【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

302話 欲しいもの

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 美德教教皇ヨハネスの目的が、アラヤ達の協力を得る事だとは分かったが、そう簡単に了承するわけはない。

「協力と言うけれど、俺達は仮にも大罪教団なんだけど?」

「大罪教団としてで構わないよ。むしろ、両教団が協力してヌル虚無教団と対抗しているとアピールした方が、民衆の評価は上がるだろう」

「それは、大罪教教皇と話し合って決める事だろう?俺が勝手に決めて良い問題じゃない。それに、結局は俺達家族に必要な争いかどうかだよ。それに意味が無いなら、例え大罪教教皇にお願いされても、俺達は断るからね」

「なるほど、君達に利があるかどうかって事だね?それなら先ず、協力内容を知ってもらった上で、君達が納得できる案を作るべきだね」

 聞いてからの判断で良いとは、割と相手のことを考えてくれるようで助かる。

「帝国は今、西南部にある港街ボリスンを、ソードム王国に占領されている。これは、帝国がラエテマ王国侵攻時に、ソードム側についた寛容の勇者が飛行戦艦を奪い攻め落としたからだ。これを奪い返さんと、帝国軍が攻めているのは知っているかい?」

「まぁ、なんとなく」

「これは、帝国が起こした戦だから、君達には関係の無い話だ。ただ、その際に分かった事があってね。ソードム王国の軍に、傲慢の悪魔アーリマンの姿を見たという兵が多数出ているんだ」

「厄災の悪魔⁉︎」

「そう、大罪教や美德教では厄災と呼ばれている悪魔だね。その姿は上半身が単眼の蝙蝠で下半身には無数の蛇が生えている。そのアーリマンが、敵軍を指揮していたというんだから、笑っちゃうよね?」

 いや、笑えないだろ。
 なんだよ、その状況。厄災の悪魔が従えるソードム王国の魔人達?
 レヴィアタンのように、自分の意思で縄張りだけを守っているわけでは無さそうだし。

「そのアーリマンが居る為に、帝国軍は攻めあぐねている状況なんだ。君達にはこのアーリマン退治を頼みたい。その見返りとして、君達が探す過去に厄災の悪魔が召喚された遺跡の場所を教えてあげよう」

「待ってくれ。何故にそんな情報を知っている?」

「遺跡の情報は教皇故にってやつかな。何故、君達が遺跡巡りをしているかは不明だけど、行く先々で厄災の悪魔と戦っているのを、悪魔と関係している事なんだよね?」

 なにかイトウ先生みたいだな。実にやりづらい相手だ。

「視ただけでいろいろと分かるなら、現地に乗り込んで直接アーリマンを視たらどう?」

「それはダメだよ。私は全く戦えないからね。私はきっと、浮遊邸ここに居る誰よりも弱い」

 確かに、見た目的には強そうには全く見えないけど、仮にも世界に広がるフレイ美德教の教皇だ。
 多少の武の心得を持たずして、生き残っていられる筈がない。

『それは本当だ。ヨハネスは平凡な体力な上に、血を見るのが苦手なんだ。だから、私が契約者パートナーとなり、眷属竜ベレヌスと警護しているんだ。ヨハネス1人なら、ゴブリンにも勝てないだろうな』

「酷いな、ミフル。血を見ないで済むなら、流石にゴブリンくらいには勝てるさ」

 まぁどちらにせよ、大精霊には歯が立たないわけで、実際には強くある必要はないのか。

「でも、協力は無理そうだね。俺達は自分達で遺跡探しもできるし、無理に厄災の悪魔と戦う必要は無い。家族を危険に晒す真似はしたくないから」

 探すべき禁呪魔導書は、土の魔導書一つのみ。
 アーリマンが既に召喚されているなら、魔導書は奪われているだろうから、祭壇の捜索も後回しになる。
 問題は、アーリマンと遺されていた禁呪魔導書が土の禁呪魔導書なら、既に虚無教団側は4冊の禁呪魔導書を手に入れた事になる。
 それはかなりヤバイ。必ず、風の大精霊エアリエルは風の禁呪魔導書を持ち帰らねばならない。

「う~ん、困ったな。君が欲しいと感じるような交渉のカードは、ここを見る限り私達には無いな。衣、食、住、趣、贅、全て揃っているみたいだし…」

 ヨハネスは悩み考えながら、ミフルを見る。ミフルも同じようにして首を傾げた。

「逆に、悪魔退治に喜んで向かうような、君達が欲しいものってないかな?」

「分からないわね。そうまでして悪魔退治したいなら、勇者を使うのが美德教の今までのセオリーでしょう?」

 カオリの意見が最もだ。厄災の悪魔は、今まで、封印するか勇者が倒すかだったのだから、前に習って勇者を使うべきだろう。

「生憎と、適任の勤勉の勇者スタディ君と純潔の勇者ミュゲット君は、ラエテマ王国のドネチア港街から出港して、既にソードムへと向かっている。分別の勇者ジャッジ君は、オモカツタのベヒモスの警備から離れられない」

