【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

299話 祝福の舞

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 その後に開かれた夜魔族による挙式は、実に人間達が行う挙式に似通っていて、午前の試練に比べて派手さには欠けていた。
 しかし、粛々と行われたその誓いは、アフティとサハドの真剣さを伝えるには充分で、その場に居た全ての参列者達は惹き込まれた。
 式を終えて、真っ先にこちらへと向かってくる彼女に、アラヤは笑顔で応えた。

「アフティ、おめでとう」

「アラヤ様っ、有り難き幸せでございます!」

 サナエが拵えたウェディングドレス姿のアフティは、とても綺麗だった。彼女の背後に控える20種の従魔達にも、ワンポイントのスカーフのオシャレが見える。
 遅れて、新郎のサハドと父親のヒヨド=ドラクル伯爵、長男のコモン=ドラクルも挨拶にやって来た。

「暴食魔王殿、息子をよろしくお願い申し上げる」

「いや、それは俺に言うのは違う気が…まぁ、はい。分かりました」

 ちょっとこの伯爵は面倒なんだよなぁと、アラヤは早々に対応を諦めた。
 ただ、サハドはコモン同様に、真面目な性格のようで彼女に対して紳士であろうとしている事は分かる。

「これから宜しくね、サハド」

「はいっ、ファミリーに早く馴染めるように頑張ります!」

 まぁ、先ずは浮遊邸の生活に慣れることからだと、コモンから教えられている。
 文化の違いに慣れるのは誰もが難しいから、徐々に馴染んでくれれば良いと思うね。

『アラヤ、そろそろスタンバイだよ?準備して』

 サナエからの念話が届き、一気に緊張がやって来た。

「さぁ2人共、アスピダ達が座るあの席の隣に座って?」

「「はい」」

 2人は何だろう?と不思議に思いながらも、言われた通りにその席に座る。

「アスピダ、今から何が起こるの?」

 アフティは、先に座っていたアスピダに尋ねる。

「アラヤ様達が、我々の為に舞を披露して下さるらしい」

「嘘っ⁉︎それは、永久保存案件じゃない⁉︎瞬き禁止で記憶しなくては!」

 2人が期待に胸を膨らます中、ステージ裏にスタンバイするアラヤ達は、緊張で鼓動がうるさかった。

「正直、演奏者が足りてない点は否めない。だから、頼みの綱は2人に掛かっている。でも大丈夫、2人の完成度は最高だよ」

「1番足を引っ張りそうな、にいやに言われてもね~」

「失敗を恐れちゃダメだよ?楽しまなきゃ。楽しんだ上で、彼等を祝福するの!私達ならやれるよ!」

 サナエが差し出した手に、アラヤ達も重ねて気合いを入れた。

「良し!行こう‼︎」

 アラヤ達はステージに駆け上がり、それぞれの立ち位置に移動する。

「それでは、暴食魔王殿達が新郎新婦に送る、祝福の舞をご覧下さい!」

 ジョスイの進行が始まったと同時に、アラヤのドラムのリズムが始まり、中央に立つサナエに弱めのライトが照らされる。
 サナエが音に合わせてダンスを始めると、アヤコのトランペットが鳴り始める。
 奏でる楽器はこの2つで、アラヤとアヤコによる二重奏だ。
 そこに、緊張した面持ちのカオリが声を張り上げて歌い始める。

「it's close to midnight…」

 カオリの流暢な英語の歌に合わせて、地面からゾンビ達が這い出てくる。
 そして、そのままサナエのダンスに加わりゾンビダンスが始まる。その後、狼人ライカンスロープのクララも登場してダンスは激しさを増していく。

「懐かしいわね。こういうアレンジも嫌いじゃないわ」

 コウサカも、聴いたことのある名曲に、僅かにリズムに乗って見ている。

「これは…!アラヤ様達の世界の音楽か!」

 アスピダとアフティは、感激に涙を流しながら必死に記憶しようと見ている。
 言語理解持ちのアフティには、その歌詞が伝えたいメッセージが届いていることを願う。
 曲の終わりと同時に、魔物達からの大歓声が上がった。

「あ~、緊張したわ~。私、声震えてなかった?」

「大丈夫だったよ?言語理解をOFFって聞いてたけど、凄い響いたもの」

「フフッ、この曲はこの国には完全にハマった曲よね?ゾンビダンス、最高だったでしょう?」

「ええ、それだけじゃなく、サナエちゃんの舞の効果らしきものが観客を更に興奮させていましたね」

 音楽は魂を惹きつける。確かに効果はあったのだろう。
 反対派だった影竜やその他の族長達も、今や楽しげにアスピダやアフティに話掛けている。

「また、別の機会にみんなでやりたいわね」

「次やる時は、私はボーカルじゃなく楽器担当が良いわ。にいやはもう少し腕を上げなきゃね?」

「う、うるさいなぁ、あの練習量じゃ仕方ないだろ?」

「次はクララも楽器に参加ね?」

「が、頑張ります」

 こうして、浮遊邸とゴーモラ王国合同の挙式と披露宴は無事に終了したのだった。

 翌日、浮遊邸のゴンドラの前には、第3、第4の新郎新婦になろうと考えた魔物達が、誰かお近付きになれる人間がいないかとウロウロしていた。
 オードリー達には、軽率な行動は注意するように伝えて、出発の準備に取り掛かってもらった。

