【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第10章 いつのまにか疑われた様ですよ⁈

142話 探り合い

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「むおっ⁈」

 目を開けたら目の前には見知らぬ男で顔があり、バナンは驚きの声を上げた。

「大丈夫ですか?」

 よく見れば、その男は大罪教団の服を着ていて、彼以外に女性の教団員もいる。どうやら自分は彼等の馬車の荷台に居ると分かった。

「ありゃ?わしは確か、温泉に居た筈じゃが?」

 確か裸だった筈だが、見知らぬ服を着せられている。

「ああ、貴方はのぼせて気を失ったらしく、貴方を介護していた方々から、ラクレーンへ連れて帰る事を頼まれたんですよ」

「なぬっ⁉︎わしはあの天国を前にして気を失ったのか⁉︎何たる失敗!死んでも死に切れんぞ⁈」

「どうやら大丈夫そうですね」

 ハウン達は、バナンが後悔の念に悶えているのを見て安心した。高齢者にもかかわらずとても元気だと思う。

 馬車はラクレーンの門前で止めて、牽引してきたバナンの馬を彼に渡す。ハウン達も街中まで戻る気は無かったのだ。

「ちょっとお待ち下さい」

 門番の男達が、バナンではなくハウン達を引き止める。

「私達ですか?」

「はい。ちょっとした質問をさせていただきたいのです。代表者の方は1人、こちらでお話しをお願いします」

「私が行くわ」

 ハウンではなく、アフティが代表者として出る事になった。念の為に念話を繋いではいる。

「お座り下さい」

 アフティが通された部屋は守衛室の一室で、テーブルと椅子だけが有り、窓も無い石壁の密室だ。アラヤ達が見たら尋問部屋だと思っただろう。
 その部屋には既に1人の男が座っていて、アフティを座るように促す。この男は門番とも守衛とも違うのが分かる。どうやら監視者と同類の者だろう。
 アフティが大人しく座ると、新たに数人が入って来て扉が閉められる。すると、ハウンとの念話も断たれた。背後に回った数人の1人がジャミングをしているな。

「単刀直入に聞きます。貴女達は行商人のアラヤ殿達と知り合いですよね?」

「はい、それが何か?」

 アフティは、既に接触していた事を確信していた上での問い掛けと判断した。下手な嘘をつくべきでは無いだろう。おそらくは自分と同じ超聴覚持ちが居て、鼓動の速さで嘘か真かを確かめているに違いない。

「彼等と会った際に、見慣れ無い男を見なかったですかね?」

「我々が会った男は、アラヤ殿以外ではバナン殿だけです。そもそも我々はこの街には来たばかりでしたので」

「その男の特徴は?」

「先程、門前に居た御老人ですが。配管工をしている方だと伺いました。…貴方方は一体、どの様な方をお探しですか?」

 アフティを疑いの目で見ながら、その男はどう答えるかを少し悩む。

「金髪の男だ。手足に傷がある。言葉も通じない」

 言葉が通じないという時点で、他国民の可能性が浮かぶ。この男達が探す者と、アラヤ様が会っていたかは定かでは無い。少なくとも、我々が居る場には居なかった。

「すみませんが、我々には心当たりが無いです。他を当たったらどうでしょう?」

「…そうか。それは手間をかけましたね。因みに、アラヤ殿達はどちらに向かわれたかご存知ないか?」

「さぁ、我々は聞いてはいないが、西門から出られたのなら、首都を目指されたのでは?」

「なるほど。御協力感謝する。もう引き取られて結構ですよ」

 退室を許可され、部屋から出ようとしたアフティは、扉を半開きにした時に立ち止まる。

「ああ、アラヤ殿は大罪教団大司教様のご友人です。まさか、失礼な対応をしていませんよね?」

 ピクッと男の眉が動く。これはアラヤ様に何か迷惑をかける可能性があるな。探りを入れてやろうと、アフティは質問する事にした。

「そもそも、人探しの件で何故アラヤ殿の知人である我々に聞く必要があるのです?」

「…アラヤ殿が、その行方不明の男と最後に接触した可能性があるからだ」

「彼が最後だと言える根拠は?貴方もその場に居たのですか?」

「いや、私は居なかったのだが、見た者が居る」

 心拍数が上がった。これは嘘だな。彼等だけでなく、超聴覚持ちなのはアフティも同じ。つまりは、こちらも嘘か真かは分かるという事だ。

「それなら、その者を取り調べましょう。此処に連れて来て下さい。アラヤ殿を疑う輩ならば、我々大罪教団も協力しましょう」

「い、いや、結構だ。我々で対処する」

 明らかに動揺している。それはそうだろう。秘密裏に捜索を進めたかったのだろうが、教団が介入すれば大事になるのは明白なのだから。

「何か、勘違いされていませんか?我々にもその男の詳細と、探す理由を知る権利がある筈ですよね?」

 半開きだった扉が更に開き、オードリーとアスピダが姿を見せる。扉が開いた際に、ハウンとの念話は回復している。そこで詳細を念話で伝えていたのだ。

「じっくりと聞かせていただきましょう」

 扉はゆっくりと閉められ、中での音は外部に漏れる事は無かった。
 しばらくしてアフティ達が出て来て、彼女等が去った後、門番達が恐る恐る中を覗くと、室内にはフリッツの配下の男達が椅子に座った状態で寝ていた。外傷は見当たらないが、明らかに彼等には疲労感が見て取れる。

