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第17章 追う者、追われる者、どっちか分からないよ⁉︎
238話 女達の闘い
しおりを挟むオモカツタの大罪教本部で、サナエ達は嫉妬魔王の来訪をベルフェル司教に知らせていた。
「状況は理解した。アラヤ殿にもう少し間を稼いでもらう様にお願いしてくれ」
「分かったわ。でも、ベヒモスの再封印は期待しないでね?」
「無論、我々もベヒモスをみすみす解放される気はない」
アラヤも、あの巨体と再戦することは勘弁したいと言っている。まぁ、ベヒモスの肉は魔力増強効果が高かったから欲しいって思うし、見た目を嫌がっていた事が懐かしく感じる。
ベルフェルは多くの団員を集め、着々と準備を進めている。
サナエ達もこうしてはいられないと、大罪教本部を後にした。
「オモカツタの街に近付く前に話を付けるのがベストね」
街の外に出てから一度、戦闘向きでは無いコルプスをテレポートで浮遊邸に送る。
「それで、今のアラヤはどの辺り?」
相手が死霊系が多いなら、アンデッドを舞で倒せるサナエは、直ぐにでも向かわなければならない。
『今は街の西側に誘き寄せているわよ~。どうする?私が風を巻き上げて吹雪にしちゃう?』
シルフィーが風の微精霊達を集めてソワソワしてる。ちょっとやそっとじゃ済まないレベルの吹雪にしそうだ。
「ううん、今見失ったら困るから待って」
サナエは飛竜を一頭準備する。アラヤの側にはクララとアフティもいる。クララはともかく、アフティはテレポートが使えない。彼女には飛竜が必要だろう。
「サナエ様、我々はどうしましょうか?」
待機しているアスピダ達は、自分達もじっとしていられないといった感じだ。
「アラヤからは連絡無いんでしょう?それなら待機よ。ただし、直ぐに出れる様に金属鎧は止めて革製に準備したり、飛竜の準備をお願い。後はアヤが判断してくれるわ」
「「「分かりました」」」
と言っても、もしもの際の準備だ。そうならない様にしなければならない。
「サナエさん、私も行くわ」
ジャミングをしていない、素の黒髪のカオリがダッフルコートの戦闘服姿で現れた。
「アヤコさんの案で、嫉妬魔王の立場で向かうわ」
「それ、危険じゃない?」
「望むところよ」
彼女は何故かやる気になっている。アヤが何か吹き込んだのだろう。
2人は飛竜に乗り、アラヤ達の下に飛び立った。
「待ちなさいって言ってるでしょう!」
レイス達の魔法攻撃を逸らしながら、アラヤだけでなく亜人も捕まえる事ができない。狙い目のもう1人の女も、梟の魔物に背中を掴ませて2人に守られてながら飛行して逃げている。
「俺は自由に暮らしたいの!諦めてくれないかな⁉︎」
テレポートで逃げるのは簡単だが、まだまだ街に近い。この数のレイスが街に雪崩れ込むのだけは避けなくては。だが、手を出して魔王同士の争いにしたくないしなぁ。
「バカねぇ、貴方の意見は求めて無いの!私の側に居れるだけで幸せになれるんだからね!」
コウサカが更なる部下を召喚する。スカルハウンドとスケルトン兵だ。スケルトンはスカルハウンドに跨り、騎兵部隊の様に並ぶ。
「行きなさい!」
部隊は左右に別れ、アラヤ達を避けて駆け出した。先回りさせて退路を断つつもりだろう。
「…そろそろ限界かな?」
テレポートで飛ぶか相手になるか、そろそろ判断しなきゃならない。
アフティが、アースクラウドでスカルハウンドの進行を邪魔している。その間を潜り抜けた1組が、彼女に襲い掛かった。
「‼︎」
アラヤとアフティが手を出すよりも早く、スケルトンとスカルハウンドの頭蓋骨が真っ二つに割れた。
「間に合ったわね」
雪に刺さったチャクラムを拾い上げるサナエに、コウサカが睨みつける。
「ちょっと貴女、邪魔しないでよね!」
「相変わらず我儘なのね、香坂さん」
向き直ったサナエに、コウサカは驚く。
「…⁉︎貴女…もしかして土田さん⁉︎生きてたの?」
「まぁね。運良く生き残ったわ」
「そう…それで?何で貴女が此処に居るわけ?まさか貴女、倉戸と一緒に行動しているの?」
その表情は、その解答次第では許さないと言わんばかりにヒクついている。
「あら、彼女だけじゃありませんよ?」
上空から声が聞こえて見上げると、色欲魔王としてのカオリが飛竜の背に乗って現れた。
「一色さん…いえ、今は色欲魔王でしたわね。先日お会いしたばかりだというのに、少々ウザったいですよ?」
「それはこちらの台詞です」
地上に降り立ったカオリは、アラヤ達の前に出るとコウサカに取り出した杖先を向ける。
「私の夫に、手を出そうなどと1万年早いですよ?」
「お、夫⁉︎」
「ええ。私達、倉戸君と結婚してるのよ?」
カオリはそう言って、左手の薬指に光る指輪を見せ付ける。
「あ、私もね?」
サナエも良いでしょう?と指輪を見せる。そこにクララも加わり、3人がアラヤを囲んで抱きつく。アラヤは何を見せ付けてるんだと困惑する。
「な、な、な、何よそれーーっ⁉︎ち、ちょっと、おかしいでしょ⁉︎私のものに何してんのよ‼︎」
「いや、君のものになった覚えは無いんだけど」
「私のものよ!私が気に入ったものは全部私のものなの‼︎」
どこかのガキ大将の理屈を通そうとするコウサカは、部下達に一斉に攻める様に合図する。そして、話が気になって油断していたアフティに、スケルトン兵の弓矢が掠った。
「手を…出したわね?私が公言したにも関わらず」
カオリの表情が一変して、冷たい表情を見せる。あまり見ない表情に、アラヤ達も狼狽た。
え?何?これは芝居だよね?
