200 / 418
第14章 面会は穏便にお願いしますよ⁉︎
196話 暴風竜エンリル
しおりを挟む
「エアリエル様何処~っ⁉︎」
未だに泣きながら大精霊を呼び続ける翠の翼竜暴風竜エンリルは、辺りを見回すだけで結界内の屋敷には気付いていない。結界の透明化効果はちゃんとある様だ。
『エアリエル様、コレどうしますか?』
管制室で息を潜める風の大精霊エアリエルに、念話で対応を尋ねるが、彼女は任せたと言わんばかりにダンマリを決めた。
アラヤは、怖がる飛竜を1匹説得して外に出た。飛び立つ前、アルディスが気を使って風精霊を一緒に向かわせてくれた。まぁ、魔力玉を1つあげる約束付きだけど。
『エアリエル様~、いるんでしょう~⁉︎』
「あのぅ、暴風竜様…」
半泣き状態のエンリルの前に現れたアラヤは、光属性魔法のライトを作り出してエンリルを照らした。もちろん夜目は効くので、相手の注意を引く為である。
『…貴様、風精霊を連れているとは、エルフ…では無いな。人間か?エアリエル様の加護…だけじゃ無いな。…女神の加護持ちか⁉︎』
エンリルは、先程までの半泣きが嘘みたいに、威厳たっぷりの竜を振る舞う。散々見たから今更だよね。
「ここから去ってもらえませんか?あんな大声で泣かれたら困るんですよね。今は夜中で皆んな寝てるんです。せめて静かにしてもらえませんか?」
実際には、言語理解持ちじゃない者には竜の咆哮に聞こえているだろうけど。
『な、な、泣いてなどおらんわ‼︎』
「お帰り下さい。この辺りに大精霊様は居ませんよ?」
『馬鹿を申すな。我は確かにこの辺りでエアリエル様に名を呼ばれたのだぞ!眷族が名を呼ばれて間違える訳無かろう!』
豪語しているあたり本当なのだろう。モースも頷いているし。名を読んだばかりで居場所がバレるとは、主人も辛いな。いや、護衛としては最適なのかも。
「それでしたら、こんな上空を探すよりも地上の森を探したらどうですか?大精霊様もおやすみになられているかもしれませんし」
『エアリエル様は眠らない。それに空を漂っている事を好むお方だ』
注意を地上に向けさせて、浮遊邸を引き離そうと考えたがダメだった。これは少々危険なやり方でいくしか無いかな。
「そうですか。では私は寝ますので、なるべく静かに泣いて下さいね?」
『貴様!我を愚弄するか⁉︎泣いてなどおらんと言っただろうが!』
「愛しき母を探す小鳥の様でしたが…?」
アラヤの挑発にカチンと来たエンリルは、巨大な両翼を広げて怒りを露わにする。
うわぁ、やはりデカいね。ベヒモス程では無いけど、あの白いナーガラージャよりは大きいな。
『噛み砕いてくれる‼︎』
エンリルは結界から飛び立ち、離れるアラヤに襲い掛かった。
エンリルが起こす乱気流を、モースが必死に流れを逸らした。逃げようと暴れる飛竜を強制的に舵取りして攻撃を躱すと、付けていたライトの魔力を止めて明かりを消した。
月明かりはあるものの、エンリルの近くにあったライトが急に消えた場合、その視界に慣れていた目が夜の視界合わせて回復するには時間がかかる。ましてや夜目が効かないのだから、当然アラヤ達の姿を見失う。
『何処に行ったぁぁぁっ⁉︎』
暴風竜が叫んでる間にも、浮遊邸はグングンと離れて行く。上手くいった、作戦成功だ。後は自分達も隠れてテレポートするだけ…。
『ちょっと?貴方、ヨダレが出てるわよ⁈』
「おっと、つい久しぶりのドラゴン肉を見たもんだから、アハハ…」
アラヤはグイッとよだれを拭き、森の木々に服を巻き付けて自身の匂いを残した後、浮遊邸へとテレポートで帰還した。
「はい、約束の魔力玉」
『やった!ありがとう』
モースに魔力玉を渡し、アラヤはエアリエルの下に向かった。管制室で、彼女はまだマントに身を包んだまま玉座に腰掛けていた。
『すまなかったな』
「いえ、まぁしばらくは俺への怒りで貴女を探す事は忘れているでしょう。今のうちに遠くに離れるとしましょう。次はうっかり名前を呼ばないで下さいね?」
