【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第10章 いつのまにか疑われた様ですよ⁈

140話 天然温泉

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 天然の温泉があるという場所に着いた3人は、その湯煙の量に驚いた。

「これって入れる温度なの⁈」

「だ、大丈夫じゃ。湯溜まりは幾つもあるでの。川に近い湯溜まりなら温度も下がっとる筈じゃ」

 バナンは急ぎ足で、各湯溜まりの湯加減を確認していく。ここまで来て混浴を実現できないとか冗談では無い。

「おおっ、この湯加減ならいけるぞ!」

 サナエとクララは、年寄りの必死な頑張りを見せられて、もはや断る事は有り得ないと知る。

「しょうがないわね。クララ、入ってあげるとしましょう」

 その言葉を聞いて上機嫌になったバナンは、自前の入浴道具を準備して、早速服を脱ぎ体を洗い始めた。
 サナエ達も道具を取り出し、服を脱ぎ始める。ただし、着替えと体を洗う所を見られたくないので、バナンにダークブラインドを使用する。

「ぐわっ⁉︎なんじゃ⁈何も見えなくなったぞぃっ⁉︎」

 慌てるバナンを余所に、2人は体を洗い始める。確かに湯加減は丁度良く、少しツルツルする湯ざわりだ。

「ちゃんとした温泉だわね」

 2人が湯に浸かったところで、バナンの視界を遮っていたダークブラインドがようやく解ける。

「むっ、…生着替えは終わってしもうたか…。やむを得ないが、混浴は本来欲情を持ち込むのはマナー違反。紳士に徹して混浴せねばのぅ」

 混浴マナーとして、男性も女性も秘部は隠すのが一般的で、タオル巻きか湯浴み着を着ている。
 そして、異性をジロジロと見てはいけない。

「ムヒョヒョ~、わしの巨乳センサーもビンビンじゃ~」

 マナーをどうこう言っておきながら、バナンの言動には守る気が欠片も無いのかと思えてくる。
 サナエは、全く…とチャクラムを背後に置く。
 しかし、彼が湯に浸かった場所はかなり距離を置いた位置だった。距離があれども、同じ湯に浸かっていれば確かに混浴ではある。

「心配せんでも、わしゃ~これで満足じゃよ?温泉に悪いイメージを持たれたく無いからのぉ」

「そうですか。それは良かった。せっかくの温泉を血に染めたく無いですからね」

「嬢ちゃん達はどうも、物騒な考え方じゃのぅ。年寄りの茶目っ気って奴で大目に見てくれんかの?それで、銀髪のお嬢さんはどうかね?肩凝りや疲れが取れるじゃろう?」

「ええ。普通のお風呂とは温まり方も違いますね」

 自宅に居た時は、水属性魔法のウォータで溜めた後に温めただけだった。魔法のウォータに温泉の様な効能などあるわけ無いし、軟水・硬水の違いは中間で変わらない。

「そうじゃろう?わしも長年、仕事で各地に配水工事や魔法による御手伝い業をこなしてきたが、疲れを取るにはやっぱり魔法のお湯じゃなくて温泉に限る。じゃから、わしは引退した後はこの地に住むと決めたんじゃ」

「他の地にも温泉はありますか?」

「うむ、あるぞ。主に火山地帯の近くじゃがな。そうじゃな…」

(くくく、眼福じゃあ!まさかわしが、長年の仕事で習得した透視の技術スキルを使っているとは知るまい。これは生涯の思い出の宝じゃあ!)

 温泉の話をしながら、裏ではしっかりと覗き見ていたバナン。しかし、くらっと目眩が彼を襲う。

「あ、バナンさん、鼻血が…」

「ん?」

 心配して、ザバァッと立ち上がったクララを見て、バナンは両鼻から血を流して湯に沈んだ。

「のぼせたんだわ!クララ、彼を助けなきゃ!」

「はい!」

 2人が、自業自得のバナンを介護している頃、少し離れた場所に居たアラヤ達は、ハウン達と合流した所だった。

「尾行はされてないよね?」

「はい、大丈夫です!」

「こ、これは…⁉︎」

 ハウンは既に見た事がある野営シェルターだが、他の者達にしたら初めて見る異様な建物だろう。何しろ、馬車ごと中へ入る大きさなのだから。

「さぁ、中に入って。夕食も準備中だから、手伝ってくれると助かるんだけど」

「もちろんです!」

 調理の技能を持つ【体】が、お任せ下さいと早速下準備をしているカオリの下に走って行った。

「馬車は俺達の馬車の横に停めて、馬はアヤコさんに任せて」

「えっ、しかし…」

「今回だけは特別だよ」

「分かりました」

 彼等は恐縮しながら、馬をアヤコに預けていた。わざわざアヤコが馬を預かるのは、彼等の馬と会話して性格を知る為だ。いざという時に、それを知ると知らないとでは違うからね。

