【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第26章 楽しいばかりが人生ではないそうですよ⁉︎

384話 ケイオスの来訪

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 月の庭モーントガルテンにある通信室。
 幾つも並ぶ羅針盤通信機の前で、アラヤは応答を待っていた。

『おお、アラヤ大公。本日は如何なされました?』

 初めに繋がったのはパガヤ王国のセシリア女王だ。

「実は…」

 尋ねる内容は、消息を絶った3人の事だ。既に2週間経ったが、未だに感知には捕まらないのだ。

『ええ。分かりました。それらしい者達を見かけたら必ず報告しよう』

「ありがとうございます。でも忙しい中に、厄介事をお願いしてしまい、本当にすみません」

『いや、気になさらないで。いつもはこちらが世話になっていますから。こちらが協力できる事はありがたいのです。それでこその対等な盟友でしょう?』

「はい、ではお願いします」

 通信を終えたアラヤは一息ついた。
 自国の住民が行方不明な事を同盟国へと伝える事は、本来なら弱みを見せているようなものだ。
 それも肉親であるから、大恩が生まれるのは確実だ。
 記憶喪失により、1度は関係がリセットされているラエテマ王国には、正直なところ頼むべきではないだろう。
 なので、次は記憶があり友好的な大罪教教皇の元に繋ぐことにした。

『おや、どうされたのですか、アラヤ大公』

「お久しぶりです、教皇様」

 いつもは必ず初めに出るモーガン大司教ではなく、珍しく教皇様が先に出た。

「先日、公国の使者がご報告に伺ったと思うのですが…」

『ああ、ベルフェル司教とお供の方ね?』

 どうやら、アシヤはお供役として訪れていたみたいだ。
 ベルフェル司教が、今はモーントガルテンの使者と扱われている事を教皇は理解している。
 そもそも鑑定LVが高い教皇は、ベルフェルが厄災の悪魔ベルフェゴールの血を継いでいる事も知っていた筈だ。
 知っていて仕えさせていた辺り、魔王や勇者の血筋と同程度の認識だったのだろうか?

『貴方方が、全ての禁呪魔導書を処分した事は確かに報告されました。その確認の為にモーガン大司教は今、火の大精霊ムルキベル様との面会を試みに出ています』

 おそらくアシヤが、ムルキベルの寝床を教えたのだろう。
 だが当然、常人が簡単には行けない場所だ。まぁ、大司教ならば、行けない事もないのかな?

「ああ、それでしたら、私達がお連れするべきでしたね。気が回らず申し訳ない」

『いえいえ、大精霊様と謁見するには、自ら赴いてこそ資格があるというもの。彼には良い経験となるでしょう』

 後は、ムルキベルが彼に会ってくれるかだけどね。

『それよりも、本日は御用があったのではありませんか?』

「あの、実は教皇様にお伺いしたい事がありまして…。報告に訪れた2人の様子はどうだったでしょうか?」

『…様子ですか。特に体調も状態異常も見られなかったですが…』

 いや、体調管理まで視ていたのか。アシヤも、アラヤの分身体とバレていたかもしれない。

『ああ、そう言えば、彼等が纏っていた服は珍しい術式の魔法陣が施されていましたね。まるで魔素を感じれなかった。あれは…エルフ文字ですかね?』

「あ、…はい。エアリエルの為に作られた魔法陣ものなんですよ」

 一応答えたものの、アラヤは少しだけ混乱していた。

(え?何故に2人が精霊力を抑える魔法陣入りの服を?え?え⁉︎まさか、それで感知できない?え?でもなんで⁉︎)

「アラヤ様!」

 突然、通信室の扉が開けられ、ディニエルが慌てて入って来た。

「あわわわっ、す、すみません!通信中でした⁉︎」

「あ、いや、そうだね」

 彼女の青ざめる表情に釣られて逆に我に帰ったアラヤは、通信先の教皇に頭を下げる。

「すみません、急な用事が入った様なので、お話はまたの機会にという事で…」

『分かりました。ではまた…』

 通信が終わると、アラヤはフゥーと深呼吸して自身を落ち着かせた。

「それで、どうしたの?」

「た、た、卵のお化けが来たんです‼︎」

「卵のお化け?」

「はい!その卵が、アラヤ様に会いに来たって言うんです⁉︎どうしましょう⁉︎」

「ディニエル、落ち着いて?それで、その卵は何処に?」

「は、はい。7の塔で待っています!」

「7…、無属性契約精霊スカルゴの塔か。ああ、なるほど卵ね。それ、無の大精霊ケイオス様だよ」

「だ、だ、大精霊様⁉︎」

 まぁ、他の大精霊に比べてあの見た目だから、確かに大精霊には見えないかもしれないね。
 驚き固まるディニエルをそのままに、アラヤは塔へと急いだ。
 公国を取り囲む防壁には8つの塔があり、それぞれに1から8の番号が書かれ、契約精霊の住処となっている。

1の塔 サラマンドラ
2の塔 シレネッタ
3の塔 シルフィー
4の塔 ノーム
5の塔 キュアリー
6の塔 エキドナ
7の塔 スカルゴ
8の塔 モースなど他の契約精霊

