【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第18章 離れ離れが寂しいのは当然ですよ⁉︎

261話 尾行

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 パガヤ王都にある酒場。
 一度、対象であるロータス邸の場所を確認した後、アヤコとコモンは情報収集する為に酒場に入った。
 コモンは蝙蝠人バットマン、アヤコは人猫ヒューカッツ姿で店の隅の机に座る。ここからなら、店に出入りする人物を自然体で見る事ができる。

「いらっしゃい。見ない顔だね?何にする?マタタビ酒もあるよ?」

 早速、犬人ホンデライタの女店員が注文を取りに来た。

「ええ、私はそれを」

「お連れさんは、血酒はあいにく豚か馬しか無いけど、どうする?」

「うむ…。では馬で頼む」

「は~い」

 店員が離れた後、コモンが小声でアヤコに話しかける。

「お酒を飲んで構わないのですか?」

「私は飲みませんよ?口内に小さなサクションを作り、飲むフリをするだけです」

「えっ、じゃあ吾輩は?」

「…?ひょっとして弱いのですか?」

「酒自体は弱くはありませんが、血酒は若い人間の血でないと悪酔いするんです」

「それなら、無理に血酒を頼む必要が無かったですよね?」

「国から出た事無いので、家で飲む以外の経験が無く…」

「そこは自己責任でお願いします。せめて変装が解けないようにしてくださいね?」

「…善処します」

 酒が運ばれてきて、さりげなく飲んでいるフリをしながらアヤコは聞き耳を立てる。
 この酒場の客の入りは割と多く、全ての会話を聞くには無理がある。
 そこで、ロータスに関係しそうなワードだけに網を張った。
 ほとんどが、『コロシアム』『祭り』『4大将軍のブルータス』の話題が多い。そんな中、ロータスの名が聞こえてアヤコは意識をそちらに向けた。

「聞いたか?また帝国に囚人を売り付ける案が出てるってよ」

「またロータス様か。囚人とはいえ、同胞を奴隷に送るのは何か違うよなぁ?」

「それがさ、今回は奴隷というより兵士要員なんだとさ」

「ああ、そういえばラエテマ王国と喧嘩してたんだったか。あれって結局どうなったんだ?」

「痛み分けらしいぞ」

「ハハッ、ざまぁないな」

 やはり聞きたい事を質問しない限り、聞き耳を立てるだけではあまり関係性の高い話は聞けそうにないようだ。

「コモン、大丈夫ですか?」

「は、はい。割と大丈夫です…」

 悪酔いすると言っていただけに顔色はあまり良くないが、気性が変わり悪くなるというわけじゃなさそうだ。

「やり方を変えないと、酒場ここでの情報収集は限界みたいですね」

「…そのようで。皆、コロシアムの祭りを見に行くという類いの話ばかりの様子。やはり、直接屋敷に潜入しますか?」

「それは流石に無理ね。相手は厄災の悪魔、気付かれたら情報収集どころではありませんよ?やはり、彼の身辺に近い者から聞き出すしかないでしょうね」

 本来なら調査が得意なオードリー達が適任なのだけど、オードリーとアフティはゴーモラ国に残った為に居ない。

「では、吾輩の出番というわけですね」

 ヴァンパイアは、対象を条件付きで隷属化する事ができるらしいのだが、どうやら彼も彼の父親と同じく使えるらしい。
 ただ、一度隷属化した者は戻す術が無いと聞いた。だから、この方法を用いれば後の調査が出来ず足が付きやすいのだ。

「狙うなら使用人ですが、屋敷はちゃんとマークできていますか?」

 ヴァンパイアの固有技能の1つに、体の一部を蝙蝠に分体する技能がある。
 屋敷を確認した際に、あらかじめ2匹の蝙蝠分体を近くの木に監視目的で置いてきたのだ。
 因みに、今回は両足の小指を分体に使用したらしい。

「はい。住み込みの使用人の1人がたった今、何やら使いに出されたみたいです。後を追いますか?」

 分体の情報は本体も共有できる。とても便利な技能だが、失った場合は使用した体の一部は戻らないという危険リスクもある。

「ええ、お願いします。私達も向かいましょう」

 酒代を払い外に出ると、外はすっかり夜の街に変わっていた。

「こんな時間帯に用事の使い?少し変ですね。屋敷の方は引き続き監視していますか?」

「はい。特に変わりないようです」

(夜に出す用事というと、日常的な品の買い物の可能性は低いと思うけど。まさか、監視に気付かれて誘い込まれている可能性もある?)

