【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

文字の大きさ
114 / 418
第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

110話 羅刹鳥

しおりを挟む
「アラヤ君、あれで良かったのですか?」

「…うん、カオリさんと因縁がある寛容の勇者と違って、大怪我をしているという分別の勇者には特に恨みがあるわけでもないし、何より俺は勇者達と殺し合いをしてるわけじゃないからね」

 悩んだ結果、アラヤは卵を売り渡す事に決めたのだ。金額はギルドに依頼した金額と同額の白金貨2枚大金貨5枚。
 本来なら時期外れな上に、保存状態が良かったので、更に大金貨5枚を増やしてくれた。どうやって保存していたのかを聞かれたので、バルグ商会の魔導冷蔵庫を宣伝しておいたけど、実際には半年なんて期間、冷蔵庫でも保たないけどね。

「それよりも、話の流れで討伐隊に加えられた事は、皆んなに悪かったと思ってる」

「それは、あのオネエ兵長が悪いわよ。断れない様に仕向ける気満々だったじゃない」

「どちらでも変わりませんよ。アラヤ君なら、断ったとしても人助けはしてしまうでしょうから」

 俺って流され易いみたいだね。アラヤが少し沈んでいると、カザックが教会から戻って来た。

「うむ、待たせたな。結局、美徳教団内の守りは、彼等の警護団だけで十分らしい。相変わらず部外者は入れたがらないようじゃな」

「逆に自信もあるのでは?」

「そうかもしれんの。昨晩の戦闘でも、冒険者ギルドのAランクに引けを取らない者も、見かけたからの」

 カオリの話からしても、両教団は魔王や勇者の護衛や世話をする者達の育成をしていた節がある。
 各地の教団施設を守る者達が居てもおかしくは無いだろう。

「まぁ、ワシらは違う区域を担当するから構わないがな。アラヤ殿達は冒険者では無いが、その実力は折り紙付きじゃ。冒険者ギルドの討伐隊の連中に、担当区域の説明を決めに今から向かうから、アラヤ殿も来てくれんかの?」

「う~ん、いろいろ言われそうな気がするけど…分かりました」

 戦いの実力主義の組織に、ただでさえ子供に見られる上に女連れって、ムカつく対象の定番ではなかろうか?

「ん?あれは…」

 冒険者ギルドに向かう途中、アラヤの魔導感知に反応があった。
 それは民家の二階の壁。張り付く様に二箇所にある。
 しかし外見はただの壁で、何も無い様に見える。更に熱感知を兼用すると、低温の青い姿がハッキリと見える。

「アイス!」

 アラヤはその二箇所に素早くアイスを掛ける。すると、アイスを掛けた場所に、氷漬けになった羅刹鳥が現れて、地面へと落下して割れた。

「な、な、何じゃ⁉︎」

「どうやら、羅刹鳥が壁に擬態していたようですね」

「何と⁉︎この魔物は擬態できるのか!アラヤ殿、よく見抜けましたな!」

「ああ、魔導感知に反応があったので…」

「魔導感知?気配感知ではないのか?」

 あれ?魔導感知って魔物特有の技能なのかな?それとも希少なのかな、気配感知の上位互換ってなってたし。

「それなら、熱感知なら分かりますか?」

「おお、鍛治師や調理人とかが持っている技能だの」

「その熱感知で見れば、人体や獣とは違う、低温の魔物の場所が特定できますよ?」

「何と!そういう敵の見つけ方もあるとは盲点じゃった!ん?もしやそれで、奴等は眼を狙うのかの?」

 なるほど、気配感知や魔導感知は反応は脳内に浮かび上がるが、鑑定や熱感知は見える範囲内に映し出される。つまり、眼を使う技能なのだ。眼が無くなれば、当然技能は使えない。擬態を使える羅刹鳥にとって、眼さえ奪えば見つかる事は無いと考えているのかもしれない。

