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第27章 それでもお腹は空いてくるのですよ⁉︎
397話 開戦
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浄化した大地には芝状の草が生え、魔力を吸収する量も僅かだが増している。
対策として、月の庭から3頭の飛竜と馬車がクララによって降ろされた。
降ろす際にも注意を払ったが、このソードムに広がる多重合成魔法は多少の操作が可能らしい。
モーントガルテンが高度を下げ過ぎると、地面からスライム状の触手が伸びてくるのだ。
確かに、モーントガルテンには大量の魔力があるから、ソードムどころかパガヤ王国まで、一気に多重合成魔法の範囲が広がるかもしれない。
「馬車は俺が操縦する。オードリーは荷台でサポートだ」
「ハッ!」
魔法メインであるアヤコとカオリは近接戦は不向きなので、飛竜に乗りモーントガルテンに帰ってもらう。
代わりに、近接戦が得意なニイヤと主様が、魔導ゴーレムを大量に収納して戻ってきた。
「とりあえず、身体強化メインの竜人型ゴーレムが20体。機動性重視の銀狼型が20体。急遽、造り替えたのはこれで全部だ」
「ああ、充分だ。残りはモーントガルテンの護りに必要だからね。ハルにも急な注文で無理させた。今度、欲しい技能の習得を手伝ってあげよう」
最近は、簡単に技能を与えたりはしていない。感覚共有をしながら体験をさせて、技能が発現、習得しやすいように手伝っているだけだ。
これから先、増える国民を考えると、簡単に技能を譲渡する事は危険と判断したからだ。まぁ、かなり今更だけど。
「3人は移動には飛竜を使うけど、戦いで危なくなったら飛竜を【生命の檻】に入れる事。魔法が使えないこの場では、早い移動手段は飛竜達しか居ないからね?」
魔法が使えたら、テレポートにムーブヘイスト等の移動手段が使えるんだけど。
アシヤの狙いは、実に嫌なところを突いてくる。
「ああ、オードリーも檻に入れてやろうか?」
「ニイヤ様、パガヤ王国の建国祭でのアスピダの戦いを見て、私も魔法を禁じた状態での研鑽と鍛錬を日々積んでいます。配下の1人として、戦いに参加したく思います。お許し頂けないでしょうか?」
ニイヤは冗談で言ったつもりだったみたいだが、オードリーの強い意志を見て、自分が恥ずかしくなっている。
「お、おう。だが、アラヤのサポートがメインだからな?危なそうだったら、回収しに行くから、くれぐれも先走るなよ?」
「ハッ、心得ました」
そもそも、俺達はまだアシヤの戦力の規模を分かっていない。
ベルフェル司教とダフネは、魔法メインだと思うから補助に回るだろう。
注意すべきは、分別の勇者の魂が入ったゴーレム。奴は元々が物理戦が得意な勇者だからな。
つぎに、ソードムの魔導科学を取り入れた、魔導機兵という戦力を用意しているという事と、痕跡視認で見たホムンクルスという魔導ゴーレムに似た存在だ。
「向こうは、初めから魔法が使えないこの状況を計算に入れて、戦いの準備をして来ている。みんな、アシヤの説得が無理と判断したら、退却命令もあると考えていてくれ。何も相手の土俵で無理に戦う必要は無いからね」
ただ、こうしている間にも、ソードムの民が魔法を使う度に術に吸収され、大地の浄化が進む。
腐敗した土地の浄化は良い事だが、それが無差別に人を生贄としてとなると話は別だ。
アシヤは俺と同じ思考を持っている筈なんだ。
という事は、俺自身もこんな非情な決断をできる感情があるという事だ。
俺は、アシヤが説得で済むとは思えない。もともと俺と成り代わると言っていたし、ここまでの行動がそれを本気だと物語っている。
「ご主人様、西北西に複数の反応を確認。モーントガルテンからの報告と一致します」
「来たか…」
目視でも確認できる程になると、その魔導機兵の大きさを理解できる。
「アレは厄介そうだね」
明らかに、その機体は硬度の高い素材だと分かる。
