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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

110話 羅刹鳥

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「アラヤ君、あれで良かったのですか?」

「…うん、カオリさんと因縁がある寛容の勇者と違って、大怪我をしているという分別の勇者には特に恨みがあるわけでもないし、何より俺は勇者達と殺し合いをしてるわけじゃないからね」

 悩んだ結果、アラヤは卵を売り渡す事に決めたのだ。金額はギルドに依頼した金額と同額の白金貨2枚大金貨5枚。
 本来なら時期外れな上に、保存状態が良かったので、更に大金貨5枚を増やしてくれた。どうやって保存していたのかを聞かれたので、バルグ商会の魔導冷蔵庫を宣伝しておいたけど、実際には半年なんて期間、冷蔵庫でも保たないけどね。

「それよりも、話の流れで討伐隊に加えられた事は、皆んなに悪かったと思ってる」

「それは、あのオネエ兵長が悪いわよ。断れない様に仕向ける気満々だったじゃない」

「どちらでも変わりませんよ。アラヤ君なら、断ったとしても人助けはしてしまうでしょうから」

 俺って流され易いみたいだね。アラヤが少し沈んでいると、カザックが教会から戻って来た。

「うむ、待たせたな。結局、美徳教団内の守りは、彼等の警護団だけで十分らしい。相変わらず部外者は入れたがらないようじゃな」

「逆に自信もあるのでは?」

「そうかもしれんの。昨晩の戦闘でも、冒険者ギルドのAランクに引けを取らない者も、見かけたからの」

 カオリの話からしても、両教団は魔王や勇者の護衛や世話をする者達の育成をしていた節がある。
 各地の教団施設を守る者達が居てもおかしくは無いだろう。

「まぁ、ワシらは違う区域を担当するから構わないがな。アラヤ殿達は冒険者では無いが、その実力は折り紙付きじゃ。冒険者ギルドの討伐隊の連中に、担当区域の説明を決めに今から向かうから、アラヤ殿も来てくれんかの?」

「う~ん、いろいろ言われそうな気がするけど…分かりました」

 戦いの実力主義の組織に、ただでさえ子供に見られる上に女連れって、ムカつく対象の定番ではなかろうか?

「ん?あれは…」

 冒険者ギルドに向かう途中、アラヤの魔導感知に反応があった。
 それは民家の二階の壁。張り付く様に二箇所にある。
 しかし外見はただの壁で、何も無い様に見える。更に熱感知を兼用すると、低温の青い姿がハッキリと見える。

「アイス!」

 アラヤはその二箇所に素早くアイスを掛ける。すると、アイスを掛けた場所に、氷漬けになった羅刹鳥が現れて、地面へと落下して割れた。

「な、な、何じゃ⁉︎」

「どうやら、羅刹鳥が壁に擬態していたようですね」

「何と⁉︎この魔物は擬態できるのか!アラヤ殿、よく見抜けましたな!」

「ああ、魔導感知に反応があったので…」

「魔導感知?気配感知ではないのか?」

 あれ?魔導感知って魔物特有の技能なのかな?それとも希少なのかな、気配感知の上位互換ってなってたし。

「それなら、熱感知なら分かりますか?」

「おお、鍛治師や調理人とかが持っている技能だの」

「その熱感知で見れば、人体や獣とは違う、低温の魔物の場所が特定できますよ?」

「何と!そういう敵の見つけ方もあるとは盲点じゃった!ん?もしやそれで、奴等は眼を狙うのかの?」

 なるほど、気配感知や魔導感知は反応は脳内に浮かび上がるが、鑑定や熱感知は見える範囲内に映し出される。つまり、眼を使う技能なのだ。眼が無くなれば、当然技能は使えない。擬態を使える羅刹鳥にとって、眼さえ奪えば見つかる事は無いと考えているのかもしれない。

