【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第13章 初顔合わせにドキドキですよ⁈

192話 ナーシャ夫人

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「アラヤさん、容姿が少し変わりましたね」

「そうかな?まぁ、いろいろあったからね」

 カオリから治療を受けるソーリンは、アラヤの白髪が消えている事と、雰囲気が少し人間らしく無い感じがして、前よりも距離感が遠くなった気がしていた。

「それはそうと、これは一体どういう状況なの?」

 今更だが、何も知らないで200人近い人数を相手取り、行動不能に追い込んだらしい。それに、ソーリンが知らない人達も居て、サナエやクララ達と共に兵士達を縛り上げている。

「彼等は帝国兵士らしいのですが、突然坑道の奥から現れたんです」

「アラヤ君、おそらくはモザンピアの地下通路だと思います」

「ああ、そういう事か…」

 ソーリンにはピンと来ない話でアラヤ達は納得している。モザンピア領が関係しているのだろうか?

「とりあえず、全員縛ったね?」

 魔術士も居るので、全員の手足を硬化した魔力粘糸で縛った。力自慢のドワーフの怪力でも、簡単には解けないだろう。しかも魔法によるアンロックも無効である。

「グッ…、まさか、この様な手練れが居ようとは…」

 1番の重傷者が、指揮官だと思って徹底的に痛めつけた黒人の男だ。下手な動きが取れない様に、手足の腱を斬ってある。残虐だとソーリンも引いたかもしれないが、今のアラヤ達は油断は禁物だと知っている。

「一度外に出るから、このラズエルという男はソーリンが連行してね?残りの兵士達はこのまま広場に閉じ込めておこう。天然牢屋だね」

 鉱夫達は不満を言うだろうけど、これだけの人数を収監できる牢屋はこの街には無い。
 アラヤは、戸惑うソーリンとラズエルを、テレポートでバルグ商会前に運んだ。

「俺は鉱山に戻って、入り口を塞いでくる。この問題が解決するまでは、しばらくは鉱山は閉鎖だね。彼は口を割らないと思うけど、一応翻訳士も連れて行った方が良いよ?」

「わ、分かりました。あ、アラヤさん、まだ街に居ますよね?店か屋敷我が家で待っててくださいよ?必ずですよ⁉︎」

「ああ、分かったよ」

 再び光に包まれて消えた後、ソーリンは自店の店員達を呼び、ラズエルを担いで街長の下に急ぎ向かった。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「あのラズエル少佐が捕まった⁉︎」

 デピッケルの兵舎の地下牢に、驚きの声が響いた。その声の主は鉄格子を掴み、情報をもたらしたドワーフを見る。

「知っているのか?と言うよりも、関係があるのか、ゴウダ?」

 かつての豪華な衣装は着れなくなったドワーフの男は、その原因とも呼べるそのやつれた男を見下ろす。
 髪や髭が伸び、頬も痩けて弱々しくなったその男は、髪の隙間から見える狐目をキョロキョロと動かして落ち着きが無い。

「しかし、なんでまた鉱山に帝国兵が突然現れたのだろうな?」

 雇い主である彼は、今は縮小化したヴェストリ商会の社長で、こうして偶にゴウダに外の情報を教えていた。

「これは…、いや、しかし…」

 ブツブツと小声で独り言を話すゴウダは、今は技能無しの人間だ。言語理解の技能スキルがあった時とは違い、かろうじてラエテマ国語は理解して喋る事はできるくらいだ。

「ヴェストリ、すまない…が、俺、知ってる事、話す。だから、街長、連れて来てくれ」

「おお、そうか!分かった、待っておれ!」

 ヴェストリは、黙秘を続けたゴウダが、ようやく罪の意識を持って償う覚悟ができたのだと思った。兵舎は、役場の直ぐ裏にあるので、走れば直ぐに街長に会いに行ける。
 ヴェストリは、地下牢から直ぐに走り向かった。あれだけ迷惑をかけたというのに、どうしてこうも親身になってくれるのか分からない。流石のゴウダも恩を感じ、少しは有り難く思っていた。


「全く、予定が大幅に狂ったな」

 しばらくした頃、看守の男がゴウダの牢の前にやって来た。手には血が滴る剣を持っている。

「貴様は、教団の…‼︎」

 教団側は、看守に扮してゴウダをずっと監視していたのか。男は牢を開けるとそのまま入って来て、ゴウダは壁の隅に追いやられた。
 無言で近付く男は、怯えて座り込むかつての魔王に無慈悲の剣を振り下ろした。


       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 バルグ邸に訪れたアラヤ達は、今はソーリンの妻であるナーシャと再会していた。

「久しぶりね、皆んな!その後大丈夫だった?」

「まぁ、新婚旅行気分で、いろんな場所に行ったよ」

 そんな楽しいだけの旅行では無かったけどね。大体、勇者からの逃亡がキッカケだから、逃亡旅行とでも言うのかな?

