【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第22章 世界崩壊はわりと身近にあるらしいですよ⁉︎

316話 祝福のお裾分け

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 風の大精霊エアリエルの提案で始まった、分身体を自分の専属にできるという突拍子な考えにより、嫁達はどの思考タイプの分身体を得るかで話し合っていた。
 その一方で、アラヤ本体は大精霊達と会話をしている。
 土の大精霊ゲーブの話によると、パガヤ王国に侵攻を開始した魔人国家ソードムは、将軍達により撃退されたらしい。 

『ただ、気になることがあってな?前戦である国境で、サタンと同じ技能スキルや魔法を禁止する区間があった。ソードムの魔導具を改良したものだと子等の話が聞こえたが、サタンが生きている可能性を拭いきれない』

「あの、ゲーブ様はパガヤ王国に肩入れしているようですが、ソードムに直接手を下そうとはしないのですね?」

 大地を司る大精霊の力を使えば、禁呪よりも大きな力でソードムを滅ぼせるだろう。

『肩入れか…。ウム、確かにそうかもな。我は亜人が好きだ。だが、エルフやドワーフも好きではある。人間は、多少好ましく無い子等もいるが、大地の恩恵に感謝する子等は、我は可愛くある。だが、魔人国家ソードムに住む魔人は違う。アレは、大地に

「それはどういう意味でしょうか?」

『ソードムのある大地は、かつての災害で死んでいるままだ。その腐敗した大地の上に、魔人達は魔導科学という独自の技術を用いて国を作っているのだ。腐敗した大地を正常化しようとは考えずにな』

 なるほど、だから興味が無いと。大地からの恩恵を棄て、魔導化学による生活を選んだ魔人達を、ゲーブは好きになれないのは仕方ないだろう。

『かつて、我の力が無断で引き出された事がある。その力によって、ズータニア大陸は業火の海に包まれた。あの時はゲーブには悪いことをしたと猛省している』

火の大精霊ムルキベル、其方が悪いわけでは無い。現に恐ろしきはを創り出した人間の子等だ』

『そうよ、悪いのは人間よ。私の力も勝手に使われたもの!おかげで、私は闇の大精霊プルートーに嫌われちゃったし!』

 あの魔法とは、禁呪魔法の事だろう。
 カオリの、ズータニア大陸とレーヴォン列島に禁呪が使用されていたという予想は当たっていたな。
 というか、光の禁呪まで受けたレーヴォン列島は災難だな。

「禁呪の被害を、皆様の力で帳消しにはできないのですか?」

 事後の被害をいち早く解除できれば、復興も早く達成できるだろう。

『完全には無理だな。アレは、我々の力のみを使った魔法ではないからな』

『そうよ。自然の気候すらも変えてしまう力に、複数の悪魔の呪いが混ぜ込まれてる。生贄を利用する悪魔の呪いは、事後には解除が困難なのよ』

 禁呪に生贄が必要な理由は、その被害が長期的に続く為か。創り出した者は、本当に人間だったのかも疑問だな。

『ともあれ、アラヤとエアリエルの禁呪魔導書を集める行動は、我は感心している。禁呪魔導書アレは世から屠るべき代物だ』

『ブーちゃんが言うなら、私もそう思うわ。アラヤ、貴方が私の住処で発見した本もソレなのでしょう?今も持っている?』

「今は、カオリが管理しています。この国内の安全な場所に保管してあるみたいですが…お持ちしますか?」

 水の中位精霊シレネッタが持ち帰った風の禁呪魔導書は、カオリにいち早く手渡されカメラアイにより既に記憶に保存されている。
 今手中にある魔導書は、カオリの複製品も含めると火・水(複製)・風・闇(複製)の4冊あり、カオリとアラヤのみが知る保管場所に隠してある。
 亜空間収納に入れて置けば良いとは言えない。所持者が死亡したら収納物は全て放出されるからだ。
 2人以外の者が保管場所を知らないのは、家族が洗脳や人質とされた場合の保険でもある。

『どうする?ムルキベルは実物を見てないでしょう?』

『全てが終われば、不用となる産物なのだろう?ならば、全てが終わった後に我が元に届ければ良い。跡形も無く塵にしてやろう』

『そうだな。ヌル神なる者が居る限り、禁呪の対抗策としてはまだ必要ならば、アラヤ達が保管していれば良い』

 どうやら、まだ俺達が所有していて良いらしい。本当は、今直ぐにでも処分したいのだろうけど。

『皆、そんな堅苦しい話はやめましょう?仮にも、今日はアラヤと我の記念すべき日になるのだから』

 嫁達に分身体の違いを教え終わったエアリエルがやって来ると、アラヤの背後に立つ。

『あの子達も理解し認めてくれた。これで、晴れて夫婦となったのだ。早速、夫婦として初の共同作業をしてみようではないか?』

「共同作業って…一体、何を?」

 エアリエルはアラヤの左手と恋人繋ぎをすると、逆の手を高く挙げ、アラヤにも真似る様に促した。

『今日、この様な日を迎える事ができた事を、我が創造神たるシュー様、並びに我が友、その創造神様達に感謝を述べる。双月神の1柱、紅月神フレイア様、貴女様の御子アラヤ=クラトを、我が夫と迎える事をお許し、祝福願います』

