【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎

196話 暴風竜エンリル

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「エアリエル様何処~っ⁉︎」

 未だに泣きながら大精霊を呼び続ける翠の翼竜暴風竜エンリルは、辺りを見回すだけで結界内の屋敷には気付いていない。結界の透明化トランスペランシー効果はちゃんとある様だ。

『エアリエル様、コレどうしますか?』

 管制室で息を潜める風の大精霊エアリエルに、念話で対応を尋ねるが、彼女は任せたと言わんばかりにダンマリを決めた。
 アラヤは、怖がる飛竜を1匹説得して外に出た。飛び立つ前、アルディスが気を使って風精霊モースを一緒に向かわせてくれた。まぁ、魔力玉を1つあげる約束付きだけど。

『エアリエル様~、いるんでしょう~⁉︎』

「あのぅ、暴風竜様…」

 半泣き状態のエンリルの前に現れたアラヤは、光属性魔法のライトを作り出してエンリルを照らした。もちろん夜目は効くので、相手の注意を引く為である。

『…貴様、風精霊を連れているとは、エルフ…では無いな。人間か?エアリエル様の加護…だけじゃ無いな。…女神の加護持ちか⁉︎』

 エンリルは、先程までの半泣きが嘘みたいに、威厳たっぷりの竜を振る舞う。散々見たから今更だよね。

「ここから去ってもらえませんか?あんな大声で泣かれたら困るんですよね。今は夜中で皆んな寝てるんです。せめて静かにしてもらえませんか?」

 実際には、言語理解持ちじゃない者には竜の咆哮に聞こえているだろうけど。

『な、な、泣いてなどおらんわ‼︎』

「お帰り下さい。この辺りに大精霊様は居ませんよ?」

『馬鹿を申すな。我は確かにこの辺りでエアリエル様に名を呼ばれたのだぞ!眷族が名を呼ばれて間違える訳無かろう!』

 豪語しているあたり本当なのだろう。モースも頷いているし。名を読んだばかりで居場所がバレるとは、主人も辛いな。いや、護衛としては最適なのかも。

「それでしたら、こんな上空を探すよりも地上の森を探したらどうですか?大精霊様もおやすみになられているかもしれませんし」

『エアリエル様は眠らない。それに空を漂っている事を好むお方だ』

 注意を地上に向けさせて、浮遊邸を引き離そうと考えたがダメだった。これは少々危険なやり方でいくしか無いかな。

「そうですか。では私は寝ますので、なるべく静かに泣いて下さいね?」

『貴様!我を愚弄するか⁉︎泣いてなどおらんと言っただろうが!』

「愛しき母を探す小鳥の様でしたが…?」

 アラヤの挑発にカチンと来たエンリルは、巨大な両翼を広げて怒りを露わにする。
 うわぁ、やはりデカいね。ベヒモス程では無いけど、あの白いナーガラージャよりは大きいな。

『噛み砕いてくれる‼︎』

 エンリルは結界から飛び立ち、離れるアラヤに襲い掛かった。
 エンリルが起こす乱気流を、モースが必死に流れを逸らした。逃げようと暴れる飛竜を強制的に舵取りして攻撃を躱すと、付けていたライトの魔力を止めて明かりを消した。
 月明かりはあるものの、エンリルの近くにあったライトが急に消えた場合、その視界に慣れていた目が夜の視界合わせて回復するには時間がかかる。ましてや夜目が効かないのだから、当然アラヤ達の姿を見失う。

『何処に行ったぁぁぁっ⁉︎』

 暴風竜が叫んでる間にも、浮遊邸はグングンと離れて行く。上手くいった、作戦成功だ。後は自分達も隠れてテレポートするだけ…。

『ちょっと?貴方、ヨダレが出てるわよ⁈』

「おっと、つい久しぶりのを見たもんだから、アハハ…」

 アラヤはグイッとよだれを拭き、森の木々に服を巻き付けて自身の匂いを残した後、浮遊邸へとテレポートで帰還した。

「はい、約束の魔力玉」

『やった!ありがとう』

 モースに魔力玉を渡し、アラヤはエアリエルの下に向かった。管制室で、彼女はまだマントに身を包んだまま玉座に腰掛けていた。

『すまなかったな』

「いえ、まぁしばらくは俺への怒りで貴女を探す事は忘れているでしょう。今のうちに遠くに離れるとしましょう。次はうっかり名前を呼ばないで下さいね?」

『うむ、気を付ける』

 しかしそうなると、行き先の順番を変えなきゃならない。

風精霊シルフィー、進行方向を西南西に変更。カポリの港に向かう」

『分かった、任せて』

 今はエアリエルの力を借りる訳にはいかないから、操縦はシルフィーに代わってもらう。
 浮遊邸はゆっくりと向きを変えて、コルキアルートから離れて飛んだ。
 翌朝、エンリルが追って来る気配は無い。どうやら無事に撒いた様だ。
 カポリの近辺まで着いたところで、アヤコ達は食材の買い出しに向かった。沢山の海の幸を買い集めてくれるだろう。
 アラヤはというと、念の為に浮遊邸で留守番である。

「エアリエル様、何故にあの暴風竜を避けるのですか?執拗と言うよりは、必死さを感じましたけど」

『…あのうつけは、幼時に我を母だと勝手に思い込み、実の母や同胞を傷付けた大馬鹿よ。我から離れたがらず、眷族達からも恐れられていた。我に会いに来た他の大精霊の眷族とも争ってな。罰として洞窟に謹慎させてみたのだが、2日も保たなかった挙句、逆恨みでまた他の眷族に当たる始末。結果、我が姿を隠す羽目になったという訳だ(理由は他にもあるが…)』

 エアリエルは深く溜め息を吐くと、アラヤに頭を下げた。シルフィー達は驚き騒つく。大精霊が、人間に謝罪するなど考えられない事だからだ。

「ち、ちょっと、エアリエル様⁉︎」

『すまない。折り入って其方に頼む。…彼奴を、大人しくさせる方法を考えてくれないか?』

 これはまた無理難題を仰る。あの様子では母という認識を改めさせるのは無理だろうし、力づくで抑えれる程、か弱い相手では無いのは明らかだ。

「……少しくらい食べても?」

『だ、ダメだ。というか、そんな発想には普通ならないだろう⁈』

 そんな事無いと思うけど。だって冒険者達が狩った子ドラゴンの肉とかは市販されたりするわけだしね。特に肉汁が美味いんだよ?