「忠義と節制がいるでしょう?」

忠義の勇者スナイプス君は、皇帝陛下の側から離したらいけないし、節制の勇者ブリアトーレ君は…ひょっとして暇してるかな?」

「じゃあ、決まりだね。その彼にアーリマン退治を頼んだら良い」

「はぁ…。正直気分が乗らないなぁ。彼はアンチ大罪教だからね。対象は厄災の悪魔だろうと、やり過ぎる可能性がある」

「それは良いことじゃないの?」

「……」

 しばらく考えたヨハネスは、やはりダメだと首を横に振った。
 何がダメなんだろう?

『なぁ、アラヤ。報酬は火の大精霊ムルキベルの居場所まで案内してあげるってのはどうかな?』

 突然、ミフルがアラヤ達に念話で話してきた。ヨハネスに聞かれないように配慮したらしい。

『それに意味はあるんですか?前々から、エアリエル様が大精霊様達から加護を得るように勧めてますけど…正直、目的が分からないのですよね』

『意味はある。あるが、私が教えるのは違うかな…。まぁ、言えるのは、必ず其方の糧になるってことくらいか。なにせ、この世界始まって以来の…』

 そこでミフルは言葉を切ると、外を見て目を細めた。

『…ソードムは、パガヤ王国にも侵攻を開始したようだ』

「何⁉︎」

 ミフルが、何かしらの動きを感知したらしい。エアリエルの大気を利用した感知に似ている。

「まさか、飛行戦艦隊をパガヤに移動させたのがバレたのか?」

「どういう事?」

 ミフルは、アラヤ達を見て、話して大丈夫かを考えた。これは帝国軍の極秘作戦の内容だからだ。
 だが、ヨハネスはアラヤ達なら話しても構わないなと判断した。

「…帝国は、ソードムを、虚無教団が潜伏していると確信している。確かに、港街ボリスンの奪還は帝国の戦だ。だがそれは、ソードムに攻め込む為のルートを確保する為なんだ。帝国軍は、パガヤ王国協力の下、2方面からの侵攻を予定している。ボリスンからは海軍を、パガヤからは亜人の陸軍と飛行戦艦の空軍で攻めるのさ」

 なるほど。それでいて、勤勉と純潔の勇者には、隠れて潜入させるつもりか。
 だが情報が漏れて、パガヤに対して先手を打たれたわけだな。

「私は納得いきませんね。帝国は、虚無教団を壊滅させると掲げていますが、要はソードムへの侵略行為でしかありません。例え虚無教団を壊滅したとして、その後に大人しくソードムは解放されるのですか?」

 ここにきて、大人しくしていたアヤコが話に入ってきた。

「…少なくとも、そのまま解放することは無いだろうね。作戦が上手く運び、帝国が勝利した後は、ソードムは帝国の監視下に置かれ、植民地となるだろう。確かにそこは否定できないよ」

「それなら、やはりアラヤ君が協力する事はありません。これは、戦争行為への加担ですから。私達は、大罪教からも距離をとっています。つまりは、1家族でしかありません。協力したことで、ラエテマ王国やムシハ連邦国からも嫌われるのは避けたいですもの」

 アヤコが、協力を断る流れを作ろうとしている。

「それなら、美德教教皇として、君達を国家として認めよう。もちろん、グルケニア帝国も認めるだろう」

「「「は?国家?」」」

「そうだ。軍事力、生産力、機動力、人口は少ないが、他国や教団に属さない君達は、国家を名乗って良いと思う。そうすれば、帝国だけでなく他国とも同盟を結ぶことができるし、今回の作戦もれっきとした虚無教団への大義名分となるよ?」

 ゴーモラでも国扱いの同盟になったが、まさかの固定住所の無い国家建設を勧められるとは思わなかった。

「国として認められる?アラヤ君が国王に?」

「ちょっと、アヤコさん?」

 彼女だけでなくカオリ達の目の輝きも変わり、態度が一変した。

「質問なんだけど、港街ボリスンでは、既に大量の戦死者が出ているのかしら?」

「いや、アーリマンの目撃情報があってから膠着状態になっていて、そんなに死者は出ていないよ?」

 カオリの質問の意味は、禁呪の発動条件の大量の生贄(戦死者)の確認だろう。
 まだ少ないならば、禁呪の発動は無いと考えられる。

「アラヤ君、協力してあげても良いのではないでしょうか?『無論、ミフル様の案内報酬込みで』」

 なんでみんな、急にやる気になってるの? アスピダ達まで期待の眼差しを向けている。
 国家になるって、そんな魅力的な事?
 アラヤは、彼女達の理解できない圧に負けそうになるのだった。
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