『うむ、気を付ける』
しかしそうなると、行き先の順番を変えなきゃならない。
「風精霊、進行方向を西南西に変更。カポリの港に向かう」
『分かった、任せて』
今はエアリエルの力を借りる訳にはいかないから、操縦はシルフィーに代わってもらう。
浮遊邸はゆっくりと向きを変えて、コルキアルートから離れて飛んだ。
翌朝、エンリルが追って来る気配は無い。どうやら無事に撒いた様だ。
カポリの近辺まで着いたところで、アヤコ達は食材の買い出しに向かった。沢山の海の幸を買い集めてくれるだろう。
アラヤはというと、念の為に浮遊邸で留守番である。
「エアリエル様、何故にあの暴風竜を避けるのですか?執拗と言うよりは、必死さを感じましたけど」
『…あのうつけは、幼時に我を母だと勝手に思い込み、実の母や同胞を傷付けた大馬鹿よ。我から離れたがらず、眷族達からも恐れられていた。我に会いに来た他の大精霊の眷族とも争ってな。罰として洞窟に謹慎させてみたのだが、2日も保たなかった挙句、逆恨みでまた他の眷族に当たる始末。結果、我が姿を隠す羽目になったという訳だ(理由は他にもあるが…)』
エアリエルは深く溜め息を吐くと、アラヤに頭を下げた。シルフィー達は驚き騒つく。大精霊が、人間に謝罪するなど考えられない事だからだ。
「ち、ちょっと、エアリエル様⁉︎」
『すまない。折り入って其方に頼む。…彼奴を、大人しくさせる方法を考えてくれないか?』
これはまた無理難題を仰る。あの様子では母という認識を改めさせるのは無理だろうし、力づくで抑えれる程、か弱い相手では無いのは明らかだ。
「……少しくらい食べても?」
『だ、ダメだ。というか、そんな発想には普通ならないだろう⁈』
そんな事無いと思うけど。だって冒険者達が狩った子ドラゴンの肉とかは市販されたりするわけだしね。特に肉汁が美味いんだよ?
「だったら話し合いするしかありませんよ?エアリエル様自身が、手綱を引くのが1番なんですから」
『そうは言ってもな…。我が真面目に注意しようとすると、あのうつけは自分の話しばかりしおって、我に話しもさせないからな』
別れを切り出ささせ無い様に必死な恋人かよ⁈うーん、強引に調教できる相手でも無いからなぁ。
「…やっぱりエアリエル様が従えるしかありませんよ」
しばらく考えたが、やはり1番の解決案は主従関係をはっきりさせるしかないと決まった。
『うーむ。上手く行く気がしないのう』
場所はカポリから西に出た海上。そこでエンリルを呼ぶ事にした。浮遊邸は壊されたくないので、近くの森に定着している。
代わりに用意したのは人工的な浮島で、何も無いヘリポートの様だ。
そこに、エアリエル本人と、護衛としてアラヤとパートナーの精霊達が居る。
『…では呼ぶぞ?…エンリル!来るが良い、エンリル!我は此処ぞ!』
その呼びかけに応じる様に、大気が震える空振が鳴った。やはり一刻も待たずして、その翠の翼竜は海上に現れた。
『やっと見つけたぁぁぁっ!エアリエル様ぁぁぁ……あ?』
歓喜の涙を流しながら現れたエンリルは、降り立った浮島で目を丸くした。
『エアリエル様が2人⁉︎』
そこには、紛れもない風の大精霊エアリエルと、彼女に瓜二つの姿に擬態したアラヤが待っていたからだ。
『う、あ、えっと…エアリエル様?』
『『我の姿を忘れたか、我が眷族エンリルよ』』
感覚共有による同時発声で、エンリルは更に困惑する。オロオロと戸惑い、2人のエアリエルを見比べる。以前の擬態と違い、見た目は完璧に真似る事ができた。
『どうした?久しぶりとは言…』
『エアリエル様が増えたーーっ!』
エンリルは、突然ガバッと両翼を広げて2人を包み込むと、笑顔で自身の頬に2人を擦り付けた。
『馬鹿者!痛いわ!離さんか!』
ゴツゴツとした竜鱗を押し付けられ、エアリエルはエンリルの目をバンバンと叩く。
『グフフ、エアリエル様が2人~』
