【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第11章 故郷は設定なので新天地ですよ⁉︎

160話 遭遇

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 トンネル内では外が一切見えないので、方角も時間も一切分からない。
 時間は、アラヤの体内時計など全く当てにならないので、馬達の休憩を入れる回数で判断する事にしている。
 サトカランの街を出発してから2日目、今日3度目の馬休憩を入れる為、馬車をゆっくりと道脇に寄せる。
 街から大分離れた辺りからは、ドワーフ達の襲撃も無くなった。偶にすれ違う馬車を見かけたが、こちらを見ても引き返してまで襲おうという輩はいなかった。移動速度が尋常じゃないのが要因かもしれないけどね。

「今、どの辺なのかな?」

「次の分岐点で左折すれば最後になる予定ですね。後はひたすら直進すれば、目的地のコルトバンの街がある筈です」

「それじゃあ、到着まであと1日ってところかな?」

 軽く喉を潤したりしながら休んでいると、魔導感知よりも先に超聴覚に馬車の走る音が聞こえてきた。

「どうする?いまなら隠れられるけど」

「アラヤ様達だけ隠れて様子を見てみますか?」

「そうだね。相手を見て判断しようか」

 アラヤ達の馬車をアースクラウドで隠し、覗き穴だけを作って魔力制御で気配を消して待機する。外からは覗き穴もジャミングで岩肌に見えるから分からない。
 しばらく待つと、魔導感知内にも反応が入って来た。馬車は一台で、乗車しているのは御者も入れて5名の様だ。

『あれは!大罪教団の司教が使用する馬車です!』

 途端にハウン達に緊張感が走る。服装は違えども、顔が割れている可能性があるのだ。
 馬車が気にせず通り過ぎる事を願うが、こちらに気付いたら明らかに減速を始めた。

『いざとなったら出て行くから、落ち着いてね?』

『はい、よろしくお願いします』

 ハウンは既に弱気になっている様だ。まぁ、教団に属している立場だから無理もないけど。
 やがて近場まで来て、馬車は完全に停車した。
 御者が踏み台を用意して、乗車口の扉を開ける。すると、中からゆっくりと黒の司祭服を着た男が現れ、その後に護衛らしき団員も1人出てきた。

『ふ、フェアラー司教⁉︎確か帝国に滞在中の司教様です。いつの間にラエテマ王国に来たのでしょうか?というよりも、何故モザンピア領に⁈』

 帝国領土に居る大罪教団の司教の中で、帝国上層部に顔が広く、教団の中でも発言力がある人物だ。
 頭髪が一切無く、四角の輪郭の顔に三白眼という顔立ちは、悪魔達よりもそれらしいとハウンド仲間達でも話に上がっていた事がある。動揺を隠せないハウンは、落ち着いているアスピダに寄り添って顔を隠そうとする。

「まさか、この領内でドワーフ以外と会えるとは思わなかった。旅の人かね?」

「はい、家族で王国内を旅して回っているんです」

「新婚旅行ってやつですよ」

 不動心を持つアスピダと、アフティが演技を始めた。アスピダはハウンの肩を抱き寄せ、アフティはオードリーに飲み物を渡すなどして夫婦らしく装う。

「新婚旅行には、この領内は危険だったでしょう?ドワーフ達はが盛んだからね」

「物で何とか話がつきまして、運良くここまで来た所です」

「なるほど、それは運も良い様だ。ところで…」

 彼の視線がイシルウェ達へと向けられる。チャコはその顔を怖がり、イシルウェにしがみ付いた。

「…これより先へ進むと、アルローズ領地のオリドバ山へ出ます。そちらでは今、色々と騒がしくなっています。何でも、エルフが密入国して潜伏しているとか。貴方方も疑われない様に気をつけた方が良いですよ?」

「はい、御忠告ありがとうございます。気をつけて進むとしましょう」

 この司教が鑑定LV5以上なら、イシルウェや土壁に隠れれるアラヤ達の姿も見抜いているだろう。だが、彼のその視線は、見抜いたというよりもまだ、疑っているという段階の様だ。

「フェアラー殿、そろそろ向かわないと、野宿になりますぞ?私も歳なんで、狭い馬車内で寝るのは勘弁したいのだがね?」

 馬車内から野太い声が聞こえて、1人の白髪頭の老人が顔を出す。こちらも負けずと強面である。

「ああ、すまない。つい、気になったのでな」

 フェアラーが馬車へ踵を返しても、護衛の1人は未だにアスピダ達を監視していた。この護衛、筋肉隆々の見た目と違いステータスが低い。おそらくジャミングされていて、かなりの強者の気がする。