 サハドとミュウの引っ越しも終わり、いよいよ明日にはゴーモラ王国を出ることが決まると、コウサカがアラヤ達を屋敷へと招いた。

「カオリさんとサナエさんのおかげで、いろいろと助かったわ」

 コウサカは、すっかりこの屋敷の暮らしに慣れているようで、2人が作った衣装はおろか、室内まですっかりゴシックカルチャーに染まっていた。
 呼び名が旧姓じゃないあたり、少しは仲良くなっているのだろうか。

「いよいよ、明日にはまた出発するのね?それで、行き先は決まったのかしら?」

「そうだね、とりあえずは調べていないグルケニア帝国の遺跡を回ってから、ソードムに向かってみようと考えてる」

「…そう。じゃあ、しばらくは帰ってこないのね。まぁいいわ、ジョスイ、料理はまだ?」

「はい、只今!」

 再びボロボロになっているジョスイが現れて扉を開けると、レイス達が次々と料理を運んでくる。

「ゴーモラは島国だからね、今回は刺身を作らせたわ」

 祝いも兼ねてなのか、いろいろな刺身が多く出されている。

「倉戸はやはり肉の方が良かったかしら?」

 この国には本来家畜は無かったが、コウサカが取り入れてからは肉も普及はしている。
 その前は、再生尾を持つ魔物肉が一般的だったらしい。
 故に、肉食である魔物達には必要な政策だった。ところが、先日の披露宴での消費が予想以上に出た為に、魚メインに切り替えていたのだった。

「いや、魚も好きだから大丈夫だよ」

 アラヤはその原因が、自分と邪竜族長との大食い競争だと分かっているだけに、文句は言える立場ではない。

「コウサカは、お腹は空かないの?死肉なら食べるんだろ?」

「はぁ?空かないし食べないわよ。…というか、死肉を食べるなんてごめんだわ…必要があるのは負傷した時くらい。味が分からないんだから、楽しくもないしね」

「それは辛いね。食べることができないなんて、俺なら耐えられないな」

「元々、少食だったし、お菓子なら食べれるけどね?今となっては虚しいだけだから、意味ないけどね。私のことは良いから、食べちゃって?」

 コウサカに促され、それじゃ遠慮なくと食べ始めると、コウサカは満足そうに見ていた。

「あれ、サナエさん、魚はお嫌いかしら?」

「ううん、ちょっとお腹の調子悪くてね」

「あら、そうなの?ジョスイ、薬はあったかしら?」

 サナエが、魚以外のものばかり食べていたことに気付き、コウサカがジョスイを呼ぶと、ジョスイは顔を横に振った。

「奥方殿は懐妊中でございますからな、生魚は控えておいでなのですよ」

「…⁉︎ジョスイ?それはどういうことかしら?」

 コウサカが、一瞬でガシッとジョスイの額を掴む。

「は、はい。奥方殿は孕って…」

「何故貴方が知っていて、私が知らないのかしら?しかも何?妊婦に生物は駄目と知ってて、私に出させたの?」

 メキメキと、ジョスイのこめかみに指の爪が食い込んでいる。なんだか、以前よりコウサカのステータス上がってないか?

「コウサカ、その辺で許してやってくれないか?事後報告になるけど、サナエさんが妊娠してるって知ったのは、俺も最近なんだ」

「…ったく、つくづくアンタは私の魔王レベルを上げてくれるわね。まぁいいわ、今回はこれくらいで許してあげる」

 解放されたジョスイは床にヘタリ込む。毎回、こんな扱いを受けているのか…。
 しかしまぁ、彼はそれがそうに見えるから良いか。

「倉戸、彼女を泣かせたらただじゃ済まさないわよ?」

「もちろんだよ」

「フン、そうやって周りに見せつけていれば良いわ。私の力が上回ったら、全て壊してあげるから」

 嫉妬心が募れば募るほど、彼女の魔王レベルは上がっていくのだろう。そういう点では、アラヤは恰好の経験値だと言える。

「大丈夫ですよ、コウサカさん。貴女の嫉妬心を無くす方法も、想定済みですから」

 ニコリと笑うアヤコに、コウサカはため息をつくと、やってごらんよ?と睨む。
 この2人、意外にも似ているよな?


 翌日の朝、浮遊邸の出発をコウサカ達が見送りに来てくれていた。

「まぁ、ソードムには私も後々に向かう予定よ。先ずは国防の要となるベヒモス奪還が先なんだけど。くれぐれも、シン君…荒垣君を甘く見ないことね」

「…ご忠告どうも。それじゃ、そろそろ行くよ」

 サナエ達が戻り、更に新たに家族が増えた浮遊邸は、次の目的地グルケニア帝国のフレイア神殿に向けて、魔物の国ゴーモラ王国から出発するのだった。
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