「ああ、そろそろサナエさんとクララが帰って来るんだけど、どうやら会っていた知人が具合が悪い様だ」

「念話?又はコールをお持ちなのですか⁉︎」

「その辺の話は後でしよう」

 そこへ、2人がバナンを担いで帰って来た。2人は着替えているが、バナンは体を布で巻いているだけだ。

「とりあえずヒールは掛けてあるけど、高齢者だし少し休ませてから帰すべきかと思って…」

「そうだね。今日は此処で休ませて、明日の朝に帰ってもらおうか」

 彼をハウン達の馬車に運び寝かせると、念の為に馬車をジャミングで防音にする。

「そこで大人しくしてて下さいね」

 苦しんでるかと思ったら、バナンの顔が幸せそうなのがふに落ちない。けどまぁ、のぼせるくらいだから楽しかったんだろうね。

 帰って来たサナエも加わり、夕食の準備は直ぐに終わった。
 焚き火を囲む様に並べられた机や椅子。その机に並べられる豪華な料理の数々。普通の野営では考えられない設備と食事量。ハウン達は驚くだろうと思っていたのだけど、違う反応だった。

「なるほど、ただ美味しい料理を大量に食べるだけでは無く、生活感を大事にされているんですね?」

「料理に関しても、我々の知らない調理法やレシピを、アロマ様とサナエ様は知っておられる」

「ま、まぁね」

「アラヤ様、そちらの女性の方は…?」

 皆んなの視線がクララに集中している。そうか、従獣のクララしか説明していなかった。

「彼女はクララだよ。彼女は、従獣以外にも、狼人ライカンスロープ人狼ヒューウルにもなれるんだ」

「という事は、シルバーファングの亜人という事ですね。3タイプに変身できるとは驚きです!」

 ハウン達は素直に驚いている。変身できる亜人自体が希少らしく、3タイプの変身は彼等は出会った事は無いらしい。

「もちろん、口外は禁止だよ?守ってくれるんだよね?」

「はい!誓いの呪文を使用しても構いません」

「誓いの呪文?」

「はい。教団に伝わる闇属性魔法の1つで、誓いの内容を破った者には高確率のデスの魔法が発動するという魔法で、これは1度成立したら解除できない魔法です」

 その魔法を全員が使用する覚悟あるらしい。ならば使用してもらう事で信用としよう。

「君達の覚悟は分かった。今から俺達の本当の情報を話す。その後でその誓いの呪文を使用してもらおうと思う。いいかな?」

 と言ったけど、全部の情報を教えるわけではないけどね。

「「「はい‼︎」」」

「良し、それなら食べながら話そうか。せっかくの料理が冷めちゃうからさ」

 アラヤ達は、食事をしながらアラヤの技能の数や今までの経緯を話す。彼等はその間にも一切食べようとせずに真剣に聞いている。

「アロマ様、我々はあの選別の時にあの地で暴食王様に仕える為に待機をしていました。それ故に、姿を変えておられても、貴女様が色欲魔王様だと我々は気付いております」

「そう、気付いてたのね」

 ハウン以外の5人は魔王の配下が決まっていただけにカオリを知っていた様だ。カオリは自身に掛けた金髪のジャミングを解き、久々のカオリ=イッシキの顔に戻る。

「教団にバレたく無いから偽名を使っているの。大罪教団の内部に、美徳教団に情報を流している奴が居るからね。初めはゴウダだと思っていたのだけど他にも居る様だし、私は1度死んだ身だからね」

 カオリは寛容の勇者との件を話し、自身に仮死状態デスタイムがある事も話した。彼等は、同期の配下が死んだ経緯とカオリの不遇に涙を浮かべる。

「まさか、2人の魔王様が夫婦となり一緒に居られるとは…」

「あ、アヤコさんも強欲魔王になったから、魔王は3人だよ?」

「「「はい?」」」

 ハウン達6人の思考が停止して固まってしまって、アラヤはようやく言わなくて良い情報だったと後悔した。
 その後、ゴウダとのやり取りを説明する羽目となり、結果的に殆どの情報を話す事になってしまったのだった。これは、誓いの呪文を二重・三重にも重ねないと安心できなくなった。
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