「だとすれば、早急にその者達を保護し、羅刹鳥発見の協力をお願いせねばならんの!」

 アラヤは馬車を急ぐように急かされ、冒険者ギルドへと急ぎ向かった。途中、他の羅刹鳥も見つけて退治しながら進み、着くまでに計5羽の羅刹鳥を凍らせた。
 ギルド内に入ると、案の定、アラヤ達は冒険者達から好奇の目にさらされる。
 実際のところ、周りを気にしているのはアラヤだけで、アヤコ達はしれっと気にも留めていないのだけれど。

「おう、皆集まっとるの?今から緊急クエストの区域分けを決める。リーダーはワシの所に集まれ」

 討伐隊は、どれもAランクとBランクの混合で7~8人で組まれている。それが6チームいるようで、その代表の6人が会議室に集まった。部屋に来た6人の視線は当然、カザックの隣にいるアラヤに向けられている。

「この地図に塗られた色と、同じ色の紙を引いた者がその区域の担当じゃ」

 カザックは、机の上にオモカツタの街の地図を広げて、8枚の紙をくじ引きと同様に色を隠して差し出す。
 次々と、冒険者達が紙を引いて自分の担当区域を確認している。残った2枚は、アラヤとカザックのものだ。
 アラヤが引いた紙は赤で、わりと教団に近い場所が担当区域になってしまった。因みに、教団の近辺や防壁近辺には衛兵隊が配備されるらしい。

「カザックさん、その子供も討伐隊として区域を任せるのか?」

「ああ、急遽だが、彼等にはワシから頼んだ。彼等の実力はワシが保証する」

「マジか…いくら人手不足とはいえ、子供には荷が勝ちすぎるだろ?」

「彼等は既に、ギルドに来るまでに羅刹鳥を6羽仕留めたぞ?」

 カザックは、彼等の前に先程凍らせて殺した羅刹鳥の死体を出す。
 代表達は驚き、アラヤをマジマジと見る。

「この見た目で信じられない。まさか、他の冒険者ギルドの奴なのか⁈」

「いえ、冒険者ギルドには属していません。俺は、バルグ商会の人間で商業ギルドに属しています」

「商業ギルドだと⁈あそこに戦える者達が居るのか⁈」

「ええぃ、落ち着け!彼等はトーマスが欲しがる程に特別なのだ!ワシも勧誘したが、商業ギルドに取られたに過ぎない。実力は断然、冒険者ギルド向きの人間じゃ」

 冒険者ギルド本部のギルマスであるトーマスの名が出て、彼等はアラヤを見た目と違い侮れない奴と認識した様だ。

「今から、彼が発見した羅刹鳥の見つけ方を教える」

 カザックは、熱感知による魔物の発見の仕方を教え、熱感知の技能持ちの協力を得るようにと、彼等に教えていた。

「では、各自己の判断で休息を取りつつ夜に備えよ!」

 話し合いが終わると、アラヤ達はさっさと担当区域に移動した。その理由は、食事とカオリの技能コピーが目的である。
 制限時間があるものの、アラヤの技能を丸ごとコピーできるカオリの特殊技能ユニークスキルは凄い。その時間内は、技能数はアラヤを超しているのだからね。
 それと、アラヤもあと少しの捕食吸収で、カオリの魔術の素養(魔力消費半減)とダブル魔法が手に入りそうなのだ。
 宿屋を見つけて部屋を借り、カオリが仮死状態デスタイムから覚めると、アラヤが彼女を説得に掛かる。
 カオリは顔を赤らめながらも、仕方ないわねと承諾してくれた。他の嫁達も、カオリ以外との感覚共有で楽しんだ。
 結果、アラヤは魔術の素養を手に入れることができた。
 後はしっかりと食べて、夜へと備えるだけである。嫁達が少々、疲れ過ぎる心配があるけどね。

 時間が経ち、辺りが暗くなり始める。すると、魔導感知に次々と反応が現れ出した。どうやら敵も動き出したようだ。
 オモカツタの街に、長い夜が始まろうとしていた。

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