魔法が使えるならともかく、物理的に破壊するにはかなり骨が折れるだろう。
「あの大きい機兵もだけど、小さい機兵もホムンクルス兵も多いから大変だな。そのまま相手するのは、流石に無計画過ぎないか?」
主様の意見はもっともだ。敵の数は600近くある。この差を埋めるのは容易では無い。
「そこはまぁ、頼んではいるんだけどね?」
「ん?誰に?」
そうこうしている間に、既に超弩砲の射程距離へと入っている。
「3人は散開して的を絞らせないように。オードリー、魔導ゴーレムを出すから装備品の準備を頼む」
「「「了解」」」
早速、バリスタの第1射が放たれた。飛竜達も馬車も躱したが、外れた矢が地面に刺さると、一瞬で巨大になり直ぐに砂へと変わり崩れた。
「事前に魔道具にしてた矢だな。当たらなければ問題無い!こちらも魔道具を使用していこう」
飛竜組の3人は、弓を取り出して高度を上げる。
前もって、矢筒ごとに異なる魔法を込めた魔鉱石矢が用意してある。
3人の狙いは先ずはバリスタだ。それぞれが旋回しながら構える。
その時、突然飛竜達が鳴いた。
『どれ、少しは手伝ってやるかな』
飛竜達の更に上に、暴風竜エンリルが現れたのだ。
「遅いぞ、エンリル」
どうやら、アラヤが参戦を頼んでいたらしい。
『うるさいぞ!来てやっただけでも有り難く思え!風の大精霊様の頼みでなければ、葡萄酒樽を3樽分寄越さぬと聞けぬ話だ!』
「そんなんで良いのか…」
エンリルが、今起こしている風は魔法では無い。物理的な突風だ。だが、その威力は中級魔法トルネードを軽く超える。
「うわぁぁぁっ!」
ホムンクルス兵達が吹き飛ばされ、機兵達に打つかったりしている。
多過ぎる兵数が、かえって回避しづらい状況となっていた。
「さぁ、今だ撃て!」
ニイヤ達はバリスタに向けて矢を次々と放つ。
バリスタに命中した矢は、衝突と同時に魔鉱石に閉じ込めていたウォータが広がるものだ。
この魔鉱石ウォータの水は、誘爆性付与した水に水質変化させている。(水っぽいガソリンの様な液体)
「火を放て!」
今度はフレイムの魔鉱石矢を撃ち込み、10台あるバリスタを炎上させた。
その後も、エンリルは大型魔導機兵に向けて砂嵐を浴びせて、機兵の機関砲を放つ隙を与えない。
「おいおい、しっかり動けホムンクルス共!」
中央から怒声が飛び、小型機兵達が機関銃で3人を狙いだす。
指示を出しているのは、槍を持った魔導ゴーレムだ。
「あれは、寛容の勇者だな。オードリー、準備は良いかい?」
「はい、種類毎に分けました」
荷台にはゴーレム達が使用する武器が出されている。どれもレミーラが造った【業物】以上の武器だ。今更、出し惜しみはしない。
『ゴーレムを下ろしてくれ!』
散開中のクララが、飛行を止めずに狼人型ゴーレムを【生命の檻】から出して落としていく。
落とされたゴーレム達は、空中で体制を変えて着地すると、ホムンクルスの兵達の間を撹乱するように駆け抜ける。
その隙に、ニイヤと主様は馬車に近付きゴーレムを全て出した。
「バンドウ、相手には勇者が居る。やれるか?」
ニイヤがバンドウゴーレムを出し、彼専用のナックルと鎖を渡す。
『俺が出した条件を呑め。それを呑むならやってやるよ』
「条件って?」
ニイヤは先に聞いていたみたいで、困った表情をしている。
『パガヤ王国で、俺を解放しろ。俺はセシリアを側で護る守護者となる』
どうやらまだ、セシリア女王に執着しているみたいだ。
「…良いよ。但し、監視の為に幾つか制限を付ける。あと、彼女には伝える」
『…ああ、それで構わねー。約束したからな!』
「ああ、約束は守るよ」
アラヤの誓いに、表情の変わる筈のないバンドウの顔が笑っている様に感じた。
『っしゃああっ‼︎暴れてやるぜ‼︎』
バンドウと竜人ゴーレム達は装備を終え、一斉に戦地へと駆け出した。
ニイヤと主様も飛竜達を【生命の檻】に入れ、ここからは地上戦だ。
アラヤは2人を馬車に乗せて敵部隊の背後へと回る。
こっちにもアシヤの姿は見えない。もう、本格的な戦いは始まってしまっている。