「だから何よ?言う通りにならないのが悪いのよ。いっその事、私の様に人間辞めさせたら、素直になるかもね?」
カオリは、はぁ~っと呆れる様な溜め息を吐くと、ツカツカとコウサカの前に歩み寄る。
「コウサカさん、この色欲魔王である私の夫に、嫉妬魔王である貴女が手を出す意味、分かってる?」
「は?知らないし。私の方が絶対可愛いから嬉しいに決まってるし」
ピキッと音が聞こえたと思うと、カオリの背後に無数の魔法陣が現れた。
「じゃあ、戦争って事で良いわね?」
「やってごらんよぉ?」
コウサカも怯むこと無く、魔物召喚を展開する。
「ち、ちょっと2人共⁉︎」
勝手に暴走してしまいそうな状況に、アラヤは急ぎ間に立つ。
「2人共、一旦落ち着こう⁉︎俺達が争ったって、何の得にもならないよ?そもそも、此処には部下を探しに来たんだよね?」
「…⁉︎そうだった!」
コウサカはキッとカオリを睨んだ後で、身を翻してオモカツタに向き直る。
すると、西入り口付近には、多くの兵士と両教団が待ち構えていた。そこには、分別の勇者ウィリアム=ジャッジも居る。既に向こうは合戦になる準備万端の状態だった。
「…貴方達、ひょっとしてグル?」
分別の勇者のその姿に、コウサカは微かに震えているのが分かる。
「グルとは人聞きが悪いわね。まぁ、少なくとも、夫は彼等と仲が良くてね。夫を助けに来たのかもしれないわね?」
アラヤが、そんな訳無いでしょとツッコミを入れたくなった時、街長でもあり兵長でもあるグスタフ=アグロンスキーが手を振ってきた。
「坊や~っ、今助けるからね~!さぁ貴方達、突撃準備よ?」
「アラヤ殿!その魔王は私が相手する!君は今すぐに避難するのだ!」
「アンデッドは我々が引き受けよう」
ベルフェル司教率いる大罪教教団員達が前に出て詠唱を始める。
「現世に、未練、後悔を残し歩みを止めた、紅月神フレイアの愛しき子等よ、地上に迷い、縛られたその哀しき御霊は、再び主の導きによって解き放たれん!女神の抱擁!」
彼等の近くに居たレイスやスケルトン達が、一瞬にして浄化され消滅していく。
「嘘っ⁉︎私の部下達が一瞬⁉︎」
しかも、分別の勇者が部下達を蹴散らしながら一直線に向かって来る。
追い詰められたコウサカは、呼べる部下はまだまだ居るが、その気迫に思わず後退りを始める。その肩にカオリが手を置いた。
「正直、私は助ける気は無いんだけど、夫がどうしてもと頼むから……逃げるなら手伝ってあげても良いわよ?」
アラヤを見ると、ウンと頷き逃げる様に促している。
「こ、こ、コレは借りじゃ無いからね⁉︎良い、まだこの話は終わってないからね⁉︎」
コウサカは、魔物召喚と同様の空間に魔物達を撤退させ始める。
「ハイハイ、じゃあまたね?」
カオリは、展開していた魔法陣を発動させて、迫り来るオモカツタ兵士と分別の勇者の前にアースクラウドの鉱石壁を高く立ち上がらせた。
「倉戸!貴方は私のものよ、覚えときなさい⁉︎」
慌てつつも目一杯の愛想を振り撒きながら、コウサカもその空間に姿を消した。精霊界と似たような空間なのかもしれない。
その直後、魔鉱石壁を分断した勇者達が駆けて来た。
「無事か、アラヤ殿!」
「はい、助かりましたウィリアムさん」
分断の勇者は辺りを見渡すが、コウサカ達の姿はもう見当たらない。
「まさか、またこの街が狙われるとは思わなかった。いや、あの魔王、俺に復讐しに来たのかもしれないな」
勘違いしている勇者はともかく、大した争いにならずにベヒモスの解放を阻止できて良かった。
「ちょっとカオリさん、あの芝居は…」
正直、彼女の突然の芝居に困惑した事を文句言おうとしたら、既に金髪姿に変装した上に、クララの影に隠れようとしている。
アヤコの指示なんだろうけど、失敗していたら街はまた戦場になるところだった。
「どういう事か、ちょっとだけ説明していただけますかな?」
またも突如、アラヤの背後に現れたベルフェル司教に、アラヤはゆっくりと振り返り「はい。後で説明します」と素直に頭を下げた。
まぁ、結果的に大事にならずに済んで良かったけどね。
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