「ところで、そちらの方々は?」

 アラヤ達の後ろに控えるハウン達を見て、ナーシャは少し眉を寄せる。村でのアラヤ達しか知らない彼女からしたら、使用人みたいに大人しく従っているハウン達を、アラヤ達とは釣り合わなく見えたのだ。

「ああ、彼女達は俺達の配下というか、仲間だね」

 配下と言うと何だか偉そうになるから、ちょっと違うよね。今の距離感を考えると仲間が1番しっくりくると思う。
 背後で感激するハウン達を無視して、アラヤ達は屋敷内へと案内された。

「ガルムさんやバスティアノさん、居ないんだね?」

「ええ。ガルムお父様はヤブネカ村に、魔力粘糸とブルパカ糸の受け取りに十日程前に向かったの」

「魔力粘糸をヤブネカ村の特産に?」

 魔力粘糸は本来、イービルスパイダーという蜘蛛の魔物が出す糸だ。アラヤは食奪獲得イートハントで覚えているのでいつでも量産できるけど。

「ええ。だって冒険者に毎回依頼して集めるよりも、魔物を調教テイムしてもらい飼育した方が、2、3人の調教士テイマーを雇うだけで安いし、安全で確実だもの。ブルパカも同じ要領で飼育しているわ。今や商会の売り上げの一角を担うブランドよ?」

 夫婦は似るとよく言うが、ナーシャも商人に染まってきている様だな。

「それは良かった。それならもう、俺達の在庫を渡す必要はないね?あ、硬化魔力粘糸もあるけど…」

「ちょっと⁉︎硬化って何よ?初めて聞いたわよ?」

 アラヤは、ナーシャはきっと欲しがると分かっていて漏らしたのだ。サナエが、その硬化魔力粘糸と新たなデザイン画をナーシャに手渡す。

「私はまだ裁縫レベル低くてね。普通の魔力粘糸に比べて使い辛いから、頑張って完成させてね?」

「え?え?使わせてもらうのは嬉しいけど、入手先は?また新たな魔物なの⁈」

「デザイン画の全ての作品を作ってくれたら教えるわ」

 針子(裁縫士)である彼女が、新たな糸の性能を確かめずにはいられないと分かっている。

「分かったわ。サナエさんのデザインも新しいし、貴方達の頼みは断れないわね」

 彼女が引き受けてくれた事で、次の戦闘服バトルスーツは耐魔だけでなく物理的にも強くなる。これは期待できるな。

「それで、バスティアノさんは?」

「彼は今、タオ君達のマネジメント兼世話係をしていてね。2日前に肖像画の依頼でグラーニュ領の領主様邸に向かったわ」

「そっかぁ。しっかりと画家をしてるんだね。俺達もグラーニュ領には用があったから、会ってみるかな」

「せっかく帰ってきたのに、またデピッケルを出て行くの?」

 そう言われると正直辛いもので、世界を冒険したい気持ちと、我が家でのんびりとスローライフを送りたい気持ちは等しいんだよね。

「街外(街の上空)で待ってる仲間達も居るからね。あまり長居する気は無いよ」

「そんな事言わずに、夫も話したい事がいっぱいあると思うわ」

 正直、これから帝国兵の事でいろいろと聞かれそうだなという理由もある。だがまぁ、ソーリンとの約束もあるし、一泊くらいは大精霊様にも許してもらおう。

「分かった。買い物もあるし、一泊はするとするよ」

 合間を見て浮遊邸に戻り、事情を説明して納得してもらおうとしたら、結界維持の為に離れられない精霊達からは大量の魔力玉を要求され、大精霊様からは買い物に同伴する事を約束させられた。
 そうなると、浮遊邸を何処かに着陸させないとね。因みに、エルフのイシルウェ達は可哀想だけどお留守番が決定している。
 不満を和らげる為に、お土産をたくさん買って帰るとしよう。
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