【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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第26章 楽しいばかりが人生ではないそうですよ⁉︎

386話 理由

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 それは、考えが甘かったと認めざるを得ない事だった。
 アシヤが姿を消してから、更に半年の月日が流れてしまった。
 俺が先に見つけると豪語し、ニイヤ達は競うように各地を探したが、3人の消息は全く掴めなかったのだ。

風の大精霊エアリエル様の引きこもり程には、長引かないと良いが…」

 流石にイシルウェ達にも、この事態がただの家出では無いことは薄々感じていた。

「アルディス姉さんも、魔法陣の責任を感じているみたいで、最近ずっと元気がありませんね」

 仲良くしているレミーラも、最近の彼女の落ち込み振りを見ていて辛かったのだ。

魔法陣アレはもともと、先祖のエルフがエアリエル様の姿を隠す為に編み出した秘術。姉さんが責任を感じる必要は無いんだけどな」

 イシルウェは、最近では姉に対しての拒絶反応が和らいでいる事に気付いていた。
 未だに視線を感じる時があるものの、以前の様な執拗さは無くなっていた。

「たまには、イシルウェさんから励ましてあげたらどうですか?」

「……そうだな」

 レミーラに後押しされて、イシルウェは彼女に自分から話し掛ける事にした。
 彼女は契約精霊モースと、多目的棟の全窓を開けての清掃換気をしていた。

「…姉さん」

「…あら、なぁに?いよいよレミーラと身を固める決心がついたのかしら?」

「ち、違う話だよ⁉︎」

「…私は忙しいのよ。この後は、新生児達のお世話の交代があるの。だから、プロポーズの相談事なら短めにね?」

「違うってば!そ、その、アシヤ殿の行方が見つからない事を、まだ自分の責任だと気にしているのかなと思ってさ」

「…ええ、気にしていないと言えば嘘になるわね。あの魔法陣は、伝承したものを私が更に改善したものだから。本来なら精霊力だけを隠蔽する魔法陣だったけど、幾らエアリエル様の精霊力を抑えても、魔力量は隠せてなかったから魔素までも隠蔽できる様にしてしまった」

 ああ、眷属も分からない上に魔力も分からないから、大精霊達の感知にも反応しないのか。

「だ、だとしても、それをしたのはアシヤ殿であって、姉さんが悪いわけじゃない」

「…驚いたわ。私を励ましてくれてるのね?あんなに避けていたのに…」

 キョトンとした表情のアルディスを見て、イシルウェは途端に恥ずかしさが湧き上がる。

「か、勘違いしないでほしい。お、俺はレミーラに言われたから仕方なく言っただけで、べ、別に気になってた訳じゃないからな!」

 イシルウェは、堪らずその場から走り去っていった。

「…ハァハァ、危なかったです。思わず追いかけて押し倒したくなってしまいました」

「そうね、よく我慢しました」

 いつの間にか、アヤコとディニエルが居て、ディニエルがアルディスを後ろから必死になって羽交い締めしていた。

「…順番は守りましょう。レミーラを先妻に認める事で、必ず貴女にも順番は回ってきますから」

「はい、先生」

 アルディスは涎を拭き取り、一瞬で冷静な表情に戻る。

「アヤコ様も身重なのですから、あまり無理なさらぬ様にして下さい」

「この程度なら、まだ大丈夫です。私の事よりも、今は少し手伝って下さい。レオン(主様とクララの息子)が住居棟から飛び出してしまい、探しているのです」

「まぁ!分かりました、直ぐに捜索に出ます。ディニエルはアヤコ様をお送りして。モース、行きますよ!」

『分かったわ!』

 クララの息子は狼人ライカンスロープ姿で産まれた。
 産まれて3日目で四つん這いになり、まだ1週間程度というのに、高速でハイハイができるのだ。

「メイド長(クララ)のお子様だと考えると、行き先は大食堂か飼育場の可能性が高いわね」

 大食堂には当然、食べ物と母親の匂いがある。それとは逆に、飼育場には従獣と従魔の匂いがある。
 幼い狼なら、どちらかに興味があってもおかしくない。

『じゃあ、私は飼育場に行くわ』

「ええ、お願いね」

 飼育場はモースに任せて、アルディスは大食堂へと向かった。

「おや、どうかしたのかい?」

 厨房ではコルプスが夕食の下拵えをしていて、食堂ではマイナが掃除をしていた。

「ここに、レオン様が来ていませんか?」

「えっ、見ていないけど⁉︎というより、もう歩き回っておいでで⁉︎」

 コルプスも驚いている。まぁ、無理もない話だ。
 獣姿で産まれたならば、直ぐに四つ足で歩ける事はある。
 だが、亜人の多くは獣人か人獣かで産まれる。しかし、どちらも人型として産まれる為に、成長速度は人寄りなのだ。
 つまり、1週間でハイハイなど有り得ない早さなのだ。