「だとすれば、早急にその者達を保護し、羅刹鳥発見の協力をお願いせねばならんの!」

 アラヤは馬車を急ぐように急かされ、冒険者ギルドへと急ぎ向かった。途中、他の羅刹鳥も見つけて退治しながら進み、着くまでに計5羽の羅刹鳥を凍らせた。
 ギルド内に入ると、案の定、アラヤ達は冒険者達から好奇の目にさらされる。
 実際のところ、周りを気にしているのはアラヤだけで、アヤコ達はしれっと気にも留めていないのだけれど。

「おう、皆集まっとるの?今から緊急クエストの区域分けを決める。リーダーはワシの所に集まれ」

 討伐隊は、どれもAランクとBランクの混合で7~8人で組まれている。それが6チームいるようで、その代表の6人が会議室に集まった。部屋に来た6人の視線は当然、カザックの隣にいるアラヤに向けられている。

「この地図に塗られた色と、同じ色の紙を引いた者がその区域の担当じゃ」

 カザックは、机の上にオモカツタの街の地図を広げて、8枚の紙をくじ引きと同様に色を隠して差し出す。
 次々と、冒険者達が紙を引いて自分の担当区域を確認している。残った2枚は、アラヤとカザックのものだ。
 アラヤが引いた紙は赤で、わりと教団に近い場所が担当区域になってしまった。因みに、教団の近辺や防壁近辺には衛兵隊が配備されるらしい。

「カザックさん、その子供も討伐隊として区域を任せるのか?」

「ああ、急遽だが、彼等にはワシから頼んだ。彼等の実力はワシが保証する」

「マジか…いくら人手不足とはいえ、子供には荷が勝ちすぎるだろ?」

「彼等は既に、ギルドに来るまでに羅刹鳥を6羽仕留めたぞ?」

 カザックは、彼等の前に先程凍らせて殺した羅刹鳥の死体を出す。
 代表達は驚き、アラヤをマジマジと見る。

「この見た目で信じられない。まさか、他の冒険者ギルドの奴なのか⁈」

「いえ、冒険者ギルドには属していません。俺は、バルグ商会の人間で商業ギルドに属しています」

「商業ギルドだと⁈あそこに戦える者達が居るのか⁈」

「ええぃ、落ち着け!彼等はトーマスが欲しがる程に特別なのだ!ワシも勧誘したが、商業ギルドに取られたに過ぎない。実力は断然、冒険者ギルド向きの人間じゃ」

 冒険者ギルド本部のギルマスであるトーマスの名が出て、彼等はアラヤを見た目と違い侮れない奴と認識した様だ。

「今から、彼が発見した羅刹鳥の見つけ方を教える」

 カザックは、熱感知による魔物の発見の仕方を教え、熱感知の技能持ちの協力を得るようにと、彼等に教えていた。

「では、各自己の判断で休息を取りつつ夜に備えよ!」

 話し合いが終わると、アラヤ達はさっさと担当区域に移動した。その理由は、食事とカオリの技能コピーが目的である。
 制限時間があるものの、アラヤの技能を丸ごとコピーできるカオリの特殊技能ユニークスキルは凄い。その時間内は、技能数はアラヤを超しているのだからね。
 それと、アラヤもあと少しの捕食吸収で、カオリの魔術の素養(魔力消費半減)とダブル魔法が手に入りそうなのだ。
 宿屋を見つけて部屋を借り、カオリが仮死状態デスタイムから覚めると、アラヤが彼女を説得に掛かる。
 カオリは顔を赤らめながらも、仕方ないわねと承諾してくれた。他の嫁達も、カオリ以外との感覚共有で楽しんだ。
 結果、アラヤは魔術の素養を手に入れることができた。
 後はしっかりと食べて、夜へと備えるだけである。嫁達が少々、疲れ過ぎる心配があるけどね。

 時間が経ち、辺りが暗くなり始める。すると、魔導感知に次々と反応が現れ出した。どうやら敵も動き出したようだ。
 オモカツタの街に、長い夜が始まろうとしていた。

しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...