目に涙を浮かべても動じずに嬉しそうにしている。どうやらエンリルには、愛する対象が単に2倍になったに過ぎないみたいだ。
『話を聞かんか、この!この!』
『エアリエル様だぁ~、もう離さないですよ~』
これはダメだ。話を聞かせようにも、エンリルがエアリエルを好き過ぎて、ハグを止めるつもりが無い。これは埒が明かないと感じたアラヤは、次の手段に出る事にした。
『グフフフフ~、痛っ⁉︎えっ?』
突如、左首に強い痛みが走ったエンリルは痛みがある場所を見る。すると、1枚の鱗の剥がれ噛みつかれた歯形の痕があった。
『エアリエル…様?』
見上げるエアリエルの顔には、口周りに血が着いている。
段々と体が痺れ始め、エンリルはヨロヨロと膝を地に付けた。解放された2人のエアリエルは、ヘタリ込む巨大な翼竜を冷ややかな眼差しで見下ろす。
『話を聞かん奴には、しつけが必要ね』
『うむ、致し方あるまい。自業自得というやつだ』
『エアリエル様ぁぁぁっ⁉︎』
話を聞かなかった場合の作戦Bとして、アラヤが隙を突いて、エアリエルに調教をさせる強行プランを考えていたのだ。
エアリエルがエンリルの額に手を当て調教を使用すると、鱗を剥がした部分に奴隷紋が刻まれた。
『これで其方は、我の言う言葉は一言一句聞き逃さず聞かねばならん』
『そ、そんなぁぁぁっ⁉︎』
エアリエルを許可無く抱きしめ様とすると、体に電流が走り煙が上がる。エアリエルが不敬と感じる事には罰が与えられるのだ。
「良かったですね」
アラヤの擬態を解いた姿を見て、エンリルは目の色が変わる。自分を馬鹿にした人間が、エアリエル様に化けていたのだ。
『貴様っ‼︎』
怒りに染まったエンリルは勢いよく噛みつきでアラヤに襲い掛かる。
『んがっ⁉︎』
ところがエンリルは、直前で再び電流が流れてバタンと口から煙りを出して突っ伏した。アラヤがエアリエルを見ると、自分じゃないと頭を振る。
「あ、あれ?ひょっとして2人の奴隷として認識されたかも…」
刻まれた奴隷紋は二重になっていて、一つはクララに刻まれた奴隷紋と同じ紋があったのだ。本来なら、調教は自身より格上や強者には成功率が低いのだけど…。これは、ラッキーなのかな?凄い睨まれているんだけど?
偶然にも、望まれない主従関係が生まれてしまったのだった。
未だに泣きながら大精霊を呼び続ける翠の翼竜暴風竜エンリルは、辺りを見回すだけで結界内の屋敷には気付いていない。結界の透明化効果はちゃんとある様だ。
『エアリエル様、コレどうしますか?』
管制室で息を潜める風の大精霊エアリエルに、念話で対応を尋ねるが、彼女は任せたと言わんばかりにダンマリを決めた。
アラヤは、怖がる飛竜を1匹説得して外に出た。飛び立つ前、アルディスが気を使って風精霊を一緒に向かわせてくれた。まぁ、魔力玉を1つあげる約束付きだけど。
『エアリエル様~、いるんでしょう~⁉︎』
「あのぅ、暴風竜様…」
半泣き状態のエンリルの前に現れたアラヤは、光属性魔法のライトを作り出してエンリルを照らした。もちろん夜目は効くので、相手の注意を引く為である。
『…貴様、風精霊を連れているとは、エルフ…では無いな。人間か?エアリエル様の加護…だけじゃ無いな。…女神の加護持ちか⁉︎』
エンリルは、先程までの半泣きが嘘みたいに、威厳たっぷりの竜を振る舞う。散々見たから今更だよね。
「ここから去ってもらえませんか?あんな大声で泣かれたら困るんですよね。今は夜中で皆んな寝てるんです。せめて静かにしてもらえませんか?」
実際には、言語理解持ちじゃない者には竜の咆哮に聞こえているだろうけど。
『な、な、泣いてなどおらんわ‼︎』
「お帰り下さい。この辺りに大精霊様は居ませんよ?」
『馬鹿を申すな。我は確かにこの辺りでエアリエル様に名を呼ばれたのだぞ!眷族が名を呼ばれて間違える訳無かろう!』
豪語しているあたり本当なのだろう。モースも頷いているし。名を読んだばかりで居場所がバレるとは、主人も辛いな。いや、護衛としては最適なのかも。