「食堂でも見ていません。まさか、気配を消す技能スキルを産まれながらに取得していませんよね?」

「それは流石に存じ上げません。でも、低レベルの【隠密】であれば、貴女なら分かるのでは?」

 マイナがただの王女付き侍女ではない事は、アルディスにも分かっている。
 そもそも、彼女は家事全般があまり上手ではないので、護衛の腕を見込まれて配属されたのだろう。

「…やはり分からない。この大食堂に居るのは、私達以外には屋根裏のしか反応が無い」

「馬鹿言うな!この公国に鼠は居ないぞ!」

「ハッ!屋根裏ですね⁉︎」

 アルディスは屋根裏へと登り、小さなライトを放つ。
 すると、光に気付いてトコトコと、小さな影が近寄って来た。

「見つけました」

 レオンは埃と蜘蛛の巣まみれだったが、それよりも口に咥えていた物に驚いた。

「えっ⁉︎屋根裏で羅針盤通信機を見つけたって?」

 管制室で報告を受けたアラヤは、驚いて2度聞き直していた。

「はい。しかも、その時はまだ繋がった状態でした」

「それって…」

 皆が集まる大食堂の真上に、繋がったままの通信機が置いてあった。
 それはつまり、盗聴されていたという事だ。

『アスピダ、オードリーと共に、各棟の屋根裏や物置に通信機が無いか見て回ってくれ』

『『了解しました』』

 2人に念話で依頼した後は、自身でも管制室を見て回った。
 なんと、世界地図の裏に作られた凹みがあり、通信機が置いてあった。

「……。アシヤ、そこに居るのか?」

 繋がったままの通信機に話し掛けるも、ホログラムに姿は現れない。どうやら音声だけを拾うように改造されている。

「聞いているものとして、一応言っておく。…いい加減、戻って来てくれないか?君が居なくなって、みんなが心配している。エアリエルも、今は自ら君を探しに出ているよ」

 返事は無い。だが、続けて話す。

「彼女が言った事を気にしているのなら、気にする必要はないぞ?彼女に悪気は無い。ただあの時は、俺と君が見分けられない事に不安を覚えただけなんだ。今はちゃんと分かるから、あんな事は二度と言わない。だから、戻って来てくれないか?」

「……お前には分からないよ」

 応答があった。しかし、かなり音量は小さい。だが、アシヤ本人だと分かる。

「…お前が快楽睡眠から覚めた後、エアリエルは俺と距離を取る様になった。彼女は、終始俺がお前と融合する事を願っていたからな。だから、あの時正直に言葉にできたのだろう?」

 それは、3人で居た時のこと。
 寝室で今までの報告をしていたアシヤに対し、彼女はアラヤがまだ万全の状態じゃないからと、早く寝かせようとしていた。
 じゃあ、今日は寝るかとアシヤもアラヤの隣に寝ようとしたら、エアリエルがそれを止めたのだ。
 アシヤの個室をまだ決めていなかったし、前日までは一緒に寝ていたというのに。

『私は、お前を愛する訳にはいかない』

 彼女はアシヤにそう告げた。
 それは、同じアラヤとしては見ていないという事。
 頭ではそれを理解しているけれど、フラれた、捨てられたという感情が、アシヤの心の中に波の様に押し寄せていた。
 アラヤはこの時眠気が勝り、事の重大さを理解していなかったのだ。

「俺はお前と同じ魂を持つ偽物落ちぶれ者だ。…同じ魂だから、お前も言われた立場になり俺の気持ちを理解したつもりだろうが、真に分かることはできない」

「そんな事はない!頼むから、戻って来て一緒に話し合おう!」

 すると、通話先でアシヤの笑いだす声が聞こえる。

「ハハハ…。なぁ、知ってるか?増殖分身のメリットの方をよ?」

「何?何の話だ⁉︎今は…」

「分身体、もしくは本体が死んだ場合、残った方が本体となるんだ。意味が分かるか?」

「何を…言ってる?」

 ああ、知っている。ベルフェゴールが複数体の分身体を世界中に点在させて居た為に、容易に倒せなかった事を。
 そして、実際に見ている。ベルフェル司教が次々と入れ替わる瞬間を。

「簡単な話しだろ?お前を殺して、俺がアラヤになってやるよ」

 最悪だ。俺は、俺自身に殺すと言われた。
考えていた理由の中で、1番最悪の理由を告げられてしまった。

「後1年、準備が整ったら、俺はお前達に戦争を仕掛ける。せいぜい、楽しい余生を満喫しておくんだな!」

 その捨て台詞を最後に、羅針盤通信機が再起動する事は二度と無かった。
 この日を境に、アラヤが幸せだと感じていた日常が、音を立てて崩れていくのだった。
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