【完結】スキルが美味しいって知らなかったよ⁈

テルボン

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最終章 スキルが美味しいって教わったよ⁉︎

409話 トーナメント戦 ④

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 ブーイングが飛び交う中、コキコキと首を鳴らすクリスチャートは、身長と同程度の大剣を背から出し構える。
 前回、レオンにより柄が溶かされた大剣とは違う剣の様だ。あんな大剣の予備があったのか。

 対するソルテも武器は変わらず、モーニングスターだ。
 あの武器は魔鉱石スロットを埋めたら強い武器だが、無い状態だと威力は低めだ。
 利点は、近距離だけでなく中距離武器にもなる事と、対象の四肢や武器の捕縛に優れている点だな。

「じゅ、準決勝、第二試合、開始です‼︎」

 観客席を盛り上げるつもりが、おかしな雰囲気にしてしまったと、進行役の鷲人アードラーは直ぐに試合を開始した。

「頼むから、お前は良質な経験値をくれよ?」

(…経験値?ああ、そうだったな。この勤勉の勇者は戦っている最中にもステータスレベルが上がる厄介な技能スキル持ちだったな)

「因みに聞くけど、今何レベルなのかな?」

「ん?気になるか?今はLV149だ。あと経験値が48万ポイント必要なんだが、大公ならまた大量の経験値が貰えると思うんだよなぁ」

 140ものレベルがどれ程のものなのかは、比較対象が無いから分からない。
 だけど、身体強化以上のステータス向上になっている事は間違いないだろう。

「この前倒したゴブリンキングで、5300ポイントだった。暴風竜と渡り合うには、まだまだあと10はレベルが足りない。普通に魔物を狩ってたら先が長いんだよなぁ」

「ハハッ、エンリルにはまだ早いだろ。それに、エンリルは周りに手加減しないから、こんな観客が多い場所じゃ戦わせないし。そもそも、一対一の対決の時点で、君には勝ち目無いよ?」

 エンリル相手には、アラヤ以外に太刀打ちできる人間はいないだろう。
 眷属竜なんて、本来ならチームで当たらないといけない相手だからね。
 ニイヤ達と戦った闇の眷属竜エレボスが良い例だ。

「だから、先ずはゴブリンキング以上の経験値を、大公の身内であるお前には期待している」

「そりゃどうも。でも、それが癪だから俺が棄権するという手もあるけど?」

「そんな気は、無いだろ?」

 逃がさねぇよ!と、一気に距離を詰めて大剣で袈裟斬りを仕掛けて来た。
 ソルテは慌てず回避し、追撃できない様に石床を砕き距離を取った。
 クリスの本気の剣圧を見た観客達は、ブーイングを上げるのを止めていた。

 クリスが得られる経験値には、明確な戦闘行為でなければ何も貰えないというルールがある。
 故に、無抵抗な相手や逃げる相手からは何も得られない。
 つまり、回避ばかりして武器を交えないソルテからは、経験値をまだ獲れていないのだ。

(俊敏さはまだ相手が上。武器を一合でもすれば、対象に認定される。どうすれば回避を抑えられる?)

 クリスの猛攻を躱し続けるソルテに、焦りの表情はまだ見えない。
 場内の端に追い込もうとしても、見透かされている様だ。

(埒が明かないな。仕方ない、決勝戦前にネタバレは避けたかったが、やらねば相手にもされないからな)

 クリスは足を止め、ソルテから逆に距離を取った。
 これを不審に感じたソルテは、何か仕掛けてくるなと警戒を強める。

「俺を見ろ‼︎巨人の咆哮ギガントハウル‼︎」

 ボイスボムを超える音の衝撃波が、闘技場に広がる。
 鼓膜が大ダメージを受けるだけでなく、強制的な(対象固定視認、及び興奮・怒り・畏怖)、音波による足の筋肉の硬直。
 それはまさに、巨人による強制的なスタン攻撃だ。

「ぐっ、体が…⁉︎」

 超視覚と超聴覚は、以前ニイヤが受けた不意打ちの可能性を考慮して解いていた。
 だが、耐性を上回るその技能は、ソルテを一瞬だけ行動不能へと陥れた。

「ようやくだ‼︎」

 感覚が戻る前に、すかさず距離を詰め大剣を振り払う。

 刹那に戻った感覚で、奇跡的にモーニングスターの柄を大剣の軌道上に割り込ませた。

「グウッ‼︎」

 凄い勢いで場壁に突き飛ばされ、石壁が崩れ落ちた。
 瓦礫の中でソルテは、軽く吐血する。
 今の一撃で腹部に張った竜鱗防御は砕け、肋骨が数本折れた。
 まぁ、時間が経てば回復するから問題は無い。

「休ませないぜ?」

 クリスは、瓦礫ごと吹き飛ばして追撃を狙った。
 だが大剣を掴む手に触れる感覚。刹那、顎下からの掌底打ちをギリギリ躱した。

「チッ、惜しかったな」

 自身の胸板を蹴り離れたソルテに、クリスは満足だと言わんばかりの笑顔を見せた。

「たかが一合で、経験値がゴブリンキングの討伐で得られる経験値を上回る?フハハハハッ‼︎やはりお前も、大公並の魔王級か‼︎」

 1人で盛り上がるクリスとは反対に、ソルテはダメになったモーニングスターを捨てた。

「あー、魔法や特殊技能ユニークスキルが使えたら楽なんだけどなぁ」

 チラリと来賓席のアラヤを見るが、首を横に振る。
 そりゃあ、そうだ。
 派手な魔法で観客席に被害が出るのはもちろん、特殊技能による恐怖を観客達に与えるのはダメだ。

「あまり得意じゃないけど、素手喧嘩ステゴロでいくしかないか」

 ギュッと拳を握り締める瞬間に、竜鱗で拳を包む。これなら武器にもなり得るかな?

「さぁ、続きを始め…」

 クリスはずっと、油断しない様にソルテの姿は捉えていた。それにも関わらず、瞬きの一瞬で見失い、次には顎を横に打ち抜かれた。

「…っ‼︎⁉︎」

 何とかチンは外れたので、脳震盪で情け無い終わりという事にならずに済んだ。
 だが、明らかに膝が笑う程のダメージを受けている。
 しかも、現在進行形で超近接の打撃ラッシュが襲いくる。

「このっ‼︎」

 振り払いを狙うも、初動を足で狙われ大剣を離さないのがやっとだ。
 あの体からとは考えられない重い打撃だが、防御に徹すればダメージ蓄積はあるが、まだまだ充分に耐えられる。
 最初のダメージが中和されるまで耐え、クリスはじっくりと機会を伺う。
 こうしている間にも、美味しい経験値が加算されていて、ついつい笑顔になりそうだ。

「まだ余裕があるのか」

 有効打が少ないからか、中々に体制が崩れない。これ以上の時間は、勇者に有利なだけだ。
 ソルテは、一気に勝負に出る事にした。
 左拳を顔面付近に打ち込んだと同時に、右拳で人差し指だけ出し、レオン戦でできた鎧の隙間に【一点突貫】で突き刺し体内を掻いた。

「ぐうっ‼︎⁉︎」

 痛みに顔を上げたところを、左フックを打ち込む。
 だが、大剣を手放した手で止められてしまう。しかしそれは狙い通り。

「極める‼︎」

 素早くその腕に巻き付き、クリスの右腕に腕十字固めを極めた。

「完全に入っているぞ!早く降参しろ!」

 当然、ステータスの高いソルテの腕力も、クリスに劣らずかなりある。
 既に肘は伸びきり、かつてない激痛が彼に走っているに違いない。

「ぐぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」

 しかし極められた状態のまま、クリスは体を起こしていき、ついにはソルテをぶら下げた状態となった。

「なっーーー⁉︎」

 苦痛に叫びながらも体を捻り、そのまま石床よりも硬度がある、床に落ちている大剣に向けてソルテを叩き込んだのだ。

「ガハッ⁉︎」

 技を解くのが間に合わなかったソルテは、受け身を取れないままに頭を大剣で強打し、意識を失ってしまった。

「し、勝者!勤勉の勇者、クリスチャート‼︎モーントガルテンのソルテを倒し、決勝の切符を手にしたのは、勇者だったーーー‼︎‼︎」

 開始前のブーイングなどどこ吹く風と、観客席からの声援は今大会1の大きさとなっていた。
 しかし、当のクリスは肩が脱臼し外れ、腕の靭帯もズタズタに切れていた。
 あの腕では、もう両手で大剣は持てないだろう。

「君に提案がある」

 ソルテが運ばれて行く中、決勝の対戦相手であるアシヤがそこへと現れて、2人の動向を見ようと会場の歓声が一気に鎮まり出す。

「決勝を、辞退する気はないか?」

 アシヤの提案に、当然、クリスチャートがふざけるなと、大声を張り上げたのだった。
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