い慣れしている奴もいるのかもしれない。だが、そんな奴は隙を見て美味しく頂くだけだ。

「さっさと蹴散らそう!サンドストーム‼︎」

     砂が多い場所だけに、サンドストームは直ぐに膨れ上がり敵を飲み込んでいく。体を砂塵で研磨されて悲鳴を上げるオーク達。

「おお、後ろの護衛には、魔術士が居たのか。俺達も負けずに良いところ見せなきゃな!」

「「ああ!」」

    アルバス達も士気を上げ、オークの群れとの戦闘を開始した。
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