「一体何があったんだ…?」

 門番達は放置された彼等をどうしようかと戸惑うしか無かった。

 一方のアラヤ達は、温泉にゆっくりと浸かってハウン達の帰りを待っていた。

「ふーん、じゃあいろいろと分かったんだね?」

「そうみたいです。街長のフリッツ様は、あのイシルウェを利用して、エルフが潜伏している場所を探すつもりだった。彼は、川で気を失っているところを偶然見つけられて捕まったようですが、まぁ、エルフ達が本当に領内に潜伏しているなら、ラエテマ王国としたら大問題でしょうね」

 ハウン達からのコールで、アラヤ達に聞き出した内容が伝えられていた。アラヤ達もイシルウェを助けた事を話して、そこには何の意図も無い事を伝える。

「彼がもし、工作員としてこの地に来たのなら、手助けした俺達は国家転覆罪にもなりかねないって事?」

 アラヤはまた余計な事をしたのかなと溜め息をついた。

『そうならない様に、我々が先に首都に向かいます』

『何か手があるの?』

『お任せ下さい。別行動になりますが、アラヤ様達はそのままガーベルク領に向かわれて下さい。我々も仕込みが終わり次第向かいますので』

 これ以上アラヤ達が目立たない様にしてくれるらしい。なんて気が利く人達だろう。彼女等が味方で良かったと本当に思うよ。



       ◇    ◆    ◇    ◆    ◇    ◆    ◇



「それはどういう事だ⁈」

 屋敷内に響くフリッツの声に、別室で書類整理をしていたサマンサは聞き耳を立てる。

「つまりは、人でも無いネズミを入れた抜け皮に、お前達は何時間も尋問をしていたというのか⁉︎しかも、奴の側で見かけた者達の行方もしれないだと‼︎貴様達は俺を馬鹿にしているのか⁉︎」

 どうやらかなりの御立腹の様だ。亜人どころでは無いとしていた件が、上手くいってないらしい。
 自分はというと、シルバーファングは普通の従獣だったで話が落ち着き、虚偽の報告をした冒険者達の処遇もたった今無事終わった。

「これで、後はゆっくり…」

「サマンサ‼︎サマンサは居らぬか⁉︎」

 今度は自分を呼ぶ声が聞こえる。

「マジか…」

 悪態を吐きながらも、向かうしか無い。サマンサは重い足取りでフリッツの下に向かった。

「サマンサ、只今参りました」

「遅いわ!屋敷内に居るなら直ぐに来れるだろうが!」

「申し訳ございません…」

 サマンサは深く頭を下げて、反省している態度を演じる。

「チッ、まぁいい。今からお前に単独任務を命ずる。例の馬鹿姉の知り合いとか抜かした奴等を説得して、エルフ捕獲に協力させろ!奴等はお前達よりも強いのだろう⁉︎簡単な筈だ!」

「あの…エルフの捕獲とはどういう事でしょう?」

「お前はそんな事を気にする必要は無い!とにかく奴等を見つけ出し、我々に協力させるのだ!」

「ハッ!」

 これはダメだと、サマンサは頭を下げてさっさと退室する。

(うちの街長は、情け無くなる程にダメな男だな。正直付き合い切れない。自分のダメな行動と、それに掛かる責任と負担を理解していない)

「エルフ発見を辺境伯に報告していない時点で大失態だというのに、脱走されていたとは…。ここに仕えるのも潮時かしら?」

 サマンサは身支度を整えると、魔力監視者達の下に向かった。
 監視者達は屋敷の右奥に設けられた展望室に居て、追跡班からの報告をこの場所で管理している。

「アラヤ=グラコ一行の反応は何処にある?」

「彼等は既に西門から街を出ています」

「その後の監視者は?」

「いえ、街を出てからは1人も…」

「彼等程の魔力保持者を、誰一人追跡していないの⁉︎」

「それが…、途中から大した魔力量では無くなりまして。彼等が持ち運ぶ魔力電池なる物による反応だったと結論がつき、監視者も追跡者も減らしていました」

 近くで感じた者達なら疑いようも無い彼等の力量を、遠目から見ただけで判断した無能な彼等にサマンサは愕然とした。
 それと同じくらいに、彼等の行動に疑惑が生まれた。エルフの失踪事件、もしかして彼等も絡んでるかもしれない。
 サマンサは直ぐに馬を用意して、彼等の行方を探す為に西門へと向かうのだった。
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