『おおっ、創造神が神威を示したぞ‼︎』

 窓から見える景色が紅く染まっている。遥か空にある紅月が、世界を紅く照らしたのだ。

『創造神が我等に神威を示すなど久しく無かったこと。神からの祝福を受け良かったな、エアリエル』

『ええ、誠に』

 エアリエルはアラヤを引き寄せて接吻する。これも精霊からすれば真似事なのだろうが、アラヤはドキドキが止まらない。

『さぁ、我々が受けた祝福を世界にもお裾分けしようではないか』

 ごっそりと魔力が抜かれた感覚が起き、視界が大気中に広がっていく。まるで空を飛ぶ感覚だ。
 その視界下では、少し早い春の芽吹きが起こり始めていた。

『ウム、世界に新たな生命誕生の祝福だな。素晴らしいぞ、大地もそれに応えよう』

『なら私も』

『む…我にはできる事が無いではないか?』

 ゲーブとアーパスまで世界中に祝福を与えるが、ムルキベルだけは、その力を出すことは無理だった。火を司るムルキベルができる祝福は、破壊に特化していて命を生み出すものとはジャンルが違うからだ。

「ムルキベル様、それならば世界中の火に関連する生産職の者達に祝福はどうでしょう?今日だけは絶妙な火加減になるみたいな?」

 いわゆる鍛治師、陶芸家、調理師等の火を扱う職業者達へのスペシャルデー。
 今日一日は、火の調整が完璧になる。これって最高じゃないかな?レミーラにも後から教えておこう。

『むぅ、絶妙にとは難儀な祝福だな。しかも不特定多数過ぎて、我だけ制御する負担が大きいが、その案でいこう』

 世界中に祝福が溢れ、アラヤ達だけでなく世界的にも、今日は奇跡の日と記憶されるだろうな。
 花竜月(前世界ではおそらく3月)6日天神日。今日のこの日を、みんな共に同じ結婚記念日にして良いかもしれない。

『どうやら、皆、決まったらしいな』

 いわゆる10等分の花婿の中で相手を選んでいた嫁達が、それぞれのアラヤをやっと決めたらしい。
 選ばれなかった4人の分身体が、少し悲しそうにしているのが辛い。

「私は、排他的なアラヤ君にしました。見た目も少し幼くなってもらい、呼び名もアー君で」

 満面の笑みで分身体アラヤ、もといアー君の手を繋いでいるアヤコ。アー君の方も踏ん切りがついたのか、なりきることを了承したらしい。

「私は、粗暴的な分身体を選んだわ。体型は変わらず髪色だけ金髪にしてもらい、あと、呼び名は変わらずニイヤでOKよ」

 髪色をお揃いの金髪にジャミングしたカオリとニイヤは、ドヤ顔を見せている。粗暴的って、俺にそんな一面が?しかも、それで良いのか、カオリよ?

「私は、楽観的と悩んだけど温厚的なアラヤにしたわ。姿は…私より少し身長を高くなってもらった。思ってた以上に、男らしくなって安心したわ。名前はそのまま。こっちにはいい加減に、呼び捨てにしてもらうけどね」

 呼び捨てにはとは散々言われてきたけど、確かになかなか言えないで来たんだよね…。
 あと、自分の成長した姿には少し感動したな。

「わ、私は粗暴的なご主人様を希望していたのですが、カオリ様に先を超されました。ですが、挑戦的なご主人様も素敵です!姿は、大きな竜人ドラッヘン人竜ヒュードラの姿を希望しています。名に違いをつけろと仰せなので、主様と呼ばせていただきます」

 クララは、同身長の竜人アラヤの横に立ち竜鱗に頬を擦り付けている。
 こうしてみると、みんな、それぞれに俺に対する理想の夫像が違ったんだなと痛感する結果になったな。

『じゃあ、このアラヤも名前と嫁を与える必要があるわね?』

「えっ?」

 アーパスが静観的なアラヤの頭を撫でる。この分身体アラヤはアーパスにお供するので、自分には関係ないと考えていた。

『だって、エアリエルの真似はしないと誓ったし、私はブーちゃんとゴニョゴニョ…じゃなくて、せっかく子を生せる存在なんだから相手は必要でしょ?私だって、身近で子を見守りたいもの』

 嫁達は、お互いの視線で考えが一緒だと気付き頷いた。

「ハウン、貴女が適任よ」

 呼び出されたハウンは、派手に後退りして土下座をしだした。

「ふぇっ⁉︎そ、そ、そ、そそんな、滅相もありません‼︎わ、私なんかが、アラヤ様の伴侶になどと…⁉︎」

『違うわ、名前はアゲノルよ。この子は今からアゲノル=クラト。嫁達の許可は得ている。アンタは今日からアゲノルの嫁よ』

「アゲノル様…い、いえ、そもそも私には誓いの呪文があります!奥様方がお許しになられたと言っても、私達配下にとっては背徳行為で…」

『誓いの呪いは解除っと…。ハイ、晴れて君はフリーだよ?』

『『『『光の大精霊ミフル‼︎⁉︎』』』』

 ハウンの頭を軽く撫でるミフルは、エアリエル達を見てニコリと笑顔を見せる。

『何で私も呼んでくれないのさー?さっきのフレイア様の祝福?凄かったねぇ?もちろん、君達の祝福も』

 まぁ、あれだけの事が起きて、流石に気付かないなんて事は無いか。

『ちょっとばかし、説明が欲しいんだけどー?』

 厄介な客の登場で、アラヤ達はハウンが泡を吹いて気絶していることにしばらく気付かないのだった。
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