【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第8章 何処へ行っても目立つ様だよ⁈

114話 対ベヒモス戦①

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「まだ、後2人居るよ」

 アヤコが、グラビティで軽くした瓦礫を念動力で次々と退かして行き、サナエと兵長が瓦礫の隙間から、意識を失った衛兵をゆっくりと引き出してヒールによる回復をする。

『ごめん、にいや。ちょっと逝きそうだわ』

 兵長達とは別れて救出に当たっていたアラヤ、カオリ、クララの3名は、作業を止めて瓦礫の影に隠れる。

「カオリさん、いつものように亜空間に収納する前に、今回氷塊にした魔物を全部出してくれる?俺の亜空間に入れ直すから」

「うん、いつもごめんね。肝心な時に助けにならなくて…」

「そんな事ないよ、カオリさん。君にはいつも助けられているから。安心して逝って良いよ?」

 氷塊を全て出し終えたら、パタリと倒れるカオリ。アラヤは直ぐに全てを亜空間収納へと移した。

「しかし、カオリ様居ない、戦力ダウンです」

「そうだね。相手はあのデカい化け物だし、やるだけやって駄目なら、逃げるしかない」

 2人は、激しい戦闘音が聞こえ始めた方を見ると、魔術士が浮かせた瓦礫を踏み台代わりにして、勇者がベヒモスの攻撃を躱している。肩にいるリリトを狙っているようだが、その距離を縮める事ができないようだ。

「アラヤ君、全員の回復は終わりました」

 アヤコが、生存者を全て見つけて治療が完了したと知らせに来た。後ろから、兵長が2人の衛兵に肩を貸しながらやって来る。

「ねぇ、一度上に上げてもらえないかしら?部下達を再編して、ベヒモスを止めなければならないわ」

「分かりました。来た時と同様に、羅刹鳥に掴まって下さい。他の人はまだ体力が戻っていないようですので、背中を掴ませてもらいますね?」

「う、うわっ⁈」

 攻撃対象である魔物の羅刹鳥に、甲冑を掴まれて体が浮き上がる。もちろんグラビティで軽くしているのだが、彼等は恐怖で体が震えている。

「じゃあ、お願いするわ」

 一度で慣れたのか、部下の手前の見栄なのか、グスタフは臆する事無く飛び立った。部下達も、叫ぶのを必死に堪えて後に付いて行った。残りの寝ている兵達も、羅刹鳥に掴ませて後を追わせた。兵長が去った事で、ライトの明かりが弱り始める。

「さて、俺達はどうしようか?」

「勇者に勝ち目はあるのですか?」

「どうだろう。ベヒモスというあのデカい化け物は流石に無理だと思うけど。狙いはあの女の魔物だろうね」

「あの女の魔物さんを倒したら、あの象さんも帰ってくれるの?」

「あの質量を歩いて帰すのは困難だろうね。やっぱり、アンデッドとかみたいに召喚したんじゃないかな?だから還す方法も、あの魔物にやってもらうしか無いかもしれない」

「それって無理なんじゃ?」

 確かに、お願いしたところで絶対に従ってはくれないだろうなぁ。別の方法を探すべきかな。

「とにかく、今のままでは勇者が体力が尽きてお終いだろうね。俺だけ、ちょっと加勢に行こうかな」

「私達も行きます」

「…分かった。だけど、あくまでもサポートだけで、近付いたら駄目だよ?そもそも、あの怪物には、俺達の攻撃は大したダメージにはならないと思うから」

「分かってるわ、私は戦士達の鼓舞と精霊の祝舞で、遠方からサポートする」

「私は、勇者の仲間の魔術士の様に、瓦礫の足場を用意します」

「私は、ご主人様の、足になります」

「うん、そのやり方なら大丈夫そうだね。でも念のため、ライトをベヒモス周辺だけに飛ばすから、明かりの届かないギリギリのラインに居て、長時間一箇所に止まらないでほしい。そっちを狙われたら守れないかもしれないから」

「はい、十分に気を付けます。ですが、アラヤ君も、今回は弱肉強食は使用しないでくださいね?」

「えっ、何で⁈」

「やっぱり、使う気でしたね?今回はダメですよ。特にあの象さんは最悪です。確かに凄い技能を持っている可能性は有りますけど、1つの技能をランダムで手に入れても、気を失う期間が今までの比じゃない気がします。この場でアラヤ君が気を失えば、私達は全滅するでしょう」