『き、来たんだな!ケイオス様が来てるんだなっ!』

 塔の手前まで来ると入り口が先に開き、スカルゴが飛び出して来た。
 どうやら大精霊と2人きりの間に耐えられなかったようだ。
 アラヤは肩にスカルゴを乗せて、塔の最上階へと登る。

「お待たせしました、ケイオス様」

『アア、急ニ押シカケテスマナイ』

 卵型の顔に、福笑いの様に目などのパーツがあやふやな位置にあるむ大精霊ケイオスは、小さな手荷物を持って待っていた。

「ダクネラの移送からですから、お会いするのは半年振りですね。その後、しばらく創造神様達にのですか?」

『ソウダ』



 それは、今から半年以上前。
 地下神殿でダクネラを倒しヌル虚無教団を壊滅した後、ケイオスは創造神達にダクネラの転移を懇願するべく動いていた。

 3日程して、再びアラヤ達の前に現れたケイオスは、創造神達にダクネラの転移が認められたと伝えた。

『…ダガ、神々ハ条件ヲ出シタ。ダクネラノ持ツ技能スキル職業ジョブト加護ハ、全テ消去。ソシテ我ニ、転移ノ労力代トシテ転移先ノ神々ヘノ接待ヲ命ジラレタ』

 職業と加護が無くなれば、それは一般の人間と変わらないステータスと寿命になるという事だ。
 つまりは、肉体的老化は止まっていた60代から進み出す。

「転移先の神々?ということは、創造神様が違う異世界に転移するのですね?」

『ソウダ。神々ノ間デ流行ッテイルラシイ。トニカク、ダクネラノ身柄ヲ預カル。呼ビ出シテクレナイカ?』

 アラヤは、【生命の檻】にダクネラを収監しているノア(消極的なアラヤ)を呼んだ。
 すると、来たのはノアではなくアシヤだった。

「ノアから預かってくれと頼まれてさ。今は俺が預かっているんだ」

 アシヤは、檻から拘束された状態のダクネラを出した。

「おお、ここが暴食王の住む空の国か。辺りが大精霊達の加護に溢れ、さながら天の国と言ってもおかしく無いな」

 ダクネラは、モーントガルテンの建物や野に咲く花々を見て率直に関心している。

『ダクネラヨ、其方ノ転移先ガ決マッタ。本来ナラ死罪ノ其方ヲ許シタ彼等ニ、去ル前ニ感謝ヲ述ベルベキダ』

「ああ、分かっているとも。こんな私に、刺激的な第二の人生を与えてくれた事を、心から感謝している。暴食王よ、この世界での私の浄化正義は潰えたが、不思議と後悔はしていない。今となれば、其方達が永きに渡る双月神の遊戯を終わらせる瞬間に立ち会えない事が後悔だろうな。…其方達の選ぶ世界に、幸多からん事を願っている」

 ダクネラは2人のアラヤを見据え、軽く笑顔を見せた後、ケイオスと共に消えたのだった。


 その時から半年の月日が過ぎ、今こうしてケイオスが来訪したわけだ。

『初メテ、異世界ノ創造神様達ト対面シ会合シタガ、コチラノ世界ノ方ガ素晴ラシイ事ヲヨリ実感スル良イ経験トナッタ』

「あの、ケイオス様はどうやって創造神様達と会われたのですか?」

 アラヤが知る限り、夢の中か勇者資質を見極める祠しか、会う事はできなかった。

『大精霊ハ、神界ヘノ出入リガ可能ダ。但シ、事前ニ謁見ヲ願イ祈ラネバ成ラヌガナ』

 そういえば、バアルゼブルの時に1度だけ神界への境界を視認できてたな。

『トモアレ、其方達ノオカゲデダクネラハ救ワレタ。ソノ感謝ノ意ヲ込メテ、神々ノ間デ流行ッテイル物ヲ持参シタ』

 ケイオスは、持っていた荷物を手渡してきた。アラヤは礼を言い中身を確認させてもらう。

「こ、これは⁉︎持ち帰り用のカレーのパウチパック⁉︎しかも、GOGO1等の⁉︎」

 それは、馴染みのある前世界のカレーチェーン店GOGO1等カレーのテイクアウト品だった。
 もしかして、地球のカレーが神々で流行っているのか?

『トテモ貴重デアッタガ、モウ1人分マデハ手二入レタ。ダクネラヲ預カッテイタ分身体ノ分モアル。奴ハ何処ニイル?』

「…それが今、行方不明になっていまして…」

『何?……ソウカ。ダクネラノ言ッテイタ通リ、トイウノダナ…』

「え?それはどういう…」

『ナラバ、其方ガ受ケ取ルガ良イ』

 ケイオスは、もう1つの包みをアラヤに押し渡すと、別れの挨拶も無しに姿を消してしまった。

『何か、急に帰ったんだな?』

 ケイオスアレの態度は、何かを知っている感じだった。
 アシヤが行方を晦ましたのは、ダクネラが関係している?

「何だよ、始まったって…」

 アラヤは無意識に力が入り、パックを1つダメにしてしまうのだった。
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