「だったら話し合いするしかありませんよ?エアリエル様自身が、手綱を引くのが1番なんですから」

『そうは言ってもな…。我が真面目に注意しようとすると、あのうつけは自分の話しばかりしおって、我に話しもさせないからな』

 別れを切り出ささせ無い様に必死な恋人かよ⁈うーん、強引に調教テイムできる相手でも無いからなぁ。


「…やっぱりエアリエル様が従えるしかありませんよ」

 しばらく考えたが、やはり1番の解決案は主従関係をはっきりさせるしかないと決まった。

『うーむ。上手く行く気がしないのう』

 場所はカポリから西に出た海上。そこでエンリルを呼ぶ事にした。浮遊邸は壊されたくないので、近くの森に定着している。
 代わりに用意したのは人工的な浮島で、何も無いヘリポートの様だ。
 そこに、エアリエル本人と、護衛としてアラヤとパートナーの精霊達が居る。

『…では呼ぶぞ?…エンリル!来るが良い、エンリル!我は此処ぞ!』

 その呼びかけに応じる様に、大気が震える空振が鳴った。やはり一刻も待たずして、その翠の翼竜は海上に現れた。

『やっと見つけたぁぁぁっ!エアリエル様ぁぁぁ……あ?』

 歓喜の涙を流しながら現れたエンリルは、降り立った浮島で目を丸くした。

『エアリエル様が2人⁉︎』

 そこには、紛れもない風の大精霊エアリエルと、彼女に瓜二つの姿に擬態したアラヤが待っていたからだ。

『う、あ、えっと…エアリエル様?』

『『我の姿を忘れたか、我が眷族エンリルよ』』

 感覚共有による同時発声で、エンリルは更に困惑する。オロオロと戸惑い、2人のエアリエルを見比べる。以前の擬態と違い、見た目は完璧に真似る事ができた。

『どうした?久しぶりとは言…』

『エアリエル様が増えたーーっ!』

 エンリルは、突然ガバッと両翼を広げて2人を包み込むと、笑顔で自身の頬に2人を擦り付けた。

『馬鹿者!痛いわ!離さんか!』

 ゴツゴツとした竜鱗を押し付けられ、エアリエルはエンリルの目をバンバンと叩く。

『グフフ、エアリエル様が2人~』

 目に涙を浮かべても動じずに嬉しそうにしている。どうやらエンリルには、愛する対象が単に2倍になったに過ぎないみたいだ。

『話を聞かんか、この!この!』

『エアリエル様だぁ~、もう離さないですよ~』

 これはダメだ。話を聞かせようにも、エンリルがエアリエルを好き過ぎて、ハグを止めるつもりが無い。これは埒が明かないと感じたアラヤは、次の手段に出る事にした。

『グフフフフ~、痛っ⁉︎えっ?』

 突如、左首に強い痛みが走ったエンリルは痛みがある場所を見る。すると、1枚の鱗の剥がれ噛みつかれた歯形の痕があった。

『エアリエル…様?』

 見上げるエアリエルの顔には、口周りに血が着いている。
 段々と体が痺れ始め、エンリルはヨロヨロと膝を地に付けた。解放された2人のエアリエルは、ヘタリ込む巨大な翼竜を冷ややかな眼差しで見下ろす。

『話を聞かん奴には、が必要ね』

『うむ、致し方あるまい。自業自得というやつだ』

『エアリエル様ぁぁぁっ⁉︎』

 話を聞かなかった場合の作戦Bとして、アラヤが隙を突いて、エアリエルに調教をさせる強行プランを考えていたのだ。
 エアリエルがエンリルの額に手を当て調教を使用すると、鱗を剥がした部分に奴隷紋が刻まれた。

『これで其方は、我の言う言葉は一言一句聞き逃さず聞かねばならん』

『そ、そんなぁぁぁっ⁉︎』

 エアリエルを許可無く抱きしめ様とすると、体に電流が走り煙が上がる。エアリエルが不敬と感じる事には罰が与えられるのだ。

「良かったですね」

 アラヤの擬態を解いた姿を見て、エンリルは目の色が変わる。自分を馬鹿にした人間が、エアリエル様に化けていたのだ。

『貴様っ‼︎』

 怒りに染まったエンリルは勢いよく噛みつきでアラヤに襲い掛かる。

『んがっ⁉︎』

 ところがエンリルは、直前で再び電流が流れてバタンと口から煙りを出して突っ伏した。アラヤがエアリエルを見ると、自分じゃないと頭を振る。

「あ、あれ?ひょっとして2人の奴隷として認識されたかも…」

 刻まれた奴隷紋は二重になっていて、一つはクララに刻まれた奴隷紋と同じ紋があったのだ。本来なら、調教は自身より格上や強者には成功率が低いのだけど…。これは、ラッキーなのかな?凄い睨まれているんだけど?
 偶然にも、望まれない主従関係が生まれてしまったのだった。
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