 確かに、ベヒモス程の魔物に弱肉強食を使用したら、どんな状態になるかは分からない。でも、あの女の魔物に弱肉強食を使用するのは、勇者も見ているから難しいだろうな。

「分かった。今回は特殊技能ユニークスキルは使用しないよ。肉を斬り持ち帰る方向で考えようかな。じゃあ皆んな、準備は良いかな?」

 アラヤはクララの背に飛び乗り、ライトを複数作り出した。それを、リリトの目前を通るように飛ばしてから、ベヒモスの姿を照らし出す。

「新手?フン、勇者共々ベヒモスの餌食にしてあげるわ」

 アラヤは先ず、勇者の元に駆け寄った。アラヤの突然の登場に、分別の勇者ウィリアム=ジャッジは面食らっている。

「勇者様、私は今回の討伐隊のアラヤ=グラコと申します。我々の部隊が、及ばずながら助力致します」

「君は……分かった、だが無理はするなよ?」

 ウィリアムは、少年を一瞬見覚えのある顔だと感じたが、今はそれを追求している場合では無いと、思いを振り払った。

「私がベヒモスを撹乱させます。その隙に、主犯の魔物をお願いします」

「ああ、任せろ!」

 アラヤはクララと共に、浮遊している瓦礫の足場に飛び乗り、魔鉱石による中級魔法を連発する。

「何あの子!⁉︎氷河期アイスエイジとフレイムフォール⁉︎中級魔法の魔石なんて超高価な物を、何であんな子供が持っているの⁉︎」

 勇者の後ろに居た魔術士が、ベヒモスの攻撃を躱しながら惜しみなく魔鉱石を使用するアラヤに驚く。
 中級魔法の魔石だと、白金貨2~5枚の価値があるらしい。魔鉱石は魔石より純度が低いと見なされるが、それでも白金貨1枚の価値はある。
 見た目が子供のアラヤが使っていれば、驚くのも無理もない。

「あの鼻の攻撃が厄介だな。思うように近付けない」

「当然でしょ?それに、厄介なのは鼻だけじゃ無いわよ?」

 巨大な鼻は、細い部分でも直径が3m程の太さで、足場が少ない空中では、躱すタイミングを間違えたら終わりである。それに時間差で二本の象牙も襲って来る。
 それを、躱せるギリギリのタイミングで、クララが瓦礫を踏み台に飛んだ。

「危ない!」

 躱した先に、鼻よりも巨大な拳が勢いよく迫っていた。咄嗟に自分達にグラビティを掛けて軽くし、拳の風圧にホットブローの風圧も利用して回避する。

「今のは危なかった!」

 回避してそのまま腕に飛び乗り、肩に向かって駆け上がって行く。狙えるなら、アラヤが攻めても何の問題もない。

『クララ、離れて!』

 クララの背を離れて、アラヤは走りながら全身竜鱗防御使用になる。その他にヘイストも掛けて万端の状態だ。
 腰から竜爪剣りゅうそうけんを抜き、姿が見えた途端に【魔爪連撃】で襲撃した。

「甘いわよ‼︎」

 しかし相手も予想していたようで、長い死神の鎌の様な武器で三撃とも受け止められた。
 お互いに睨み合い、押し飛ばして距離を取る。確かに間近で見ると、サキュパスの様な姿ではあるが、鑑定には死霊と出る。


 リリト

種族 死霊(最上位魔霊)  age  116歳

体力 480/480
戦闘力 226/226
耐久力 231/231
精神力 153/153
魔力 124/525
俊敏 253/253
魅力 63/100
運 29

職種 悪霊召喚士 LV3

技能スキル  従魔召喚 LV5 調教 LV3 魅了魔眼 LV3 魔術の素養 LV2 闇属性魔法 LV3 魔法耐性 LV2 毒耐性 LV2 集団引率術 LV4

    ステータスでは勝っているものの、油断はできない相手だ。
 5、6合と斬り結ぶが、経験の差か、思うように決まらない。
 ならばと、腕をバルクアップして力押しに出ようとしたら、ダークブラインドを使用され視界を奪われた。

『アラヤ君、バックステップ‼︎』

 瞬歩を使用してバックステップする。盲目耐性により、視界も直ぐに回復する。
 すると、目前に迫っていたリリトに、アラヤは防御の体勢を取る。

「盲目効かないなら、魅了してあげるわ!」

 眼の色が赤紫になり、LV3の魅了魔眼を使用して来た。マズイ事にアラヤの精神耐性はLV2だ。以前、サナエの舞で体験した、体の感覚が奪われそうになる状態に入った。

「さぁ、そのまま魅了されなさい」

 仕上げよと、アラヤに密着しようと近付いた瞬間、リリトは翼を広げて後ろに飛んだ。元いた場所に立て続けに矢が刺さり、ベヒモスの肩の皮膚を凍らせた。

「チッ!他にも邪魔が居た様ね!」

 その僅かの隙に、クララがアラヤを回収する。アラヤは少し頭が痛む程度で、魅了から解放された。

「耐性が足りなくて、ちょっと危なかった。ありがとう、皆んな」

 再び、リリトから離れてしまう結果になった。そうなると、当然ベヒモスによる攻撃が再開する。

「君達ばかりに負担してもらう訳にはいかないな!」

 ベヒモスの鼻の一撃を躱した勇者が、左の象牙を付け根から一閃で斬り落とした。

グォォォォッ⁉︎

「あの太さの牙を、一閃⁉︎」

「貴女のおかげで魔力が回復したわ。だから、彼の技能も私の最大強化魔法も使用できた」

 サナエの精霊の祝舞で、勇者達は減っていた魔力を回復できたらしい。魔術士は杖を素早く動かして、勇者の足場を次々と先回りさせていく。この先読みコンビネーションは、2人が培ったものだろう。
 勇者は示された道筋を、もの凄い速さで飛び移りながらベヒモスの頭上まで一気に上がった。

「俺は分別の勇者、そこに境があるのなら、俺に分別できぬ物は無い!分別斬‼︎」

 迎え撃とうとしたベヒモスの拳攻撃を、躱した勇者は手首ごと斬り落とした。
 ひょっとして、この勇者ならベヒモスを倒せるんじゃない?そう思ったのだが、勇者の汗が半端じゃない事に気付いた。
 明らかにまだ、前の傷を回復しきれて無いのか。どうやら、まだまだ決着はつきそうにないね。
 
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