「…宜しいので?」

「ああ、構わんよ。彼等の出先で終わる話だ」

 フェアラーが小声でそう話すと、護衛はこちらを軽く一瞥した気がしたが、彼も踵を返して馬車へと乗り込んだ。

「邪魔したね」

 彼は軽く手を振り、フェアラーの馬車は再出発した。アスピダ達も軽く手を振り、違和感のない様にする。
 馬車が見えなくなって、ハウンはフゥッと安堵する。

「やっと去りましたね…」

「リーダー、何もしていないではないか?」

「ハハッ、でもやり過ごせたで…」

「ハッ⁉︎アスピダ‼︎防げ‼︎」

 アラヤの声に反応したアスピダが、振り向き様に竜鱗の盾を肥大化して構える。
 瞬間、アスピダが盾毎弾き飛ばされる程の衝撃が襲う。かろうじて上へと弾かれた衝撃はトンネルの天井に飛び崩落させた。

「大丈夫?」

 崩落前に、ハウンが咄嗟に野営シェルターを出した事で、皆んなはかろうじて崩落による被害を免れた。

「安心するのはまだ早い!脱皮人形を人数分置いたら、素早く此処を離れるぞ」

 アラヤにはまだ危険が去ったとは思えず、準備を終えたら直ぐに崩落場所から馬車を走らせて離れた。

「あの時、魔導感知の端にまだ反応が残っていたんだ。あの護衛、只者じゃない気がしたんだ。あの離れた位置から、これだけの斬撃を飛ばすとは驚きだよ」

 アスピダの竜鱗の盾には、確かに斬撃による傷が残っていた。盾が割れる程ではないが、それは距離があっただけの話だ。

「もしかして勇者⁈」

 思い当たるのは、分別の勇者の様な異質な攻撃力。だが、何故に大罪教団の司教に付いているんだ?

「その可能性は有りますね。今は感知内には反応がありませんが、確認の為に戻って来るかもしれません。ですが、先程の会話からして、この先の出口はアルローズ領でコルトバンの街は無いものと思われます」

「道順の情報もガセだったか。脳内マップには以前見た地図の情報しかないからね。現に最初のサトカランの位置もズレていたし、コルトバンの位置が合ってるとは限らない」

 他領との接触が無いモザンピア領は、まるで鎖国状態だな。
 とりあえず馬車を走らせたものの、何処かで道を変えないといけない。しかも時間的には夕方になった頃だろう。そろそろ野営も考えねばならないのだ。
 アラヤ達は馬車の速度を落として、野営が出来そうな場所を探す。するとイシルウェが、風精霊が空洞が近くにあると教えてくれたと伝えて来た。
 風精霊に導かれて付いていくと、壁に微かな風が通る縦穴を見つけた。
 アースクラウドで穴を広げると、物置兼休息所らしき場所があった。おそらく、トンネルを掘っていた者達が利用していたのだろう。使用されなくなってから大分経つようだが、今もしっかりと通気口は生きている様だ。

「今日はとりあえず此処で野営しようか」

 馬車が入れる様に中を更に広げて、皆が入った後で再び入り口を閉じる。

「ああ、そうだハウン、この顔に見覚えが無いかな?」

 アラヤは夕食時に、ハウンに馬車に乗っていたもう1人の老人の顔を念写して見せた。

「あっ⁉︎この男は確か、美徳教団のブナイアという司教ですよ!この男は先代の強欲魔王の子孫に当たる家系にも関わらず、美徳教団に入団した背徳者で有名な人物です」

「へぇ。一応、子孫とか残ってるんだ?」

「もちろんです。帝国の将軍や連邦国の諸侯等も勇者や魔王の血を受け継いでいると聞きます。王国で上げるなら、王都の冒険者ギルドのマスターであるトーマス様も、勇者の血を受け継ぐ1人だとか」

 ああ、どうりで好きになれないタイプだったのか。ステータスもジャミングされてたし、強いのは分かっていたけど。やっぱり血の影響があるのかな。だとしたら、先程の護衛もその線の可能性もある。

「確かにその話も気になるけど、私はあの馬車に、全く異なる3人が乗り合わせていた事の方が気になるわ」

 それは確かにとカオリの意見に皆が頷く。美徳司教と勇者(予想)は分かるが、大罪教の司教が同席するのは不自然だ。それと後1人、出て来なかった人物も気になる。

「思うんだけど、彼が大罪教団の内通者の可能性が高くない?」

「そうですね。帝国を離れて来ている事も、美徳教団と一緒に居る事も、それを見た我々を消そうとした事も、ほぼ確定と言えると思います」

「あいつが私達に寛容の勇者を…!」

 カオリの怒りの感情に、辺りがピリッとした空気に包まれる。その雰囲気に当てられたのか、闇精霊達がひょこっと顔を出したのが分かった。

「カオリさん、落ち着いて。彼等の目的や対応よりも、今はコルトバンに着く事が俺達の目標だよ?」

「あ…そうだよね。ごめんなさい」

 カオリの謝罪の半分は、イシルウェに向けられたものだ。おかげで皆んなも当初の目的を思い出す事に繋がった。

「とにかく、今日はしっかりと休んで、明日はコルトバンに向かう事を考えよう」

 皆も納得し、明日に向けて早く寝る事にした。闇精霊達が寄り添って来たので、軽く話をしつつも、明かりは消さずに眠りにつくのだった。
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