「それでしたら、こんな上空を探すよりも地上の森を探したらどうですか?大精霊様もおやすみになられているかもしれませんし」
『エアリエル様は眠らない。それに空を漂っている事を好むお方だ』
注意を地上に向けさせて、浮遊邸を引き離そうと考えたがダメだった。これは少々危険なやり方でいくしか無いかな。
「そうですか。では私は寝ますので、なるべく静かに泣いて下さいね?」
『貴様!我を愚弄するか⁉︎泣いてなどおらんと言っただろうが!』
「愛しき母を探す小鳥の様でしたが…?」
アラヤの挑発にカチンと来たエンリルは、巨大な両翼を広げて怒りを露わにする。
うわぁ、やはりデカいね。ベヒモス程では無いけど、あの白いナーガラージャよりは大きいな。
『噛み砕いてくれる‼︎』
エンリルは結界から飛び立ち、離れるアラヤに襲い掛かった。
エンリルが起こす乱気流を、モースが必死に流れを逸らした。逃げようと暴れる飛竜を強制的に舵取りして攻撃を躱すと、付けていたライトの魔力を止めて明かりを消した。
月明かりはあるものの、エンリルの近くにあったライトが急に消えた場合、その視界に慣れていた目が夜の視界合わせて回復するには時間がかかる。ましてや夜目が効かないのだから、当然アラヤ達の姿を見失う。
『何処に行ったぁぁぁっ⁉︎』
暴風竜が叫んでる間にも、浮遊邸はグングンと離れて行く。上手くいった、作戦成功だ。後は自分達も隠れてテレポートするだけ…。
『ちょっと?貴方、ヨダレが出てるわよ⁈』
「おっと、つい久しぶりのドラゴン肉を見たもんだから、アハハ…」
アラヤはグイッとよだれを拭き、森の木々に服を巻き付けて自身の匂いを残した後、浮遊邸へとテレポートで帰還した。
「はい、約束の魔力玉」
『やった!ありがとう』
モースに魔力玉を渡し、アラヤはエアリエルの下に向かった。管制室で、彼女はまだマントに身を包んだまま玉座に腰掛けていた。
『すまなかったな』
「いえ、まぁしばらくは俺への怒りで貴女を探す事は忘れているでしょう。今のうちに遠くに離れるとしましょう。次はうっかり名前を呼ばないで下さいね?」
『うむ、気を付ける』
しかしそうなると、行き先の順番を変えなきゃならない。
「風精霊、進行方向を西南西に変更。カポリの港に向かう」
『分かった、任せて』
今はエアリエルの力を借りる訳にはいかないから、操縦はシルフィーに代わってもらう。
浮遊邸はゆっくりと向きを変えて、コルキアルートから離れて飛んだ。
翌朝、エンリルが追って来る気配は無い。どうやら無事に撒いた様だ。
カポリの近辺まで着いたところで、アヤコ達は食材の買い出しに向かった。沢山の海の幸を買い集めてくれるだろう。
アラヤはというと、念の為に浮遊邸で留守番である。
「エアリエル様、何故にあの暴風竜を避けるのですか?執拗と言うよりは、必死さを感じましたけど」
『…あのうつけは、幼時に我を母だと勝手に思い込み、実の母や同胞を傷付けた大馬鹿よ。我から離れたがらず、眷族達からも恐れられていた。我に会いに来た他の大精霊の眷族とも争ってな。罰として洞窟に謹慎させてみたのだが、2日も保たなかった挙句、逆恨みでまた他の眷族に当たる始末。結果、我が姿を隠す羽目になったという訳だ(理由は他にもあるが…)』
エアリエルは深く溜め息を吐くと、アラヤに頭を下げた。シルフィー達は驚き騒つく。大精霊が、人間に謝罪するなど考えられない事だからだ。
「ち、ちょっと、エアリエル様⁉︎」
『すまない。折り入って其方に頼む。…彼奴を、大人しくさせる方法を考えてくれないか?』
これはまた無理難題を仰る。あの様子では母という認識を改めさせるのは無理だろうし、力づくで抑えれる程、か弱い相手では無いのは明らかだ。
「……少しくらい食べても?」
『だ、ダメだ。というか、そんな発想には普通ならないだろう⁈』
そんな事無いと思うけど。だって冒険者達が狩った子ドラゴンの肉とかは市販されたりするわけだしね。特に肉汁が美味いんだよ?
