【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第19章 選択権は弱者には無いそうですよ⁉︎

273話 潮時

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「久々に長い快楽睡眠ですね…」

 アラヤが意識を失ってから3日目、今日も浮遊邸の彼の寝室には3大精霊が様子を見に来ていた。

『今日もまだ目覚めないのか』

『ミフル、貴方は帰っていいのだぞ?』

『うむ、其方は帝国に契約者パートナーが居るのであろう?こうも日を空けては心配しているのではないか?』

『2人共冷たいなぁ、そんなに私を帰したいのか?』

『『そうだな』』

『…それは酷いな。流石にショックだぞ?』

 風の大精霊エアリエル土の大精霊ゲーブに同時に拒否られた光の大精霊ミフルは、わざとらしく凹んだような仕草をする。

「あの、大精霊様、寝室では静かにお願いします。それと、わざわざ寝室にお越し頂かなくとも、来賓館でお待ちいただければ、彼が起きたら直ぐにお知らせしますので」

 有無を言わさぬアヤコの笑顔の圧に、大精霊達はたじろぐ。大人しく来賓館の客間に移動した大精霊達は、辺りに誰も居ないことが分かると席に座るなり寛いだ。
 普段はやはり、大精霊として舐められぬように気を張っているのだろう。

『全く、魔王というのは毎回気絶するものなのか?』

『話には聞いてたけど、私と行動してからは初よ?』

『少なくとも、我も知る限りではバンドウが気絶した事は無いな』

『では、暴食魔王だけか?先程の娘も魔王なのだろう?いや、後もう1人居たな』

『知っていたとしても、貴方に教える筈無いでしょう?貴方こそ、勇者について少しくらい話しなさいよ?』

『ううん…そうは言ってもね。私は契約者パートナーの慈愛王しか知らないからね。彼の場合、歴代の慈愛王みたく博愛主義とは違って、人間への慈愛のみではあるね』

『ん?では亜人は嫌いか?』

『エルフも嫌いなのね?』

『…いや、その辺はどうだろうなぁ…?』

 間接的ではあるが、契約者が戦争に加担していることを考えたら、あながち間違いじゃない気がする。

『失礼します』

 そこに、扉を抜けて、シルフィー、シレネッタ、ノームの3名が現れた。

『この度は、救っていただきありがとうございました!』

 3名は、ミフルの前に立つと頭を下げた。
 先日、藁人形の呪魔道具に閉じ込められた3名は、ミフルの浄化により助け出されていたのだ。

『いやいや、大したことはしてないさ』

 3名に尊敬の眼差しを受けるミフルは、ドヤ顔でエアリエルとゲーブを見る。

『ふ、フン、あの程度、我にも解呪できた』

 無論、嘘では無いが、先を越された時点で負け惜しみにしかならない。それだけに、エアリエルは自身に無性に腹が立っていた。
 だが、そんなことは助けられた精霊達には関係無いことだ。

『まぁ、この子等を助けてくれたことには感謝している。世話になった、ありがとう』

 素直に感謝を述べられたミフルは、嬉しそうに笑う。彼としても、仲の良い大精霊がいないだけに、関係を近付けたいところだったのだ。

『ああ、そういえば、君達は何故、厄災の悪魔なんかに関わっていたのかな?』

 そもそもの原因が何であるかを知らないなと、ミフルが思い出したように尋ねる。

『…それはフレイア大罪教の動きに関することだ。フレイ美徳教の教皇が契約者の御主には話せないな』

『ん?とすれば、ヌル虚無教絡みとも取れるな?』

『そこは想像に任せるよ』

 少なくとも、禁呪魔導書の件は伏せている方が良いだろう。力を望む帝国派閥が禁呪を手に入れようものなら、更に厄介なことになりそうだ。

『そうか。まぁ、今日のところは帰るかな。少年が目覚めたら伝えてくれよ?私が彼と話がしたくて来た、とな?』

『伝えはするが、こちらから会いに行くことは無いと思う。期待はするな』

『ああ、そこは大丈夫。こちらからお邪魔するからさ』

 ニカっと笑顔を見せて手を振った後、彼は光となって浮遊邸から去って行った。

『少し結界を強くするようにしなきゃね』

『奴は、勇者とはいえ人間を契約者にしているからな。おいそれと油断はできぬな』

 そもそも、大精霊が人間と契約者になること自体、とても異例なことなのだ。
 加護を与えて眷属にすることはあっても、強過ぎる力を持っている大精霊が契約者となった場合、力に溺れてしまうことが目に見えているからだ。