 アヤコは念のために、隠密の技能と魔力制御で気配を消すことにした。
 しばらくして、使用人の後を追う蝙蝠へと追いついた。
 どうやら使用人は、建物内に入ってしまったらしい。その建物には灯りすら点いていない。

「どうやら二階に上がったみたいです。家に入れた人物は猫人カッツェパーソンだったのですが、使用人を念入りにボディチェックしていました」

 それなら、仲が良い相手というわけじゃなさそうね。少し、きな臭くなってきた気がする。

「建物の近くまで行きましょう」

 アヤコとコモンはカップルを装って建物に近付くと、壁にもたれかかり再び聞き耳を立てる。

「…では手筈通り、祭りの仕込みはお願いします」

「いやはや、ロータス様は堅物だと思っていたが、息子の為にここまでするとはな…」

「残りの報酬は達成が確認できてからです。貴方は余計な考えを持たずに、失敗しない事を心がけてください」

「分かってるよ。だが相手は大将軍様達だ。成功報酬には更に色を付けてくれるって言うなら、モチベーションが更に上がるんだけどな?」

「…話は伝えますが、今後の貴方の身の安全は保証できませんよ?」

「おお、怖ぇな。ハハ、冗談だよ。前払いも充分な額だ。必ず成功させて、今後とも長い付き合いをお願いしたいと思ってるさ」

「では、よろしくお願いします。くれぐれも、間に合わなかったなどという事にならぬように」

「こっちはコレで飯食ってるんだ。そんなヘマはしねぇよ」

 そこで、いきなり二階の窓が開けられた。咄嗟に、コモンはアヤコに壁ドンをした姿勢になって誤魔化す。
 冷や汗ダラダラのコモンの隙間から、窓枠から身を乗り出した猫人と目が合う。
 いや、よく見ると猫人じゃなくて豹人パンサーだった。

「ん?何だ、てめぇら。人ん家で盛ってんじゃねーぞ?」

「あっ、ごめんなさいっ!」

 アヤコはコモンから逃げるようにして走り出し、コモンも待ってと後を追った。

「ヘッ、フラれてやんの。全く、出発前に嫌な気分になるところだったぜ」

「…」

「じゃあな!」

 勢いよく飛び降りた豹人は、街中を風のように走り去っていった。

「コモン、彼を蝙蝠で追せ……大丈夫ですか?」

 逃げたフリをした後、建物の影で様子を見ていたアヤコは、コモンに追跡を頼もうとしたが、肝心の彼は嘔吐していた。
 急に走ったことで限界が来たらしい。

「す、すみません…」

「仕方ありません。追跡は諦めましょう」

 もはや追いつけない豹人の追跡は諦め、再び使用人の様子を伺う。

 建物から出てきた使用人は人梟ヒューオルで、ぐるりと辺りを見回している。

「出て来なさい。そこに隠れているのは分かっています」

 亜人の場合、本来なら夜行性の動物であっても、人とのハーフである為に日中も平気である。その上、得意とする夜になると、その視力や聴覚等の性能は人としての分が追加されて増すのだ。
 アヤコとコモンは、ゆっくりと姿を現した。

「何故に私を尾けているのですか?」

「…別に貴方を尾けてたわけじゃありませんけど…」

 と誤魔化してみたけれど、コモンの蝙蝠をどうも途中から気付かれていたようだ。

「せっかくなのでロータス様について、2、3質問しても宜しいですか?」

「フン、人猫のメイドは私の同僚にも居ますが、貴女程に猫っぽさの無い不自然な人猫は初めてですよ。その耳と尻尾が飾りのようだ」

 言われてみれば確かに、耳や尻尾は飾りのようにウィッグをジャミングしただけの物だ。
 どうやら動きが無いから不自然だったみたいで、改良の余地があると分かった。

「私に死角はない。無駄ですよ?」

 隙を見て、分体を飛ばして背後に回ったコモンもあっさりと気付かれた。

「ご主人様の情報なら、提供しても良いですよ?」

「「えっ?」」

 人梟の言葉にアヤコ達は驚く。

「コレさえ、戴ければ」

 彼は指でお金を渡せと提示している。まさかの不忠実な人物だったか?
 だがこれは好都合だ。その情報に信憑性があるかはともかく、無駄な血を出さずに話し合いができるのだから。

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