アシヤが居ない事には、説得で止めるなど不可能だ。
やはり説得の余地は無いのだと、アラヤは下唇を噛み、心を無にと切り替えていくのだった。
対策として、月の庭から3頭の飛竜と馬車がクララによって降ろされた。
降ろす際にも注意を払ったが、このソードムに広がる多重合成魔法は多少の操作が可能らしい。
モーントガルテンが高度を下げ過ぎると、地面からスライム状の触手が伸びてくるのだ。
確かに、モーントガルテンには大量の魔力があるから、ソードムどころかパガヤ王国まで、一気に多重合成魔法の範囲が広がるかもしれない。
「馬車は俺が操縦する。オードリーは荷台でサポートだ」
「ハッ!」
魔法メインであるアヤコとカオリは近接戦は不向きなので、飛竜に乗りモーントガルテンに帰ってもらう。
代わりに、近接戦が得意なニイヤと主様が、魔導ゴーレムを大量に収納して戻ってきた。
「とりあえず、身体強化メインの竜人型ゴーレムが20体。機動性重視の銀狼型が20体。急遽、造り替えたのはこれで全部だ」
「ああ、充分だ。残りはモーントガルテンの護りに必要だからね。ハルにも急な注文で無理させた。今度、欲しい技能の習得を手伝ってあげよう」
最近は、簡単に技能を与えたりはしていない。感覚共有をしながら体験をさせて、技能が発現、習得しやすいように手伝っているだけだ。
これから先、増える国民を考えると、簡単に技能を譲渡する事は危険と判断したからだ。まぁ、かなり今更だけど。
「3人は移動には飛竜を使うけど、戦いで危なくなったら飛竜を【生命の檻】に入れる事。魔法が使えないこの場では、早い移動手段は飛竜達しか居ないからね?」
魔法が使えたら、テレポートにムーブヘイスト等の移動手段が使えるんだけど。
アシヤの狙いは、実に嫌なところを突いてくる。
「ああ、オードリーも檻に入れてやろうか?」
「ニイヤ様、パガヤ王国の建国祭でのアスピダの戦いを見て、私も魔法を禁じた状態での研鑽と鍛錬を日々積んでいます。配下の1人として、戦いに参加したく思います。お許し頂けないでしょうか?」
ニイヤは冗談で言ったつもりだったみたいだが、オードリーの強い意志を見て、自分が恥ずかしくなっている。
「お、おう。だが、アラヤのサポートがメインだからな?危なそうだったら、回収しに行くから、くれぐれも先走るなよ?」
「ハッ、心得ました」
そもそも、俺達はまだアシヤの戦力の規模を分かっていない。
ベルフェル司教とダフネは、魔法メインだと思うから補助に回るだろう。
注意すべきは、分別の勇者の魂が入ったゴーレム。奴は元々が物理戦が得意な勇者だからな。
つぎに、ソードムの魔導科学を取り入れた、魔導機兵という戦力を用意しているという事と、痕跡視認で見たホムンクルスという魔導ゴーレムに似た存在だ。
「向こうは、初めから魔法が使えないこの状況を計算に入れて、戦いの準備をして来ている。みんな、アシヤの説得が無理と判断したら、退却命令もあると考えていてくれ。何も相手の土俵で無理に戦う必要は無いからね」
ただ、こうしている間にも、ソードムの民が魔法を使う度に術に吸収され、大地の浄化が進む。
腐敗した土地の浄化は良い事だが、それが無差別に人を生贄としてとなると話は別だ。
アシヤは俺と同じ思考を持っている筈なんだ。
という事は、俺自身もこんな非情な決断をできる感情があるという事だ。
俺は、アシヤが説得で済むとは思えない。もともと俺と成り代わると言っていたし、ここまでの行動がそれを本気だと物語っている。
「ご主人様、西北西に複数の反応を確認。モーントガルテンからの報告と一致します」
「来たか…」
目視でも確認できる程になると、その魔導機兵の大きさを理解できる。
「アレは厄介そうだね」
明らかに、その機体は硬度の高い素材だと分かる。
魔法が使えるならともかく、物理的に破壊するにはかなり骨が折れるだろう。
「あの大きい機兵もだけど、小さい機兵もホムンクルス兵も多いから大変だな。そのまま相手するのは、流石に無計画過ぎないか?」
主様の意見はもっともだ。敵の数は600近くある。この差を埋めるのは容易では無い。
「そこはまぁ、頼んではいるんだけどね?」
「ん?誰に?」
そうこうしている間に、既に超弩砲の射程距離へと入っている。
「3人は散開して的を絞らせないように。オードリー、魔導ゴーレムを出すから装備品の準備を頼む」
「「「了解」」」
早速、バリスタの第1射が放たれた。飛竜達も馬車も躱したが、外れた矢が地面に刺さると、一瞬で巨大になり直ぐに砂へと変わり崩れた。
「事前に魔道具にしてた矢だな。当たらなければ問題無い!こちらも魔道具を使用していこう」
飛竜組の3人は、弓を取り出して高度を上げる。
前もって、矢筒ごとに異なる魔法を込めた魔鉱石矢が用意してある。
3人の狙いは先ずはバリスタだ。それぞれが旋回しながら構える。
その時、突然飛竜達が鳴いた。
『どれ、少しは手伝ってやるかな』
飛竜達の更に上に、暴風竜エンリルが現れたのだ。
「遅いぞ、エンリル」
どうやら、アラヤが参戦を頼んでいたらしい。
『うるさいぞ!来てやっただけでも有り難く思え!風の大精霊様の頼みでなければ、葡萄酒樽を3樽分寄越さぬと聞けぬ話だ!』
「そんなんで良いのか…」
エンリルが、今起こしている風は魔法では無い。物理的な突風だ。だが、その威力は中級魔法トルネードを軽く超える。
「うわぁぁぁっ!」
ホムンクルス兵達が吹き飛ばされ、機兵達に打つかったりしている。
多過ぎる兵数が、かえって回避しづらい状況となっていた。
「さぁ、今だ撃て!」
ニイヤ達はバリスタに向けて矢を次々と放つ。
バリスタに命中した矢は、衝突と同時に魔鉱石に閉じ込めていたウォータが広がるものだ。
この魔鉱石ウォータの水は、誘爆性付与した水に水質変化させている。(水っぽいガソリンの様な液体)
「火を放て!」
今度はフレイムの魔鉱石矢を撃ち込み、10台あるバリスタを炎上させた。
その後も、エンリルは大型魔導機兵に向けて砂嵐を浴びせて、機兵の機関砲を放つ隙を与えない。
「おいおい、しっかり動けホムンクルス共!」
中央から怒声が飛び、小型機兵達が機関銃で3人を狙いだす。
指示を出しているのは、槍を持った魔導ゴーレムだ。
「あれは、寛容の勇者だな。オードリー、準備は良いかい?」
「はい、種類毎に分けました」
荷台にはゴーレム達が使用する武器が出されている。どれもレミーラが造った【業物】以上の武器だ。今更、出し惜しみはしない。
『ゴーレムを下ろしてくれ!』
散開中のクララが、飛行を止めずに狼人型ゴーレムを【生命の檻】から出して落としていく。
落とされたゴーレム達は、空中で体制を変えて着地すると、ホムンクルスの兵達の間を撹乱するように駆け抜ける。
その隙に、ニイヤと主様は馬車に近付きゴーレムを全て出した。
「バンドウ、相手には勇者が居る。やれるか?」
ニイヤがバンドウゴーレムを出し、彼専用のナックルと鎖を渡す。
『俺が出した条件を呑め。それを呑むならやってやるよ』
「条件って?」
ニイヤは先に聞いていたみたいで、困った表情をしている。
『パガヤ王国で、俺を解放しろ。俺はセシリアを側で護る守護者となる』
どうやらまだ、セシリア女王に執着しているみたいだ。
「…良いよ。但し、監視の為に幾つか制限を付ける。あと、彼女には伝える」
『…ああ、それで構わねー。約束したからな!』
「ああ、約束は守るよ」
アラヤの誓いに、表情の変わる筈のないバンドウの顔が笑っている様に感じた。
『っしゃああっ‼︎暴れてやるぜ‼︎』
バンドウと竜人ゴーレム達は装備を終え、一斉に戦地へと駆け出した。
ニイヤと主様も飛竜達を【生命の檻】に入れ、ここからは地上戦だ。
アラヤは2人を馬車に乗せて敵部隊の背後へと回る。
こっちにもアシヤの姿は見えない。もう、本格的な戦いは始まってしまっている。
アシヤが居ない事には、説得で止めるなど不可能だ。
やはり説得の余地は無いのだと、アラヤは下唇を噛み、心を無にと切り替えていくのだった。
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