『それで、サタンめはどうなっておる?』

『どうやら例の遺跡に居を構えたようだな。バンドウへの加護も解いた今、奴の力は減っている筈だ』

『まぁ、最優先の禁呪魔導書は手に入れたからな。相手をするのは後回しで良いだろう。何より、アラヤが目覚めん事にはこちらも動けんからな』

『ふむ。フレイア神も、厄介な加護を与えたものだな』

『だが、それも成長する過程で必要らしいからな。目覚めるのが楽しみではあるな』

 2人の大精霊は、いつ目覚めるか分からない共通の眷属を、楽しみに待つのだった。



       ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 カハピウラの近くにある遺跡の最深部。
 そこは、以前アラヤ達が訪れた時とは様変わりしていて、悪魔や魔物達がはびこり危険なダンジョン化していた。
 その中心にいるのは、厄災の悪魔サタンと憤怒魔王バンドウだ。

「そろそろ良いんじゃねぇか?」

「いや、まだだ。大精霊相手にこの程度では突破される」

「俺は、奴等は来ないと思うぜ?」

 そもそも、アラヤ達の狙いは初めから禁呪魔導書だった。それを手にした今、わざわざこの遺跡に来る必要は無い。
 サタンが街を襲い悪事を働くならまだしも、ロータスを失ったことで引きこもりに拍車が掛かったサタンでは、アラヤ達は動かないだろう。

「まだだ、まだ警戒を強めねば…」

 ブツブツと独り言を言って徘徊するサタンに、バンドウは溜め息をついた。
 自身の左腕を見ると、切断面を縫合した部分が紫の肌となり魔物化している。
 魔物の体を一部繋ぎとして使用した事が原因だろうが、おかげで回復は早かった。

「もうサタンコイツもダメだな。潮時か…」

 サタンとの取り引きは、パガヤ王国の美麗王と称される女王を、自身の妃にする為の手助け、つまり、この国の王に成り代わる為の取り引きをしていた。
 きっかけは、初めてパガヤ王国に訪れた時だ。
 護衛と称してついて来た配下達と王都へと向かう途中、サンドワームの群れに襲われて配下達が全滅し、バンドウは1人で戦っていた。
 そこに、たまたま内政行事から帰る王国軍が発見して、バンドウを救ったのだった。
 その際に、助けるよう指示を出した美麗女王と面会して、その美しさに一目惚れしたのだ。
 その際、サタンが憑依していたロータスも居合わせていて、バンドウに取り引きを持ち掛けてきたのだった。

「サタン、悪いが俺はここまでだ」

「なっ⁉︎出て行くのか⁉︎」

「ここに残っても、俺の願いは叶わないからな。取り引きは白紙だろ?」

「ぐぬぬぬっ、確かに取り引きを続けるにはロータスが居らねば無理だった。ロータスと御主が我に加担していたと知られた今、大将軍としての地位も、今頃、ゲーブが国民に我々の事を伝えてえて剥奪されているだろう。それを今更、1人で何ができると言うのだ?」

「将軍の地位は、あくまで正攻法で女王を手に入れる手段だった。今の俺にはわざわざ正攻法でいく理由が無い。俺が真に欲しいのは、国じゃなく女王だからな」

「まさか、御主…」

「俺は俺のやり方で手に入れる」

 女王を奪うこと、つまりは国と戦うことを何の迷いも無く言ってのけるバンドウに、サタンはとても感動した。

「分かった。ならば我からも、我が野望に付き合ってくれた礼として、コレをやろう」

 そう言って、サタンはバンドウに羊皮紙の巻物を手渡した。

「何だこれは?」

「おっと、今開くなよ?それは使い切りタイプの召喚書だ。中には育った食人植物ボルモルが入っている。使い所は、自身で決めるのだ」

「おお、サンキューな!」

 召喚書を受け取ったバンドウは、サタンの肩を軽く叩くと、じゃあな!と手を振り遺跡から出て行った。
 本来なら加勢することもやぶさかでは無いが、後が無いサタンにとって、そのリスクは回避する案件だと予感していたのだった。
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