「だったら話し合いするしかありませんよ?エアリエル様自身が、手綱を引くのが1番なんですから」
『そうは言ってもな…。我が真面目に注意しようとすると、あのうつけは自分の話しばかりしおって、我に話しもさせないからな』
別れを切り出ささせ無い様に必死な恋人かよ⁈うーん、強引に調教できる相手でも無いからなぁ。
「…やっぱりエアリエル様が従えるしかありませんよ」
しばらく考えたが、やはり1番の解決案は主従関係をはっきりさせるしかないと決まった。
『うーむ。上手く行く気がしないのう』
場所はカポリから西に出た海上。そこでエンリルを呼ぶ事にした。浮遊邸は壊されたくないので、近くの森に定着している。
代わりに用意したのは人工的な浮島で、何も無いヘリポートの様だ。
そこに、エアリエル本人と、護衛としてアラヤとパートナーの精霊達が居る。
『…では呼ぶぞ?…エンリル!来るが良い、エンリル!我は此処ぞ!』
その呼びかけに応じる様に、大気が震える空振が鳴った。やはり一刻も待たずして、その翠の翼竜は海上に現れた。
『やっと見つけたぁぁぁっ!エアリエル様ぁぁぁ……あ?』
歓喜の涙を流しながら現れたエンリルは、降り立った浮島で目を丸くした。
『エアリエル様が2人⁉︎』
そこには、紛れもない風の大精霊エアリエルと、彼女に瓜二つの姿に擬態したアラヤが待っていたからだ。
『う、あ、えっと…エアリエル様?』
『『我の姿を忘れたか、我が眷族エンリルよ』』
感覚共有による同時発声で、エンリルは更に困惑する。オロオロと戸惑い、2人のエアリエルを見比べる。以前の擬態と違い、見た目は完璧に真似る事ができた。
『どうした?久しぶりとは言…』
『エアリエル様が増えたーーっ!』
エンリルは、突然ガバッと両翼を広げて2人を包み込むと、笑顔で自身の頬に2人を擦り付けた。
『馬鹿者!痛いわ!離さんか!』
ゴツゴツとした竜鱗を押し付けられ、エアリエルはエンリルの目をバンバンと叩く。
『グフフ、エアリエル様が2人~』
目に涙を浮かべても動じずに嬉しそうにしている。どうやらエンリルには、愛する対象が単に2倍になったに過ぎないみたいだ。
『話を聞かんか、この!この!』
『エアリエル様だぁ~、もう離さないですよ~』
これはダメだ。話を聞かせようにも、エンリルがエアリエルを好き過ぎて、ハグを止めるつもりが無い。これは埒が明かないと感じたアラヤは、次の手段に出る事にした。
『グフフフフ~、痛っ⁉︎えっ?』
突如、左首に強い痛みが走ったエンリルは痛みがある場所を見る。すると、1枚の鱗の剥がれ噛みつかれた歯形の痕があった。
『エアリエル…様?』
見上げるエアリエルの顔には、口周りに血が着いている。
段々と体が痺れ始め、エンリルはヨロヨロと膝を地に付けた。解放された2人のエアリエルは、ヘタリ込む巨大な翼竜を冷ややかな眼差しで見下ろす。
『話を聞かん奴には、しつけが必要ね』
『うむ、致し方あるまい。自業自得というやつだ』
『エアリエル様ぁぁぁっ⁉︎』
話を聞かなかった場合の作戦Bとして、アラヤが隙を突いて、エアリエルに調教をさせる強行プランを考えていたのだ。
エアリエルがエンリルの額に手を当て調教を使用すると、鱗を剥がした部分に奴隷紋が刻まれた。
『これで其方は、我の言う言葉は一言一句聞き逃さず聞かねばならん』
『そ、そんなぁぁぁっ⁉︎』
エアリエルを許可無く抱きしめ様とすると、体に電流が走り煙が上がる。エアリエルが不敬と感じる事には罰が与えられるのだ。
「良かったですね」
アラヤの擬態を解いた姿を見て、エンリルは目の色が変わる。自分を馬鹿にした人間が、エアリエル様に化けていたのだ。
『貴様っ‼︎』
怒りに染まったエンリルは勢いよく噛みつきでアラヤに襲い掛かる。
『んがっ⁉︎』
ところがエンリルは、直前で再び電流が流れてバタンと口から煙りを出して突っ伏した。アラヤがエアリエルを見ると、自分じゃないと頭を振る。
「あ、あれ?ひょっとして2人の奴隷として認識されたかも…」
刻まれた奴隷紋は二重になっていて、一つはクララに刻まれた奴隷紋と同じ紋があったのだ。本来なら、調教は自身より格上や強者には成功率が低いのだけど…。これは、ラッキーなのかな?凄い睨まれているんだけど?
偶然にも、望まれない主従関係が生まれてしまったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~
TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ!
東京五輪応援します!
色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる