【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第21章 その存在は前代未聞らしいですよ⁉︎

305話 建国認定会議

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「浮いている事には驚きだが、国と呼ぶにはいささか土地が狭過ぎではないか?これでは多く住めない。せいぜい村ではないか」

「土地の広さで判断するのは早計ですよ、ミルトン国王」

 ムシハ連邦国国王のミルトンは、7つの国をまとめている国王だ。森林が多いとはいえ、その広大な土地には人口は多い。

「美徳教皇殿、其方の推薦とは言え、国と呼ぶにへ余りに微弱。我々と対等と思われるのは、流石に不快だと言わざるを得ないぞ?」

「私もミルトン殿と同意見だ。君が推すから黙っていたが、仮にもこの者は我々の飛行戦艦を落とした者達だぞ?」

 グルケニア帝国皇帝のパオロ2世の発言に、美徳教教皇ヨハネスは冷めた笑顔で余計なことを言うなという圧を送る。
 すると、彼の背後に護衛としてついて来た忠義の勇者コーリー=スナイプスが、不敬だぞと逆にヨハネスに近寄って無言の圧をかける。
 その隣では、唯一の顔見知りであるエドガーが、国王代理で来た第一王子のラヘル=ラエテマにいろいろと説明をしていた。

「エドガー、本当に彼で間違いないのか?見た目は子供じゃないか」

「はい。しかしその実力は、Aランク冒険者を凌駕しています。ジョアンヌ王妃、ミネルバ王女を救出した事も事実ですし、ギルドマスターのトーマス氏も、街での活躍を認知しております」

 当の王子は、国王を王都から避難させていた為、アラヤ達の活躍を目の当たりにしていない。だから俄には信じられないでいた。

「アラヤ殿、妾はパガヤ王国を治めるセシリアという者。すみません、其方の名前に聞き覚えがありまして。もしや、我が国に来たことがあるのではないですか?」

「はい、直接はお会いしていませんが、何度か立ち寄らせていただいてますよ、美麗女王様」

 見せた方が早いかなと、アラヤは竜人ドラッヘンの姿を見せる。

「「「「‼︎⁉︎」」」」

 国王達が驚く中、セシリアだけは納得したと頷いた。

「失礼致します」

 そこへ、メイド姿のクララやアルディス達が給仕に入って来た。
 クララが狼人ライカンスロープ姿だったので、セシリアは眉を寄せる。

「おお、彼女も闘技場で見覚えがあります。確か奥方の筈…。何故給仕を?」

「彼女がやりたいらしいのです。強制はしていませんよ?」

 セシリアはおそらく、帝国の様に奴隷として扱われているのではないかと思った様だ。
 立場上、国間で交わされた取り引きもある為に、彼女は近くに居る皇帝に物申す訳にもいかなかった。
 それを察したクララは頷き、「私は好きでやっているので、心配無用です」と笑顔で紅茶を差し出した。
 それを本心だと理解したセシリアは、それなら良かったと笑顔を返した。

「え、エルフまで居るのか⁉︎しかもメイドだと⁉︎」

 ミルトンは、プライドが高く閉鎖的な種族であるエルフが、メイド姿で給仕をしている事にかなりのショックを受けていた。
 彼自身は人間ノーマルだが、数ある国を束ねる立場であるだけに、エルフ達との衝突も度々あった。
 それだけに、エルフ達の従順な姿を見ることになるとは思わなかったのだ。

「彼は確か、我が国の商会の者でもあったな?名は確か、バルグ商会だったか」

「はい。以前調べた際には、彼はバルグ商会の専属開発者となっていたかと」

「では、彼は我が王国に所属しているとは言えないか?」

 ラヘル王子のこの発言に、各国の王達の目つきが変わる。

「それは承認議会をするまでもなく、ラエテマ王国がこの領土を支配すると言うのか?」

「それは聞き捨てならんな。そもそも、ラエテマ国王はどうした?小倅如きで我々を出し抜こうというのか?」

「御二方、その辺りでよしましょう。此度は言い争いをする為に集まった訳では無いのですよ?」

 セシリアの宥めるような声で、ミルトンとパオロは口を閉じて黙り込む。
 彼女の声は、少し心を惹き込む感覚があるように心地よい。

「暴食王よ、ここは一つ、国を立ち上げるにあたって、自身が挙げる信条を述べたらどうだろう?彼等は、君という存在を知らぬから、こうも好き勝手に決めたがるのだ」

 大罪教教皇の物静かな物言いに、集まって初めてアラヤに全員の視線が集まった。
 こんな状況で静かになるまで、20分掛かりました。とかは言えないな。

「えーっと、ご紹介に与りました、暴食王ことアラヤ=グラコです。正直な話、1番驚きを隠せないのは私でしょう。領土が狭い?人口も少ない?国力はどうなのだ?そもそも、誰なんだこの者は?皆様の意見は、最もでしょう」

 アラヤは席を立ち、王達を睨み声を荒げた。

「そもそもが、俺は建国を望んではいないという事だ!だが1人は言う。このは私のものではないかと。答えはNOだ、俺は、この浮遊邸は誰のものでもない!これまで、貴方方の国に俺達は幾度も訪れたが、そのどの国にも従おうとはならなかった。それは、この世界に呼んだフレイア大罪教に対しても同じだ。…1人は言った。国としては微弱だと。もちろんそうだろう。領土と呼ぶには村程度の広さ。自給自足はできていても、外交の取り引き材料となる資源や産業は無い。あるのは暴風竜という軍事力のみだ。俺は抑えつける力が嫌いだ。都合良く利用しようという魂胆も嫌いだ。だから、俺達は他人からの命令には従わない。ヌル虚無教団との対立も、自分達の意思で判断して決めている。俺の信念は、必ず家族の中にある。家族を第一に考え、家族に危害を与える者達が居たら、ヌル虚無教団に限らず、国だろうと大精霊だろうとも潰してやる」

『おお、怖い怖い。彼なら実際にやりそうだから怖いよね』

 ミフルの発言に、精霊言語の技能スキルを持つパオロ、セシリア、ミルトンは唾を呑み込んだ。

「俺が動く優先順位は、1に家族、次にエアリエル様、次に親しくしてくれた友人達。それ以外には関わりたくない。だが今回、ヨハネスの提案に俺は乗った。それは、世界が今、ヌル虚無教団によって、混乱と争いが絶えない状況に陥っている。その矛先が俺の家族にも及ぶ可能性があるからだ。今までと同様に、厄災の悪魔や奴等と戦う事に変わりは無いが、邪魔されずに評価されるというのなら、建国するのも悪くないと考えたからだ」

「…やはり、王都でのアスモデウス討伐者はアラヤ殿でしたか」

「我が国でのサタンの騒動にも、おそらくは関わっていましたね」

 エドガーやセシリアが、その力に納得する一方で、厄災の悪魔に関わりの無いパオロとミルトンは納得はしていない。
 そこで、大罪教教皇がスッと手を挙げた。

「我々、フレイア大罪教団は、彼の意思を尊重し、我等が管轄下ではなく、共にヌル虚無教団を討つ仲間であると理解した。よって、我々は彼を国王とし、この領土を新たな国であると承認する」

「我々、フレイ美徳教団も、その行為、その信念に共感し、良き仲間でありたいと心から思う。よって、我々も彼等の建国を承認する」

「うむ、私としては既に答えは出ていた。彼は風の大精霊エアリエル様の加護だけでなく、我が国の土の大精霊ゲーブ様にも認められる存在。彼等が人格者たる事は紛れもない。よって、我々パガヤ王国は、彼等と今後良き関係を築きたいと願い、彼等の建国を承認します」

 両教団とパガヤ王国が立て続けに承認したことにより、残るラエテマ王国と帝国と連邦は決断を迫られた。

「ラヘル様」

「ううむ、分かってはいるが、父上の判断を待たずして決定していいだろうか…」

 悩むラヘル王子に、エドガーはイライラしながらもその決断を待つしかない。

「我々ムシハ連邦国は、彼等の優位性を判断しかねる。よって、彼等の建国を承認はできない」

 ミルトンが反対派に回ったことにより、パオロ皇帝は自身も決まったと手を挙げた。ヨハネスの睨みにも気付かないフリをしている。

「我がグルケニア帝国も、彼等の建国は時期尚早だと申し上げたい。先ずは各国にその存在を示し、貢献してからではないだろうか?よって、我々グルケニア帝国は、彼等の建国は承認しない」

 貢献する義務は無いし、帝国に対して貢献したいとは思わない。そもそも、トランスポートに良いように操られて戦争を始めたのは帝国だ。最初から期待していない。

「ラヘル様…」

 最後の承認選択者となってしまったラヘル王子は、周りからの視線に目が回りそうだった。

「わ、我々ラエテマ王国は、既に彼等から多大な助力を受けている。よって、ここには居ない国王に代わり、私、ラヘル=ラエテマが彼等の建国に承認する」

 自身が知らないところでのアラヤ達の活躍を、エドガーを初め、王妃や妹が認めている。
 せめて悪魔討伐後の謁見に参列していたのなら、まだ快く承認していたかもしれない。
 完全には納得はしていないが、それが事実なら感謝し評価するべきだと決めたのだった。

「4票の承認!多数決により、アラヤ=グラコを国王とし、ここに新たな国家の誕生を承認する!」

 発起人であるヨハネスは声高々と宣言し、アラヤに対して笑顔で握手を求めてきた。
 魔王と敵対すると言われている勇者とはいえ、全員がそうでは無い気がするなと、アラヤも握手に応えるのだった。
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